神さまへの扉 - 2003年10月25日(土) いつからか、ジーザスはわたしの中にいる。 たぶんあの日、教会であの美しいジーザスの絵を見た時だと思う。 そのときにはわからなかった。気がついたらジーザスはいつもわたしの中にいた。 それからもやっぱりおんなじように、幸せと悲しみと喜びと淋しさと不安はわたしをからかってるみたいにきっちり順番にやって来て、そのたんびに鳩尾のあたりに手を重ねてジーザスに話しかけた。そのあたりが一番、わたしの中のジーザスに手が届きそうな感じがするから。聞いて、今幸せだよ。なんでこんなに悲しいの? 嬉しい。ありがとう。淋しいよ、助けて。不安だよ、どうしたらいいの? って。 ジーザスは、幸せなときも悲しいときも嬉しいときも淋しいときも不安なときも、あの美しい美しい目を細めて、カダーとおんなじあのくちびるをゆるめて、わたしに微笑んでくれる。ときにはあの絵のまんまのちょっと深刻な顔でじっとわたしを見守るように見つめる。 教会で歌うときやお祈りするときには、わたしはジーザスへの思いを抱えるように、両腕を鳩尾を覆って交差させて自分のからだを抱き締めるようになった。 わたしにはわたしのジーザスがいつもわたしの中にいてくれて、わたしの中のジーザスがわたしを愛してわたしを守ってわたしを導いてくれる。わたしはジーザスと生きている。気がついたらそう思うようになってた。 神さまとジーザスが結びついた。やっとやっとやっと。わたしの気づかないあいだに。 そしてわたしはいつのまにか自分をクリスチャンだと認めてる。入院したときに聞かれた信仰も、何の迷いもなく「クリスチャン」って答えてた。 それでも、神さまが約束してくれたはずの true love には届かなくて、それはジーザスへの愛のことだったのかもしれないって思ったり、そんなことない、ディーナは必ず訪れるって言った、って思い直したり、でもディーナは「もうすぐ」ってあのとき言ったのに、それはあれがカダーのことだったのにわたしがそれを信じられなかったからだ、って考えたり、それより何よりわたしはずっとデイビッドの愛がわからない。このまま望んでいいのかもわからない。 神さまの罰だと思ってた。罰を受けるような理由なんかたくさんある。間違ったお祈りのような気がして、お祈りができなかった。あの頃必死の思いで、苦しい苦しいお祈りをディーナに言われた通りに毎日続けたときみたいには。 今日、教会の一日リトリートに参加した。 前のアパートがある町の少し手前にあるそのリトリート・ハウスはカソリックで、いかにもカソリックなお城みたいなとこだった。広い広い森のような敷地。午前中、お祈りの場所を探しながら森を歩いて、寒くなったからハウスに入る。あたたかいチャペルに座ったら、ここがわたしのリトリートの場所だって思えた。 ひとりぽつんと日の当たるチャペルの椅子に座って、わたしはジーザスに話しかける。神さまに手を伸ばす。3時間、眠るようにお祈りを続けた。 それが神さまの声だったのかどうかわからない。だけど、不確かだけど聞こえたものがあった。 これは罰じゃない。神さまは、わたしがこの困難を自分の力で乗り越えるのを待ってくれてる。ジーザスの愛に導かれて、少しずつ少しずつ乗り越えて行くのを待ってくれてる。神さまがわたしのために作ってくれた幸せな運命に向かって、わたしがジーザスの手を握りしめながら一生懸命歩いて行くのを待っててくれてる。 思わずジーザスの手を握りしめた。神さまの手にしがみついた。 それは、木曜日の晩、手を握りながら眠ってくれたデイビッドのあの手みたいだった。 「あたしとあなたは、おんなじ神さまを信じてるんだよ」 「僕はジーザスは信じてないよ」 「神さまはたったひとつでしょ?」 「そうだよ。たったひとつだよ」 「ジーザスはあたしを導いてくれる。でも神さまはたったひとつ。たったひとつの神さまをあたしとあなたは信じてるの」。 デイビッドの腕枕の中でそんな話をしたことさえ、神さまの計らいだと思った。 