天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

right person - 2003年11月29日(土)

仕事が終わって病院からオスカーさんに電話した。
「今日ごはん一緒に食べに行くの?」。
サンクスギビングの日にメールをもらってそのまま放っておいたわたしの返事。車のことがゆううつなまんまで、そのままうちに帰りたくなかった。どこかで待ち合わせるのかと思ってたのに、オスカーさんはビレッジの自分のアパートの住所を教えてくれた。

大きな猫がいた。トミーって名前だった。トミーはうちのデカいお兄ちゃんチビよりまだデカかった。長さはおんなじくらいだけど、横にデカかった。笑っちゃうほど横にデカかった。話しかけても返事もしないで、無愛想なのかと思えばぐりんぐりんすり寄って来て、あんまり可愛くて首ねっこを両手で挟んでくちゃくちゃにしたら太い首を器用にひねって手をカプッと噛まれちゃった。

アパートは素敵だった。誰のアパートでも素敵だと思う。どこのアパートもうちより広くて、前に住んでた大きなアパートが恋しくなる。

壁に立てかけてあったキーボードを見つけた。「弾きたい弾きたい弾きたい」って大声になる。なんだかわかんないボタンやらスクリーンやらそういうのをあれこれいじって、オスカーさんは一番素敵なピアノの音にセットしてくれた。

バッハを弾いて途中でわかんなくなる。ショパンを弾いて途中でわかんなくなる。子犬のワルツ。わかんなくなって戻って進んで戻って進んで止まったら、オスカーさんがちょっと弾かせなよっていいながら、ぺらぺら弾いた。オスカーさんは14歳までピアノを習ってたって言った。わたしは17までやってたのに、まるで太刀打ち出来ない。子犬のワルツはほんとは「ミニッツ・ワルツ」って題らしい。1分で終わっちゃうから。「日本語の題は『子犬のワルツ』って言うんだよ」って言ったら「そりゃあ間違いだよ」って笑われた。

だけど確か、ショパンが子犬の駆け回るのを見ながら閃いて作った曲だって、わたしのピアノの先生は言ってたと思うんだけどな。

バッハの楽譜をどっかから持って来てくれた。子どもの時に弾いてたのと全くおんなじ楽譜だった。楽譜があれば、詰まりながらもどれも弾けた。なつかしくてなつかしくて止まらない。ジャズ・オルガンの音にしてくれたら、へたくそなのが素敵に聞こえた。オーダーしてくれたタイ・フードをおしゃべりしながら食べて、食べ終えたらまたキーボードに向かう。そのうちオスカーさんったらわたしにヘッド・フォーンを渡した。大笑いしながらヘッド・フォーンつけて、まだ弾く。

電話が鳴った。「きみの携帯だよ」ってオスカーさんがわたしのバッグを持って来てくれた。デイビッドだった。事故のことをどうなったか聞いてくれてから「今何してるの?」って言った。「オスカーさんんちにいるの」。

「オスカー?」
「うん。ほら前に話したじゃない。サルサのクラスメートで、わたしのタンゴの先生とお友だちの人。キーボード弾かせてもらってるんだ」。
ガールフレンドになってよって言われたことは話してなかった。
「Good!」。

デイビッドは何でも「Good!」って言う。オスカーさんちがどこなのか聞いたりして、ほんとは妬いてるくせにって思ったけど、わかんない。 

またわたしの携帯が鳴った。
あの人だった。びっくりした。よそんちにいるのに、いっぱいおしゃべりした。
自分で始めた仕事がようやく余裕が出るくらい上手く行き出して、もう少ししたらちゃんと会いにいけるってあの人は言った。それから「今頃になって行っても嬉しくない?」ってあの人は聞いた。「なんで? もう3年以上もずっと待って待って待って待って、今でも待ってる」。今でも待ってる。待ってる。もう一度会える日。

キーボード、ヤマハのS80が欲しいんだ。中古でいいの。安いの見つかったらいいな。そんなこと話したら、あれはピアノの音が奇麗なんだよ、300ドル以下で見つかったら絶対買いなよ、って嬉しそうに言ってくれた。


オスカーさんといろんなこと話した。たくさん話した。恋の話も結婚の話もジーザスの話も家族の話も音楽の話もダンスの話も他愛ない話も。

帰りの地下鉄で思った。もしかしたら right person なのかもしれないって。
そんなことを思ったのは初めてだった。誰にも思ったことない。right person ってどうやってわかるんだろっていつも疑問だった。ほんとに、閃きみたいにそう思った。

だけどデイビッドがいい。なんでいいんだろ。みんなダメだって言うのに。
なんにもはっきりさせてくれなくて、なんにもはっきりしてくれなくて、ちっともわかんないのに。


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事故しちゃった - 2003年11月28日(金)

交差点で右折しようと道路の右側に車を寄せたときに、後ろから来た車がわたしを追い越そうと斜めに入って来てわたしの車の左前にぶつかった。車を止めておそるおそる自分の車の破損を確かめに外に出た。車はぼっこり凹んでペイントが禿げてる。一旦止まったぶつけた車は、そのまま逃げるように交差点を抜けってった。慌てて車に乗り込んで追いかける。ぶつけた車は止まらない。ホンクしながら追いかける。3つくらい先の信号が赤になってぶつけた車がようやく止まった。運転手は女の人だった。「なんで逃げるの? ぶつけといて」「わたしは悪くないわよ」「悪くなくないでしょ? ぶつけたのはあなたよ」「車、どうかなってるの?」「凹んだわよ。見てよ」。車をしぶしぶショルダーに寄せてその人はやっと出て来た。わたしも彼女の車の後ろに自分の車をつける。

