どんよりと厚い雲が重く苦しいほどに。濁流の大河を渡りいつもの道をいく。
国道沿いに良心市があって。時々そこで旬の野菜を手に入れるのだけれど。 今朝は。ちょうどその市をしているおばちゃんが荷をおろしているところだった。 三輪車っていうのかな。大人用の自転車だけど三輪で後ろにおっきなカゴがある。
ほうれん草や。ブロッコリーや。朝採れの野菜は新鮮でとても瑞々しいものだ。 この前買った丸大根がとても柔らかくて美味しかったので。今朝もあるといいな。 そう思ってクルマを停めたのだけど。昨日の大雨で畑に入れなかったのだそうだ。
じゃあキャベツ買うね。ブロッコリーも買うねと。初対面のおばちゃんだけど。 無人の良心市っていうのは不思議なもので。どんなひとが野菜を育てているのか。 すごく知りたくて。ぜひ一度会ってみたいものだと思っていたから。今朝は嬉しくて。 やたらと親近感がわいてきたりするのだった。おばちゃんもそうだったのかもしれない。 すごく嬉しそうに微笑んでくれて。なんとおまけだと言ってさつま芋をくれたのだ。
ほのぼのと温かい気持ち。なんというかそれは。お芋さんをふかした時みたいなほこほこ。
今朝っていいなあってすごく思った。そうして銀杏のはらはらと散った道を進んで行く。
仕事中。こんどは自転車でやってきたお客さんのおばちゃんが大根を持って来てくれる。 私のふくらはぎぐらいある立派なので。「珍しいはないけんど食べてや」ってくれた。 私はジーパンを捲り上げて比べてみたりして。とてもとてもはしゃいでしまったのだ。
そうして午後。今度は「おもと売り」の商いの人がやって来た。島根の大根島から来たという。 おもとは『万年青』と書くだけあって。その緑は活き活きとしてなんとも鮮やかな青。 何種類もあるという万年青は。七色にガクの色が変るもの。赤と紫の可愛い実のもの。
出雲の神様が宿っているとか。こんなに縁起のいいものはないとかの売り言葉に。 とうとう負けて経費で二鉢買えば。もう一鉢おまけにつけてくれるというありがたさ。
実は今日。先月分の電気料を払わなければ。明日職場の電気を止められるのだったから。 ほんとうは万年青どころではないのを。ええいと笑って奮発してしまったのだった。
笑う角には福来るを。最近ではとことんそれになりきっていて。なんとかなるさと笑ってばかり。
そこへ。今度は農家のお客さんのおじさんが軽トラックでやって来る。 ぷ〜んといい香がするのは。手にいっぱいの柚子を持って来てくれたのだった。 レモン色によく熟れた柚子は。頬にきゅっと唇にきゅっとしたいほどの芳香を放っていた。 大根島のお姉さんにもおすそわけ。きっときっとまた来ますと笑顔で帰って行った。
今日っていいなあって。すごいすごい嬉しかった。ありがたいことがいっぱいだもの。
そしたら帰り際。今度はすぐご近所のお客さんが福島の柿だというのを持って来てくれる。 今年の地元の柿は悉く熟れる前に落ちてしまって。初物さえも知らずにいたので珍しく。 事務所の机の上に並べてもらった柿の艶やかな色が。なんだか懐かしい色に映ったほどだった。
ひとはみなこうして温かく。笑顔には笑顔が何倍にもなって返ってくるように思う。
くじけちゃいけない。福はいつだって思いがけない笑顔で会いに来てくれるものだから。
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