under one umbrella

2003年10月29日(水) 確信犯


他愛もない世間話が続く。
楽しい。だけど何か変。
寺島のことを考えてから。

また話題が、あたし達のところに戻る。
「でもさ…あれはありえないよな」
「あれって?」
「『俺のこと好きでしょ?』ってやつ」
「ああ…」
9月のいつだったかに、寺島があたしに言った言葉だった。
あたしが、胸に伸びる寺島の手を制したときに。
振った彼女に言うなんて、俺は確信犯だって言っちゃったようなモノ。
あたしは呆然として、何も言えなかった。
圭ちゃんや宮島は怒ってくれた。
「ちょっと、自信過剰だよな」
「うん…今に始まったことじゃないけど。
拒否してなかったあたしも悪いんだし」
「そういう問題でもない気がするけどね…。
寺島のそんな姿勢がおかしいんだろ」
「受験だから…ちょっと麻痺してんのかも、そういうことに関して。
今改めろったって無理でしょ」
「そりゃそうだな…」
「それ待っとくのも辛いし…」
「いや、待っとけ」
「無駄」
「戻るから」
「戻んない!」
結局オチはここにくる。
今度は「戻る」という言葉が響いた。
寺島との最後の会話がよぎる。

…まずい。
この期に及んでまであたしは、戻りたいなんて思うんだろうか。
あんなにも醜くなった自分を知っているのに。
最後の会話なんて思い出したら。
きっとまた、壊れてしまうのに。


あの日。
あたしは、明るくこの場を終わらせようと、笑って言った。
「今度ウチに来るときは、告白しに来てよ」
あの人はためらうことなく、
「ああ。花束持って、行くよ」
と、言った。
最後のジョークだと、わかっていた。

…本当だろうか?
わかっていなかったから、考えないようにしていただけじゃないのか。


***

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アクセス制限。
よく考えてみれば、有害な言葉があるからかかるのだと気が付く。
この日記の8月の目次にもかかる。
多分、「〇薬?いいえ、媚薬」かと…。

あー、不便。





2003年10月28日(火) そしてそのままキスをした。

「また送ってくれるの?」
「ああ。これが最後だろうからな」
「こないだもそんなこと言ってたよ」
「そうだっけ」
やっぱり最後じゃなかったね。
当たり前だけど、と思う反面、なんだか安心する。
宮島や、竜崎君や、寺島や市丸を失うこと。
もしかしたら、恋を亡くすより怖いかもしれない。
恋を亡くしたとき、支えてくれたのはこの人達だったし、
これからもきっとそうだろうから。


「戻るよ、絶対」
「戻んないよ」
「戻るって」
「戻んない」
「『2度あることは3度ある』って言うだろ?」
「別れるの3回目なんだけど?」
「…」
「だからもうさすがに終わり。どう頑張っても戻らないって」
戻りたくても今は無理。
受験が大きすぎるから。
「受験が終わったら戻れるかも、なんて期待もしたくない。
外れることわかってんだから、無駄だよ」
「あ、わかった」
「え?」
「『7転び8起き』だ!」
「…υ」
何でそんなに戻ってほしいんだろう。
そう聞いても、宮島はのらりくらりとかわすばかりで答えない。
戻ることなんて、もうないのに。

その日の宮島は、遅くまで喋ってくれた。
「え?宮島君コーヒー飲めないの?」
「うん」
「じゃ何が好きなの?」
「ハンバーグとステーキ」
意外と子供っぽい宮島が可愛い。
付き合いは長いのに、そんな話をするのは初めてだった。
「偏食だね。大きくなれないよ」
「俺はずっと少年さ」
寺島は好き嫌いはなかったな。
あえて言うならそう、チョコレートが好きで。
ポッキーをあげたら、嬉しそうに食べていた。
ああそうだ。あれは冬季限定のポッキーだった。
最後の1本で、寺島がポッキーゲームを仕掛けてきたっけ。
そしてそのままキスをした。
ココアパウダーの味がして、あたしは──

そこで意識が戻った。
宮島が、学校の同級生の話をしていた。

…あれ?




2003年10月27日(月) 遊び心。


「もしもこの先、お前が他のヤツと恋をして、結婚式を挙げるとするだろ。
でも絶対途中で寺島が乱入してきて、『純子!』とかって呼ぶんだ。
お前はためらいながらも、ヤツの手をとる。
実は新郎は市丸で、それをお祝いに来ていたあの人(圭)が慰めて。
そして俺と竜崎が、『ブラヴォー!』って言って拍手すんの。
2組のカップルの門出に」
あたしは、苦笑するしかなかった。

宮島はずっと、あたしと寺島の復縁ストーリーを創り続けていた。
そんなにもあたしによりを戻してほしいのかと、最初は悲しかったけれど、
不思議と元気になれたのはどうしてだっただろう。
「気をつけろよ。どこの茂みから寺島が飛びかかってくるかわかんねぇ」
「んなことあるかυ」
彼の話術のせいもきっとある。
やっぱり笑えるのが、一番だよね。

「ありがとう、送ってくれて。またね」
「いや、これでもう会うの最後だろうし」
「…またね、みっちゃん♪」
「最後だって」
最後じゃないこと、ちゃんとわかってるから言えること。
そういうのが好き。


