久々に、吐くかと思った。 久々に、笑い過ぎて死ぬかと思った。
5月は、チューハイの缶で埋まっていた机も、 すっかりシンプルになった。 ウィスキーと、日本酒と、おつまみ。 間を置かずに飲んでも、酔った気が全然しなかった。
最初は、ゲストの女友達1人がいたんだけれど、 彼女が帰ってから、いつもの3人で飲み直し。 いなくなったことで寺島の機嫌が直って、調子が出てきて、 3人で夜中にケラケラ笑ってた。
ことあるごとに寺島を蹴ったり、叩いたり。 反撃しようとする寺島から逃げて、 藤原に抱きついたり。
喋ることは全部、付き合い始めの彼氏の話だったり。
あたし達より格段に酒に弱いのだから仕方ないって、 あたしは思ってたけど。 寺島は確実に、カンに障ってたらしい。
2人にべたべた触ることを気にしてたことは、 馬鹿だから、寺島には言わなかったけど。
だから、 最後はいつものメンバーで楽しめたことが、 嬉しかったりする。
あたしはやっぱり、君らが、好きだな。 次は竜崎君もいたらいいね。
ただトイレに行っただけなのに、 帰ってきたらノックをする藤原が、可笑しかった。 ありがとう。
久しぶりに、キスが嬉しかった。 2004年最後のキス、だね。
苦しくて仕方なくて、 これがあたしの限界なのか?って思った。 もう、 我慢がきかなくなってるのか?
午前中に、メールでやり合って。 そのムードを引きずったまま、会って。 モヤモヤの残るまま、抱き合ったって。 楽しくないのは、明白。
大体、何でそうなったのかって。 そこを言い出せば、午前中のやりとりが思い出される。
昨日あたしを誘って、ただ反応を楽しんでた寺島と、 真に受けて、その気になってしまったあたし。 どっちが悪かったのか?なんて、意味がなかったんだよ。
喧嘩することに、慣れてないんだから。
そうした気持ちの伝え方も、謝り方も、 気持ちのセーブの仕方も、知らないんだから。
やっぱり、って、あたしは思う。 1人はセフレ、1人は恋人モドキって思ってるんじゃ。 うまくいくわけなくて、さ。
けど、じゃぁ何であたしは、 いつものように流されてしまったんだろう。 あんなに長ったらしいメールを、書いたのにね。
要するに、あたしは。 高1のときとちっとも変わらず。 悲劇のヒロインを演ることが好きなのだ、と思う。
だって、 辛い辛いって、涙を流していればいいんだもの。 そうすればそのうち、王子様が現れて、 ハッピーエンド。 そんなことを、夢見ていられるから。
シャワーを浴びながら、独り言をつぶやいて、 ヒロイン気取りの自分を、罵倒した。 馬っ鹿じゃないの。 そんだけ自分を好きなら、 もっとまともに愛しなさいよ。
もっと上にいけるように。 誰にでも誇れる自分になれるように。 寺島のご機嫌取りをしないように。 堂々と、あたしらしくいられるように、努力すればいい。
有言不実行が、あたしの、最大の短所。
寺島に「愛してる」と言いながら、 竜崎君のメールを保護してるんじゃ、寺島は信じられないんだろう。 全然別物の、感情だったりするのにね。
喧嘩のせいだか、 楽しくないセックスのせいだか、 はたまた別の原因か、知らないけれど。 苛々していた寺島は、あたしに当たってた。
原因はあたしだと言われてもおかしくないけど、 それなら、 もっとはっきり責めれば良いのに。 何が気に入らないのか、ぶちまけてしまえばよいのに。
遠回しにあたしを苛めて、 あたしの髪の毛を変な形にして1人で大笑い、なんてことされたら。 あたしだって、苛々してしょうがなくなって。 いつもの余裕なんか、消えてしまうよ。
慣れない喧嘩に、わかりあえないもどかしさに、遠回しの責め。 トリプルパンチに、あたしはすっかり疲れた。 布団にもぐりこんで、このまま消えちゃいたいと思ってた。
でも、母親に付き合わされて見た『冬のソナタ』に、 少し救われて。 限界かも、なんて思った自分を恥じた。
愛に限界なんかないはずなのに。 あたしは何、言い訳見つけてるんだろう。 そんな言い訳だけは。 絶対思っちゃいけない。
愛してる。 これだけは、死ぬまで。 何があっても。
そんなセリフに、 1番泣いてたり。
不思議なもので、 パソコンの場所が変わると、何も浮かんでこない。 早く年賀状を仕上げて、 部屋の炬燵の上に戻さないと。
ある夜に、 寺島と、買い物に出掛けた。 あのバイト先への、クリスマスプレゼントを買うため。 理由は、少々長いので割愛。
歩いて30分かかる、店。 歩きながら、笑う。
寺島曰く、 最近のあたしのセリフは、刺々しいらしい。 昔は思い出せないけど、 今に刺があることは十分意識しながら、 「そんなことないよ〜」 と、笑った。 悪意なんて、勿論ないけれど。
寺島と行く雑貨屋は、楽しい。 本屋も、楽しい。 CDショップも、楽しい。
理由なんて、知らない。 そう言ったら、あなたは変な顔したけど。 知ってるほうが、嘘っぽくはないですか?
