他愛もない世間話が続く。 楽しい。だけど何か変。 寺島のことを考えてから。
また話題が、あたし達のところに戻る。 「でもさ…あれはありえないよな」 「あれって?」 「『俺のこと好きでしょ?』ってやつ」 「ああ…」 9月のいつだったかに、寺島があたしに言った言葉だった。 あたしが、胸に伸びる寺島の手を制したときに。 振った彼女に言うなんて、俺は確信犯だって言っちゃったようなモノ。 あたしは呆然として、何も言えなかった。 圭ちゃんや宮島は怒ってくれた。 「ちょっと、自信過剰だよな」 「うん…今に始まったことじゃないけど。 拒否してなかったあたしも悪いんだし」 「そういう問題でもない気がするけどね…。 寺島のそんな姿勢がおかしいんだろ」 「受験だから…ちょっと麻痺してんのかも、そういうことに関して。 今改めろったって無理でしょ」 「そりゃそうだな…」 「それ待っとくのも辛いし…」 「いや、待っとけ」 「無駄」 「戻るから」 「戻んない!」 結局オチはここにくる。 今度は「戻る」という言葉が響いた。 寺島との最後の会話がよぎる。
…まずい。 この期に及んでまであたしは、戻りたいなんて思うんだろうか。 あんなにも醜くなった自分を知っているのに。 最後の会話なんて思い出したら。 きっとまた、壊れてしまうのに。
あの日。 あたしは、明るくこの場を終わらせようと、笑って言った。 「今度ウチに来るときは、告白しに来てよ」 あの人はためらうことなく、 「ああ。花束持って、行くよ」 と、言った。 最後のジョークだと、わかっていた。
…本当だろうか? わかっていなかったから、考えないようにしていただけじゃないのか。
***
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アクセス制限。 よく考えてみれば、有害な言葉があるからかかるのだと気が付く。 この日記の8月の目次にもかかる。 多分、「〇薬?いいえ、媚薬」かと…。
あー、不便。
2003年10月28日(火) |
そしてそのままキスをした。 |
「また送ってくれるの?」 「ああ。これが最後だろうからな」 「こないだもそんなこと言ってたよ」 「そうだっけ」 やっぱり最後じゃなかったね。 当たり前だけど、と思う反面、なんだか安心する。 宮島や、竜崎君や、寺島や市丸を失うこと。 もしかしたら、恋を亡くすより怖いかもしれない。 恋を亡くしたとき、支えてくれたのはこの人達だったし、 これからもきっとそうだろうから。
「戻るよ、絶対」 「戻んないよ」 「戻るって」 「戻んない」 「『2度あることは3度ある』って言うだろ?」 「別れるの3回目なんだけど?」 「…」 「だからもうさすがに終わり。どう頑張っても戻らないって」 戻りたくても今は無理。 受験が大きすぎるから。 「受験が終わったら戻れるかも、なんて期待もしたくない。 外れることわかってんだから、無駄だよ」 「あ、わかった」 「え?」 「『7転び8起き』だ!」 「…υ」 何でそんなに戻ってほしいんだろう。 そう聞いても、宮島はのらりくらりとかわすばかりで答えない。 戻ることなんて、もうないのに。
その日の宮島は、遅くまで喋ってくれた。 「え?宮島君コーヒー飲めないの?」 「うん」 「じゃ何が好きなの?」 「ハンバーグとステーキ」 意外と子供っぽい宮島が可愛い。 付き合いは長いのに、そんな話をするのは初めてだった。 「偏食だね。大きくなれないよ」 「俺はずっと少年さ」 寺島は好き嫌いはなかったな。 あえて言うならそう、チョコレートが好きで。 ポッキーをあげたら、嬉しそうに食べていた。 ああそうだ。あれは冬季限定のポッキーだった。 最後の1本で、寺島がポッキーゲームを仕掛けてきたっけ。 そしてそのままキスをした。 ココアパウダーの味がして、あたしは──
そこで意識が戻った。 宮島が、学校の同級生の話をしていた。
…あれ?
