十代の頃。桜餅がすごく好きだった。 高校のすぐ近くに和菓子屋さんがあって。 友達と寄り道しては食べながらバスを待った。
そういえば弟も桜餅が好きだったな。 いつだったかそれはおとなになってからのこと。 彼もきっと懐かしいに違いないと思って。 たくさん買って彼のアパートを訪ねて行った。
あの店のだよ。あんた好きだったでしょって。 ちょっと誇らしげに目の前に広げて見せたけれど。
思いのほか彼は喜ばず。好きだったっけなって言って。 たったひとつだけ食べると。後はおまえにやるよなんて。
だから姉ちゃんはちょっとさびしくなって涙出そうだけど。 やけ食いみたいにして残り全部を平らげてしまったのだった。
胸がすごく苦しかった。ちっとも美味しくなくてしょっぱくて。 もう桜餅はいいやって思った。それ以来ずっと避けていたのかも。
あれからいったいいくつの春を越えたのだろう。
この春ふっと込みあげてくる懐かしさを感じて。 ほんとうに久しぶりに桜餅を買って食べてみた。
とてもおいしかった。葉っぱの塩加減と餡子の甘さと。 どうしてこんなに忘れていたのだろうと悔まれるほど。
あの町で潮風に吹かれていた青き春が。遠くはるかにある。 ひとを想って。我を嘆きもし。いつだって死ねるとさえ。 思いつめた頃。命の尊さなどこれっぽっちも知らずにいた。
そのくせ。あどけなく笑いあってバスを待つひと時。 指に残った桜餅の移り香を愉しむことも出来たのだ。
あといくつと。まだ来ぬ春を数えるのはもうよそう。
それよりも春には。毎年ひとつの桜餅を食べることにしよう。
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