心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2013年11月06日(水) お湯を貯める

「節酒薬」ナルメフェンは日本では大塚製薬から発売になる、と発表がありました。

大塚製薬とルンドベック社 減酒薬「nalmefene」(ナルメフェン)の日本における共同開発・商業化を合意
http://www.otsuka.co.jp/company/release/2013/1031_01.html
来年(2014年)には国内でも治験が始まる、とあります。

完全断酒が好ましいのは言うまでもありませんが、ハードルが高いゆえに治療の中断を招きやすい・・・いや、そもそも治療に入ろうともしない人たちが多いわけです。だったら、いったん「節酒」へと誘導して最終的な断酒へと導くのが良いとか、あるいは仮に断酒できなくてもハーム・リダクション(害の低減)にはなるだろう、という意図でしょうね。

ところで、ハーム・リダクションって、日本語的に4文字に略すと「ハムリダ」ですかね?

アルコール症を取り巻く環境がどんなに変わろうとも、AAは「永続的な断酒の手段」を提供する、いわばラグビーのフルバック的なポジションを保っていけば良いと思います。

さて、我が家の風呂は循環式ではなく、ボイラーで沸かしたお湯を貯める方式です。風呂に入りたければ、お湯の蛇口をひねって、浴槽にお湯を貯めます。数分経ってから、服を脱いで浴室に入れば、程良くお湯が貯まっている、という具合です。

ところが僕はときどき間抜けなことをやらかします。お風呂の栓をしっかりはめなかったせいで、お湯がすき間から漏れてしまっていることがあるのです。全裸で、底から数センチしか貯まっていないお湯を眺めるのは、かなり情けない体験です。

こんな話をするのも、もちろん意図があります。

伝統9(長文のもの)によれば、AAの理事会は「AA全体の広報活動を行う権限」をグループから託されています。理事会や評議会、各地の委員会などのAAのサービス活動において、AAの広報活動が主要なテーマになっているのは間違いありません。

つまりAAの広報は、サービス活動の中の主役と言っても過言ではありません。

なぜ広報が必要なのか、と言うと、広報活動をしないとAAが秘密結社になってしまうからです。誰もAAのことを知らず、どこにあるのかも分からないのでは困ります。また、AAグループは、AAのメッセージを運ぶために存在しているのですから、新しい人がAAのことを知るチャンスが増えるようにしなければ、目的が達成できません。

AAを愛する人たちは、たくさんの人がAAにやってきて、AAが成長することを望んでいます。回復の歓びをその人たちにも感じて欲しいからです。

「がんばって広報活動をして、たくさんの人がAAにやってくれば、AAは成長していく」

その考えに間違いはありません。しかし、落とし穴があります。一生懸命広報活動をやっているわりには、なかなかAAは成長していきません。AAメンバー数の正確な統計なんてありませんが、最近の日本国内の印象はせいぜい「微増傾向」ぐらいです。20世紀における成長と比べたら「停滞」と呼びたいぐらいだし、そのうち「減少」が始まりやしないかと心配です。

なぜ成長が滞ったのか? 広報活動が足りないのか? もっと頑張って広報活動をしなくちゃならないのでしょうか? ・・・確かにそういう面もあるでしょう。けれど、見落としていることがあるように思います。

実際には、たくさんの人がAAにやってきています。ところが、その中で、1年、2年、5年、10年とAAに残ってミーティングに出続ける人は少ないのです。だから増えない。

先ほどのお風呂を例に使えば、蛇口からお湯が注がれているのに、栓が抜けているものだから、どんどんお湯が漏れてしまっている。「広報活動をもっと頑張れば良い」という考えは、「ものすごい勢いでお湯を注げば(例え栓が抜けていても)次第にお湯が貯まっていくはずだ」という考えに似ています。そんなことをしていたら、水道代もガス代も大変なことになっちゃいます。要するに非効率なんです。

10年前、20年前と比べて、間違いなくAAの知名度は上がっています。一般社会への浸透はともかく、アルコール医療関係者や援助職の人でAAの名前を知らない人はまずいないと言ってもいいぐらいです。もちろん、AAの名を知っているからといって、信頼を寄せてくれているとは限らないし、(AAと同じで)職業家の世界にも毎年毎年新しい人が入ってくるので、広報活動は常に続けていかなくちゃなりません。

つまり、AAが成長しない、メンバー数が増えない理由は、広報活動が足りないからじゃないのです。栓が抜けているから。定着率が悪いからです。

もちろん、新しくAAに来た人が全員メンバーとなって定着するなんて考えられません。ビル・Wが書き残した文章によれば、順調にAAが成長を続けていた1940年代ですら、「5人のうち3人か4人は短い間にAAを離れていく」とあります(The American Journal of Psychiatry, 1949 Nov, 370)。AAへの定着率は当時でも2〜4割だったのです。それでも3割ぐらいの定着率だったら凄いことです。

もし日本のAAが3割の定着率を達成していたら、今頃は何万人というメンバーを抱えていたことでしょう。メンバーが増えないのは広報不足だからではなく、ミーティングやAAそのものに「惹きつける魅力」が足りないからです。

(ちなみに、すぐにAAを去って行った6~8割はその後どうなったのか。ビル・Wはビッグブックの第2版の序文で、彼らの「約三分の二は、後になって戻ってきた」と書いています。今の日本のAAで「来なくなってしまった人」がAAに戻ってくる比率はどれぐらいでしょうか? 戻ってこないのは、AAに戻るだけの魅力を感じないからかもしれませんね)

では、どうやったら「魅力」を備えることができるのか。個別に議論するのはまたの機会にするとして、全般的な話をするならば、「新しいこと」をやらなくちゃなりません。今までもAAメンバーはメッセージを運ぶ努力を続けてきました。頑張ってミーティングも維持してきたわけです。しかし、今までのやり方でうまくいかなかったのですから、何かを変えていく必要があります。それはつまり、何らかの「新しいこと」をやるということです。

AAは同調性の強い団体です。新しいことをやろうとすると、すぐに反発が生まれ、「それはAAのやり方じゃない」とか「私が聞いたやり方と違う」という批判が登場してきます。しかし、そうした意見の根拠を聞いてみると、なんだかあやふやなものでしかないことが多いのです。

結局、そうした「新しいこと」への拒否感が、AAの成長を妨げている最大の要因だと思うのです。根拠のあやふやな「述べ伝え」や古い因習に囚われることなく、どんどん新しいチャレンジをやって欲しいと思います。ミーティングのやり方にしても、スポンサーシップにしても、変えてみることが大切です。

もちろん、新しいチャレンジが成功するとは限りません。数限りない失敗が生まれるでしょう。でも、チャレンジなくして成功はありません。特に年齢的にも、ソーバーの期間も短い人たちの「無謀」とも言える挑戦を応援したいと思います。また、AAにおける「ヤング」とは身体的な若さだけでなく、young heartを持った人ならどんな年齢でもヤングなのだと言います。僕も常に変化を求め、AAの中で物議を醸していきたい。

「またあいつが何か変なこと始めたぞ」と言われるのは、とても名誉なことだと思っていますよ。

世の中に存在するすべてのものは、成長を続けているか、朽ちつつあるかのどちらです。何も変えなければ現状維持できるなんて考えは幻想です。ドアを開けて世界を見渡してみればそれが分かるはずです。変化を伴わない回復、変化を伴わない成長はあり得ません。

「変えられるものを変えていく」ための勇気を求めて欲しい・・・てゆーか、お風呂の栓はちゃんとしめようよ。ガス代もったいないから。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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