しばらくやりあってたけど埒があかない。どうしたらいいかわかんなくて、デイビッドに電話した。まだ寝てるらしくて留守電になってるままだった。ボスに電話した。事故しちゃって遅れることと、それから、どうすればいいのか聞いてみた。電話で話してるあいだにたまたま通りかかったポリスカーを、女の人が止めた。事情を聞いた警察に彼女は自分は悪くないことを主張して、わたしがそれを否定する。

ポリスリポートはしたければ10日間以内にすればいいらしくて、そのあいだにポリスリポートをして保険を使うか、リポートしないで示談にするか、ふたりのあいだで決めればいいということがわかった。お互いの車と保険の情報を記入してもらったポリスリポートの用紙をもらって、女の人の連絡先を聞いて、取りあえず仕事に向かう。


病院についてインターンの二ネットに事故の話をしてると携帯が鳴った。デイビッドだった。事故しちゃったのって話したら驚いてた。わたしが電話をしたからかけてくれたのかと思ったら、そうじゃなかった。「メールを読んだから」ってデイビッドは言った。

オフィスは地下で病棟から離れていても、病院内は携帯は禁止。「お昼休みにかけ直すね」って切った。

メールを読んで何をいいたかったのかなったずっと気になってた。お昼休みに電話をしたけどデイビッドはうちにいなかった。携帯にかけても切られてた。

仕事が終わってロジャーとサマンサとおしゃべりしながら帰る用意をしてたら携帯が鳴る。事故のこといろいろ聞いてくれて、どうしたらいいのか話してくれた。それから、サンクスギビングのディナー・パーティから帰って来たのが朝の4時で、これから1時間くらいお昼寝するって言う。

「朝電話くれたとき、何を話そうとしたの?」。そう聞いてみたら、「話したいことがあるのはきみのほうじゃないの?」って言われた。お昼寝するって言うから切った。

うちに帰ったら留守電が入ってた。携帯にかけてくれる前に入れてくれたメッセージだった。しばらくしたら、また電話をくれた。いつかみたいに、スターバックスのある本やさんで本読みながら。


メールに書いたことの意味、わかってないんだろうな。半分はわかってるのかな。昨日泣いちゃったあとで、最近自分から電話をくれないデイビッドに「たまには電話ちょうだいね、前みたいに」って言ったから。

半分わかってくれたならいいか。前みたいに電話くれるからいいか。


なんか嬉しいような、嬉しい自分がバカみたいなような、そして事故のことがゆううつ。すごいゆううつ。


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サンクスギビング・デー・イヴ - 2003年11月27日(木)

思いがけないサンクスギビング・デー・イヴ。
サンクスギビングは別々に過ごすから、いつもの木曜日に会えない。だから水曜日に会いたいって言ったのはわたしだけど、デイビッドはその案を喜んでくれた。

サンクスギビング間近になって、たくさん招待もらっちゃった。
大家さん家族、新しい同僚のサマンサ、ダンス・クラスメートのジーン、オスカーさん、それからジェニーんち。みんな心が揺れたけど、最初に招待状くれたスーザンとアンナんちに行くことにもう決めた。ジェニーんちは今年はなぜか前日の水曜日にディナー・パーティをして、わたしったらデイビッドと会うほうを選んじゃった。「うちにはいつだって来られるから」って、ジェニーは快く OK してくれた。

映画を観に行った。このあいだ見る予定だったのをやめて、「the hounted manison」。エディ・マーフィーの映画はとりあえず楽しいから。「2本立て続けにつまらない映画観ちゃったね」って、前に観たあのくだらない「lost in translation」のことと一緒にデイビッドはそう言ったけど、わたしはロマンティックで絵がとても奇麗なのが気に入った。最後の、みんなが一緒に天国に飛んで行くところ。あそこはデイビッドも涙がこぼれそうになったって言って、そんなふうにあの場面を観たデイビッドのこころがなんか嬉しかった。

サンクスギビング・デーの前夜のシティは、人でいっぱいだった。そんな夜に恋人みたいに一緒に歩けるのも嬉しかった。

昼間にナターシャとふたりでまたアップアテイトの山にハイクに行ったデイビッドは、アパートに戻っていつものようにテレビを観てるあいだにソファで眠ってしまう。ナターシャもくたびれ切って、早くから眠ってた。仕方なくデイビッドをベッドに促して、「あたし眠たくないよ」って駄々こねながらデイビッドの隣に潜り込んだ。

デイビッドはまたくちゃくちゃにわたしを抱きしめながら眠る。いつのまにかわたしも眠って、ひとりで早起きして仕事に行かなくていい朝を迎えた。たくさん眠った。先に起きたデイビッドがオートミールとコーヒーの朝ごはんを作ってくれた。シャワーを浴びてバスルームから出て来たら、デイビッドは仕事場でクライアントにメールの返事を書いてる。「今日は仕事はしないよ」って言ったくせに。

わかんないけど、なんか悲しくなった。ベッドルームへの階段に座って、涙がこぼれそうだった。それからシティのサンクスギビング・デー・パレードをテレビで観た。笑っておしゃべりしてたのに、突然、ほんとに涙がこぼれた。

驚いたデイビッドはテレビを消して、わたしの前に椅子を引っ張ってきて座る。「なんで泣くの? わかってるよ。カダーのこと考えて泣いてる」。そんなこと言って茶化したあと、デイビッドは今までの仕事のこと、今の仕事のこと、これからの仕事のこと、今の生活のこと、一年先の生活のこと将来のこと、わたしの目を覗き込みながらそんなことをいろいろわたしに話した。それから「どう思う?」ってわたしに聞いた。