ジーザスは神さま。神さまだけど、神さまを信じる人たちすべての神さまじゃない。 だけど神さまはたったひとつ。だから大丈夫。いつかカダーもそう教えてくれた。だから大丈夫。 「辛抱強く待ちなさい」。ディーナの言葉の意味もわかった。 わたしとデイビッドは、いつか一緒に同じひとつの神さまへの扉を開ける。 わたしはジーザスに導かれて、デイビッドはジーザスに導かれなくても。 - ダンス・シューズ - 2003年10月22日(水) エデュケーション・デーを取って、朝6時に起きてセミナーに行く。 先々週の土曜日は癌セミナーに行って、メラメラ燃えて来た。今日もメラメラ燃えた。 セミナーに行くたび燃える。新しい医学の情報教えてもらうたび、ああやっぱりわたしはこの仕事が好きだって思えて、もっと勉強しなくちゃって燃える。なのにしばらくするとそんな意欲も熱意も日常に紛れて紛れて粉々になってどっか行っちゃう。だめだなあ。もっとしっかり生きなくちゃ。 セミナーは仕事より早く終わるから、入院してたあいだ行けなかったダンスのクラスをメイクアップして今日は3つ続けてクラスを受けた。最後のパフォーマンスのクラスはいつも長引いて、今日も終わったのは10時半。合計3時間半のレッスンはさすがにキツかった。足が棒。 パフォーマンスのクラス、なんかチーチーパッパみたいでちょっとやだなって先週は思ってたけど、今日はめちゃくちゃカッコイイと思った。ダンス・スタジオに行くまで時間があったから、セミナー会場のわりと近くにあるダンス・シューズやさんでダンス・シューズ買って、それがみんなにも先生にもすっごい好評だった。パフォーマンスがカッコイイって思って嬉しかったのはそのせいかもしれない。褒められるとすぐこれ。 節約してダンス・シューズは買ったことなかった。でもパフォーマンス用に要るって言われて買って、そしたら全然違う。履いて踊ってみたら全然違った。「一足30ドル!」のセールのワゴンに山積みになってたぺちゃんこ靴の中から、タンゴの練習用にも買った。白いタイツに似合いそうな、お人形の靴みたいに可愛いやつ。 寒かった。駅からうちに帰るまで、手がガジガジになって耳がきーんとしてた。 明日はもっと寒いらしい。 12時にデイビッドに電話した。 うちの電話からうろ覚えの番号押したら、違うおうちにかかっちゃった。 この前とおんなじ女の人の声だった。この前は、女の人が出たから一瞬デイビッドのこと疑って固まった。今日はおんなじ声だったから「あ、また間違えた」ってすぐわかったけど、夜中の12時に間違い電話かけて「あ、また間違えた」はない。もちろんそんな言い方しなかったけど、「ごめんなさい。また間違えちゃったみたいです」ってこわごわ謝ったら「気をつけてちょうだいね!」ってキビシク言われた。 番号確かめてかけ直す。 明日の確認。先週みたいのヤだから。 「タンゴ終わったらいつものように電話してきてよ」って。 明日のタンゴは、ブランニューのぺちゃんこダンス・シューズ履いて踊るんだ。 寒いんだ。何着てこうか。手ぶくろ要るな。 会ったら「寒い」って飛びつこ。 - I suki you - 2003年10月19日(日) 金曜日、デイビッドは電話をくれなかった。「埋め合わせするよ」って言ってたから期待してたのに。ジャックをうちに呼んで、ジャックが無くしたファイルのリカバリーの続きをやってもらった。電話をくれたらジャックを追い返してデイビッドに会いに行こうって思ってた。それに、デイビッドがちゃんと電話をくれること、ジャックに証明出来たのに。 昨日お昼に電話をくれた。わたしはランドリーをするところで、デイビッドはセントラルパークにひとりでローラーブレイドしに行くとこだった。そのあとジムに行くっていうから「埋め合わせしてくれないの?」って聞いたら曖昧に返事されちゃった。「埋め合わせするよ」って言ったくせに。「喜んで」ってその前につけたくせに。 夜にはサルサ・パーティがあって、でもデイビッドが埋め合わせしてくれるならパーティ行かなくてもいいやって思ってた。