| 2007年07月19日(木) |
あした。あさって。ずっと。(6) |
わたしは絵が描けないけれど。もしも描けるのだとしたら。 その夏の背景は。その夏のかたちは。それはどんな色でどれほどの存在で。 瞳とか指先とか。ふと振り向いた仕草とか。背中とか髪とかくちびるとか。
それはおそらく絵のかたちをした時の断片のようなものかもしれない。
切りとられている。もうすでにそれは切り抜かれた空間のような夏のことだ。
夏休みが終わり学校へ行かなくてはならなくて。私はひどく憂鬱だった。 なにかを始めなくてはならなくて。それが本当の始まりなのかわからなくて。 たまらなく予感めいたことから。逃げてしまえたらどんなにいいだろうと思った。
鍵はもう壊れたふりなどしてくれない。鍵はその役目をついに思い出してしまう。 開けられないのではなくあかないのだ。それはとても頑固な拒否なる音を生じる。
もう聴けない。それがどんな曲だったのか思い出せないというのに恋しくてならない。
「さあはやくそこからにげなさい」と始業のチャイムが哀しい声のように言った。
抜け殻がいいか死骸がいいかと問われたら。どっちを選べばいいのだろうか。 私はツクツクボウシがいい。どんなに限られた命でも声をかぎりに鳴いていたい。 だけどどうしても私を抜け殻だと名付けたいのなら。粉々に千切れて風になろう。 そうして死骸だと名付けたいのなら。何日も雨にうたれて土そのものになりたい。
けれども。いったい誰にわたしのかたちがわかるというのだろう。 わたしが蝉だという確信など誰にもない。わたしにだってそれはないのだから。
ほんとうは。ほんとうのことを言ってしまいたい。「わたしは知りたくない」のだ。
放課後。しらいし君に会った。なんだかきりりっとして爽やかな顔をしていた。 まるで化学の研究レポートを発表するみたいに背筋をぴんと伸ばして立っていた。
そのくせ声は聴きとれないくらいか細かったけれど。聴かなくてはいけないことが。 波みたいに渦みたいにわたしの足元からわたしの髪からなにもかもを濡らしていった。
終るのだという。もうお終いなのだという。それが彼の発表だった・・・。
・・・つづく・・・
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