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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2013年12月31日(火) AAの中のロールモデル 今年も1年ありがとうございました。
Webalizerの出力データ(12/31 22:20現在)。
今年一年の統計データ
送出バイト数 1642.1Gbytes
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リクエストファイル数 3801万
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(FC2ブログはカウンターを設置していないので不明)。
今年も本当に多くの皆さんに訪問していただいて、ありがとうございました。
今年は2月に沖縄、6月にアメリカ、7月に福岡、そして11月に香港と、あちこちに行かせてもらいました。その中でも特にアメリカと香港での経験から考えたことを、雑記に書き残しておきたいと思います。
それはAAは「ロールモデル」によって動くところだ、という考えです。
ロールモデルというのは比較的新しい言葉です。
> 具体的な行動技術や行動事例を模倣・学習する対象となる人材。
> 多くの人々は無意識のうちにロールモデルを選び、その影響を受けている。「○○のようになりたい」という憧れは誰しもが持った経験があるだろう。
(kotobank.jp - ロールモデル)
> ロールモデルとは、自身の行動の規範となる(お手本となる)存在のこと。
> 人は誰でも、ロールモデルを選び、その影響を受けている。
(exBuzzwords - ロールモデル)
role は役割、model は規範もしくは鑑(かがみ)という意味です。
ずいぶん前ですが、AAのコンベンション開催のガイドラインを読んでいて、すこし引っかかっていたことがありました。
http://www.aa.org/en_pdfs/mg-04_conferenceandconv.pdf (日本語訳はオフィスから手に入ります)。
この中に、ほとんどのコンベンションでは、域外からAAメンバーをスピーカーとしてフィーチャーしている、と書かれています(p.4)。僕はそれを読んで、AAメンバーをフィーチャーするとはどういう意味なのか、と疑問を持っていました。
feature とは「呼び物にする」とか「主演させる」という意味です。つまり、海外のAAには、AAイベントの呼び物となり主役的扱いを受けるメンバーが存在する、ということなのでしょうか。
AAはすべてのメンバーを等しく扱い、差をつけないところだ、と僕は考えていたので、そのように特別な扱いを受けるメンバーは存在するはずがないし、英文の読解力不足が原因で自分がヘンなことを考えたのではないか、と思っていました。
その考えが少しずつ変わり始めたのは、ジョー・アンド・チャーリーの情報に触れたからです。生前の彼らは、週末になると全米各地へ出かけていって12ステップのワークショップを行っていました。1980年代には、ほとんど毎週末と言っても良いぐらいの頻度でした。いったいその旅費はどうしていたのでしょうか。自己負担だとすれば、年間で何百万円相当になるではありませんか。二人はそんなお金持ちでもなかったはずですが・・・。
実はその費用は主催者側の負担だったそうです。多くの場合に主催は、各地のAA地区委員会であり、彼ら二人の旅費は(上記ガイドラインに従って)委員会が負担していたのだそうです。その額は何万円相当(時にはもっと)になりますから、それを参加人数で頭割りして、参加費に上乗せするわけです。主催者側は、ジョーとチャーリーを「呼び物」にすることによって、参加者を集めていた、ということなんでしょう。
だとすれば、コンベンションのガイドラインの記述も頷けます。ハワイで行われたコンベンションに参加した日本人メンバーによると、そのコンベンションにはアメリカ本土から招かれたAAメンバーがスピーカーとしてフィーチャーされていたそうです。また他のメンバーからの話でも、アメリカ本土でのAAイベントでは、州外からのスピーカーの名がチラシにクレジットされていたそうです。
僕が今年参加した香港のコンベンションでも、3人のメンバーがフィーチャーされていました。二人はアメリカから招かれたメンバーでした。僕はその一人の話を聞くために、香港まで行きました(彼の名前が載っていなかったら行かなかったことでしょう)。
香港のコンベンションの内容がふるっていて、3日間のうち、僕らがホームグループでやっているような普通のミーティング(参加者がそれぞれ経験を話すタイプ)は、わずか1時間だけでした。他の時間は、話し手が12ステップや伝統についての個人的経験を話すのをひたすら聞くものであったり、パワーポイントのスライドを使ったステップの解説であったり、あるいは実際にステップに取り組むワークショップであったりしました。多くの参加者にとって、コンベンションは「話す」機会ではなく、もっぱら「見て聞く」ための機会になっていました。
香港のコンベンションの内容がやや偏っている可能性はありますが、ともあれ、AAの中にフィーチャーを受ける(つまり呼び物にされ、メインのプログラムを担当する)メンバーがいる、という現実はよく分かりました。
最初にロールモデルについて取り上げましたが、そういう人たちは皆の「ロールモデル」なのでしょう。ロールモデルとなったメンバーたちは、おそらく素晴らしい回復者のはずです。しかし、実際に彼らが回復しているかどうかは、それほど重要ではない、と僕は思います。
むしろ、その他大勢のメンバーが、ロールモデルとなったメンバーをお手本とし、彼らの12ステップの解釈を聞き、「あの人のようになりたい」と思いながら自分がどう行動するか学んでいこうとしていること。それが大事だと思うのです。AAは role model method (ロールモデル法)によって回復を伝えていく場だったのだ、というのが今年の気づきでした。
人は誰でもロールモデルを持っています。それは職場の先輩だったり、AAだとスポンサーだったり、あるいは憧れの著名人だったりするのかもしれません。あなただって、誰かをロールモデルにしているでしょうし、ひょっとしたら誰かのロールモデルになっているのかもしれません。
しかし、「あの人の話を聞くためになら、みんなで旅費を負担しても良いじゃないか」と多くの人に思わせるような「みんなの」ロールモデルになる人は、どうやって選ばれるのでしょうか。おそらく、本人がなりたいと思ってもなれるものではなく、自然に選ばれていくものなのでしょう。
みんなのロールモデルになった人は、どんな気分なのか。想像するに、それなりの楽しみもあるでしょうが、決して楽(らく)ではない。むしろ苦労の方が多いような気がします。
はてさて、AAメンバーは平等であるけれど、等しく扱われるわけではない。無名の集まりですから famous(有名な)メンバーはいないけれど、well-known(よく知られた)メンバーはいる。皆の規範になる役割を神によって割り当てられてしまったメンバーもいるわけです。
僕は日本のAAメンバーなので、当然日本のAA共同体の影響を受けます。日本のAA共同体では、メンバーを等しく扱うのが良いとされ、「選ばれた」メンバーはあるべきではない、という考えが主流だと思います。だからこそ、僕も事情を知らなかった頃は、ガイドラインの英文を読んで、これは自分の解釈ミスではないかと疑ったわけです。
しかし、少なくとも英語圏のAAでは、共有可能なロールモデルを作り上げ、そのロールモデルを積極的に活用していく、というやり方をしている、ということが分かりました。それは、実際に行ってみなければ分からなかったことです。
年が変わっちゃうので、この話はこれぐらいにしておきましょう。
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