「もしもこの先、お前が他のヤツと恋をして、結婚式を挙げるとするだろ。 でも絶対途中で寺島が乱入してきて、『純子!』とかって呼ぶんだ。 お前はためらいながらも、ヤツの手をとる。 実は新郎は市丸で、それをお祝いに来ていたあの人(圭)が慰めて。 そして俺と竜崎が、『ブラヴォー!』って言って拍手すんの。 2組のカップルの門出に」 あたしは、苦笑するしかなかった。
宮島はずっと、あたしと寺島の復縁ストーリーを創り続けていた。 そんなにもあたしによりを戻してほしいのかと、最初は悲しかったけれど、 不思議と元気になれたのはどうしてだっただろう。 「気をつけろよ。どこの茂みから寺島が飛びかかってくるかわかんねぇ」 「んなことあるかυ」 彼の話術のせいもきっとある。 やっぱり笑えるのが、一番だよね。
「ありがとう、送ってくれて。またね」 「いや、これでもう会うの最後だろうし」 「…またね、みっちゃん♪」 「最後だって」 最後じゃないこと、ちゃんとわかってるから言えること。 そういうのが好き。
その次の次の日。 テストが明けて、圭達とカラオケに行った帰り。 あたしは、宮島御用達の古本屋へ行ってみた。 少しの気まぐれ、好奇心。 ただの二つ結びを、宮島のために三つ編みにする。 遊び心。
…見つけた。 思わず笑みが浮かぶ。 見覚えのある自転車を見たときからわくわくしてた。 小声で会話を交すのが楽しかった。 「ストーカーだろ」ってからかわれるのも嬉しかった。 こんなときめきは久しぶりで、心地がいい。
ねぇ。 恋ってこういうものだったよねぇ。
***
今日学校のPCが、ネット繋ぎ放題であることを知りました。 アクセス制限は仕方のないことですが、 何故WhoisMyは見れて、MyEnpituはダメなんでしょう。 理由がよくわかりません。
久々にWhoisMyを見たら、かなり増えてて驚きました。 すごく嬉しかったです。ありがとうございます。 そのうちにお邪魔すると思います。
制限はランキングにもかかっています。 恋愛ランキングはダメで、でも遠距離恋愛のランキングはOKです。 …謎。
2003年10月26日(日) |
まさか本当にいるとはね。 |
…おや? あの、後ろ姿は。
「…みっちゃん?」 「…え?!ここで何してるんだ?」 「勉強。あ、これが宮島君」 「そうなの?初めまして」 「こちらが、圭ちゃん」 「(ああ、市丸が惚れてるっていう…)どうも」 中間テストの期間中。 あたしと圭と、もう2人の友達とで、 大きな、街の図書館に学校から直接来ていた。 その図書館に近い高校に通う宮島に。 会えないかなぁなんて期待したりもしていたけど。 まさか本当にいるとはね。
市丸の想い人、圭のことは。 仲間内では話題の的。 でも宮島と竜崎君には、プリクラでしか見せたことがなかったから。 ちょうどよかったな、と思った。
「ね?圭ちゃん可愛かったでしょ」 圭と別れて、宮島と2人で帰る道。 何年ぶりかな、この2人で帰るの。 「よくわかんなかったよ」 「えー?」 「だってさ、顔に『市丸の好きな女』って書いてあるんだもん」 「(笑)」 楽しかった。 寺島のことも話した。 数学の試験で92点とったって聞いて、驚いた。 「えー!!すごーい!!」 「…。一夜漬けだぞ。まぐれまぐれ」 寺島なら、『だろ?』って返ってくる場面。 ちょっと拍子抜けして、でも新鮮だった。 寺島のこと、本当にすごいと思っていたから、 自慢を聞くのが辛かったわけではないのだけど。
町の橋を渡りきると、宮島の家はすぐそこ。 あたしの家までは少し距離がある。 でも楽しかったから。1人でも寂しくないと思えた。 「あ、ここで分かれだね。じゃあね、みっちゃん」 「おう……え?送っていって欲しいって?」 「えっ?」
何?この漫画みたいな展開。
刹那の沈黙を破ったのは、寺島。
