桜はまだ散ってしまわずにいて。薄曇る空に似て佇んでいるように見える。 なんだかとてもほっとする。何かを待つというのでもなく。その時が来れば。 身を任そうと決心している姿のようで。凛として美しいものに安堵するばかり。
いちめんの菜の花畑が。ある朝すべてを耕されていたのを見たのはいつだったか。 その数日後。そこにはもう水が張られていて。いちめんの田んぼに変わっていた。 そして昨日の朝には。いつのまに植えたのか。若い苗たちが列をなして並ぶ姿を見た。
うごいている。どうしようもできないくらいにうごいている。 生き生きと活き活きと。負けてしまいそうなこわさのなかを。 ただひたすら進もうとしている我が身のありかに。はたと途惑う。
行ってみないとわからないところに行くということが。 とてつもなく不安に思えてしまうのだ。だからといって。 行くしか術がない。後戻り出来たらどんなにいいだろう。 あの時ああしていれば。あの時別の道を選んでいたらと。 嘆くことはとても容易かった。泣いたって帰れない道を。
振り返ると。遠くかすんでしまいそうなその果ての丘に。 いっぽんの木がそびえているのが見える。あああれはと。 懐かしく思い出す。あの時は背比べするほど幼かった木。
いくつもの季節が巡って来た。嵐の日も冷たい雪の日も。 私の足跡などというものは。とっくに消え失せているのに。
道は残る。草は萌える。花だって咲いて。その木は育った。
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