「IN ミスタードーナッツ 幸子のターン」 というタイトルの日記の投票ボタンに、 何故寺島は、今更、今井の話を私にするのだろうかと書いたことがある。 私が寺島を好きなことは、知ってるはずなのに。 中学校のとき好きだった今井に会いたいと、私に言う神経がわからない、と、 幸子が言った。
話を続けるつもりで、投票ボタンにしたのに。 まともに続けるのは、辛かった。 別の日記に、書き殴った。
二宮さんのことは、 書けるだけ、マシなのだ。 言葉に出来る余裕があるということ。
けれど今井のことは。 考えるだけで、何かがつぶれる音がする。
今井が悪いわけじゃない。 だから大学で会っても、普通に喋れる。
高校時代、今井に好きな人がいた。 バレンタインに、チョコをあげたと聞いた。 彼の話を、寺島は聞こうとしない。 とぼける。 寝ていたふりをしたりする。 あたしが泣きたくなるほど、頑なに。
好きな人に逢いたい。 それは当然の感情。 好きな人が好きな人の話は聞きたくない。 それも当然。 こんなに明らかなのに、 どうしてあなたは、今井を好きなことを否定する? 誰も責めやしない。
あたしに会いたいとき。 それはセックスをしたいとき。 ほらね、もうわかるでしょう? あたしとあの子への、態度の違い。
中学3年のときと、気持ちがちっとも変わらない。 笑って、あたしはあなたを送り出す。 失いたくないから。 ただそれだけ。
高らかに、軽やかに。 響く彼女の声を、あたしが聞き間違えるわけがなかった。 二宮アミ、ちゃん。
振り返るのに、勇気が要った。 びくりとしたのがバレていないかと思った。 「久しぶりー!!」 という彼女の声を染み込ませて、 あたしは笑顔を作った。
学校の制服。 少し染まった髪。 明るい笑顔は、そのまま。
あたしの大学が、台風で休講になったことと、 まだ始まったばかりであることを、 彼女は可愛らしくなじった。
2言3言で、じゃぁね、と別れて。 一緒にいた幸子と、 やられたね、と笑った。
「でもこんなこと、寺島には言えない」
と幸子に言うと、
「どうして?何でもないことなのに」
と、訳知り顔で笑われた。
そうよね、何でもないこと。 なのにどうして怖いのかしら。
良い人。すごく良い人。 よく気がついて、面白くて。 努力家で。可愛くて。
寺島のことさえなければ、 あたしは何の曇りもなく、彼女を好きになれるのに。
彼女が何をしたわけでもなくて。 あたしに何か言ったとかでもないし。 寺島を誘惑したわけでもないし。
どうして、切り離せないんだろう。 どうして言えないんだろう。
思い出したくない。 あの夜を。 考えたくない。 それが正直な気持ち。
恋心なんて、やっぱり邪魔なだけ。
どんなに言葉を書き並べても。 どんなに愛を語っても。 どんなに平気な顔をしていても。
あたしは結局、ただ「流されている」だけなのに、 それを必死で正当化している。 それがあたしの正体。
いつもいつも、理由を探している。
たった2通の、寺島からのメール。 あたしを拒否「しているような」内容。 真実は知らない。 多分、何でもないこと。 今、この日記を書いている瞬間は、 いつもどおりメールしているし。 ただの冗談だったんだろう。
だけど過剰反応してた自分に、愛想が尽く。 日記も書けずに、自転車で走った。 ずっと、大丈夫だと言い聞かせていた。
1人が怖いわけじゃない。 独りじゃないと知ってるから。
じゃぁ何が怖かったんだ。 何かもやもやして。 ぐずぐずしていた。
立川さんのことは、何にも、 本当に何にもなかったのに。 悔しい。
バイト先のバーテンダーの立川さんは、 結婚して子供もいるらしい。 ショック受けてない自分に、ショック。 まだまだ、らしいなぁ。
思い出すのは昨日の夜。 寺島と手をつないで、あちこち歩き回った。 理由は何にせよ、懐かしくて、落ち着いた。