「…まだ、言うことあるでしょ?」 「!」 「…」 「…もう、来ないで」 「わかった」 「合格報告、楽しみにしてる」 「うん」
こんなに簡単だったのにね。 孤独感も、ちっとも変わらないのにね。 あたしは何を怖がっていたんだろう。 いつの間にかあたしの世界は元通り、 寺島がいないという寂しさにくすんだ色を、していた。
でも最後まで、あなたが背を押してくれた。 直前の瞬間まで怖がっていたあたしを、見抜いてくれた。 …ありがとう。 そしてさようなら。 「恋人」のあなた。 これからは「友達」だよ。 本当に。
悲しくなんかない。 あたしはもうとうの昔に、寺島を失っていた。 とうの昔に、独りだった。 何も変わらない。 見上げる空の、星の輝きも変わらないよ。 あたしがいくらキレイだ言っても、あなたはいつもどうでもよさげに頷いていたけど。 決ってその後に、 「隣でお前が輝いてるから、見えないよ」 なんて言ってくれてたっけね。 懐かしくて、愛おしくて、 久しぶりに、気持ちが溶けるような涙を流した。
いつかあなたが、自由になったなら。 自然と星がキレイだと思えるくらい、心に余裕が持てたなら。 皆で星を見ながら、お酒を飲もうね。 楽しみにしてる。
2003年10月21日(火) |
まだ好き、なの、に。 |
「もう、来ないで」 その一言が言えたらどんなに楽かと。 あたしは何度思ったろう。 ああ今日もまた言えなかった。流された。 何度そう後悔しただろう。 もうそんなことの繰り返しに。 耐えられなかった。
日に日に強くなる、夜の冷たさを実感しながら。 暇な市丸に呼び出されて、1時間程しゃべった後。 市丸におやすみを言って、あたしは家の門を閉じようとしていた。 でも、やっぱりね。 あたしの万一の予想を裏切らなかった人影。 だってその日は火曜日だった。
抱きしめられた、腕のなかで。 「あー寒かった!陽ちゃんあったかい♪」 あたしが感じられる、唯一の幸せを口にする。 しなければ、知らぬ間に誤解してしまいそうだった。 「手、冷たいけど…ごめんね」 そう言って寺島はあたしの頬に手を添えた。 「ううん…」 いいんだよ。 あなたの手が冷たいのは、塾に行ったせいなんだから。 あたしと過ごしているうちに、温かくなるその手。 「あ、あったかくなったね」って言って、いつだったか笑ったことを覚えている? 冷たさの向こうにあるあなたの体温を感じながら、そんなことを思い出していたよ。 戻れないことなんて、わかっていたけど。
「あ、また今日も言えなかった」 『おやすみ』を言われた後で、言いたくなる。 というよりはむしろ、言わなければいけないと焦る。 いつもと同じ、帰り道の葛藤。 でも今日はきっと、言ってみせる。 「何?」 「時間ないでしょ?」 「…何?」 「…」 「…」 「…あたしは…見返りを求めずにいられるほど、純粋じゃない」 「…」 「…ごめんね」 「…」 「…」 あと一言。 あと一言なのに。 どうして言えないの? でも現実なの?これ? あたしが言わなきゃいけないの? 複テいよ。 無理だよ。 さよならなんて、言えないよ。 まだ好き、なの、に。
ああ世界が、変わっていく。 あたしの見たことのない色に。
2003年10月15日(水) |
そんなことあるわけないとか思いつつ |
歌った。 笑った。 笑い転げた。 久しぶりの、本当に久しぶりの、こんな時間。 寺島と付き合っていたときにまとわりついていた、罪悪感が。 すっかり無くなった今を、哀しいとも思わずに。 あたしは心底楽しんだ。
竜崎君が得意のポルノグラフィティを歌うなか、 うたぼんを指差して、宮島が口をパクパクさせている。 「何?わかんないよ!」 伴奏を待って、やっと聞こえるくらいの音量になった。 「『タッチ』!歌うよ」 「歌ったら?」 「一緒に歌おうよ」 あたしが、あたしの時間が止まるほどときめいたことに。 彼は、気づいただろうか?