あとでもう一度電話するよって言ったくせにそれもかかって来ないで、わたしはパーティに出かけた。 たくさん踊った。上級クラスのナントカさんも、いつも来る変な格好のすごく上手いお兄さんも、上達したって褒めてくれた。もうコーパも出来るしシャインもいろいろ出来るし、ナントカカントカってヤツも出来る。だから自信もついたしパートナーを絶対たいくつさせたりしないんだよ。だけどスタジオの生徒じゃないカップルが何組か来てて、すごいすごいすごい。すごいよ。すごかった。見とれちゃった。きっとあっちこっちのスタジオ・パーティとかクラブに踊りに行っては目立ってるんだろうなあって思った。あんなふうにはまだまだ踊れない。 パーティのあいだ何度か携帯チェックしたけど、メッセージは入ってなかった。電話をくれたらパーティ抜け出してデイビッドに会いに行こうって思ってたのに。 今日は教会のミサのあとリレーションシップのクラスに参加した。サインアップしてたけど、聞きたくないこと聞かされる気がしてちょっと恐かった。でもクラスはものすごくおもしろかった。たくさんお話を聞いてたくさんディスカスして、育った家庭環境が恋愛にどう影響するかってとこなんて、自分のこと話しながら、いつもいつも思ってたこと思い出した。愛し合わない両親のもとで愛に溢れた結婚を夢見てたこと。溢れる愛をいつもあげていたくて同時に求めてたこと。「きみは愛に固執し過ぎるんだよ」。ふたりの夫はふたりともそう言った。 結婚だけじゃない。わたし、そのあともおなじこと繰り返してた。多分今も繰り返してる。 だけどデイビッドは、「僕がきみを好きな以上にきみが僕を好きになったことが問題だったんだ」って言ったカダーとは違うと思う。わたしのことを「愛情の深い人」って言うデイビッドの言い方はあったかくて、困惑でも非難でも批判でもない。わたしの思いを好意的に認めてくれてる。と思う。だからわたしは愛をいっぱい、言葉じゃなくてもこころで示して、いつかデイビッドがそれを心地よく感じてくれるまで、こころのうんと奥にまで受け止めて同じだけ返してくれるまで、求めないで待とうと思った。 そう。そんなふうに思った。そんなふうに思わせてくれるクラスだった。 それに、昨日あんまりわけわかんなくなって思わずディーナに電話したら、「またそうやってネガティブになる。辛抱強く待ちなさいって言ったでしょう? 何もかも上手く行ってるって言ったでしょう? 信じなさい」って叱られたんだ。そんなこと言われてよけい悲しくなったけど、今なら信じて待ってみようって思える。 夜になって、デイビッドは電話をくれた。 金曜日に行ったデイビッドのシナゴーグでも、今「リレーションシップ」のクラスがあるらしい。「そんなクラス、あなたは笑うでしょ?」。もちろんデイビッドは参加してない。「うん。笑う」「でもあたしの参加したクラス、すっごくおもしろかったんだよ。役に立ったよ」「きみには必要かもね」。どういう意味かちょっとわかんなかったけど、デイビッドがそんなクラスに参加してたらちょっとがっかりしたかもしれない。ぐちぐち考えて悩むのはわたしだけでいい。 いっぱいおしゃべりした。久しぶりに電話でたくさんおしゃべりした。 ナターシャの仲良しだったシューキーがとうとう眠らされちゃったって。「覚えてる? ナターシャ連れて散歩に行ったとき何度か会っただろ?」ってデイビッドは言ったけど、どの子のことかわかんなかった。名前も知らなかった。でも、眠らせてもらったのはその子の幸せだと思う。そう言ったら「そうだね。正しい選択だったと僕も思うよ。淋しいけど」ってデイビッドは答えた。「シューキーってどう書くの?」って聞いたけど、ヘブライ語で、なんて意味かどう綴るのかデイビッドも知らないらしい。「S・U・K・I ならね、日本語にそういう言葉があるんだよ。スーキー って名前の犬、前住んでたとこで知ってた」「なんて意味?」「好きって意味」。 スーキー。