その夜は、12月に相応しく、 息の白くなる、冷えた夜だった。
コートの中に1枚トップスを着ていただけのあたしは、 軽く風邪を引いたらしく。 帰り道、なんだかおかしかった。
熱はないの、と寺島が見てくれたけど、なかった。 元々出ないし大丈夫、と言ったものの、 少しすると、足がふらついた。
「精神的なものだよ」
と、寺島が言った。
「寂しいのかな。 だって誰も癒してくれないもん」
また刺を出してみる。 笑って流してくれること、前提で。
「 … どうやって癒せってんだよっ」
クックッ あたしが小さく笑う。
「言ってみただけ」
「ねぇ陽ちゃん… つかまっても、いい?」
袖に。 瞼が重くて、頭がぼんやりしてた。
「いいよ」
つかまらせてもらってから、少しすると、 寺島が、あたしの手を握ってくれた。
「冷たいでしょ。 だから俺じゃ、暖まらないんだよ」
深い意味なんて、探る余裕はなかった。
「大丈夫」
冷たいから気持ちがいいよと、 どうしてそのとき言えなかったんだろう。
「小さいけど、プレゼント」
お返しは、何にしようか?
昨日は、大学の友達の部屋に泊まってきた。 何故かワインまで出て、 2人でいい感じに酔って、語ってた。
けれど、 昼間に来た、寺島からのメールが、 アルコールに溶けることはなく。
悲しいメールだったわけじゃない。 だってずっと。 わかっては、いた。 条件反射みたいに湧いた涙を、傍に居た母に悟られることは、なかった。
今日、寺島から連絡がきて、 最近飼い始めた柴犬の散歩に、つき合わせてもらえることになった。
寺島が写真だけくれていて、 ずっと逢いたかったから、とても嬉しかった。 少し大きくなった彼は、やっぱり写真以上に、可愛かった。
彼の話を、寺島がして。 あたしも、泊まりの話をして。 笑い合って。
ねぇ、ほら。 なんにも欠けたところなんてない。
戻ろうよ。 セフレなんて、進まないから。 あの頃に戻って、歩き直そうよ。
その先が「恋人」じゃなくたっていい。 笑い合ってさえいれればいい。
あたしは、それ以上は。 何にも、望まない。
*
前日の日記に、 寺島から来たメール、それに対する私の返信、 アップしました。
少々長いですが(主に私の返信が) よろしかったら、どうぞ。
2004年12月14日(火) |
うまくいくわけ、ないね。 |
件名 : 突然ですが
俺はね。
まりあのことは好きだし、良い奴だと思う。
けど、
「彼女」
かって聞かれると、何か違う。
ニュアンスが違う。
例えば。
まりあは、藤原と付き合える?
まりあにとって藤原は、
そういう感情じゃない、でしょ?
それと一緒。
付き合ってみて、やっぱり友達のままがよかったとも思った。
まりあのこと好きだから、幸せになって欲しい。
良い男も見つけて欲しい。
わかる?