♪すれちがいや まわり道を あと何回 過ぎれば 2人はふれあうの?♪ 2人って誰と誰のことだと思えばいい? 宮島とか、思ってていい? 中学の卒業間際、寺島ほどではなかったけど、 宮島に惹かれていた頃を思い出した。 …懐かしいな。
「じゃあまたねぇ♪自転車ありがと♪」 「おう。じゃあなぁ」 竜崎君と宮島と別れた後、市丸と帰りながら、 宮島の優しさを、2人で語った。 「絶対好きだよ」 って言う市丸を笑って、 そんなことあるわけないとか思いつつも、 つい口をつく『タッチ』のメロディーを、 あたしは止められずにいたのだった。
ピン、ポーン、と。 音が響く度に、私は。 敷居の向こうにたたずむ寺島を期待する。
でもその日は、開ける前から声がしていた。 どこかで見たようなシルエットが揺れていた。 「久しぶり!」 竜崎君の後ろで、宮島が手を振ってくれた。 目の前には、チャイムを鳴らした市丸が立っていた。
いつも突然やってくる、男友達3人(1人は常連だが)。 小学校から一緒の人達。 本当なら、寺島も含まれているグループだけど。 受験のおかげで、最近はもっぱら4人で遊んでいる。 それが実は、2度目のさよならの原因だったことは、初公開かもしれない。 今はちょっと、遠い記憶。
4人になると、いつでも。 私と宮島、市丸と竜崎君に分かれてしまう。 本当なら、私と竜崎君が逆のはずなのに、 不思議なもので、それで会話が進んでいく。 「カラオケ行こう!」 珍しく宮島が、3人を引っ張った。 寺島が果たしていた、その役目。
自転車を持たない私に、いつも速度を合わせてくれる3人。 けれど、その速度で進んだら遅くなるという理由で、 宮島が自転車を貸してくれた。 そして自分は走るって。 まだ体力は落ちてないって。
…おっ。 久しぶりだな、この感覚。 自転車に乗る感覚。 誰かにときめく、感覚。
「ねぇ、この間は、ごめん」 次の火曜日。 寺島の腕のなかで、私は謝った。
「ん?何が?」 「電話、しちゃったでしょ」 「ああ。いいよ、別。」 「でも…ごめんね、こんな時期に」 「いいよ。だって『親友』でしょ」 「…」 その言葉に途惑った私を、寺島は見抜いただろうか。 わからない。 多分、知らない。
「親友」という言葉に逃げているんじゃないかと。 私達の関係は、「元恋人」のそれでしかないと。 誰かが繰り返す私の頭に、寺島の言葉は重たく響いた。 私、本当に「親友」やれてる? あなたの将来のために、今のあなたを支えてあげられている?
「俺ね。何でも一人でやろうとしちゃうんだ。 それも、他の人には出来ないこと。 人に頼るのも、逃げるのも嫌なんだ」 「でも陽ちゃん…人間一人っきりで、 一生過ごしていけるものじゃないわ」 「わかってるよ。そうとも思う。 その矛盾で、今俺は苦しい。 矛盾に気づいているからこそ、苦しい」
そんな風に考えることの出来る人が。 私との関係の矛盾に気づかない。 いいえ、気づかないふりをしている。
受験さえなければ、この人はここまでおかしくならなかったのかもしれないし、 ないのになったとしたら、私は今より傷ついて、 その分強くなることが出来たのかもしれない。
こんな風に考える私も、寺島と同じくらい罪深いのだろう。
「もしもし」
「もしもし、あ…。勉強、してた?」
「あ、うん…してたっちゃしてたかな」
「何それ」
「さっきまで寝てて、今始めたとこだったから(笑)」
「(笑)」
「どうした?何か用?」
「ううん…。今さっき、ちょっと怖かったことがあって」
「はぁ」
「それでその…声が聞きたかっただけ」
「…(苦笑)あぁ、そう」
「あぁそうとは何よ!あーあ、あたしの愛の告白が…」
「(笑)何だそりゃ」
「(笑)冗談だけどね」
「…」
「…ごめん、本当にそれだけ」
「いいけど…何があったかぐらい話せよ」
「…いいの?」
「いいよ」
「…。…さっきスーパーで…お母さん倒れちゃって」
「…」
「倒れたっていうか、なんかおかしくなって。痙攣とかしてて」
「…」
「救急車呼んで、病院行って…」
「…」
「今帰って来たんだけど…独りでいたら怖くて怖くて」
「…何て言えばいいのか、わかんないけど…」
「ううん!いいの。聞いてくれただけで、嬉しい」
「…」
「本当に…陽ちゃんの声が聞きたかっただけなの」
「…そう…」
「勉強、してたんでしょ?ごめんね」
「いや」
「じゃあ、頑張って。ありがとう」
「ああ。じゃあ…」
「うん。ばいばい」 ピッ。
