本当に、ずぅっと前に。 外国にて、指輪を買ってもらったことがあった。 他でもない寺島に。
安くて、少しすると割れてしまったし、 後のごたごたであたしは失ってしまったけれど、 思い入れはそれなりにあって、失ったことをとても悔んだ。 ケースしか残っていないのが悲しかった。
今は、寺島との間に指輪が欲しいなんて思わない。 ペアリングとかにも興味はない。 ただ、あの昔の指輪のことを、 あたしが思っていた以上に気にしていた寺島を、 あたしは知らなくて。
昨日。
訪れた100円ショップで、ちょっと眺めてみる。 指が太いあたしは、デザイン云々より、 まずはまるかを確かめる。 その様子を、寺島が笑った。 指ってどうやったら痩せるのかしらん。
「買ってやろうか?」 と言われても、あたしは本気で、 「要らない」 と言えるのであった。 今はそんなのにときめけない。
その前日にいろいろあり、 ちょっとあたしに負い目を感じていたらしい寺島は、 「買ってやる」 と、指輪の前を動こうとしなかった。
お互いの指にひとつずつ、光らせた指輪。 昨日は確かに少しだけ、信じられるかと思った。
今は正直、はめられないよ。 ごめんね。 苦しさが、先に立ってしまうよ。 理由は、いろいろあるんだけど。
少し離れた場所にいる、寺島を見れなかった。 苦しかった。
本屋の、文房具コーナー。 必ず置いてある試し書きの小さな紙に、 彼は書いた。 初恋の人の名前。
あたしが書けばと言ったんだけど、 そう簡単に書かれると、 やっぱりまだ心にいるのかなぁと思うよ。 最近その話は出ないけど、 あなたがあたしを思いやって出さないだけだったりして。
なんてひねくれて考えるのは、 明らかに自分に自信がないのだろうと思うんだけど。
ダイエットの本を買うか買うまいか考えたときに、 何のためにダイエットするのか忘れてると思った。 だから続かない。 4月に続いたときは、はっきり、 「自分のためだ」 と気づいていた。 今は、どうだろう…。
少し離れた場所にいて、テニス教本を眺めている寺島を、 見れなかった。 苦しかった。 嫌だった。 どうしたらいいんだろうと思った。
今のあたしには、1人の時間が必要なのかも。 甘えてだらけた頭に、現実をつきつけてやりたい。
「早く早く、ほら起きて。
用事があるんだから」
寺島がそう言ってあたしを起こす。 いつもより早い寺島の帰宅準備に、 あたしはだるそうに起きてみせる。 もっともらしく寺島の手をつかむ。
「はいはい…」
途端に顔が引き寄せられ、 寺島の唇が押し付けられた。
「いい“用事”でしょ?」
長いキスが終わった後 そう言って寺島はにこりと笑って、 ちょうどいい強さであたしを抱き締めてくれた。
今こんなに距離が近い理由が、 なんとなく頭に浮かぶ。 ここには書けないけれど、 もしそうなら、 必ずいつか壊れるんだろうと思う。 幻なのかもしれないと思う。
だけど、今が幻かもしれないことより、 そう怖がることで、 今思い描く未来が幻になってしまうことのほうが、嫌だ。
だから、愛の言葉も、キスも、 理由も、全部ひっくるめて受け止めよう。 未来への糧にしよう。
一緒にいるのが当たり前。 そんな人がいることは、家族も含めて、 幸せだと思うよ。
あなたを愛しいと思える限り、 あたしはあなたを諦めきれないだろう。 大人の恋愛なんて、 まだまだ出来ない、ね。
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いまいち文章のカンが戻ってきていないようです…。 だけど、少しずつ復活しようと思います。
また、よろしくお願いします。
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