いつまでたっても晩御飯が出来上がらないので僕は諦めて部屋に帰った。 どうしてこんな目にあうのか、などと考えること自体無駄なことであった。 そういえば居間に妹だけいなかったがどうしたのだろうか、なんてのもどうでもよかった。
部屋に帰ると、そのままごろんと寝転びラジオをつけた。 空腹を紛らわすためになにかしようと思ったからだ。 そして目をつぶり、物思いにふけってみた。
世の中には数え切れないほどの人がいて、それだけいれば 中には変わった人たちも大勢いるらしい。話に聞くだけでも まさかり持って熊と相撲取る人、桃や竹の中から 生まれてくる人たち、亀を追いかけて海の中まで 行く人やお椀に乗って旅する人などがいるらしい。 さらには狼のおなかを食い破って出てくるのが趣味である 少女と老婆までいるとのことだ。
そんな人たちの中でも、最近特に気になったのが、 森の中で熊さんと出会ったある少女の話である。 彼女の行動、その思考も計り知れないものがあるように思う。
まず彼女は何を血迷ったか、近所ではもっぱら評判の熊が出る森へ 果敢にも一人で入っていった。そして言わんこっちゃないことに 熊と遭遇。殺られると思いきや、幸運にも「お逃げなさい」との天の声が聞こえ 命からがら逃げ出すことに成功。しかしうっかり白い貝殻の小さなイヤリング を落としたことに彼女は気づかない。それを見た熊がなんと、このイヤリングを 拾って追いかける。呼び止められた彼女は逃げればいいのに、 受け取った後お礼の歌を披露。
そういう話だった。なんとも心温まる話に聞こえたが、その後彼女は どうなったのだろう。理性の途切れた熊と死闘の末、朽ち果てたのだろうか。 それとも実は狼少女が熊のおなかの中に入っていたというどっきりだったのか、 残虐ファイトに荒んだ心は誰が癒してくれるのか・・・などなど。
物思いにふけってる途中でラジオから、あわただしい声で 「日本刀と包丁を持った二人組みがお魚くわえたどら猫をおっかかてます!!」 と聞こえたが、あまり気にせずそろそろ寝ようとした。
「ここはどこだ?」 一体自分はどこにいるのだろうと思ってそうつぶやくと、 「ドコモの国だワン!!」 と、いつのまにか天井にへばりついてた妹が言った。
僕は来ることのない明るい未来を夢見て意識を失った。
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