何も答えられなかった。わたしはデイビッドの仕事が好きで、仕事のやり方が好きで、生活が好きで生き方が好きで、そして話してくれたこれからのプランも、とても尊重出来る。だけどそう素直に言えなかった。

来週の金曜日、わたしに休みが取れたらスキーに行こうよってデイビッドは言った。嬉しかった。2時にアンナとスーザンちに行く予定のわたしを、今日は車のとこまで送ってくれる。「あたしのお休みが取れたら、ほんとにスキーに連れてってくれるの?」。そう聞いたら「天気がよければね。よくなかった場合のバックアップ・プランをきみは考えておきなよ」って言われた。お天気が悪ければデイビッドは仕事をする。わたしは取り残されて、お休みを取ったひとりの時間を過ごす。


アンナとスーザンちから夜中に帰って来たら、オスカーさんからメールが来てた。
土曜日の夜、食事が映画に行かないかって。

オスカーさんに返事を送らずに、デイビッドにメールを送った。
サンクスギビング・デー・イヴをありがとうって。
それから、今日言いたかったのに言えなかったこと。わたしがデイビッドの生き方をとても尊敬してるってこと。だけど時々、デイビッドの生活から疎外されてる感じがしてわたしがデイビッドの生活の中の一体どこにいるのか考えてしまうってこと。ほんとは「いつも」なんだけど。バカバカしい、きみは考え過ぎだ、ってそういうわたしの気持ちをどうか無視しないでね、考え過ぎなのかもしれないけどわたしにとっては大事なことなの、わたしは自分の生活も生き方も尊重したいから、って。

明日になったら返事をくれる。くれないかもしれない。


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秋の色 - 2003年11月22日(土)

招待状が届いた。サンクスギビングのディナー・パーティ。
教会友だちのアンナとスーザンからだった。e-メールでもなくて、eVite でもなくて、郵便でうちに届いた。デジタルの文字じゃなくて、手書きの文字のカードだった。請求書やジャンクメールに混ざって、それだけものすごくものすごくあったかかった。

嬉しい。サンクスギビングどうしよかなって昨日まで思ってた。今年は仕事も休みだから、淋しいのやだなって思ってた。


夜、教会のパーティがあった。Thankfulness Fall Celabration。秋のカラフルな色を着て来てくださいって書いてあったから、スパタンりんごみたいな色の超ミニドレスの下に細いジーンズ履いて、足のつめも真っ赤にしてオープントウのヒール履いてサルサ踊るみたいな格好で行ったら、みんな黒とかのドレスできちっとドレスアップしてた。ルール違反じゃん。「何着てくの?」ってジェニーが電話して来たから「カジュアルパーティだからジーンズ履いてもいいよね?」って言ったら「あたしもジーンズにする」って言ってたくせに、ジェニーったらスカート履いてきた。

ひとりだけちょっと恥ずかしいなって思ってたのに、みんなになんかすっごいウケて、素敵なアウトフィットだねって知らない男の人にまで褒められちゃった。だから楽しかった。踊りまくった。ルンバもぶるんぶるん振り回されながらクルクル踊った。スウィングが上手く踊れないけど、ジャイブみたいにして適当に踊った。久しぶりにヒップ・ホップを踊るのも、ものすごく楽しかった。


スーザンとアンナに、サンクスギビング・ディナーの招待の返事とお礼に思いっきりハグした。


終わり間際にパーティを抜け出したのはもう12時半だったけど、教会の前からデイビッドに電話する。出掛ける前にメールが来てたから。「明日ハイキングに行くことになった。来る?」って。

朝早く出掛けるって言う。行きたかったけど、教会があるから行けない。サービスが終わってからジェイのアポイントもあるし、それからリレーションシップの最後のクラスもあるし。

ハイスクール時代の友だちと行くって言ってた。このあいだサイクリングに一緒に行ったって言ってた人。デイビッドのそんな友だちと会ってみたかった。誘ってくれたのも嬉しかった。明日はあったかい秋晴れになるらしい。アップステイトのすごく奇麗なとこだって言ってたから、秋が終わらないうちに秋の色をたくさん見たかった。でも明日は教会をお休みしたくない。なんか、明日は絶対行かなきゃいけない気がしてる。




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少しだけ天使かもしれない - 2003年11月21日(金)

顔を洗って歯磨きしてデイビッドの T シャツに着替えてるあいだに、デイビッドがミントティーのカップをふたつナイトテーブルに運んでくれる。それからデイビッドが寝る用意をしてるあいだに、わたしは先にシーツに潜る。まだ10時半。映画を観に行く予定をやめて、今日はうんと早くベッドに入ってお茶を飲みながら本を読むことにした。言い出したのはデイビッド。わたしはその森のくまさん一家のお話みたいな案が気に入って、「まだ寝たくない」っていつもみたいにグズグズ言わずにナターシャにおやすみを言ってからさっさとひとりでベッドルームへの階段を登った。

わたしに貸してくれた本は、サイエンティストが書いたジェネシスの本。「旧約聖書を全部読んだ?」。そう聞いてからどんな内容か少しだけ話してくれて、デイビッドは「イスラエルの危機」って本を手に取った。「きみにぴったりの本だからしっかり読みな」って言ったくせに、自分の本を声に出して読みながらわたしに聞かせる。国と国の争い。人と人の争い。信仰と信仰の争い。聞きながら何度も質問してるうちにだんだん悲しくなってくる。