切って初めて、ああ、あたし正気じゃないと思った。 こんな時期に寺島に電話するなんて。 そうして否応なく、まだ寺島に恋していることを思い知らされて。 恐怖と不安は確かに消えたけれど、 切ない気持ちが残ってしまったじゃないか。
あたし、馬鹿だ。
***
付け加え。
今日は寺島と、種元駿君の誕生日です。
駿君のご冥福をお祈りすると共に、 今この瞬間に生きていることの幸せと、罪深さを感じています。 これから一生、私の人生がいつ終わるかはわからないけれど、 この日が来る度に私は、思い出すでしょう。
そうした意味も、ひっくるめて、私は。 あなたに「おめでとう」を言います。 誕生日おめでとう。 生きていてくれてありがとう。 お母様。あの人を生んでくださってありがとうございます。 陽介さんがいらしたから。 今の私があるのです。
2003年10月11日(土) |
ぼんやりした頭でやっと |
けれど今思えば。 「親友」という、とても都合のいい言葉で。 自分たちを正当化していた節がある。
それでも、それで当人同士納得できるのなら、 後悔しないのなら、かまわないじゃないかと思った。 後の条件の自信は、なかったけど、 そこはまた、会ったときに話し合うつもりでいて。
ある土曜日。 その日は、地元の祭りだった。 市丸と、もう一人男友達と、あたしの弟と行く予定だった。 昼間、あたしは母とスーパーへ買い物へ行った。 そこで起きた、予想外な展開。
母が倒れた。 倒れたというよりかは、発作を起こしたに近かった。 病院から家に帰ってきたとき、あたしはへとへとで。 初めて見た発作に対する恐怖と不安が、まだ鮮やかに体に残っていて。 ぼんやりした頭でやっと、今日の祭りはあたしは行かないってことと、 今、寺島の声が聞きたいってことを、認識した。
2003年10月09日(木) |
どちらが適任なのかという問題。 |
涙が、純粋な嬉しさからこぼれたものだと、 あたしが思えるのだからそれでいい。
元々あたし達には。 そのカタチが一番似合っていたのかもしれない。 過去を否定するわけではない。 それへの回り道だったと思えば哀しくもない。
思い当たることはいくらでも。 いつかの金曜日が、あんなに楽しかったのはそのせい。 「恋人」という名前のつく時間ではなかったから。 そう感じていたのは、やっぱりあたしだけじゃなかったのね。
「恋人」は辛すぎる。重たすぎる。 期待しすぎる。 あたし達はそれを克服できなかったと言えばそれまでだけれど、 それでも、お互いを失うことを選べなかったと言えば、 ちょっとは格好がつくだろう。
戻りたいと今は思わないし、これからも思わないと思う。 あの人のなかに、誰かが存在する限り。 その誰かが、あの人に幸せをくれるのだから、 嫉妬する理由なんてどこにあるだろう?
恋人と親友を兼ねた存在になることは無理だった。 どちらが適任なのかという問題。 適任であれば、寺島の傍にいられるのだからどちらでもかまいやしない。 そうしてどちらかと言えば。 何でも話し合える、親友になりたいとあたしは思った。 恋人だったときは、親友が羨ましかった。 寺島の本音を、何の不自然さもなく聞くことができるのだから。 どんなカタチであれ、あたしはいつも寺島の本音や愚痴を聞いてやりたいし、 寺島には、あたしの仕入れてくる噂話を聞いて欲しいと思う。
逆に言えば。 あたしはそれだけで十分で。 恋人のときと同じくらいの幸せを、感じていた。
2003年10月06日(月) |
「親友」という言葉で |
自分のなかで。 あたしは「恋人」というよりも、「親友」だと、 あの人は言った。 あたしは別に、反論もしなかった。
あたしは「親友」という言葉を素直に喜び、 これからの未来を幸せだと思った。
真実ならば、あたしは今でもそれを嬉しいと思うし、 ずっとそうでありたいと願う。 真実だと思えるならば。
あたしって本当幸せだ。 別れても、この人を失いはしないのだから。 今のあたしの、最もかけがえのない人に、 「親友」という言葉で、未来を保障してもらったのだから。 ぽろぽろと、涙が雫れた。 失わないと思えることが、嬉しかった。 あたしはいい加減。 「恋人」という関係の危うさに疲れていたのかもしれない。
この涙を。 恋人では「ない」悲しさだとは、到底思えなかった。
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