日本びいきのダイアンが日本語の「好き」から名前をつけたスパニエルの愛くるしいワンちゃんだった。 「I suki you」って、デイビッドが言った。 それから、「発音に気をつけなきゃ『 I suck you』になりそうだな」って笑った。 待てるかな。でも待つよ。suki が aishiteru に変わるまで。 - クレイジーガール - 2003年10月16日(木) 木曜日なのに会えなかった。 デイビッドは弟と一緒にお父さんを連れてアメリカン・リーグを観に行ってた。「何時に終わるかわからないから、10時頃に電話するよ。長引きそうだったら途中で帰ってくる」って言ってたから、タンゴが終わってデイビッドんちの近くで車を停めて待ってたのに、10時が過ぎても携帯は鳴らない。10時20分になってこっちからかけた。「今きみんちのうちの電話にかけた」「なんで?」「携帯の番号わからなくなった」「・・・」「まだ3、40分はかかりそうだ」「・・・。あたし、もううちに帰るよ」。ちょっと拗ねた。「じゃああとで電話するから」「いいよ、もう」。思いっきり拗ねた。 運転しながら悲しかった。素敵なスカートはいて来たのに。タンゴのためじゃないんだから。でもお父さん連れて野球観に行くの10年ぶりだって言ってたっけ。しょうがないか。だけど靴だってブランニューなのに。膝上から両脇に入ったスリットからのぞく膝丈のしましまトラウザーソックスがおしゃれなのに。下着だってブランニューのシックでセクシーなやつなのに。もうしばらく電話してやんないんだ。そんなこと思って悲しかった。 うちに着いたらパーキング・スポットがどこにも見つかんなかった。ぐるぐる回って、やっぱりデイビッドんとこに戻ろうって決めた。3、40分くらいすぐに経つよ。デイビッドんちに着いた頃にはもう試合終わってるよ。拗ねて帰ってごめんね。 途中で携帯に電話したけどかかんなかった。でもそのまま戻って、また待った。ずっと待った。「携帯に電話してね」ってメッセージ残して、待った。また大バカやってるよって思いながら待った。夜中の1時まで待とうって決めて待った。やっぱり会いたいから待つよ。クレイジーって思われても待つよ。クレイジーでも待つよ。そう思って待った。 結局電話はなくて、うちに帰って来た。今度は運良く近くにスポットが空いてた。 うちの電話にメッセージが入ってた。長い長いデイビッドの野球の実況中継だった。そのあともうひとつ入ってた。ヤンキーズ勝ったって。嫌いだけどって。でも日本人のプレイヤーが頑張ったって。こんなコーフンしたゲームは初めてだって。延長延長の末、ヤンキーズ、BRS に逆転勝ちしたって。嫌いだけどって。 なんか笑えた。笑えて、会えなかったけどもういいやって思った。 夜中の2時。携帯がなった。 ゲームは12時45分までかかって、うちに帰ったのは1時20分だったって。それから今メッセージに気がついたって。 「1時まで待ったんだよ」って言ったら、思ってたとおり「クレイジーガール」って言われちゃった。週末は弟とロードアイランドに行く予定だったけど、お天気がよくなさそうだからわからないって。「もし行かなかったら、今日の分埋め合わせしてくれなきゃだめだよ」。そう言ったら大笑いして「喜んで埋め合わせするよ」ってデイビッドは言った。 嬉しかった。 わたしちゃんと愛されてるじゃんって思った。 でもこうして日記に書いてるとさ、 そうでもないかって思うよ。 そうでもないよね、ホント。 - あったかく見守ってよ - 2003年10月10日(金) 木曜日。 タンゴも2週間ぶりだった。新しい生徒がたくさん増えて、わたしはもうロシア系さんとしか踊らない。ロシア系さんはほかのスタジオで習って来たいろんなステップをわたしに教えてくれる。「きみもスタジオに習いに来なよ」ってロシア系さんは言うけど、わたしはこのタンゴ・クラブに週に一度行くだけで充分。タンゴはデイビッドに会いに行く日のダンス。 アメリカン・カナディアン・ブリティッシュ・ナントカって会合に行ってたデイビッドと、デイビッドんちの近くのカフェで待ち合わせする。