「なんで歴史を知ることが必要なの? 歴史なんかひきずるから悲しいことがたくさん起こるのに」「歴史を知らなければ人は同じ過ちを繰り返すんだよ」「だけど自分が生きてない過去を背負ってるせいで憎み合う人たちがたくさんいる」「確かに歴史は歪められることが多いけどね」。歴史なんか、過去なんか、誰もみんな忘れてしまえればいいのに。そう思う。

風邪はすっかりよくなったはずなのに、デイビッドは時々胸をさする。夜になると胃の調子がよくないらしい。わたしはデイビッドが本を読むのを聞きながら、代わりに胸をさすってあげる。

「止まったよ。胃のオカシイの。どんなトリック? どうやって止めたの?」
「あたしは天使だからよ」
「きみは天使だよ。時々悪い子だけどね」
「それは時々人間のふりしてるからよ」
「なるほどね。僕も天使だけどね。『ミ・アンゲラ』。子供の頃、おばあちゃんは僕をいつも呼んでた」
「なに? 『マイ・エンジェル』?」
「そう。『デヴィドゥ・ミ・アンゲラ』って」
「デヴィドゥってなに?」
「デイビッド。『デイビッド、私の天使』。イーディッシュは美しい言葉だよ」。


『デイビッド、私の天使』
なんて優しい響き。

それからデイビッドは子供の頃聞いたイーディッシュの言葉をいくつか教えてくれた。
「そうかもね。あなたの髪、天使の髪だもん」
「天使の髪?」
「そう。知らないの? 細くて柔らかくてクルクルしてる天使の髪」

ほんとに、デイビッドも天使かもしれない。初めて会ったとき、天使のあの人ときっと話が合うと思ったのはそのせいかもしれない。何でも全部楽しくしてくれて、悪いことをいいことに変えてくれて、一緒に過ごしたあの5日間のあの人とそんなとこも一緒だ。魚座生まれのくせにまるでロマンティストじゃないとこも一緒だ。デイビッドも天使かもしれない。あの人みたいにまるっきりじゃないけど、おばあちゃんがそう呼んでた分くらい。

わたしは1ページすら自分の本を読めないまま、本を閉じたデイビッドの腕に抱かれて一緒に眠りに落ちる。


今日はサルサのパフォーマンスの特別レッスンがあった。それからクラスメートのジーンに誘われて、ビレッジのダンス・スタジオのパーティに行く。ジーンはボーイフレンドを連れて来た。わたしは決まったパートナーがいなくて、いろんな人が誘ってくれたのはいいけど、なんだか冴えないオジサンみたいのばっかだった。タンゴを踊ってくれた人はキモチワルかった。ジーンとラリーはとても素敵に踊ってて羨ましかった。でもデイビッドがダンスをしないことは全然不満じゃない。サルサもタンゴもデイビッドには似合いそうにない。きっとあの人にも似合わない。


帰って来てからメールした。
昨日の夜がとても楽しかったこと。あんなふうにベッドで本を読みながらおしゃべりするのがとても素敵だったこと。返事は来ないけど、こんな時間に起きてるはずがない。

おやすみ、エンジェル・ヘアのデイビッド。
言わなかったけど、クリクリ睫毛つきのそのグリーンの目も、時々はっとするほど天使なんだよ。


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うさぎのゲーム - 2003年11月19日(水)

土曜日のダンス・パーティは楽しかった。
すっごい大勢の人が来てた。足が痛くなるほど、いろんな人と踊りまくった。
楽しくて楽しくて帰りの地下鉄の中でもなんかうきうきしてた。
駅を出て痛くなった足引きずって歩いてたら携帯が鳴った。caller ID に unavailable の表示が出てた。あの人。慌てて出たら切れちゃった。携帯から国際電話かけられるようにしたからかけ直してみたけど、かかんなかった。多分うちからかけるときみたいに「ズルして安くなる方法」でかけたからだ。諦めてうちに帰ってからかけた。

これからすぐ仕事だからって、殆ど話せなかった。「明日またかけてみるね」ってあの人が言った。いつものようにキスをくれて、お返しをして切った。

「いつものように」。もう、「いつも」じゃない。それでも愛は変わらない。

でも、天使を愛する愛を今は100パーセント理解してる。あの娘を愛する愛と、チビたちを愛する愛と、ナターシャに会うと溢れる愛と、ジーザスへの愛と、それから天使を愛する愛。みんなもう、おなじだけ分かる。


日曜日の夜にデイビッドに電話したら、風邪の声がひどくておしゃべりが出来なかった。

月曜日のベリーダンスのクラスは、男の先生だった。新しい先生の旦那さんで、世界中飛び回ってベリーダンシング教えてる有名な人らしい。新しい先生はロスに教えに行ってて、旦那さん先生が代理で教えに来たのは2回目。ものすごくシステマティックで、たくさんは習わないのにしっかり深く身について、からだの芯から気持ちよく満足する。帰りの地下鉄で先生と一緒になった。うちの近くのエジプシャン・カフェで友だちと会うんだって言ってた。あのミドルイースタン通りだ。とても無口な人でわたしからばっかり質問してて、先生が降りるふたつ前くらいの駅からもう話題が無くなった。

帰ってからデイビッドと長いメールのやり取りをした。他愛ない話でも真面目な愛の語らいでもなく、カリビアンに一緒に行くならわたしにはやらなくちゃいけないことがあって、その方法とか手続きとかそういうこと。今すぐには無理みたいで諦めることになった。多分1月にはカリビアンには行けない。