あたし達が一番最初に付き合い出した日のことを、 あなたも思い出してくれたかな。 どこへ行くともなく、ただ歩いて、話をした。 2年が経った今でもそんなことが出来るなんて。 幸せとしか、言いようが無い。
思うことは、たくさんあって。 感じることも、たくさんあって。 わがままを言い出せばキリがなくて。 だけど自分がどうなってでも、 寺島陽介という存在を失いたくなくて。 それだけは、貫きたくて。
だからこれから何があっても、どんなに辛くても、 時が全て浄化してくれることを忘れたくない。 自分の気持ち次第で世界が変わることを忘れたくない。
確かめてから、恐る恐る歩いて、 寺島の匂いのする部屋に、足を踏み入れた。
ここ数日、ネットが使えなかった。 それでも前ほど、困っていない自分がいたりする。
使えない間、パソコンの整理をしてみた。 書き溜めていた、昔の日記が出てきた。 それこそ使えなかった頃、 使えるようになったらアップしようと思っていた、もの。
読んだら思い出す。 だけど日常で思い出すことは、ほとんどない。 寺島との、やりとり。 酷いものも、温かいものも。 今となっては、懐かしいこと。
酷くても、こんなに大切にして、あたしは。 けれど、どうして忘れていたんだろう? その後に起こったことが、大きすぎたからだろうか。
やっぱり、今のあたしは幸せ。 あんなやりとりをしていたなんて嘘のように、 穏やかに、寺島とハリー・ポッターの話を、今はしている。
それだけで、十分。
なんだか今は、 寺島の中のあたしがどこにいるのか探すのが、とても面倒。 それより、 竜崎君の中でどれくらいなのかが気になる。 どちらも大した場所ではないのだろうけど。
今日は、 「誠実な態度」 がどんなものか、わからない。
また「好きです」とか言ってあたしのご機嫌をとる寺島に、 それは不誠実だと心の中で思ったけど、 断らなかったあたしも不誠実なんじゃなかろうか。
嘘だと知りつつ、騙されるのはとても気持ちがいい。 全ては今夜限り。
溺れる瞬間がたまらない。 感情のないキスだってもう出来る。
次の日には、何も変わらないあたしがいる。 バイト先で、バーテンダーの立川さんに懐くあたし。 坂田君と笑うあたし。 竜崎君にメールを送ろうとしても送れない、あたし。 いつのまにこんな風になったのかな。
こうじゃないと、あたしはきっと生きていけないんだろう。 それは、寺島を愛している証拠。 そう思うと何だかホッとするなんて、とても変だけど。
あなたが笑えるなら、それでいいんだもの。
「あたし彼女じゃない」 って、何度茶原に言っても、信じてくれなかった。
「決別宣言したの」
「もたないよ」
言い返せなくて茶原を睨む。 過去を見られればそれまで。
寺島と話をしたことを話そうとしたら、 何故か、
「あぁ、俺を普通の男として見れってやろ?」
と知っていた。 この日記からなのか、藤原からなのか、わからない。
何かにつけ、寺島の奥さん扱いする茶原に、 「あたし彼女ですらないのに」 って文句を言うと、 「彼女なのに愛されない人だっているんだから」 と言い返される。
そう言われてしまうと、あたしは弱い。 『彼氏・彼女』って何だとか考えさせられてしまう。
別にそれを愛されてる証拠にしたいわけでもないのだ。 確かに、証拠ではない場合もあるのだから。 『付き合ってるから』 だから何なんだ。 結婚を前提にでもあるまいに。
付き合っているのだからと、 いろいろなんやかんやと義務を押し付けそうな自分が嫌だ。 「あたしは彼女なのに」 とか言いたくないし、 「あなたは彼氏なのに」 とも言いたくない。 だから何だ?って、このあたし自身が思うのに、 そのへんの少女漫画で育ってしまった妙な義務感が嫌だ。
じゃああたしは果たして、寺島に愛されていたのか? 「愛されている」と感じられるのなら、 『彼氏・彼女』じゃなくてもいいと茶原は言うのだろう。
けれど、「抱ける」=「愛してる」なんていつの公式だろう? 男は愛していなくても抱けるのが今の常識。
愛しているなら、抱きしめるぐらい簡単でしょう?
