| 2007年07月03日(火) |
あした。あさって。ずっと。 |
そのひとの名は「しゅう」といった。みんながそう呼んでいたけれど。 私は呼べなかった。彼はずっとずっと「しらいし君」だったからだ。
しらいし君はギターがとても上手だった。とても綺麗な細い指をしていた。 そしてギターを弾くときにはいつも目を半分くらい閉じては。うっとりと。 そのときまつげが風に吹かれたように。かすかに揺れるのが。たまらなく。
好きだった。真っ白な夏服の開いたボタンから誘うように見せる胸もとよりも。 それはどうしようもないくらい。好きでたまらなかったのだ。
まいあさ。ここに来るようにと。しらいし君は言った。 それは約束というのでもなく。先輩が後輩に義務付けるみたいな口調で。 私は逆らうことなど考えもしないで。あした。あさって。ずっとと思った。
クラスの誰よりも早く教室にカバンをおいて。階段を駆けるようにおりた。 ギター部の部室は鍵が壊れているみたいに。いつもかちゃんと鳴いて開く。
待っている時もあった。待たせていた時もあった。そこはいつもふたりだった。
なにも語らない。よく眠れたかとか朝ご飯食べたかとかなにもきかない。 私たちはほんとうに何も知らない。まるで行き連れに出会った旅人のように。
しらいし君はギターを弾いた。その指もまつげも。永遠であるように愛しかった。
そうして始業前のチャイムが鳴り響くと。幕をおろすように何かが閉ざされた。 その瞬間にきすをして。その瞬間に千切れてしまうか細い糸みたいにぷつんと。
しらいし君は遠かった。確かめたくても確かめられないことがいつも苦しくて。 私には実感というものがほとんどなかった。それはいつも夢のようだったから。
だからいつも欲しがったし。だからいつも求めていた。まるで空気を弄るように。 しらいし君のことばかり考えていた。そしてそれが私の『不安』そのものになった。
こんなにこんなにひつようなのに。ひつようでないなんてありえない。
だけどいつだって粉々になりうる。わたしはひびだらけのガラス細工だった。
・・・・・・つづく・・・・・
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