ゆらゆら日記
風に吹かれてゆらゆらと気の向くままに生きていきたいもんです。

2005年10月09日(日) あなた

夜風が。15センチの窓の隙間から。
わたしになにか告げたいことでもあるのか。
わたしのそばでただ揺れていたいだけなのか。
とどまることもせずにひたひたと流れてくる。



こんな秋の夜長には。N君がいい。
N君は。いまどこにいるのだろう。
待って。いまここに連れて来てあげる。


高校一年の秋だった。あの日は文化祭。
文芸部は色紙にそれぞれの詩を書いて展示していた。
私は『安沢裕美』という名前だった。
安沢は小学校の時のいちばん仲良しだった子の苗字。
裕美は。郷ひろみの本名からいただいてしまった名前。

N君は知らないひとだった。中学も違うクラスも違う。
でも。朝のバスのなかで見かけたことはあったと思う。

「この詩、もしかして君?」って突然訊かれてびっくりしたっけ。
照れくささと。見つけられた喜びで。私の胸はどきどきしていた。

それから何かを話した。何かいっぱい話したけど。思い出せない。
最後に約束をした。お互いの詩を交換しようとN君が言ったのだ。

その夜から私は。どこかに火がついたようになってひたすら書いた。
『あなた』と書き始めたら。それまですごく好きだったひとが。
忽然と『あなた』でなくなり。たった二日目でそれがN君になった。

チャイムが鳴っている。今はだめ。もう少ししてみんなが帰ったら。
4ホームへ行こう。4ホームは近いのに。なんて遠いんだろうと思う。

あっ・・っていう顔をいつもした。
一人じゃない時は。すごく困ったような顔をして。N君は。
私の詩を受け取り。私は彼の詩を。隠すようにして受け取る。

そこには『きみ』がいた。
わたしはとてもきになった。そのきみが誰なのか知りたくてたまらない。

それがある日『きみの詩って不思議』って詩をもらったのだ。
私はどんどん熱くなる。ついに私が『きみ』になれたのだと思い込んだ。


バス停で肩を並べてバスを待つ。
おっきなひとだなあって思う。まともに見上げることも出来ず。
心臓がばくばくしてたまらない。何も話せない。沈黙と動悸と。空と風。

N君は。私より五つ手前の停留所でバスを降りた。
窓から彼を見つめていたら。彼が目だけで何かを言ったのだ。
その時の。なんともいえないせつなさは。波の音と海の蒼さ。


それから。どれくらい経ったのだろう。
季節はいつで。何月何日だったのか。とても思い出すことは出来ない。

N君には。ずっと付き合っている彼女がいることを知った。
由紀子さんっていう3ホームのひとだった。

私は。もう4ホームへ行けなくなった。
もうN君に渡す詩が書けなくなったから。


わたしは。涙を少しだけ流し。

またすぐにあたらしい『あなた』を見つけた。











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