大好きな道を行く。この道が通れなくなったら。 どんなにか寂しいことだろうと思いながら進む。
そこは迎えてくれるのだ。いらっしゃいと囁くように。 風さえも無言ではない。大切な何かを伝えるように吹く。
忘れていることがきっとあるはずだ。思い出してみよう。
職場のすぐ近くに村の診療所がある。町からお医者さんが来てくれ。 今日は歯医者さんも来てくれる日だった。ずっと気になっていた虫歯。 仕事中に少し時間をもらって治療に行く。麻酔をしてガリゴリをした。 ううっとうめいてみたりしながら身体が硬くなる。その度に優しい声。 世間話も交えながら声をかけてくれるのだけれど。まともに声は出ず。 やっと治療が終わりふにゃふにゃになる。優しい歯医者さんありがとう。
診療所の待合室にいるあいだ職場のお客さんの一人に会った。 私は歯医者さんだというのに気遣って声をかけてくれたひと。 こちらも気遣えばお母さんの付き添いで薬を貰いに来たと言う。 近況を話して聞かせてくれたり肩を寄せ合ってしばし話し込む。
「また9月に会おうね」とその人は手を振って先に帰って行った。 9月。思い出した。年に一度の自動車保険の更新があるのだった。
仕事。それが私に与えられた役目なのだとあらためて気づく。 無報酬だ葛藤だとほざく事自体が間違っているように思った。
自分を生んでくれた人を母だとも思わずにいたのではないか。 お客様を粗末にして誠心誠意尽くす事を放棄しようとしたのではないか。
このままではいけない。このままでは大切な事を見失ってしまう。
午後はとても清々しい気持ちで笑みがこぼれる。もうだいじょうぶ。
ほんの少しの迷い道だった。いまは緑いっぱいの道しか見えない。
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