*
件名 : 本当に突然だね。
うん。わかるよ。
あたしのことを、ちゃんと考えてくれるんだなって、わかって、
正直、嬉しいよ。
ありがとう。
陽ちゃんがそこまで思ってくれるなら、あたしももう、
彼女にしてって駄々こねるのはやめるよ。
大体、「彼女」にこだわる意味はわからなかったし、
最近はこだわってなかったけど、
陽ちゃんの気持ちがわからなかったから。
それを話題に出すことで、
陽ちゃんの気持ちを測ってるようなとこ、あったんだよね。
ごめんね。
でも、陽ちゃんの素直な気持ちわかったから。
すっきりした。
ありがとう。
藤原と付き合うのは、確かに無理だよ。
けどそれなら、
セックスをすることも無理だよ。
例え、陽ちゃんがいてもいなくても。
あたしは無理だよ。
だから、陽ちゃんの気持ちがわからなかった。
けど、
それは仕方ないことなんだね。
個人の、違いだね。
陽ちゃんとあたしは、他にもいろんなところが違って、
それでも今までやってきたけど、
そこが違うんなら。
うまくいくわけ、ないね。
もう、セックスするのは、やめようね。
あたしからは誘わないし、誘わないで。
こんなに偉そうに喋ってるけど、
流されない自信、ないから。
確かにね、あたし達は、
友達づきあいが一番だって、思うよ。
完全には無理だけど、
中3や高1の頃に戻れたらって、思う。
あの頃みたいに、お互いの恋愛を相談できる、
そんな未来が、実は欲しかったりもする。
陽ちゃんが、そんなの嫌だって思うなら、
そうじゃなくても、いいけど。
長いメール、ごめんね。
日記を、 書いては消して書いては消して。
だって今の状態を、 「幸せ」なのか「辛い」のか。 あたしには、決められない。
一本の線を、書いては消して書いては消して。
昨日の寺島は、優しくて。 小さなことで泣いたあたしを宥めて、 髪を撫でて、 あたしの顎をくいとあげて、
「そんなことで泣くなよ」
と。
おかげで涙も、 日中のちょっとした苛々も、すっかり消えた。
だから要するに。 そんなにして、寺島は優しくしてくれて、 あたしに幸せをくれるのに、 「彼女にする」という言葉だけは、 くれない。
「好きだよ」 と、電話で囁いてくれるけれど、 それが本当なら、何故その先はないの?
そうして何故、 あたしより遠いはずの女の子が「彼女」になれるの?
「彼女」に対するこだわりは、意味がないかもしれないことはわかってる。 けど、意味がないなら、余計に。 その子が彼女になれる理由がわかんない。
ぐるぐる回りながら、あたしは線を消す。
昨日を思い出して、線を引く。
女の子を思って、線を消す。
未来を想って、線を引く。
「まりあが痩せたら、美人になるよ」
少し痩せるたび、必ず褒めてくれる寺島。 そう言ってくれるときも、確かに嘘はついてない目だから。
遅いかもしれないけど、 もし今頑張ったら。
今からでも、大丈夫、かな?
