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2004年12月09日(木) TOY STORY
「彼女が、ねぇ、マスカラを塗っているのを見るのが好きなんだ。朝、前髪をピンで留めて、顔をぐっと鏡に近づけて、真剣に、慎重に、真っ黒い液を、ぐじぐじぐじぐじとゆっくり睫毛に擦りつける。ぼくはそれを見ているのが好き。マスカラを塗る彼女は、何をしているときよりずっと、真剣に見えるから。だからぼくは、朝が好き」
「彼女が、そう、爪を磨いているのを見るのが好きなんだ。夜、お風呂から上がったあと、くったりした服を着て、テレビでやってる映画を観たりしながら、こしこしこしこしと爪磨きを動かしている。ぼくはそれを見ているのが好き。丁寧に磨いた爪はぴかぴかひかって、触るときゅきゅっと音をたてそうで、それを見ている彼女は、とても楽しそうだから。だからぼくは、夜が好き」
「昼は?」
「昼は嫌いだよ」
「ぼくも昼は嫌いだよ」
「だって彼女がいないんだもの」
「そうだよ、彼女はいないんだもの」
「彼女を見ることができないんだもの」
「彼女を見ることができないんじゃあねぇ」
―――ダッタラ、サァ、昼ヲ、殺シチャオウカ?
そこでぼくたちは、みんなを集めて作戦会議をした。そうして意見がまとまって、ぼくらはみんなで、昼を殺すことにした。
彼女が眠っている間に。
昼を殺してしまう。
朝ト夜ダケ、アレバイイ。
朝ト夜ダケ、アレバイイカラ。
けれどぼくらは失敗してしまったのだ。昼を殺してしまったら、朝も夜も、無くなってしまった。彼女はマスカラを塗らなくて、彼女は爪を磨かない。
「ぼくらが殺した昼が、一日の心臓だった」
「ぼくらが殺した昼が、彼女の心臓だった」
「彼女は死んでしまった」
「彼女は死んでしまった」
―――彼女ハ、死ンデ、シマッタ。
―――――――――
以下 週刊誌の見出し.
『飽食のこの国で餓死!?玩具の部屋の惨事!』
『人形に囲まれた変死体〜現代女性の孤独』
『人形と心中?彼女はなぜ外に出なかった?』
『知人の証言「ひと月前から電話が繋がらなかった」電話会社は「そんなはずはない」』
『死の前後に“ドアをこじ開けようとするような音”隣人の証言』
『玩具の逆襲?「彼女は人形に殺された!」』
―――――――――
彼女が死んでしまったら、ぼくたちはどうするのだろう。
ぼくたちも、死んでしまうしかない。
ぼくたちを愛してくれた彼女がいなくなって、ぼくたちもいなくなる。
でも、誤解しないで欲しい。
ぼくたちは彼女を愛してたんだ。彼女とずっと、一緒にいたいだけだったんだ。彼女がマスカラを塗る朝がずっと続いて、彼女が爪を磨く夜がずっと続けばいいって、それだけだったんだ。
でも結局、ぼくたちは、失敗したんだ。
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サキ
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