久しぶりに目を覚ました僕は、空腹にかられたので 食べ物を求めて居間へと向かった。
扉を開けると、そこには食卓を囲んでいるみんなの姿があった。 「あら、待ってたのよ。」 と言われた。言われたが、もはや食事がすんで食後のデザートに ケーキをむさぼっている最中だった。待ってないじゃん、などとは言うまいと 心に誓った。むしろやつらは俺が来た分だけ取り分が減ったので 舌打ちしたり、しなかったりしていた。それはもともと自分の分だ、 なんて言葉はやつらの本能には通用しないようだ。
「どれにする?好きなの選んでいいよ。」 妹がいつになくまじめに話しかけてきたのでかなり驚いたが、 選ぼうにもすでに一つしか残っていなかった。やはり妹はアレだ。 そして自分もなんだかどうでもよくなってきた。とはいえケーキなので 仕方なくそのケーキを食べようとした。しかし、その最後に一つさえ容赦なく 食べようとしている妹の殺気を肌に感じ、うかつに動けなかった。 いや、それどころか家族全員が殺る気になっていた。 つられて僕も虚ろになった。
地球は水の惑星だ。水はあらゆる生物の命でもある。 そんな水には形というものがない。水は縛られることがない。 水は川の流れになり、海となって波を作り、雲や雨、雪となり ぶつかり合っても、色がついてもすぐに溶け合って 状況に応じてさまざまなものにその姿を変え、生きている。
人は形がある。人という容器の中に入っている。 その容器はさまざまな形、色、大きさをしている。 だからぶつかり合うことも、壊れたりすることもある。 でもその人は成長することができる、考えることができる。 そこが素晴らしいところだとも、難しいところだとも思う。
ふと気がつくとケーキは跡形もなく、家族の姿もなかった。 憎い、奴らに天誅を、と思ったり思わなかったりしてみた。
僕は空腹のまま、また眠りについた。
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