何でだったかは忘れてしまったけど、 1人の男の人を思い出した。
中3の頃ちょこちょこしてた、チャットで出会った人。 相変わらず、ドリームキャストだったんだけれど。
詳しいことを書く気も起きないくらい、 今はどうでもいい人。
自信家で、自意識過剰で、 甘いセリフばっか並べて。
好きだとか、 お前の味噌汁を飲みたいとか。
優しいお前が好きだとか。 何を言っても、 諦めない、好き、の一点張り。
最初こそ信じてなかったし、うざかったけど、 何日も続けば、 中3でガキのあたしは、信じ始めてた。
毎朝届く彼からのメールを楽しみにするようになった頃。 彼や彼の友達を含めてチャットをしていて。 彼の友達だけにメッセージを送って、相談していた。
「あいつのこと、好きなんだろう?」
そのときのあたしは、彼を好きなことを認めたくなくて、 いろいろと考えていた。 返事をどうしようかと思っていると、 先に彼の友達から、メッセージが来た。
何それ? 聞いた途端、あたしにかかった魔法は消え去った。
それだけの話。 その1年後くらいに、またちょっとメールをして、 そこでまた告白されて、結婚を考えてるとか言われたけど、 信じられるわけなくて。
寺島を信じる気持ちは、いくらでも戻ってくるのに。 腹立たしいくらいに。
2004年09月16日(木) |
「同じこと言ってるよ」 |
あなたは、 あたしに「マリア」と名付けた。 聖母マリア。
水曜日の深夜は、メールか電話が通例になっている。 一緒に見ハマってるテレビがあって、 放映中はメールをして、たまに電話しながら見る。
テレビで、登場人物にニックネームをつける場面があって。 『エンジェル』とつけられた子が、 「そんな大そうなもんじゃありません…」 と言っていた。
そのテレビも終わり、 しばらく別の話題で笑っていると、いきなり寺島が、 「『マリア』かな」 と言った。
「『マリア』?」
「うん。さっきからずっと考えてた。 お前のニックネーム」
聖母マリア?と聞き返して、苦笑する。
「そんな大そうなもんじゃないわ」
「同じこと言ってるよ」
と、寺島も笑う。
「だって、何でも許してくれるんだもん。 慈悲深くて、さ」
「そうかなぁ〜」
あたしは、ただ笑い流した。 どちらが、よかっただろうか。
あたしは、ただ寺島を好きだから。 許しちゃいけないと思ってても、それに従うことが出来なかった。 わがままを言われても、ひどいことを言われても、 (そういう風に認識すらしていないときもあるし) その後に抱きしめられれば、キスをされれば、 満たされてしまって、何も考えなくなる。
抱きしめられなくても、キスされなくても。 ただメールで普通に会話が出来て、電話で笑い合える、 それだけで落ち着いて、穏やかになれる現実。
マリア様じゃない。 恋をしてるだけ。 まだ。
2004年09月15日(水) |
好きな人にはやっぱり |
とても、偉そうなことを言うようだけれど。 あなたが夢を語る姿を見て、 何だかホッとした。
あなたに相手にされないことと、 あなたが無気力な状態で、やる気がない姿を見るのと、 どっちと選べないくらい、どちらも辛い。 好きな人にはやっぱり、 好きなことをして、輝いていて欲しい。
あなたのことは、全部好きだけど。 そうやって夢を語る姿、 テニスのことを話す姿、 テニスをしている姿。 そのへんが、やっぱり素敵だよ。 している姿は、もう4年くらい見ていないけど。
ちゃんと、覚えてる。 ちゃんと、見てた。
まだまだ、だな。
涙はしばらく続いたけれど、 ふと、 何で泣いてるんだろう?って思うことがあった。
