ゆうがた。愛犬あんずに困り果ててしまった。 散歩中に。首輪の金具のところが外れてしまったのだ。
そして彼女は自由になったものだから。 怒れば逃げようとするし。好物のお菓子で誘っても。 すぐ近くまで来ては。すばやくお菓子を取ってまた逃げる。
そこへお向かいの彼氏。りゅう君っていう紀州犬なのだけど。 とりあえず好きなので。そばへ寄ってキスみたいなことして。 そのすきに捕まえようとしたけど。またすばやく逃げてしまった。
5メートルくらいのところで。じっと様子を窺っている。 その目がなんともいじらしい。いやだもんねの目をしている。 そしてどこか甘えている。ほらほらここだよ。こっちだよって。 悪戯っ子が。かまって欲しくてそうしているような感じなのだ。
もう陽が沈み始めて。仕方なく。彼女を川辺に残して帰る。 もう知らない。勝手にすればいい。何処へでも行けばいい。 と。彼女に聞こえるように言って。そっぽを向いて帰った。
すっかりあたりが暗くなった頃。そっと犬小屋のあたりを見てみる。 ふふふ。やっぱりね。ちゃんと帰って来ているではないか。 それも。ごめんなさいのポーズで。お座りをして待っている。
かちゃん。また鎖に繋がれてしまった。
自由って。身勝手をすることではないよと。
晩ご飯抜きにしたお母さんを。どうか許してね。あんず。
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