お風呂上りの濡れた髪のままで、洗濯物を干していた。 月もない星もない・・でも風がある。 台風の影響だろうか、涼しいくせに湿っぽい風がくすぐるように吹いていた。
最後はいつも靴下。今夜は娘の靴下が5足もあった。 赤やら黒やら、それは子供の靴下みたいに小さくて可愛い。 最後のひとつを干し終えて「ふぅ・・」と小さく息を吐く。
なんだかとても疲れているな・・と思った。 明日が金曜日なんて信じられないくらい駆け足で、日々をやり過ごしている。 時間が足らなくて焦る。そのくせ少しでも怠けたくて遅れる。
洗濯籠を持ったまま路地に立つと、そのくすぐる風がとても恋しくなった。 これはいいな・・と大きく深呼吸をする。小さな胸がぽわんと膨らんでくる。 堤防に上がる階段が薄っすらと明かり、その向こうは真っ黒な水の世界。 ふとそれを確かめてみたくなる。どれだけ闇に包まれているのか知りたくなる。
そして濡れた女は誘われるように歩いた。多分もう女だ。でないと許せなくなる。 月よりも星よりももっと優しいものが欲しい。 それは見つめるだけでは気が済まなくて、直に私に触れるものであって欲しい。
風は海の声がした。決して穏やかではなく泣き叫ぶような声だ。 逢いたかった・・と私は思う。呑み込まれても溺れても逢えるものなら逢いたい。 伝えることは何もないけれど、ただその声が聞きたかった。
鳥のように両手をひろげ、その声と抱き合う。 そして何度も何度も髪をかき上げ、爪を立てるように髪をまさぐる。 その指が私の指なのか風の指なのか海の指なのか・・分からなくなる。
暗闇は水だった。とうとうと流れているか?生きているのか? おまえは荒れ狂う海に溶けて見境もなく乱れるがいい・・。
私は灯りを目指して歩く。そこが私の帰る場所だから・・・帰る。
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