だって別にあたし達は。付き合ってたわけじゃなくて。 何にも。約束もしてなかったし。 ただあたしが勝手に。 いろんなこと勘違いしてたんだと思う。 期待からの勘違い。 馬鹿だな。
もしかしたら、 あたしは寺島を利用してたのかもしれんと思った。 誰でもよかったのかもしれない。 温かい腕で、抱き締めてくれるなら。 抱いてくれるなら。 嘘でも、優しくしてくれるなら。
更にもしかしたら、 寺島が、そう感じていたのかもしれない。
違うと言い切れる。 確かに違う。 けれど。 寺島の気持ちを考えなかった部分は、否定できない。
茶原から指摘されてから、頑張ったつもりだった。 でも確信はない。 いつも推測。 あたしのそれはしばしば、茶原にひっくり返される。 要するにあたしは、考えが浅いのだ。 だからきっと簡単なことさえ。 見落としてることもあるんだと思う。
そんなんじゃやっぱりダメだった。 ごめんね、茶原。 いつもあたしを、救ってくれたのに。
竜崎君に言われたことがある。 「あなたはきっと、寺島のことを一生忘れないよ」
そうだね、多分忘れない。 初めて愛した人だから。 愛してくれた人だから。 抱いてくれた人だから。 あんなにも強く、抱き締めてくれた人だから。 涙をいつも、拭いてくれた人だから。
息が詰まる。 涙が零れる。 愛してる。
2004年09月13日(月) |
さよならをするために |
昨日仕事が終わってから、 今まで何をしていたのか、ぼんやりしている。 眠って眠って。 合間に、寺島のメール着信音だけが鳴っている。
やっと、マリコに返信メールを書いて、 待たせた理由をちゃんと、 でも笑えるように送った。
なのに、比較的早く返って来たマリコからのメールには、 ゴスペラーズの『Full of Love』、(←Click) まるまる1曲分の歌詞が書いてあった。 また泣かされた。 ありがとう。
もう、思い出して泣くことはない。 抱き締めてくれる寺島を失うことには、 ちょっとだけ、慣れているのかもしれない。 それでも、 あたしの世界から寺島がいなくなるのはやっぱり悲しいから、 そこまでなくて、よかった、って思ったりする。
最後の時間にさよならをするために。書こうと思う。
抱き締めて、と言われることが嫌だった、と言われたから。 もうそうやって甘えることが出来ないんだな、と思って。 最後にわがまま言ってやろうと思って。 「抱き締めてー」って言ってみた。
けど、寺島の表情は、信じられないって顔で。 あたしは断念した。 「じゃぁ、最後にちょっとだけ、くっついていい?」 と聞くと、渋々、頷いてくれた。
腕を背中に回して、頬を胸にくっつけた。 すると寺島が、左腕をあたしの体に回してくれた。 あたしは全てを預けて、 最後であろう、寺島の体を感じた。 最後であろう、寺島の体温を。 最後であろう、寺島の鼓動を。
涙が零れるときの唇の震えを、初めて感じた。 無意識に、寺島の服を握る手に力が入った。
「ごめんなさい。
近くにいたかったの。いつでも」
言えたのは、それだけ。 回された左腕に、 同情しかないことが悲しくて。
例え両手で強く抱き締められても、あたしは苦しかったはずだから。 例え違っていても、そう思わせていてね。
寺島が、肩にかかっていたタオルで、あたしの涙を拭いて。 懐かしいなぁって思いながら、 もうこの人の前では泣かないと決めた。
「別れる」ときはいつも言ってた、「さよなら」。 でも別に付き合ってたわけじゃないんだから、言わなかった。 そう思うと、 自分が何で泣いてるのか、わからなくなって。 「またね」と笑って、 音を立てないように、寺島の家を出た。
走って、部屋へ帰った。
