under one umbrella

2006年02月25日(土) 寂しい



こんなに体が痛くなって、
こんなに自然に涙が零れることが、久しぶりで。

足が、手が、胸が、ズキンズキンと痛む。
体の内側から痛みがしみてくる。
寺島は目と鼻の先で動いて、笑っているのに。




別にひどいことを言われたわけではないのだ。
でも常に優しく包まれているわけでもない。
そうであることを望んでいるわけでもないのだが、
優しさが見えないと、
その後の行動が全て私を遠ざけているように見える。


一種の被害妄想。
寺島の笑顔は何も変わらないし、
私に心の内をさらけ出すことも変わらない。
嘘を吐けば私にはすぐわかる。
浮気を隠せる人でもない。




どうして、今日の私の涙腺はこんなにも弱いんだろう。
とるべき道は決まっていて、とらなくてもきっと後悔したのに、
とったらとったで涙が止まらなかった。
だからって寺島に抱きしめて欲しいなんて思えなくて、
ただ、私を受け入れて欲しいと思っていた。


距離があってもよかった。気持ちさえあったら。
でも気持ちも、私には見えなかった。
あなたの想いは今、ただまっすぐにひたむきに、
コートの上の黄色いボールに向かっている。




それが悪いなんて言わない。
むしろそうじゃないあなたなど魅力がない。
だけど同時に、私への配慮がなくなるあなたは嫌だ。
それでいて私以外の人には何も変わらないあなたが嫌だ。
ある意味私はとても近くにいるのだけれど、
なんだか甘えられているようで、情けなくなる。


私は私なりに最大限に、寂しいことを伝えたのに、
あなたは一緒にはいてくれなかった。
その後謝罪されても、みじめなだけ。
謝罪が欲しかったんじゃない。
最近不安定だから、わがまま言ってごめんね、と言った私を、
そうかと受け止めてくれればよかった。
いつもなら、容易いはずなのに…





しばらくはこうなんだろう。
様子見、だ。
我慢だ。










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釘鎖しとかないと。




2006年02月14日(火) 繋ぐ繋がれる



日付は変わって既にバレンタイン。
昨日はレジを打っていても、
女子高生達が板チョコレートを大量に買っていったり、
生クリームはどこも売切れだと言いながら親子が出て行ったり、
なんとも微笑ましくて、みんな大事な人がいるんだなぁってジンとした。
常連の女の子もガーナを買っていって、
照れた可愛い笑顔をあたしに見せてくれた。


そんなあたしも、
今日に大きな期待をかけている誰かさんのために材料を買い込む。
作るってバレバレだなぁと思いながら自転車をこいだ。
ちなみに、あたしが買いに行った大きなスーパーも、
生クリームは売切れだった。








寺島は最近、祥子ちゃんで練習してるらしい。
今まで人付き合いのために人を褒めたことがなかったから、
やってみてるんだって。


「告白してうまくいかなかったときもさぁ、

あんまりその人のこと褒めてなかったよ。

やっぱ褒めてオトさなきゃね」



「そうそう。

あたしみたいに勝手にオチてくれる女なんていないんだから」





言い終わってはっと気づいた。





「あ、いや、だから大事にしろって言ってるわけじゃないんだけどさ」




あたしが言い終わらないうちに、寺島がかぶせてきた。




「うん、だから大事にしてるんだけどなー」





最近そのセリフが真実であることが悔しい。
この会話は寺島がバイト先に迎えに来てくれて、
すれ違ったもののなんとか合流し、ファミレスに行った帰り道だった。
それぞれ片手にはこれから私の部屋で食べる物を持って、
片手は寺島のジャケットのポケットの中で繋がれて。



ポケットに入れていてもちっとも温まらない寺島の手。
子供のときから温かくて人気だったあたしの手は、
最大限に役に立っている。
素直に嬉しい。
寺島は喜ぶより、不思議がっているけれども。






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BBS、つけました。
ご感想ご意見ご苦情何でもどうぞ。




2006年02月07日(火) まさか



長い長いキスの後、強く強く抱きしめられて。
酔っていた私の頭は、それ以降の記憶が曖昧だ。
眠そうにしていた私を見て、寺島が帰った。
布団に倒れて、私はまさしく泥のように眠ったけれど、
9時には起きた。
「昨日の続き」
そう言って、寺島が来たから。




こんな安心感は、いつぶりだったのだろう。
いつまでも寺島と布団の中で、温かく過ごした。
昨日以上の喜びはないと思っていた。
何も怖くなかった、既に。




しかし、寺島は私にとどめを刺す。
彼は最初言うのをためらったけれど、私がせがんだ。
まさか、
2度と寺島から離れたくなくなるセリフとは思わずに。








「ねぇ、まだバカな幻想にとらわれてるみたいだけど…」




「ん?何?それ。何のこと?」




「ん、いや、やっぱやめとく。言わない」




「言ってよーー、気になる気になる気になる」




「んー…言いたくないなー」




「気になるー」




「んとね」




「うん」




「もしもね、これから先」




「うん」




「梅宮さんから告白されても、『彼女いるから』って、ちゃんと断るよ。


大体俺、あの人の顔も声も覚えてないんだよ?


