眠っているあいだに雨が降っていたようだ。 暖かな朝。雨上がりの水の匂いがなんともいえない。 もう春かと思うほど。それはとてもやわらかな匂いだった。
昨夜のこと。もう寝ようと自室の電気を消すと同時に電話が鳴る。 遠くに住む友人からだった。長くなることを承知で受話器をとる。
他の誰にも話せないことなのかもしれない。 彼女の心境が手に取るように伝わってきた。
けれども決して苦しんでいるのではなかった。 彼女は自分の選んだ道を真っ直ぐに歩み始めている。 ただほんの一握りほどの後ろめたさを抱えているのだろう。
進もうとする彼女の足を。いや一本の髪の毛かもしれない。 それを掴んで離そうとしない人の存在に悩んでいるのだった。
それは執着か。もしくは執念か。ふりきってふりきってひたすら 我が道を行くしかないと私は応えた。彼女ならそれが出来るはずだ。
私には出来ないことなのかもしれない。私はもっと揺らぐだろう。 髪の毛の一本を掴む手があれば。その手を握りしめるかもしれない。 何度も振り返ってしまうだろう。自分もまた執着を残すかのように。
彼女はとてもつよい。自分を信じてそれを貫くことが出来るひとだ。
興奮気味だった彼女の声がやっと穏やかになる。
ありがとう。おやすみなさい。その声にほっと安堵する。
私はこの縁を紡ぎ続けるだろう。見守ること見届けること。
そのために彼女と出会った。いまはそうかくしんしている。
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