夜遊びに出掛けようとしている娘を・・激写しようとして怒鳴られた。 今夜の顔は宇多田ひかるの母親に似ている。 そう言って煽てたら、藤あや子やね!と言った。 母娘でウケまくる階段の6段目・・かすかに名も知らぬ花の香が流れていた。
邪魔せんといて!・・娘は携帯を取り出しタクシーを呼ぶ。 すぐさま玄関で声がする。とても子供らしい歓喜の声だ。 「お母さ〜ん!つばめが居るよ〜!」
そうなんです。昨日やっと新居が完成したのでした。 何処かから急に立ち退きを命じられたかのように突然巣作りを始めました。 おかげで玄関のあたりは泥と枯草だらけだけど、毎日楽しみに見ていたのだ。
きっとすぐに赤ちゃんが生まれる。チイチイと鳴き声が嬉しくなる。 そして飛ぶ練習をするのを見るのは、ハラハラするけど楽しい。
今年もそんな季節になったんだなあ・・。 私はちょっとおせっかいな大家のおばさん。 夜になっても一羽しか帰って来ない時があって、あれこれ心配した。 もしかしたら不慮の事故に遭ってしまったのではないか・・とか、 まさか他にも巣作りしてて、替わりばんこにサービスしてるんじゃないかとか、 帰って来ないのがオスのツバメだと決め付けていたりした。
でも、今夜はちゃんと二羽がよりそっているので安心している。 娘が帰って来るまでポーチの灯りが眩しいだろうなあ・・。
「早目に帰って来るんだよ!」いつもは言ったことがないけど今夜は言った。 「うん!今日中に帰る〜!」
娘の軽やかな足音が暗い路地にこだまして、ヘッドライトの河へと消える。 私がかつて歩んだ道とよく似ている風景が、アルバムのように開いていく。
ツバメ達は寄り添って何を想っているのだろう・・。 私はそっとドアを閉め、今度は窓越しにふたりを眺める。 オレンジ色の灯りのなかでそれは・・未来のように輝いていた。
|