午後からぽつりぽつり落ち始めた雨が、夜になって走りたいと言い出す。 狭い路地のオレンジ色の外灯を指差して、あそこまで行ったら戻るからと言う。 私は何も言わない。ただその真っ直ぐな路に光る足跡を見ていたかった。 撥ねる撥ねる雨が走る。そしてくるりと振り向いて踵を返し、また雨は帰って来た。
今夜は少しうたた寝をしていた。目が覚めたらすでに人格が変ってしまって・・・ 手がつけられなくなってしまった。 これは私の意志ではない。指先が逆らっているだけだ。折ってやろうかとも思う。
ついさっきまでご機嫌に酔っていた。今は多分酔いが醒めてしまったのだろう。 今日は息子の誕生日だったので、家族でテンション上がりっぱなしだった。 とりたててご馳走でもなかったが、息子にだけイクラを買って来た。 あと・・越後の冷酒を見つけたので、息子がとても感激して美味い!と言った。 私はご飯も食べないでケーキを食べ、とっておきの小さなグラスでお酒を飲む。 いえいえ・・お箸でケーキなんてとんでもない。ちゃんとフォークで食べました。
ふふっ・・今やっと笑みがこぼれてきた。我ながらゲンキンな奴・・(笑)
息子の誕生日だもの、今夜は少し思い出してみよう。 ああ・・痛かったなあ・・。気を失いそうだった・・。 なかなか出て来なくて、とうとうお医者さんが器具でひっぱり出したんだ。 おまけにへその緒が首に巻きついて、もう少しで窒息するところだった。 だからやっと出て来たのにすぐに保育器へ入れられてしまった。 頭が変形してて、元に戻るのか・・なんて心配もしたなあ・・。
やっと抱いてお乳を飲ませるようになった頃、看護婦さんがいきなり病室へ来て 「湯冷ましちゃんと飲ませましたか!」って怒ったように言うので焦った。 私のお乳はちゃんと吸うけど、哺乳瓶はなぜか嫌がるのだった。 そしたら看護婦さんが、「どれ!私が飲ませてみるから!」と我が子を奪った。 そして無理矢理哺乳瓶を口に押し込んでしまったんです。
ああ・・そしたら大変なことになってしまって、我が子の顔が真っ青になった。 私は泣き叫ぶしか出来ないし、看護婦さんは大慌てで我が子を連れ去るし・・。 そしてまた保育器の中・・なんとか一命をとりとめて安堵する母でした。
もう23年も経ってしまったんですね。昨日のように憶えていますが・・・。
いつのまにか大人になってしまったけど、忘れられないことがいっぱいある。 初めて歩いた日のことを我が子は憶えていないけど・・・ 一歩が三歩になって、やがて走り出し駆け回った路地に、また夏がやって来たんだ。
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