思い立ったら吉日。 昔の人は、本当にすばらしい言葉を世に残したものだとわたしは思う。 カメラと食料と日記帳とボールペンと色鉛筆と。 なんだかいろいろと詰め込んだリュックを 玄関にどさりと置いて、靴を履く。
振り向くと、そこにはさっきまで台所にいたはずの母が立っていた。
「あぁ、びっくりした。やだなぁ。背後霊みたいに。」 「また行くのね。」 「うん、帰りはきっと遅くなるわ。」
引き止めるかと思っていた母は、うっすらと微笑を浮かべていた。 きっと分かっていたのだろう。 わたしがまた、幸せを探しに旅立つこと。 今度はもっと、もっと遠くを目指していること。
「分かっているわよ。自分の娘のことだもの。」 「うん、ありがとう。」 「あんたの帰る場所はわたしが守っていてあげるから。心配せずにいってらっしゃい。」
力強い母の言葉に、わたしは思わず苦笑する。 母が作ってくれたおにぎりを受け取って。 玄関の扉を開く。 涼しい風がひゅるりとほほを撫でた。
後ろ髪引かれる思いとはこういうことを言うのだろうか。 なかなかやるな、昔の人は。
「いってきます。」
こうしてまた、わたしの幸せ探しの旅が始まった。
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