スーツ&タイ姿で自転車に乗って現れたデイビッドは素敵だった。「素敵だね」って目を細めながら、タイの結び方をほんとに素敵だと思った。デイビッドがタイを素敵に結ぶ人で嬉しい。そんなちっちゃなことで、また好きが増えてしまう。 いつものように朝まで一緒に眠る。デイビッドの隣で、ぐっすり眠れるようになった。 出掛けるときにバイのキスをほっぺにすると「行ってらっしゃい」って眠りながらくちびるに返してくれる小鳥みたいな素早いキスにも、安心出来るようになった。 なのに。 夜、電話をくれたジャックに言われた。「デイビッドがきみの right person とは思えないよ」って。なんでそんな話になったんだっけ。わたしの胃のことを極度の神経性疾患って言うジャックに、家族の問題もあるけどね、いつもいつもそれが頭にあるわけじゃなくていつも頭にあるのはデイビッドとのことなんだ、って話をしたからだ。わたしのことをガールフレンドって呼ばないデイビッドを、カダーの「my girl for sex」とおんなじだってジャックに言われた。そんなこと言われると、また考えてしまう。いつだったかカダーにも言われた。デイビッドはそういう職業だからディプロマティックなだけで、おんなじことだって。 わたしには結婚が必要なんだってジャックは言う。 カダーも電話をくれた。体のこと心配して聞いてくれた。例の彼女のことを聞いたら、「会いたい」って電話をかけてくるけどカダーはもうそういう関係を持ちたくないって。自分が好きになる女の子は自分を好きになってくれないで、自分が好きになれない女の子ばかりカダーのことを好きになる。そんなこと言うから、「じゃああたしのことはどうだったのよ?」って怒る。「僕がきみを好きな以上に、きみは僕のことを好きだった。それが問題だったんだよ」。ふんだ。わたしの「問題」ばっか。そっか。でも妙に納得。 わたしの問題。 わたしが問題。 きっとデイビッドのことも。 なんでジャックもカダーもロジャーも、あったかく見守ってくれないんだろ。 うるさいうるさいうるさい。 両手で耳をふさいで、自分のこころを信じたい。 ジーザスはわたしに何を課しているんだろう。 - 幸せな目覚め - 2003年10月08日(水) 10日ぶりの仕事。 みんな優しく迎えてくれた。 患者さん診るのが嬉しかった。 診られるより診るほうがずっといい。 当たり前だけど。 2週間ぶりのサルサのクラス。 楽しかった。 今日からパフォーマンスのクラスにもサインアップした。 サルサのコリオグラフィー。 セクシーに見せるステップの仕方ってのを習った。 タンゴとこんがらがちゃって難しかった。 全然違うようで共通点がいっぱいある。 今までサルサ踊っててウェイト・シフトなんてあんまり気にしなかったけど、 真剣にやってみると確かに動きがきれいになる。 パフォーマンスなんてちょっと恥ずかしいけど、 上手く踊りたい。 今朝はあの人の電話で起きた。 「もしもし?」って語尾が上がってなだめるようなあの人の声がすごく優しかった。 わたしを起こしてくれるあの声のまんま。 長いこと長いこと、忘れてた。 幸せな目覚め。 日本はもう寒い? 紅葉が始まった? 久しぶりにあの人の住む街に思いが馳せる。 それから。 今どんな髪型して どんな髪の色して どんな洋服着てるのかな。 3年以上経ったけど、 今でもあの笑顔は変わらないよね。 会いたいな。 - MAMMA MIA! - 2003年10月07日(火) 昨日は GI シリーズを受けに行ったのに、ジューイッシュのホリデーでレントゲンを受け付けてもらえなかった。「スタッフ特権利用もぐり込みアポイント」を昨日に指定した Dr. ライリー、ジューイッシュ・ホリデー忘れてたみたい。わたしはデイビッドのおかげでホリデーは知ってたけど、レントゲンがお休みになるほど大きなホリデーって知らなかった。前日の夜8時から NPO に耐えたのに、アポイントが一日延びた。