秋晴れというのだろう。真っ青な空はより高く。西からの風が心地良い。 お隣りの秋桜は庭いっぱいにあふれそうに咲き。洗濯物を干しながらいて。 ついつい微笑んでしまう。わずかばかりの切なさなど。この時はもうなく。
庭にうずくまるようにして草をひく。雑草とはいえ緑はいとおしいものだが。 その健気さを引きむしる行為は。ふと一瞬の決意に似て無心に手が動き始める。
犬小屋のそばの鉢植えを手入れしていると。例の如くあんずが甘ったれた声で。 閉め切ってある柵を右手だか右足だかで。ちょちょいと簡単に押しのけて来て。 私が後ろ向きならお尻を。前を向けば顔をなめようとして擦り寄って来るのだった。
「まぎらんといて」とは。邪魔しないでということなのだが。聞く耳を持たない。 「無視せんといてよ」と言えない彼女は。ひたすら鳴くことでそれを伝えてくる。 くぅくぅとしつこいくらいに鳴く。それはもはや根比べのようでありながらも。
とうとうヒステリックな荒い声で。箒でひっぱたかれるのは酷いことでもあった。 犬小屋に走り込んだあんずは。それはそれは恨めしそうな顔で私を見つめている。
もうすでに老犬だった。ひとの歳ならば70歳に近い頃だろうと思う。 恋さえもさせず子も産ませず。朝夕の散歩だけが楽しみの柵の中の暮らし。 不服も言えず怒ることもせず。そのうえたまの甘えさえも叱られるばかり。
そして今日は。年甲斐もない落ち着きのなさを詰られてしまったのだった。 まったくもうとそれを告げ口しているのは。紛れもなく母親らしきひとである。
父親らしきひとは。ああまたおまえたちかと。なぜかそこでも微笑んでみせて。
「犬だからさ」と言う。
その一言ほど身に頷ける一言はないくらい。はっと我に返ったわたしだった。
この先もっと老いていく。私の十年が彼女の一年になりどんどんとすすむ。 甘えたくてはしゃぎたくて。たまにはぎゅっと抱いてほしいくらい寂しくて。
閉ざされた柵のなか。そこが彼女の唯一の安住の地なのかもしれなかった。
彼女は。ずっと犬だから・・。
わたしは。ずっとおんなだから・・。
|