幸せなんだか辛いんだか。 今朝の新聞の占いどおり、 あたしは激流に呑みこまれている。
水曜日は、絵に描いた様な恋人同士だった。
朝から映画を見て、 ご飯を食べて、 本屋に立ち寄って、 カラオケに行って、 ゲーセンに行って。
UFOキャッチャーに500円。 寺島が使ってくれて。 とれなかったけど、使ってくれて嬉しいって言ったら、 「とってやりたかった」って言ってくれて。
そんな、普通すぎるデートが。 あたしには。
けれどすぐに変化はやってくる。 水曜日を表すセンテンスを見つけられないうちに。
木曜は、寺島はバイト。 中学生のお姉ちゃんがいる、 小学生の男の子の家庭教師。
バイトが終わった後、 そちらのお母様と談笑していたら、 お母様が、
「本当に先生は真面目で…
うちの娘をお嫁さん候補にしていただきたいわ」
と言った。
同じ部屋で携帯をいじっていた当の娘さんは、 何にも言わなかったらしい。
その後もお母様の口から、 リアルな発言がちらほら…。
寺島は、電話で大いに困った声を出していた。 からかうと、本気で「やめてくれ」と苦笑していた。
お母様の冗談だとは思うけれど、 娘が何も言わなかったのが気になるらしく、 唸っていた。
うーん。 やっぱりなぁ。
幸せって、続かない。
電話を切った後炬燵で寝入ってしまったので、 風邪まで引いた。
「2人で映画見に行かない?」 ここに書くのは可笑しいほど、 普通のセリフだね。 でも、ずっと欲しかった。 そんな「普通」が。
水曜日を考えながら、 いつしか眠ってしまったらしい。 目が覚めると、 窓から太陽が入って部屋が暖かかった。 12月だというのに。
何を着ようかとか、 どんな化粧にしようかとか、 バッグは何にしようかとか。 普通の19歳が考えてるようなことを考えてることが、 不思議で、でも嬉しかった。
あたしは大分擦れてしまって、 彼氏が出来たとか出来ないとかいう大学での話題を、 ついていけないとかではなく、相手に出来なかった。 あたしにとっての恋愛は、そんなレベルじゃないから。
大体、恋愛の相手を「男」とひとくくりに出来ない。 あたしは「男」に恋してるんではなく、 「寺島陽介」という「人間」に恋しているのだ。
それは誇りでもあるけれど、時々、 普通の19歳が思うことかしらと思うことがあった。 悟りすぎ、では? もう普通の19歳のように、 恋愛を楽しむ恋愛が出来ないのでは?
兄さんに、少しだけ話したこともあった。
あたし、これからもずっとこうなんじゃないかな。 寺島をすっごく愛してるから、こんなにドロドロになってるんじゃなくて、 別の人とドロドロになっても、その人がどんなにダメでも、 最後は信じてしまって、愛そうとしてしまうんじゃないかな。
わからないん、だけど。
水曜日は、普通の19歳になろう。 何にも。 難しいこと考えずに。
誰よりもあたしを知っている。 だから安心する。 あなたの隣は。
あの一週間を思い出すと、苦しい。 あれでもう、愛せないと思ったけど。 何事もなく笑えたら、許せてしまったあたしがいます。 こんなあたしこそ。 一生治らないんだと思います。
「好きだよ」 って、電話口で、言ってくれてありがとう。
あの電話は、何だか変にあなたが優しくて。 いつもより、あたしに向き合ってくれた。
これ以上のことは、もう、 望まないから。
壊れないで。
あたしの幸せのハードルは、まだまだ、 高すぎますか。
毛布1枚を共有して、 けれど敷布団は、寺島が占有して。 あたしは体の半分が、床。
顔も向こうを向いて眠る寺島が、憎たらしかった。 少し手を伸ばして、髪を撫でることしか出来なかった。
キスもなければ、抱擁もなかったけど。 頼めるほど、甘え上手じゃない。 頼むものじゃない、なんて、あたしは考えが古いのかな。
『寝顔は見せないよ』
なんて言ってた頃からしたら。 寺島は大分、素顔を見せてくれるようになった。
初めて寝顔を見たのは、もうずっと前だけど。 見るたびに、欠かさずあたしは、 見せないよと言った寺島を思い出している。
こっちを向いて欲しいとか。 腕の中に入れて欲しいとか。 キスして欲しいとか。 やっぱり、我が儘かなぁ。
好きな人が生きていて、隣で眠っている。 こんなに大きな幸せを感じずに、 そんなことを思うなんて、おこがましいのだ。
幸せを感じるから、 あたしは、それを無視できない。 「この人が生きている」 それ以上に、幸せなことなどありはしない。