カフェテリアにマフィンを食べに行ったらジャックがいた。まだ体がだるくてだるくて、ジャックのジョークにも疲れて笑えない。「悪いけど笑う元気ないからね」ってぐったりしてた。マフィンを食べてオレンジジュースとジンジャーエール飲んだらちょっと力が出て、うちに帰る。 GI シリーズの検査のため病欠取ってた。 日曜日はジェニーがブロードウェイのミュージカル観に連れ出してくれて、おなか抱えて笑いまくるほど元気だったのに、寒かったのがこたえたのかもしれない。でもショウはほんとにおもしろかった。ここに住んでてブロードウェイのプレイを観に行ったのは初めてだった。「MAMMA MIA!」。レベルとか質とかより笑えて笑えて楽しくて、ナンバー2・セリングなのはアバのせいもあるだろうなって思った。ボックス席だったから上から大道具の裏とか舞台の下のオーケストラまで見えて、それもおもしろかった。舞台のまん前でコンダクター兼キーボード・プレイヤーやってたおじさんのキーボード演奏も丸見えで、またキーボード熱を煽られる。キーボード欲しい。 昨日の延期の GI シリーズを今日受けて来た。今日はすっかり元気になって、終わってからアラビックのお菓子を買いに行く。入院のあいだケアしてくれた同僚たちにお礼に。それから髪を切りに行った。今日はカダーに似たターキッシュ・ボーイがカットもブロードライもしてくれた。ターキッシュ・ボーイが外側にブローしてくれたら、バービーみたいに素敵になった。お天気がよくて、前のアパートのある町まで車を飛ばす。風に吹かれまくって、バービー台無し。 お気に入りだった小さなデパートがクロージング・セールしてた。70%オフになってるストッキングとか手袋とかいくつか買って、いつものようにチビたちのごはんを買いに行く。別に何もしなくても、いつ行っても気が休まるわたしの小さなふるさと。あのデパートがなくなっちゃうのは淋しいけど。 うちに帰って気がついた。シルバーのリングがなくなってる。左手の人さし指につけてたやつ、ふたつともいっぺんに。それから、一番好きだったアルパカのマフラーもどこにも見つからない。いつどこでなくしたのか、もう去年の冬のことなんかわかんない。 メールアカウントがまた機能しない。ケーブルの会社に電話したけどダメ。別のアカウントからデイビッドにメールを送る。 今日やったこと、「『休暇』の最後の日、こんなふうに過ごしました」って書いたらウケてた。 「だけどなんでこんな悪いことばっかり起こるんだろ。あたし、何か間違ったことしてる? してるんだろうね。何が間違ってるのか自分で分かってる気がする。でもやめられないよ」って書いたのもウケてた。ウケないでよ。 明日から仕事に戻る。 - デイビッド魚 - 2003年10月04日(土) デイビッドが来てくれた。「今日は僕がそっちに行くよ」って、お見舞いにジンジャーエールとクッキー持って、ナターシャ乗っけて迎えに来てくれた。小雨が降ってて、デイビッドを迎えに出た大家さんの奥さんのシャーミンが「雨に当たっちゃだめよ。ちゃんと胃にいいもの選んで食べるのよ。食べ過ぎないのよ」って、用意が出来て出てったわたしをコウルサイけど嬉しそうに送り出してくれた。デイビッドが来るとシャーミンはいつも嬉しそうにコウルサイ。デートに出掛ける中学生の娘の母親みたいに。だから「OK, Mom」って言ったら「お母さんじゃなくてお姉さんよ」って真面目な顔して怒られた。 わたしは選択を3つ用意してた。超カジュアルな家庭風グリークと、ちょっとおしゃれなよそゆきグリークと、少し離れたとこのターキッシュ。デイビッドは超カジュアル・グリークを選んだけど、通りの駐車スポットが見つかんなくておしゃれ・グリークに変更した。 デイビッドはわたしの胃にものすごく気を使ってメニューを選んでくれた。どれもおいしかった。デザートはわたしの好きなバクラワにしようって言ってくれたけど、50種類くらいお菓子があるアラビックのお店があるんだよって話をしたら、そこに行こうよってデイビッドは言った。