すれ違っても気づかない。


だから、もうそんな幻想、気にしないで」













しばらく声が出なかった。
代わりに、お決まりの涙がこぼれてこぼれて、
「あーやっぱり泣いた、だから言いたくなかったんだ」
と寺島に言われながら、抱きしめられた。



天地がひっくり返った気がした。
寺島の中で梅宮さんは、誰も越えられない人のはずだったのに。
いつのまにか寺島の中で時が過ぎて、今は私がいるみたい。
どんなに寺島が私を好きになっても、このセリフだけはもらえないだろうと思ってた。




2度と傍を離れたくない。
ずっと手をつないでいたい。
そんなことを、怖がらずに思えるようになった。
そのために歩いていきたいと思えるようになった。


私、あなたに必要とされてるんですね。
本当に。
頑張っていいんですね。あなたとの未来のために。
そんな自信すらなかったの。







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「ね、好きよ」


「俺も」



そんな短いセリフが、ずっと欲しかったの。








2006年02月05日(日) 忘れた。




私が、他の男に必要以上にベタベタしたり、
他の男の話ばかりしたり、というようなことが原因で喧嘩したことは、
これまでに何度もあった。


その度に寺島は私をシャットアウトして、
私の声など何も聞かないし、何も働きかけてこない。
数日したら怒りがおさまって、普通になって、
後はその話題を少し話す程度。
機嫌もよくなって、いつもどおり。


元のように仲良くなるわけだけど、
私がしっくりいくはずない。
これって仲直りっていうの?って。
いつも思ってた。
いつも「?」がついて。
どうなるの?これ?って。
どうなるの?私の気持ちは?って。


そうやって寺島が私と向き合ってくれないことは、
不安を生み出す最大の原因で。


好かれてる自信なんかなかった。
隣でいつも笑って、好きよって言って、
寺島を満足させるために置かれてるんだと思ってた。

それは極端な話であって、
多少なりと寺島が私を好いてくれてることは知っていたけど、
この日の発言も未だ頭から消えていなかったし、
いつか、
もっと愛せる人をこの人は見つけるんだろうと思ってた。





だから。
寺島がこんな風に、ずっと私と向き合って話すことがあるなんて。
思ってもみなかった。

私を腕の中に入れたまま、
じっと私を見ていた。




その瞳に、私がまだ混乱しているうちに。
寺島が口を開いた。





















「もう、忘れた。

お前が今夜何をしてたかなんて。







でも。

今度やったら許さない」



あ。



















許して、くれた。




私のしたことに怒りつつ。

それでも私との未来のために。

怒りを抑えて。

忘れると。




あぁ、そんな風にあなた自ら。

あなたの感情を抑えてくれることなど、初めてだったの。

私といるために私のしたことを許してくれた。

それを私の目を見ながら言ってくれた。

そんなこと本当に初めてなの。

私は初めて。

あなたに、ありのままの私の全てを受け入れてもらえたような気がした。















「ありがとう…」




















私が泣き出しそうになったのを察知して、
泣き出す前に、寺島が話し掛けた。





「お前は、誰の女だ?」






涙で脳がぐちゃぐちゃになっているのを感じながら、
「寺島陽介の女です」と答えた。








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こんなキス、いつ以来だっけ。






「ごめんなさい………」






2006年02月02日(木) こんなはずじゃなかった



いつもだったら、もう家に帰っていたところだ。
私の顔など見ないところだ。
現に私の腕は振り払われた。



「侮辱されたのと同じだ」



そこまで怒っている。



「別れようか?」



返事はない。
けれど帰らない。
部屋に行こうという私の提案に頷く寺島は、今までの寺島じゃなかった。





ストーブがつく。
酔ってぼうっとする頭に、熱が気持ちいい。
ストーブの後ろの椅子に寺島が座った。
微妙な距離で私が喋りだす。




「嫉妬してるのは知ってたよ、今までだって。

だけどそれはあたしが好きだからだ、なんて思えなかった。

そんな自信が持てるような言動は、あなたはしなかった。

メールも簡単にシカトするし、八つ当たりするし…


…あたしは、確認したかっただけ。

あたしが寺島陽介の女だって、確認したかっただけよ…」




口がよく回る。
いつも頭にあったワードが飛び出してゆく。
意外と思えるほど早く、寺島が口を開いた。














「…悔しいんだ。



相手を殴りたいほどに嫉妬する…そこまでお前を好きなことが。


出したくないんだ。


こんなはずじゃなかったから。


最初はこんなにまで好きじゃ、なかったのに」





そう言って立ち上がって、
私の目の前にあったストーブを動かした。




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用意はほどなく終わった。
3分後には、毛布の中で、寺島の腕の中だった。


まだ私の頭は混乱している。




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