「風邪はすっかりよくなったよ」って書いてた。「明日は少しあったかくなるみたいだから、午後時間を取ってニュージャージーの河べりにハイクに行って来るかもしれない」って。ニュージャージー。確かデイビッドの ex-ガールフレンドが住んでるとこ。「ナターシャと、それから誰と?」「行くとしたらナターシャとふたりでだよ? ほかに誰がいるのさ?」「誰もいないよ。充分あったかくなったらいいね。おやすみなさい」。

あったかくならなかった。昨日はまた寒かった。雨も降った。
サルサのクラスでくたびれて、わたしから電話をかけなかったし、メールもしなかった。デイビッドからも何も来なかった。


今日は仕事が終わってから、みんなでユニオン主催のセミナーに行く。ふたつのトピックのひとつ目はたいくつで、切ってなかった携帯にジェニーから電話がかかったから廊下に出ておしゃべりした。

うちに帰っても携帯にもうちにもデイビッドから電話はなくて、メールもなくて、「あなたの新しい電話はレシーブ専門なの?」ってメールしたけど返事も来ない。もう寝ちゃったのかもしれない。そういう時間だから。「また雨に当たって風邪こじらせてませんように」って、も一度送った。返事はない。

いつかの水曜日には「明日会うの? 会わないの?」ってメールしたらすぐに電話くれたのに。電話を切ったら「わお。攻撃的。もちろん会うよ」ってメールも入ってたのに。

もうこんな時間なのに、うさぎのゲームしながら何度もメールをチェックする。

最近わたしからばっか電話してる。木曜日の約束の確認も。なんで?
ぐちぐち考えながら、まだうさぎのゲームやってる。

人を愛する愛だけが、いつまでたっても上手に理解出来ないよ。


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ここだけの秘密 - 2003年11月14日(金)

デイビッドより早く起きなくてよかった。
明日セミナーに行く予定で、今日はその分の代休になってた。セミナーは定員いっぱいで行けなくなったけど、楽しみにしてた金曜日のお休みをそのままホリデー出勤の代休に変えた。


昨日は嵐みたいに風が強くて、夜は凍えるくらいに寒かった。
いつものようにタンゴが終わってデイビッドのアパートに向かう。タンゴが終わってから電話したときはいたのに、アパートの前から電話するといなかった。寒くて寒くて外で待ってなんかいられなくて、ドアマンのおじさんにエントランスを開けてもらう。「Hi」って挨拶してから少しおしゃべりしてたら、デイビッドのアパートから「ウォウォウォウォウォ〜」ってナターシャの声がした。「きみが来たこと、ナターシャはわかったんだよ」ってドアマンのおじさんが言った。

デイビッドったら、寒いのにアイスクリーム買いに行ってた。
嵐みたいな風がおもしろくて、ナターシャと3人で裏の大きな岩山に登りに行く。
ナターシャは大喜びで耳をぴょこぴょこ振り回しながら風の中を走り回る。ポケットに手を入れたまま、走り回るナターシャを追いかけるわたしに、「気をつけなよ」って後ろからデイビッドが叫ぶ。

岩山はデイビッドにもナターシャにもどんどん先を越されたけど、ハイヒールの靴でがんがん登るわたしを「強い子だな」だって。褒められちゃった。

アパートに戻ってお茶を煎れる。
ちょっと前に持ってったホワイト・ティー。いつかの日曜日にジャックとルーズベルト・フィールドに行ったとき新しいお茶の専門店を見つけて、珍しくて買ったシルバー・リーフのお茶。試飲したらとてもおいしくて、きっとデイビッドは気に入ると思った。持ってった日に煎れたけど、デイビッドはあんまり好きじゃなくて、がっかりした。高かったのに。

はちみつとレモンを入れたらおいしいって言うかなって思ったけど、デイビッドは一口飲んで「うへっ」って顔をしかめた。ホワイト・ティーはグリーン・ティーと一緒でビタミンCがいっぱいなんだよ。風邪にいいんだから。そう言って無理矢理飲ませる。風邪ひいちゃったあとのビタミンCはもう効力がない。でもそんなことは内緒。それより、確かにちょっと「うへっ」な味だったかもしれない。

枕抱えて寝るみたいに、デイビッドはわたしをくちゃくちゃに抱いて寝た。
おやすみのキスをわたしがねだる前に、「今日はなしだよ、風邪がうつるといけないから」って先にデイビッドが言った。


デイビッドより先に起きなくていいのが嬉しかった。
アシスタントの女の子が来るから、デイビッドが先に起きた。それから女の子が用事で出てったあいだに、「おはよう、眠り姫さん」って起こしに来てくれた。シャワーを浴びて着替えて、今日はクライアントが3人も来る忙しい日だから、わたしはデイビッドにバイを言う。

デイビッドがドアを開けたら、ビルのエントランスの向こうに、戻って来たアシスタントの女の子がいた。目が合った。「見られちゃったよ」って言ったら「平気だよ」ってデイビッドは、エントランスから見えないようにわたしを引っ張ってバイのキスをくれた。


ゆうべ、カリビアンに連れてってくれるってデイビッドは言った。「1月に休みが取れる?」って。わかんない。キッチンのついてるホテルを借りて、一緒に料理もしようって。わかんないけど、取りたいよ。

ゆうべ、わたしと出会ってからナターシャは目に見えて日に日に元気になってくって言ってくれた。わたしの声を聞きつけて「ウォウォウォウォ〜」って言ったナターシャのこととドアマンのおじさんの話をしたら、「Nice story...」ってデイビッドは目を輝かせた。