だからあたしは昔、寺島にきつく抱き締められるたび。 腕の力と、心臓の音が幸せで。 泣いていた。
「好きな人が、隣に寝てるだけで…
幸せなんだよねぇ…」
寝ているとわかっていても、何となく、 怖かったから。 ポソポソと、聞こえないようにつぶやいてみた。
「ねぇ…?陽ちゃん…」
そして手を伸ばして、髪に触れようとしたら、 寺島の目がぱちりと開いた。
慌てて手をひっこめる。
「何か言った?」
「何にも言ってないよ」
「うそ。言ってたよ、幸せがどーたら…」
「何でもないよ」
「言ってよ」
「独り言なんだから聞かなくていいよ」
そんなかっこいいことを言ったくせに、 実際あたしが言いなおすと、 寝たふりをしてた。
いいよ、慣れてるよ。 その後あたしは、寺島の肩にしがみついて、 寺島に起こされるまで、眠った。
電車で寺島のことを考えると、 何故か、終わらせようとする方向に考えている。
憎むべきなのだ、と思った。 今までのことも、日常の些細なことも、 どんなに彼が、あたしを親しい人間だと認めていても、 あたしの前にあるのは、ただ彼が、
「本命じゃない女も抱ける」
という事実だけなのだから。
竜崎君の好きな、ポルノグラフィティを聴き続けて。 ずっとそのことばかり考えた。
あたしが、その道を選ばなきゃいけない。 あたしが、振り切らなければならない。
でも、例え、 「別離」をあたしが選ぶにしても、 そこに、 「憎悪」は必要ない。 ただあたしが選んだ後、 なるべく早く再スタートを切るために、必要なだけ。
もし「憎悪」を手に入れてしまったら、後はただ、 あたしがあたしのためだけに、 寺島を傷つける未来しか、ないのだ。
それは、嫌だ。 お世辞にも愛ではない。
だから、憎むのはやめようと思った。 言い訳を見つけた気分だった。 寺島を愛し続けるための、言い訳。 「別離」を選ばない、言い訳。
愛したいの。 許したいの。
あなたにとっての、 優しい逃げ場でありたい。
あたしの好きな漫画を、 寺島が、今、読みはまってる。 漫画についてのメールが出来るのが、 とてつもなく、嬉しい。
けど少し、喋りすぎたかな。 メールが返ってこない。 まぁ、いいか。
名前を変えよう、と思い立って、 数日経つのだけれど、どうも上手く思いつかずに。 寺島に相談するには、少し時間が遅くて。 少し、思い返してみて。 いつかの会話を、思い出して。
あの時も今も、 聖母マリア様には、足元も及ばないけれど。 あたしはやっぱり、 寺島を憎むことが、出来ないようだから。
いつも彼女のように、笑っていられたらと思った。 何も求めずに、 寺島を愛していたいと思った。 から。
あなたの隣で、いつも自然にいたい。 大学の友達を笑わせるように、 あなたを笑わせればいい。 あたしはどうも、あなたの前では大人ぶる。
やっぱり寺島には何でもお見通し。 驚いて、とっさに否定することが出来なかった。 いつから気づいていたんだろう。 (違いすぎてすぐわかる、のかもしれない)
でもそれなら、そんなあたしを。 あなたはどんな目でいつも、見ていたんだろう。
なんだか、寺島のことを、責められない気分。
会う度に、思う。 終わりなんだな、と。
何にも変わらない。 会って、喋って、抱き合って。 笑って、からかって、眠って。
でも、それだけ。
「本命はいない」 とあなたが口走って、 別に悲しい顔をした覚えはなかったけど、
「あ、やっぱりそうなんだ、どうしようとか思ったでしょ」
とか言われた。
どうしようなんて、今更思わないけど、 やっぱり、って思ってた。
そろそろ、見切りをつけるべきですか? 本命じゃないと言われるのはかまわないけど、 本命じゃない人でも抱ける、と、 要するに彼は言うのです。 自ら。
だから、あぁ終わりだなって思うんです。 あたしが、彼を信じる余地が。 もう残されていないんです。
新しい彼女が出来るまで放っておくなんて、怠惰ですか? やはり、言わなければなりませんか?
あたしが、選ばなければならないんですか?
ねぇ、あなたは気づいていましたか?
きっと、あたしが彼に与えてるものなんて、 ささやかなんです。
新しく歩き出すべきなんですか。 本当は、恐ろしく簡単なことなのでしょう。
あたしはただの、臆病者。 手を離して進むことはおろか、 愛していることさえ、言えない。
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