新聞を一番に見ることは、ある時期までは優越だったけれど、 まったく眠れない結果にそれを眺めるのは、 とても、辛い。
体が完全に、夜型になっている。 でも、考えることもない。 ただ眠りたくて、苦しい。 明日は、長い仕事が待っているのに。
仕事の前に、薬を買おうと思った。 薬依存にならないようにしないといけない。
昔の自分をふと見つけることは、なんだか、 くすぐったいようで、でも、じんと来て、 もっと探したくなる。 赤川次郎先生の作品リストを眺めると、 いろいろと、思い出されるものがある。
浅田次郎先生の短編集を眺めていて、 なんとなく見覚えのあるタイトルを見つける。 それは、浅田先生に興味を持ったきっかけの1つになった、 模試に出題された短編だった。 そんなものを受けていた時代を、思い出す。 国語でトップをとることだけが、生きがいだった。 なんて小さな、生きがい。
出題された部分を読み返して、 何故涙が出るのかはわからなかったけど、 生きていてよかったと思えた。 それだけ。
はたから見れば、ただの失恋。 まだあたしは18才。 だからまた歩き出さなくちゃ。 止まっていて失うものもある。 あの日の記憶も、もう大分薄れた。
寺島だって、辛いんだよな。 そう考えると、楽になるから不思議。 だって基本的に、 寺島を責めたくなんかないんだ。 いつだって、寺島を想うあたしでいたいんだ。 優しく接していたい。 行動が伴ってないと、寺島に言われそうだけど。 今度から頑張るから許してね。
「強くなれたと言い聞かせて 弱さの分を涙にする」 涙にして流してしまおう。
なんて小さな決意。 なんて小さな失恋。 なんて小さな私。
今日のことは、もう何日も前から意識してたけど、 そんな日に結婚式挙げるってすごいな。
あたしだったら、笑えない。 考えるたびに、仕事中なのに、ぞくりとした。 今も、する。
花嫁の、目立たなくしてあるけどやっぱりわかるお腹を見ながら、 どうして今日を選んだんだろうと思っていた。 予定、開いてなかったのかな。 今日のお客さんが何となく静かだったのは、意識してたんだろうか。 だって、何の曇りもなく、 何かを祝うことなんて、出来ないと思うのだ。
寺島が傍に居るとき、 藤原が傍に居るとき、 竜崎君が傍に居るとき。 あたしはふっと、 次の瞬間にこの人達がいなくなったら、と想像する。 それは気が遠くなるほどの、恐怖。 絶望。 君らがいない未来など、あたしは要らない。
今日という日だけじゃなく、 いろんな形で、大切な人を失った人が、 世界には数え切れないほど、いて。
その傷は、癒せない。
黙祷。
2004年09月10日(金) |
IN ミスタードーナッツ 幸子のターン |
何かね、前は、 寺島の言い分とか気持ちとか、 難しかったけど、何となくわかったの。
でも今は、全然わからない。 何がしたいのかもわからない。 難しいのもそのままだし。
普通に考えて、 ただの友達の藤原君に「抱き締めてー」なんて言うわけないじゃん? 言えるわけもないし。
じゃぁあんたは、普通の女友達を誘えるかってのよ。 例え体だけの関係だったにしても、 何で純ちゃんを選んだかってのは、 どうしても『過去』が関係してくるわけでしょ?
「過去があるからってお前を特別扱いはしてないだろ?藤原達と比べて。
過去は割り切ってるの」
それはやっぱり、おかしいよ。 『過去』があることと、 純ちゃんの気持ちを知ってる上で、純ちゃんを誘うんだから。 拗ねたことも、おかしいし。
あたしの気持ち、考えてくれてないって? 何で今頃気づくのよ。 あたしがずっと前から言ってるじゃん。 ブレーキなんてかけなくていいの!!!!! 1回キレちゃいなさい!!!!!