ゆうべ、バイオリンをたくさん聴かせてくれた。
わたしは楽譜立ての横に立って、楽譜のページをめくる役をした。ピアノの伴奏も一緒についてる楽譜だった。

わたし、あなたのバイオリンの伴奏のピアノ弾きたいな。きっと楽しいよ。
うちに帰ってからそうメールを送ったら、中古のアップライト・ピアノのいいやつずっと探してるんだよって返事が来た。


サンクス・ギビングが来て、それからクリスマスが来て、今年もフェスティブなシーズンがもうほんのそこまでやって来てる。

わたし、あなたと一緒に暮らしたいな。きっと楽しいよ。

ここだけの秘密だけど。


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パンプキン・スープ - 2003年11月11日(火)

ベテランズ・デーのお休み。
起きたら曇り空だった。電話もないし、メールもない。
「午前中に一緒に葉っぱを見に行く予定じゃなかったの? 忘れてるんでしょ。いいよ、ほかの人探すから。心配しないで。ヨリドリミドリなんだから」。そうメールしたら「もうナターシャとふたりで行って来たよ。待ってたけどきみは来なかったから」って返事が来る。慌てて電話した。「バカ」って笑われた。咳が止まらずに眠れなくて、仕事しながら朝まで起きてたらしい。それからやっと眠ってさっき起きたとこって。

デイビッドの体調がそんなだから、紅葉を見に行く予定はキャンセル。
「きみは何するの、今日?」ってデイビッドはしつこい。誰ともどこにも行かないのに。

山のように溜まった郵便を整理する。殆どジャンクに近いどうでもいいヤツで、封も開けてなかったりする。

夕方近くに、思い立ってパンプキン・スープを作った。
今日は車でサルサのクラスに行って、クラスの始まる前にデイビッドんちに寄って届けようと思ってたのに、時間がぎりぎりになってしまった。クラスが終わってから届けに行った。デイビッドはいなかった。歌のレッスンに行くって言ってたのを思い出した。

ドアマンのおじさんに入れてもらって、おうちの電話にメッセージ残してデイビッドのアパートのドアの前にスープを置いて来た。

携帯が鳴る。「どこにいるの?」ってデイビッドが聞いた。「少し前にあなたんち出たとこ。今帰り道」「運転しながらハンドオフなしの携帯使用は禁止だろ」「あなたがかけて来たんじゃん」。デイビッドったら、パンプキン・スープ、嘘みたいに喜んでくれた。おなかペコペコで帰って来たらスープがあったって。今あっためてるって。早く食べたくて待ち遠しいよって。おしゃべりが好きなデイビッドは、嬉しいとおしゃべりが2乗になる。わたしと一緒。

「危ないよ」って言いながら、結局帰り道殆ど全部おしゃべりしてた。
ありがとう、ありがとう、ありがとう、って何度も言ったくせに、「ねえ、僕はお礼を言ったっけ?」って切る前に言う。

あんなに喜んでくれたら、スープの出来が心配じゃん。このあいだのレンティル・スープほど上手く出来なかったのに。ディルを入れたのがちょっと失敗だった。あんなに喜んでくれるから言えなかったよ。


ハロウィーンをクリアした。去年もおとどしも「悲しみのハロウィーン」だった。
お隣のおうちのハロウィーンの飾り付け見ながら、今年は上手く飛び越せますように、って願ってた。飛び越えられた。お隣のハロウィーンはサンクス・ギビングに化けて、わたしはもう悲しくない。

葉っぱはもうすぐ散ってしまいそうで「オータム・イン・ニューヨーク」ごっこの夢は今年も叶いそうにないけど、でもあんなに泣きながらこの街の落ち葉の季節をもう今年は過ごさなくて済む。少しくらい切なかったとしても。



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アイススケート - 2003年11月10日(月)

土曜日は天気予報通りにものすごく寒くて、マフラーをしっかり首に巻き付けて手袋をしっかりはめてダウンのジャケットのジッパーを首まで上げて、病院から地下鉄の駅まで肩を縮めて歩く。週末はわたしは仕事で、仕事じゃないロジャーとジェニーと、それからロジャーの友だちのジョンと、わたしの仕事の終わる時間に合わせて 5番街と59番通りの角で待ち合わせてた。

先週の水曜日の予定だったのが、雨が降ったから中止にして、水曜日は4人でディナーに行った。土曜日にしようよって言ったのはわたし。お天気がよくて気温が低くて、絶好のアイススケート日和な天気予報だったから。

突然ジェニーが来られなくなる。おばあちゃんのバースデー・ディナーに欠席することをおかあさんが許してくれないって。

セントラル・パーク沿いのあの道を、馬車が往来するのを見るのがわたしは大嫌いだ。くたびれた足取りの、不幸せそうな顔した馬たち。寒いのを口実にして、ふたりを促して早足でそこを通り抜ける。


アイススケートなんて、何年ぶりだろ。最後に滑ってから15年は経ってる。まだ日本にいたときだったから。初めは氷の上を歩くことさえ恐かったけど、そのうち慣れてバックで滑れるようにもなった。それでも何度も転びそうになっては大声を上げると、どこにいようがロジャーがすっ飛んで救いに来てくれる。ジョンはたいていわたしの隣にいて、腕をとっさに掴んでくれる。「あたし、まるでお姫さまじゃん」って、迷惑かけといて得意になってた。

