| 2007年08月07日(火) |
あした。あさって。ずっと。(11) |
その町の冬は雪のことを知らずにいた。それは時々風に舞って噂話のように。 耳を冷たくさせたりもしたけれど。誰もそれを信じようとはしなかったから。
いつもいつも。それは泡のように消えていった。
そんな冬の朝。教室にそのひとの姿を見つけられなかった。 わたしはとても不安になってしまう。そしてひどく焦ってしまう。
なんだかそれはあの時に似ていた。あの時の海のように波がすぐそばで動いている。 わたしはとても怖かった。押し寄せてくるものに向かうことが怖くてならない。 それは規則正しく打って。弾けて。打って。砕けて。打って打って引いていく。
逃げるのじゃない。行くのだ。そう思った。
そこにいた誰かが叫んだ。それは怒鳴り声のようでもあったし見ず知らずの。 ひと達が一斉に後ろ指をさしているような。とても居たたまれない場所のようで。
わたしはもう。駆け出していた。ひたすら行くのだ行くのだと思って走った。
そしてそのひとに会えた。熱が出てしまってふうふうしながら寝込んでいたけれど。 私を叱った。まったくどうしようもない奴だなと叱りながら。ちょっとだけ微笑んだ。
私には後悔というものが欠落していて。それがいつ襲ってくるのかも考えもせずに。 まるで立入り禁止の立て札を読むことの出来ない。一匹の野良猫のような姿だった。
そこにいけばあたたかい。そこにいれば優しい風にあえる。そこで眠ろうって思った。
ほんとうにあたたかだったのだ。ほんとうに優しかったのだ。そして眠ったのだ。
明くる日。わたしたちはひとりひとり。生活指導部に来るようにと言われた。 そこは体育教官室でもあり。噂によると殴られるひともいる。停学や退学や。 とにかくそこはもっとも相応しい処分を受けるべきところであるらしかった。
だけど私は知らない。私のなにがいけなくて。なにが間違っているのか知らない。
そのひとが先に行き。少し顔色を変えて帰って来たけれど。詳しくは何も言わない。 ただいっしょうけんめいいつもの笑顔を見せながら「行ってこいや!」って言った。
わたしは行った。そこでこんこんと「いけないこと」について説明を受けた。 だから。それはほんとうにいけないことなのだろう。だけど反省など出来ない。
気がつくと涙があとからあとから溢れてくる。 「せんせい。どうしてもあいたかったんです」って泣きながらうったえた。
「おまえは本気で惚れているのか?」と教官が訊いた。
わたしはうなずいた。それ以外になんて応えればいいのか。それがきっと真実で。 真実というのは。いつだって思いがけないものなのかもしれない・・・。きっと。
わたしはおそらく歩んだのだろう。もう振り向かずにすむようにちゃんと前へ。 どんなふうにしろどんな方法にしろ。もうその道しか歩む道はないように思った。
行ってはいけないところ。それはどこだろう?
そうしてその道の向こうで。まるで蜘蛛の糸のように待ち受けている現実のことを。
わたしは知らなかった。それがそのひとだけを雁字搦めにしてしまうことを。
・・・つづく・・・
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