あたしねぇ、自分の部屋で、 前に純ちゃんがくれた手紙、読み直したの。 そしたらね、 『もう寺島とは2度と逢わないと思うし、戻らないと思うし…』 って延々と書いてあるの。 笑ったよ。 ウソウソ、今でもラブラブよって、言ってやった。
純ちゃんは、寺島以外の人は好きになれないと思うよ。 だって、寺島のことがいろいろあってるときに、 竜崎君のこと、忘れてるんでしょ? で、 今まで寺島といろっんなことあったけど、純ちゃんはその度に許してる。 それは100%いいことだとは思わないけど、 他の人好きになれない証拠だとは思う。
1度キレてやりなよ。 雨降って地固まるってことも、あんのよ。
その神経も、やっぱりわからないよ。
2004年09月09日(木) |
IN ミスタードーナッツ |
何だか要するに、最近のあたしには、 女としての自覚が足らないらしいんだよ。 深夜まで男3人と飲んだりとか、 自転車でレンタルビデオ屋に行くのについていったりとか。 そういう行動が、許せないんだって。
後は、 「俺を特別扱いしないで」 ってこと。
皆で遊んだり、飲んだりした帰り際にね、 藤原達が先に寺島の家を出てしまったら、 ちょっとだけだけど、2人っきりじゃん? だから、「抱き締めてー」とか言って、酔いにかこつけて、 甘えてたの。 それが嫌だったんだって。
「俺は、お前のことを、藤原達と同じように割り切ってるのに、
『何で俺だけ』、お前を抱き締めたりしなきゃいけないの?」
「藤原に、抱き締めてーとか言う?
俺は、『藤原と同じように』接して欲しいの」
もし寺島が、いつだってあたしに、 「体だけの関係」だって態度だったなら。 何にも、おかしくないじゃん? 甘えてるあたしが、おかしいんだけど。
けど、じゃあ何であの日寺島は、拗ねたんだろうね? 何で、 あたしが寺島の体だけが目当てなのは、嫌だったんだろう?
少しでも、気持ちのつながりがあるんだと思った。 あって欲しいんだと思った。 だから、嬉しかった。
でも、そうじゃなかったってことで。 やっぱり、体だけだった。
そんなことを、寺島の話を聞きながら、思っていたけど。 こんなときの反論は無意味だと、いつからか学習していて。 何も言わなかった。 ただ謝った。
何でだろう、ブレーキがかかるんだよね。 きっと、かけなかったら失う気がするの。
妊娠の話を続けるつもりでいましたが。 どうにも、書かないと乗り切れそうにないので、 現在の話を書きます。 妊娠については、結局していないというオチです。
あ、それでも。 ちょっとはつながってくるのかも。 妊娠疑惑から考えたのは、 「あたしは寺島の何なんだろう」ってことでした。 今はそれが広がって、 「あたしは寺島に必要なのかな」って、思っています。
寺島と、話をしに行って。 そのときは、妊娠してないことはわかっていたけど。 逢ってなかったから、逢いたくて。 話して。 情緒不安定で寂しかったから、くっつかせてもらって。
しばらく話した後で、寺島が言い出した。 「もっと遠くから、見てて欲しいんだ」って。
ごめんなさいと泣くことしか、あたしには出来なかった。 支えたいと近くにいることも、邪魔だったんだね。 そしていつのまにか、甘えてた。 また、その温かい腕に、依存してた。 ごめんね。
最後に抱きつかせてもらった胸は、やっぱり温かくて。 このまま死んでしまえればいいと思った。 ごめんね、自己中で。
部屋に帰って、立ち上げたパソコンには、メールが届いていた。 友達からの、笑えるメール。 ひとしきり笑って、 あぁよかった、笑えるって思って。 1人じゃなかったって、思って。
マリコ。 今のあたしに、そのセリフは反則よ。 あの、愛が溢れる歌を思い出させないで。
笑っていたのに。 たちまち涙が溢れて。
愛する人を、今、失ってきた。 多分きっと、それこそ永遠に。
2004年09月06日(月) |
「逢いたくないんじゃなかったの?」 |
あたしの体調が治り次第、逢う約束をした。 寺島の体調はもうすっかりいいらしく、 それを聞いて安心した。 次の日、寺島の家に行った。
逢うのは何日ぶりだったんだろう。 8月はちょくちょく会っていたからか、 久しぶりと言いたくなる。