4時間も滑った。すっごく楽しかった。もう11時を回ってたけど、カリカリの空気の中を震えながら歩いて歩いて、ダイナーでごはんを食べた。ハンバーガーが食べたいけど全部はひとりで食べ切れないって言ったわたしに、ジョンが半分こしてくれるって言った。山盛りのフレンチ・フライズと一緒に出て来たハンバーガーはやっぱり超デカくて、半分こしてもらって正解だったけど、しっかりデザートにティラミスを平らげた。わたしの分をジョンが「払わせて」って言った。助けを求めたのにロジャーは助けてくれなくて、ジョンにごちそうになる。

ひとり反対方向に帰るジョンの地下鉄が先に来て、ロジャーとふたりで手を振って見送った。見送ったあとで、「あいつ、どう思う?」ってロジャーが聞く。


癌のセミナーに行った帰りにロジャーと待ち合わせてごはんを食べに行くことになってた日、ロジャーはジョンを連れて来た。翌日、「ジョンはきみのこと気に入ってるよ」って言うロジャーに「デイビッドのこと言ってくれなかったの?」って聞いたら、「つき合ってる男がいるけどシリアスじゃないって言っといた」って言われた。くやしいけどホントのことだから仕方ない。それから何度かジョンは電話をくれて、なんだかいつも長話してる。人当たりがよくて優しくて優しくて話し上手で聞き上手で、いつも話が止まらない。

ロジャーはわたしとジョンをくっつける魂胆だったらしい。デイビッドのこと、「それでも好きなら、自分の気持ちに正直になりな」って一度は言ってくれたくせに。


日曜日の仕事は大変だった。わたしがくたびれてて大変だった。
足が痛くなるかと思ってたけどそれは平気で、それより体ごとただくたびれてた。帰っていきなりベッドにスライディング。携帯が鳴ったけど、取る元気もなかった。今日は日曜出勤の分のお休みで、夜にベリーダンスのクラスに出掛けるまで、そのままほとんどまる一日眠ってた。

夜遅くにまた携帯が鳴る。ジョンだった。
気がついたら2時間おしゃべりしてた。


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lost in translation - 2003年11月07日(金)

つまんない映画だった。

お休みだった昨日の木曜日、風邪を引いたデイビッドにレンティルのスープを作ってった。いつもどおりにタンゴ・クラブに行って、スープを持ってデイビッドんちに行く。スープを食べてから映画が観たいって言ったデイビッドに、わたしがリクエストした「Lost in Translation」。

先週のエレクション・デーの休日出勤だっけ。うちの病院に戻って来た Dr. チェンと B4 のフロアでバッタリ会ってお昼一緒に食べに行って、日本大好きな Dr. チェンが「おもしろいから絶対観に行っといで」って言った映画。Dr. チェンの話聞いてるとおもしろそうだったのにな。

笑えたけど、完全に日本人とか日本とか日本の文化バカにしてる。あんなふうに日本をバカにした映画に出て、それでもあの俳優さんたちは「アメリカの映画に出た」って喜んでるんだろうな。バカにされてるってわかってんのかな。わかってないんだろうな。わかってたとしても、お金のためならなんでもいいのかもしれない。頭に来るより恥ずかしかった。ストーリーもバカみたいだったし。

映画館のエスカレーターに飛び乗って、振り返って「どうだった? つまんなかったね」って言ったら「まあね」ってデイビッドは答えながら、「でもきみの国がどんなのか見れたのがよかったよ」って言った。

雨の中、タクシーを拾ってデイビッドのアパートに戻る。
いつものようにお茶をいれて、テレビを見ながらおしゃべりして、Tシャツを貸しれくれてベッドに潜る。

初めて一緒に眠った夜、おやすみのキスをねだると「バカみたいだ」って言いながら「日本人はみんなするの?」って笑ったデイビッドに、「ほかの人のことなんか知らないよ。あたしはして欲しいの!」って無理矢理もらった。それからもおやすみのキスはお願いしないとくれないけど、うんと甘いキスをくれるようになった。でもそれだけ。

スープを食べてるときにかかってきた弟からの電話で、わたしがスープを作って来たこと誇らしげに話してくれた。そのあとかかって来たわたしの知らない友だちからの電話でも、おんなじようにスープのこと話してから「冷めるといけないからあとでかけ直すよ」って言ってくれて、嬉しかった。でもそれだけ。

わたしがデイビッドにとってどれだけ大事なのか、よくわかんないまんま。


タンゴ・クラブには昨日もオスカーさんが来た。サルサのクラスメートで、わたしのタンゴの先生が自分の友だちだって知ってからタンゴ・クラブに顔出すようになった。オスカーさんは楽しい。デイビッドとおんなじように、野球もやってテニスもやって家族中で音楽が趣味で、自分で仕事をやってて毎日いろんなことに忙しくってパワフルでエナジェティックでいつもポジティブで。

「ボーイフレンドいるの?」って聞かれた。答えられないで口ごもってたら、「言いたくなけりゃ言わなくていいよ」って言う。「そうじゃなくてね、ただのデートの相手でボーイフレンドじゃないんだ」って答えた。「じゃあ僕のこと考えてよ。僕も今は忙しくてガールフレンド持つ時間ないけど、待ってるから。きみのこと好きだから」。


先週の木曜日。「なんであたしはあなたのことボーイフレンドって呼べないの?」って聞いたら「シリアスになりたくないから」ってデイビッドは言った。

「だってね、男の子たちがうるさいの。ボーイフレンドがいるって言えたらずっと簡単なのに。あたしの人生ずっと楽になるのに」。半分ジョークで半分ほんと。うるさいほど言い寄られるはずないけど、デートに誘ってくれる人はいる。「ボーイフレンドいるの?」っても聞かれる。そのたびに悲しくなる。デイビッドのことボーイフレンドって言えないこと。「じゃあボーイフレンドって呼んでいいよ、きみがそう呼びたけりゃ」なんてデイビッドは言った。