わたしの住んでる界隈に一緒に出掛けるのは初めてだった。案内してあげるのが嬉しかった。ミドルイースタンの通りにあるそのお店でいろんなお菓子を少しずつ選んで、セイジ・ティーを飲みながら長いことそこで過ごした。デイビッドはわたしとおなじに食べ物も音楽もアラビックが好きで、カダーに教えてもらったわたしの大好きなその通りをふたりで歩き回った。小さなグローサリーのお店でおもしろいもの見つけては、子どもみたいにデイビッドははしゃぐ。どこに行ってもデイビッドはお店の人とすぐ仲良くなって、飾り用にかけてあったアラビックの楽器を弾かせてもらったりする。楽しかった。いつもカダーと一緒に歩きたいなって思ってたミドルイースタン通り。 「カダーに話そ。言ってやろ。デイビッドと一緒にアラビックの通り歩いたんだよって。カダーは一度もここに連れて来てくれなかったの」。嬉しそうにそんなこと言ってみたけど、デイビッドはただおもしろそうに笑ってた。 ゆうべカダーに電話した。最近電話してこないと思ってたら、デートの相手が出来たらしい。でも、3回デートしたあと寝たらちっともよくなくて、もうやめたいらしい。すごい美人で鼻がきれいで、それを褒めたら「ああ、この鼻整形したの」って彼女が言ったことも冷めた原因らしい。3回デートして1回寝てヤになったけど、いい子だから友だちでいたいとかバカ言う。デイビッドに「信じられないバカ」って言ったら「きみだってカダーと今はいい友だちだろ? いいことだよ」って言われた。「あたしはカダーと定期的に会ってないもん。そういうわけわかんない関係じゃない」。デイビッドの ex-ガールフレンドのことをそう言ってやればよかったってあとから思ったけど、言ったってしょうがない。デイビッドにとっては人に自慢するほど「いいこと」なんだから。 今朝はロジャーの電話で起こされた。ロジャーは病院に飛んで来てくれなかったデイビッドのことをあれからイディオットって呼ぶ。「あのね、きみの前方には大きな海があるんだからね」「うん。でもさ。ほかにイディオットじゃない素敵な魚がたくさんいても、あたしデイビッド魚が欲しい」。 今日会いに行くんだって言ったら、なんで体調の悪いきみが会いに行かなきゃなんないのさ、なんで会いに来てくれないのさ、ってロジャーはまだ怒ってた。でも会いに来てくれた。くれたんだよ。一緒にごはん食べに行ってさ、体のことずっと気づかって大事にしてくれたし、帰るときには送り返してくれた車の中でいつもみたいじゃなくもっと大事に抱き締めてくれてさ、おでことほっぺにキスしながら「早く元気になりなよ」って何度も言ってくれたよ。わたし、デイビッドの耳の後ろのくりくりカールの柔らかい髪に顔うずめて、すごく幸せだったんだから。 わたしの欲しいもの。そういう幸せ。いつもそばにあるデイビッド魚の幸せ。 わたし、欲しい。 - 一緒に暮らしたい - 2003年10月03日(金) やってしまった。また入院。リトリートから帰った日曜日の夜、いつもの胃の激痛から始まって朝まで5時間吐き続ける。少しおさまったからシャワーを浴びた。シャワーを浴びると楽になったことがあったから。やっぱり楽になって、仕事に行った。うちにひとりでいるのは恐かった。オフィスでまた胃痛に襲われる。寒くて寒くて、お砂糖をたくさん入れた紅茶を飲んだら逆効果でまた吐いた。チーフが ER に電話してくれて、迎えに来た車椅子で ER に運ばれる。そのまま入院。 また自分のフロアだった。ドクターもナースもいつも一緒に仕事をしてるスタッフだから、ものすごくあったかくケアしてくれた。前のときみたいにもう恥ずかしいって思わなかった。ありがたかった。ふたり部屋の隣のベッドはもちろんわたしの患者さんで、それが少し恥ずかしかったけど。同僚たちが毎日数回見に来てくれて、食べられるようになった日にはアニーのオフィスのアニーがチキンヌードル・スープをうちから作って持って来てくれた。もうよその病院に行っちゃったジェニーも毎日仕事の帰りに来てくれた。