小雪がちらつく寒い朝だったけれど。朝陽がとてもまぶしかった。 そうして青空が一気にひろくなる。冷たい風も心地よく空を仰ぐ。
洗濯を済ませ居間の掃除をしている時だった。ちりんちりんと鈴の音。 おや?っと窓の外をのぞいた時には。もう読経の声が響き始めていた。
急いで玄関の戸を開ける。そうして思わずその場に跪き手を合わせていた。 お布施をさせて頂いたのだけれど。そのお遍路さんはただ黙々と頭を下げ。 そのまま冷たい風の路地を去って行った。ちりんちりんと鈴の音だけが響く。
不思議なことにあんずはまったく吠えなかった。こんなこともあるのか。 なんだかキツネにつままれたような気分になりつかの間放心状態になる。
そうしてどっと涙があふれてくる。自分でもよくわからない不思議な涙だった。 また私の欲を貰っていただいた。父の遺影に手を合わし嗚咽が止まらなくなる。
これはほんとうにありがたいことなのだ。欲深き者はこうして救われるのだと思う。
午後。少し気だるくもありとろとろと怠惰に過ごす。いつのまに届いたのか。 ポストに郵便物が差し込まれてあった。もしや?と思いそれを慌てて手にする。 先日メールで住所を訊ねてきてくれたのだった。初詣の日に出会ったお遍路さん。
あの日もとてもありがたい日だった。あの日だったからこそ出会えたひとがいる。 私に出会ってくれたこと。そうしてつかの間でもともに過ごしてくれたこと。
初対面だというのになんだか懐かしさを感じる。それこそが縁なのだと信じている。 少しも緊張感がない。そばにいるとほっとする何かがそこに満ち溢れていた。
心のこもった手紙と。あの日の野宿の写真。荷物にぶら下げてあった靴下。 その靴下がそこにそろえて干されているのが。なんだか嬉しくてならなかった。
ほんとうは私も手紙を書きたくてならなかったけれど。届きましたとメールをする。 日常の事を何も知らないのだ。もしかしたら手紙はいけないような気がふっとした。
いつになるかわからないけれどきっとまた会える。それが私の励みにもなって。 なんとしても長生きをしようと思う。くよくよ思い詰めている場合ではないと。
ありがたいことがこんなにたくさん。もうじゅうぶんに恵まれているからこそ。 生きて恩返しをしたいと心から思う。それをし尽くすまでは死ぬわけにいかない。
もしも生きていられなくても。私は土になり道になり足音をずっと憶えているだろう。
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