後ろからもたれてくる寺島に、 「逢いたくないんじゃなかったの?」 と言うと、 寺島は慌てて笑って、頬にキスをした。
気持ちがちゃんと伝わると、寺島からちゃんと返って来る。 だから、 やっぱり愛情表現とか、意思表現とか、 タイミングとか、大事だと思う。
コミュニケーションをもっと考えなければいけない。 後から考えて、 あぁあれはそういう意味だったんだ、じゃ遅い。 もっともっと成長して。 大人になって。 相手の気持ちを、より正確に汲めるようになりたい。 そこで思いやらなければいけない。
あなたがいつでも、あたしを信じられるように。 これからもそうであるように。
「裏切られた」なんてもう2度と。 思わなくて済むように。 あたしは、あなたを守りたい。
軽いキスを繰り返した。 それが幸せだった。
あたしは要するに、 相手を求める意思表現が下手なのだと思う。 ずっと寺島に伝えていたつもりなのに、 寺島はそれがないと言って悲しんでいたりする。
だから寺島が、ひょんなところで、 「俺を求めてくれたみたいで、嬉しかった」 って言ったりしたのを忘れるわけもなく、 むしろ衝撃で、 それ以来心がけてきた、つもりだった。
それがセックスについてなら、 あまりに言い過ぎたということだろうか? 言い過ぎて、 寺島の体さえあればいいと聞こえたのだろうか。 少なくとも、その話題を持ち出したあたしに対して返ってきたメールは。 そうとしかとれなかった。
「結局それだけなんだろ?だから嫌なんだよ」
予想外のことに、しばらく画面を見つめてしまった。 この人、何言ってるんだろう。 例えあたしのセリフが、体しか要らないように聞こえても。 そんな女を望んだのじゃ、なかったの。 愛を、 心を求める女なんか、うざいんじゃなかったの。
とりあえずそんなことはない、 体調のせいでしばらく顔を見ていないから、見たいだけだよと返した。 本音だった。
朝方の道を、 泣きながら帰ったかどうかは覚えていない。 悩まなかったことは、確かだ。
ケリをつけるのなんて簡単だ。 寺島にもってた希望を、全部捨ててしまえばいい。 期待も捨てればいい。 愛はたとえ捨てても戻ってくると知っていたから、放置した。 そのうち忘れるだろう。 これからの寺島の言動に、冷めてゆくだろう。
惹かれる人はたくさんいた。 竜崎君を始めとして、 バイト先の男の子の坂田君に、萩田さん。 沢松さんも、フレンドリーで素敵。 大学の近藤君だって、背が高くてかっこいいし、 有田君は、優しい。 ミーハーを発揮して、この人達にときめいてればいい。 そうすれば寂しくもない。 笑っていられる。
あたしは大丈夫。 もう、あなたの嫌いなことはしない。 けど笑う。 あなたとなら、 悦びだけのセックスも出来る。 これで完璧。だよね。
そして、 8月29日の日記に、つながる。
「ケリはつけた」 と、寺島は言った。 あたしを抱いた後、 帰り際、玄関先で。
あの日あたしを押し倒し、嫌われることで。 ケリをつけようとしたのだと言った。 そして、 ついたと。
だから、 「今引き止めたくもないし、 嫉妬とか、嫉妬させようとか、そういうことも思わない」 と、言った。
割り切れたということ。 あたしを完全に、体だけの関係として。
その日あたしを誘ったときの、甘い目を思い出していた。 抱き締める腕も覚えていた。 見つめられて途惑ったこと。 相変わらず、胸の中は暖かかったこと。 信じちゃいけないのを知っていながら、 信じずにはいられなかったこと。
思い出しながら、けれどさっぱりした頭で、受け止めた。 そうか。 それならあたしも、ケリをつけなければいけないね。
もう2度と、あなたを求めてはいけないということだね。
「君が求めるものは、あげられない。」
そうはっきり、あなたも言った。
うん。 けれど、あなたがいつかまた私の体を求めてくることも知ってるから。 そのときちゃんと応えられるように、 整理をつけておくね。 悲しくならないように。泣きたくならないように。 応えたいと思う心だけ、残しておくから。
愛していることを、思い出してしまうから。
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