「Get well soon!」のバルーンと一緒に下着の替えやパジャマやガウンも持って来てくれた。毎日みんな、ほんとに心配してくれて面倒見てくれて、嬉しかった。担当じゃないのに Dr. スターラーまで毎日覗いてくれた。GI 主治医の Dr. ライリーが一番心配してくれたのが可笑しくて嬉しかった。 デイビッドが来てくれないのをロジャーは怒ってたけど、ジェニーが電話で伝えてくれてからデイビッドは毎日病室に電話をくれた。慌てて飛んで来たりしないのはデイビッドらしいし、それよりドクターの処置や検査の内容をいちいちわたしに聞いて、スタッフや同僚がみんなすごくよくケアしてくれるのを喜んでくれて、それでわたしが自分の働いてる病院に入院してることを安心してくれた。「よかった。僕なんかが行ってもアタフタするだけで、きみに余計な負担かけてしまいそうだな」って。デイビッドはときどき「お父さん」みたいだ。違うか。「お父さん」なら飛んで来て、どうしていいかわからずアタフタするのか。 ロジャーは怒って、フィロミーナも便乗して怒ってて、わたしは「飛んで来てくれないのはあたしのことそれほど大事じゃないってことか」って思ったりもした。ロジャーは、「デイビッドが何を求めてるかじゃなくて、自分が何を求めてるのかを考えな。それをはっきりデイビッドに言いな。強くなりなよ、ジャックにあんなに強いきみみたいに」っても言った。 わたしは一生懸命考えた。考えて、考えて、昨日退院してうちにまたひとりっきりになったら心細くて淋しくて、わたしは誰かと一緒に暮らしたいんだってとこに辿り着いた。「精神的なセキュリティ」とかもうそんなカッコつけたような言葉もやめにした。そう。誰かと一緒に暮らしたい。ひとりはもういやだ。ポンとたったひとりっきりで、「緊急連絡先」の欄に書く名前のないことがもう心細すぎる。 昨日の夜、デイビッドは言った。「ずっと考えてたんだ。僕は医学の専門じゃないから医学の専門のきみのほうがよく分かってると思うから聞くけど、でもこんなこと聞いて気を悪くしないで欲しいんだけど」って言ってから、「精神的な要因が引き起こす神経性の胃痛がそれほどひどい症状になって表れるってことはあり得ない?」。 デイビッドはわたしの淋しさなんか知らないと思う。だけどロードアイランドで母と妹のことを話して、それがここ数週間しょっちゅう起こる胃痙攣の発作の最大の「精神的要因」だってデイビッドは考えてくれたんだと思う。飛んで来てくれはしなかったけど、それよりそうやって考えてくれてるのが嬉しかった。どんなに検査をしてもどこにも何も見つからないのを、体のどっかに何かがあるはずだなんて息巻いて目に見える医学しか信用しないような人じゃないのも嬉しかった。 入院してるあいだ病院の駐車場に置きっぱなしにしてた車を、地下鉄に乗って今日取りに行った。駅に行く道でデイビッドに電話した。ちゃんと食べたか聞いてくれる。何を食べたか聞いてくれる。晩ごはんのメニューまで決めてくれる。早くよくなりなよって言ってくれる。明日わたしの気分がよければ一緒に過ごそうって言ってくれる。「簡単なことして過ごそうよ。難しい映画じゃなくて、簡単な映画観るとかさ」ってバカ言ってくれる。 「会いたいよ」。初めて言った。「だから明日だろ? 会えるように明日までにもっとちゃんとよくなってな、おバカさん」。 火曜日に仕事に戻ったら、ロジャーに言おう。 わかったよ、わたしが求めてるもの。わたし、デイビッドと一緒に暮らしたい。 そんなことデイビッドにはっきり言うなんてとても出来ないけど。ガールフレンドってタイトルさえないまんまなのにぶっ飛びすぎだけど。あんなに大好きだったカダーにさえ絶対思わなかったこと。離婚してからずっと避けてたこと。 どうしよう。デイビッドと暮らしたいよ。 お祈りしていいのかな。いいですか、神さま? -
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