午後から雨の匂いがし始める。 やがてぽつんぽつんと小粒の雨になった。
そんな雨に熱い吐息を吹きかけてみたくなる。 私のなかに情熱と呼べるようなものがあるのなら。
いったいそれはどんなふうに失ってしまったのだろう。 どんなに温めようとしてもそのありかさえわからなくなった。
きっともう若くはない。わかりきったことを確かめるように。 髪を掻きあげてみても。見えるのはまだらな白髪だけだった。
ふむ・・なんだこれは。いったい何をほざいているのだろう。
まあいいか。しりめつれつを愉しもうじゃないか。 かっこつけてるばあいじゃないし。これが今だし。
今日はひいおばあちゃんの命日らしい。知らなかった。 母が暦に書き込んであるのを見つけた。昭和47年没と。
幼い頃一緒にお風呂に入った事があるのを思い出す。 石鹸ではなく米糠を布袋に入れたので洗ってくれた。 子供心になんて臭い物だろうと思った。白くなるよ。 べっぴんさんになるよと言いながら洗ってくれたのだ。
もうしわくちゃだったけれど抜けるように白い乳房だった。 そのぺろんと垂れ下がった乳房を引っ張るのが楽しかった。
「菊枝」ひいおばあちゃんの名前を今日まで忘れていた。 毎年あった命日を知らないまま37年も歳月が流れたのか。 なんて薄情なひ孫だろうと悔やみつつ心のなかで手を合わす。
死んだ人はやがて遠くなる。けれども思い出せばこんなにも近い。
12月9日。大切な友人の誕生日でもある。 同じ日だったんだなと胸に刻むように記した。
このさき一生。決して忘れることなどないだろう。
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