オスカーさんのこと、考えようかなとかちょっと思ってしまう。うんと年上だけど、全然わたしにはかまわない。だけどデイビッドとおんなじような人だからなんて理由、ヘルシーじゃない。病んでるよね。

でもわたしを失ったら、カダーみたいに「きみのことが大事だってどうしてもっと早く気づかなかったんだろう」なんてデイビッドは言って、そのときにはやっぱりわたしだってにせもののデイビッドより本物のデイビッドがいいに決まってるじゃんって思って、それでヨリを戻して今度はちゃんと恋人としてつき合ってくれて・・・なんて。そんなカケ、わたしには出来っこない。


お互い何かを誤解し合ってるって、この間電話したときディーナが言った。
わかるようで、わかんないよ。


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遠い道のり - 2003年11月02日(日)

先週の日曜日の教会。Genesis の最後の章をやった。旧約聖書は嬉しい。デイビッドの信仰と共通のところだから。それに、クリスチャンのカダーだって旧約聖書も読めってわたしに言った。わたしは驚いた。前日の一日リトリートで、チャペルにひとり座ってお祈りをしたときに聞こえたことと、まるでおんなじお話をパスターが始めた。思わず紙切れにノートを取った。

もうはっきりわかった。苦しいけど、不安だけど、それは神さまがわたしの運命を決めてわたしの人生を計画してくれるときだから。試されてるんじゃなくて、それはもっとあったかいもの。わたしは乗り越えられる。乗り越えた先に待ってるものがある。神さまがわたしに計画してくれてるそれを信じられる。わたしにはジーザスがついてる。ジーザスの愛がある。不安になったり安心したり、苦しんだり喜んだり、繰り返したってかまわない。繰り返しながら、どこかでそこに辿り着ける。辿り着いたあとにまた繰り返したってかまわない。そこにさえ一度辿り着ければ。どうか、どうか、母にもジーザスの愛が届きますように。


月曜日。天使の声を聞いた。長いこと電話がなかった。2週間ぶりくらいだった。
「日本に遊びにおいでよ」って天使は言った。


それから一週間は、とても忙しくとてもくたびれてとても早く過ぎた。
木曜日にはデイビッドにいつものように会いに行って、ちょっとケンカして仲直りして、そしていつものように朝まで一緒に眠った。

金曜日にはカダーが電話をくれた。例の女の子とはもう会ってなくて、「きみのあと、誰ともちゃんとつき合えないよ」ってカダーは言った。わたしとだってちゃんとつき合ってたなんて言えないのに。「ほら、あたしよりいいコなんかいないでしょ?」って笑ったら、「そうなんだ。それが分かったよ。もっと早く分かればよかった」ってカダーは真面目に答えた。

土曜日はサルサ・パーティに出掛けたけど、ハロウィーンの翌日のせいかものすごく人が少なくてたいくつだった。4、5人の人と踊ったけどつまんなくて、階段の踊り場に出てデイビッドに電話した。「アイスクリームが食べたい」って。おいでって言ってくれた。地下鉄に乗ってダンス・スタジオからデイビッドんちに行く。アイスクリームを食べさせてくれてお茶を飲んでテレビで古い古い映画をたくさん観た。翌朝教会に行くわたしに「カダーも教会にいるの?」ってデイビッドは聞いた。映画を観ながら、金曜日にカダーが言ったことを話したせいだ。そんなふうに妬くくせに、なんでわたしを独り占めしたいって思ってくれないんだろ。ガールフレンドって呼んでくれないんだろ。デイビッドはずっと腕にわたしを抱いててくれて、そしてまた朝まで一緒に眠った。わたしの起きる時間の目覚ましが鳴って、「教会に行く時間だよ」って言いながら、眠ったままデイビッドはわたしを腕に抱き寄せた。そのままその腕の中で眠っていたいと思った。

教会のあとにパスター・ジェイのカウンセリングを受けた。ロカデスさんとジョセフに薦められてアポイント取ったのは3週間前だった。母と妹のこともあったけど、一番の理由はパスター・ジェイが以前はデイビッドと同じ信仰だったから。「今もカルチャーはジューイッシュだよ、ジーザスを信じてるけどね。それなら自分をジューイッシュと呼ぶべきじゃないって言う人もいるけど、それは彼らの意見だから。僕はジーザスを信仰してるジューイッシュだときちんと言いたい」。誇らしげにそう言ったパスター・ジェイを羨ましいと思った。わたしも自分をそんなふうに自信をもって信じられればいいのに。わたしは人の言葉にすぐに揺るがされる。

1時間のカウンセリングはあっという間に過ぎた。3週間後にまたお話することになった。3週間後、わたしはパスター・ジェイにどんなわたしを見せられるんだろう。


遠い道。遠い道。遠い道のり。


一日一日はこんなに忙しく早く過ぎるのに、毎日はどこにも進まないような気がする。

耐える力を神さまはくれない。ジーザスは導いてくれるけど、しんどくなってわたしが手を離せばそこでおしまい。離した手をジーザスは自分から手に取って引っ張ってはくれない。微笑みながら離した手を許してくれるけど、そこでおしまい。選ぶのはわたし。ついて行くのはわたし。信じるってそういうこと。




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