青空がすこしだけぼんやりと。やわらかな陽射しにつつまれていた。 黄花コスモスが咲き始めては。なんだかちっちゃな向日葵みたいだ。
それは百日紅のほのかな紅よりも鶏頭の血のような紅よりも鮮やかで。 幾日もの濡れた緑に爽やかに映える。生まれたのだという誇りのよう。
そんなふうに。ちいさな秋に。今日は出会った。
仕事をしながら。今日はいつもよりずっと忙しくて。そのことを嬉しく思った。 めまぐるしくありたい。ふうふうするくらいまっしぐらにいまはありたいのだ。
それなのに。ふっと思い出してしまったことがある。 初めて就職というのをした頃のことだ。本屋さんだった。 ふつうに書店というのじゃなくて。そこはカタログ販売というか。 百科事典とか文学全集とかいう何万円もするような本ばかりを扱う。 東京に本社がある書籍販売会社の。田舎の営業所のひとつだったのだが。
私はそこでお茶汲みやら電話番やら。とりあえず営業事務のようなことを。 それでも結構これはいいかもと思うくらい気に入って勤めていたのだった。
朝は全員でラジオ体操。その後の朝礼では所長がやたら大声で喝を入れて。 営業の人達が。まるで出陣するように一斉に出掛けて行く。最期に所長が。 じゃあ後は頼むよって出掛けると。後は殆ど夕方まで独りきりだったのだ。
営業所の壁の半分は巨大な本棚だった。子供向けの絵本や紙芝居まであった。 復刻版といって。昭和初期に発刊されたような本をそのまま復元したものや。 それは手に取るとドキドキするくらいの。なんともいえない重みがあったり。
時々配送係の『速水ちゃん』が荷物を取りに帰って来た。 とても無口なひとで。必要以上のことはしゃべらないけれど。 なんか素朴で。なんか笑うと顔がくしゃくしゃになるところが愉快で。
ついついちょっかいを出したくなるひとだった。 話し掛けると目がきょとんとなる。そして照れくさそうに応えてくれる。
そういうのが。そんなのがいつしか私の楽しみになっていたのだった。
営業の人達がすごく頑張ってくれた時は。配送がどんどん忙しくなっていく。 ある日の休日に。私は速水ちゃんの助手をすることにした。所長には内緒で。 速水ちゃんのノルマはすごくて。どうしても休日返上しないと追いつけない。
一緒に行きたいと言ったら。ああ・・うん・・まあいいかと彼は応えたのだ。
そこはクルマで3時間くらい遠いところだった。養護施設の庭で子供達がいて。 「お兄ちゃ〜ん!」とたちまち彼は子供達にかこまれてしまいすごく照れている。
私はそこで。いままでほんとうに気づこうともしなかった彼の優しさを見た。 私が好きだなって思った笑顔で。子供達の頭を撫でている。みんなみんな笑顔。
そして。とうとう。それはどうしようもなく。
私は恋に落ちていったのだ・・。
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