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diary
2013年05月09日(木) 神様の子
「天地創造の神様って、子供がいたと思うんだよ」
なにやら熱心にスマートフォンをいじっていた彼が藪から棒に言い出した。また始まったかとあたしは呆れた顔をして、内心ちょっとわくわくしながら、どういうこと? と聞いてみる。時折突飛なことを言い出す彼の、突飛な話が、自分でも不思議なくらいに、最近好きな気がしている。もしかしたらこんなところが彼を好きな理由なのかもしれないと思い、それはどうだろうとも思う。
「神様はさ、ひとをはじめ、たくさんの生き物を作りました。六日間で。だけどさぁ、ものすごくへんてこなものも作ってるよね。子供の落書きみたいなの。それってきっと、子煩悩な神様が、子供にちょっとやらせてみた結果の産物なんだよ」
「あぁ、キリンとか?」
あたしは頭に浮かんだへんてこな生き物を言ってみる。キリンのあの頭の角みたいなやつは、常々不思議に思っていた。まるでロボットの操縦管だ。
「あれはきっと神様が作った生き物に、子供が落書きしたんだろうね。うん、だったら男の子だな。男の子はみんな、なんでもかんでもロボ化したがる時期があるんだ」
そんなものかな。そんな時期の男の子は見たことがないけれど。
「キリンの頭に変な角をつけた子供を見て、神様は思いました。『さすが我が子、センスあるわぁ』そして今度は子供にある種の生き物の創造をやらせてみたのです。そして子供は子供独特のセンスでもって、神様も舌を巻くようなトンデモ生物を次々と作り上げていったのです」
「ある種の生物?」
キリンはきっかけに留まってしまった。残念。つまり、ほ乳類はダメらしい。
「さて、なんでしょう?」
「深海魚?」
頭に浮かんだへんてこ生物その二。「ある種」のものだ。
「あんなの子供が見たら泣くだろ。作らないよ。子供はロボとメルヘンの世界に住んでいるんだ」
両立するだろうか? そのふたつ。
「キノコだよ」
あたしが次なるへんてこ生物を考えている間に彼が解答を出した。なるほど、確かにメルヘンだ。
「知ってた? キノコってめちゃくちゃカラフルなんだ」
彼はそう言って、いじっていたスマートフォンを見せてくれる。テキスだ。そこには、絵の具で作れる色は全て、きのこの持つ色である、というようなことが書かれていた。
「これ見て、すごいでしょ」
彼がさくさくとページをスワイプして一枚の画像のあるページを見せる。
「わぁ……これ、本当?」
ソライロタケと書かれたキャプションとともにあるのは、本当に快晴の空の色のような爽やかな青のキノコ。傘も柄も、全部空色だ。
「こんなのもある」
ムラサキフウセンタケ。毒々しい、紫色のキノコ。キイボカサタケ。真っ黄色のキノコ。調べてみたんだけど、と彼が今度はウェブサイトを表示する。エメラルドグリーンのワカクサタケ、ピンク色のチシオタケ、蛍光イエローのコガネキヌカラカサタケ……なんだかもう本当にメルヘンすぎて怖くなる。
「でもなんでみんなこの形なのかなぁ。形だけ親の神様が決めて、好きなように塗りなさいってしたのかなぁ」
あたしが言うと、そうかもしれないけど、と彼が答える。
「雨が降っていたんじゃないかなぁ」
傘の方がキノコより先だったと言うのか。
「それに、この形だけじゃないよ」
アカノシズクハリタケ。うにょうにょしたひだの固まりみたいな象牙色したキノコに、赤い滴がたくさんついている。血を流す歯のきのこ、と書かれている。
「ある意味かわいいかもね」
実際見たら絶対触れないけど。てか、キノコだとは思えないだろう。
「それから、こんなのも」
ニレサルノコシカケ。およそ卓球台の半分くらいの大きさ、とある。オバケデカキノコだ。なんだかしろくてぶよぶよした気持ち悪い岩みたいだ。
「子供はやたらとでかいものが好きだからね。よくわからない絵を描いて、それから走り回って、このくらーい大きいの! とか言ったのを神様が具現化したんだと思うよ」
おう、思うだけなら自由だね。
「しかし、なんでまたキノコなんかに興味持ったの?」
「面白いじゃん。菌類すごいよ」
うん、面白いのは確かにね。
「でもさ、一番メルヘンなのって、ベニテングダケだよね。赤くて白い水玉ついてて、アリスに出てきそうなザ・メルヘン・キノコ」
あたしは、あのフォルムは結構好きだけど。猛毒キノコだって知ってるけれど、いつか自生しているのを見てみたいと思う。
「あれ? キノピオって、逆配色だっけ?」
また変な方へ行った……。
「でも、なんでかわいい我が子の作品を日陰で生きるものにしちゃったのかな。もっと輝かしくお日様の下で生きるようにしたらよかったのに」
「子供の図工の作品額に入れるタイプの親じゃなかったんだな」
「あれ、大人になってもまだ実家にあったりするんだよね。恥ずかしい」
「あれ? そのタイプ?」
ノーコメント。
「でも、やっぱり子供が親を越えるのはダメなんだよ、神様的に」
「林檎食べるのも、火を使うのも許さなかったくらいだもんね」
「それ、別の神様じゃない?」
いいじゃん、細かいことは。
「ま、なんだかんだ言っても、ひとは神様に愛されたってことかな」
「そうなの?」
「どんなところにあっても、ひとはそれを探求して、見つけ、驚嘆することができるからさ」
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