その次の次の日。
テストが明けて、圭達とカラオケに行った帰り。
あたしは、宮島御用達の古本屋へ行ってみた。
少しの気まぐれ、好奇心。
ただの二つ結びを、宮島のために三つ編みにする。
遊び心。

…見つけた。
思わず笑みが浮かぶ。
見覚えのある自転車を見たときからわくわくしてた。
小声で会話を交すのが楽しかった。
「ストーカーだろ」ってからかわれるのも嬉しかった。
こんなときめきは久しぶりで、心地がいい。

ねぇ。
恋ってこういうものだったよねぇ。


***

今日学校のPCが、ネット繋ぎ放題であることを知りました。
アクセス制限は仕方のないことですが、
何故WhoisMyは見れて、MyEnpituはダメなんでしょう。
理由がよくわかりません。

久々にWhoisMyを見たら、かなり増えてて驚きました。
すごく嬉しかったです。ありがとうございます。
そのうちにお邪魔すると思います。

制限はランキングにもかかっています。
恋愛ランキングはダメで、でも遠距離恋愛のランキングはOKです。
…謎。



2003年10月26日(日) まさか本当にいるとはね。

…おや?
あの、後ろ姿は。

「…みっちゃん?」
「…え?!ここで何してるんだ?」
「勉強。あ、これが宮島君」
「そうなの?初めまして」
「こちらが、圭ちゃん」
「(ああ、市丸が惚れてるっていう…)どうも」
中間テストの期間中。
あたしと圭と、もう2人の友達とで、
大きな、街の図書館に学校から直接来ていた。
その図書館に近い高校に通う宮島に。
会えないかなぁなんて期待したりもしていたけど。
まさか本当にいるとはね。

市丸の想い人、圭のことは。
仲間内では話題の的。
でも宮島と竜崎君には、プリクラでしか見せたことがなかったから。
ちょうどよかったな、と思った。


「ね?圭ちゃん可愛かったでしょ」
圭と別れて、宮島と2人で帰る道。
何年ぶりかな、この2人で帰るの。
「よくわかんなかったよ」
「えー?」
「だってさ、顔に『市丸の好きな女』って書いてあるんだもん」
「(笑)」
楽しかった。
寺島のことも話した。
数学の試験で92点とったって聞いて、驚いた。
「えー!!すごーい!!」
「…。一夜漬けだぞ。まぐれまぐれ」
寺島なら、『だろ?』って返ってくる場面。
ちょっと拍子抜けして、でも新鮮だった。
寺島のこと、本当にすごいと思っていたから、
自慢を聞くのが辛かったわけではないのだけど。


町の橋を渡りきると、宮島の家はすぐそこ。
あたしの家までは少し距離がある。
でも楽しかったから。1人でも寂しくないと思えた。
「あ、ここで分かれだね。じゃあね、みっちゃん」
「おう……え?送っていって欲しいって?」
「えっ?」

何?この漫画みたいな展開。




2003年10月23日(木) 楽しみにしてる。

刹那の沈黙を破ったのは、寺島。

「…まだ、言うことあるでしょ?」
「!」
「…」
「…もう、来ないで」
「わかった」
「合格報告、楽しみにしてる」
「うん」

こんなに簡単だったのにね。
孤独感も、ちっとも変わらないのにね。
あたしは何を怖がっていたんだろう。
いつの間にかあたしの世界は元通り、
寺島がいないという寂しさにくすんだ色を、していた。

でも最後まで、あなたが背を押してくれた。
直前の瞬間まで怖がっていたあたしを、見抜いてくれた。
…ありがとう。
そしてさようなら。
「恋人」のあなた。
これからは「友達」だよ。
本当に。


悲しくなんかない。
あたしはもうとうの昔に、寺島を失っていた。
とうの昔に、独りだった。
何も変わらない。
見上げる空の、星の輝きも変わらないよ。
あたしがいくらキレイだ言っても、あなたはいつもどうでもよさげに頷いていたけど。
決ってその後に、
「隣でお前が輝いてるから、見えないよ」
なんて言ってくれてたっけね。
懐かしくて、愛おしくて、
久しぶりに、気持ちが溶けるような涙を流した。


いつかあなたが、自由になったなら。
自然と星がキレイだと思えるくらい、心に余裕が持てたなら。
皆で星を見ながら、お酒を飲もうね。
楽しみにしてる。




2003年10月21日(火) まだ好き、なの、に。

「もう、来ないで」
その一言が言えたらどんなに楽かと。
あたしは何度思ったろう。
ああ今日もまた言えなかった。流された。
何度そう後悔しただろう。
もうそんなことの繰り返しに。
耐えられなかった。


日に日に強くなる、夜の冷たさを実感しながら。
暇な市丸に呼び出されて、1時間程しゃべった後。
市丸におやすみを言って、あたしは家の門を閉じようとしていた。
でも、やっぱりね。
あたしの万一の予想を裏切らなかった人影。
だってその日は火曜日だった。


抱きしめられた、腕のなかで。
「あー寒かった!陽ちゃんあったかい♪」
あたしが感じられる、唯一の幸せを口にする。
しなければ、知らぬ間に誤解してしまいそうだった。
「手、冷たいけど…ごめんね」
そう言って寺島はあたしの頬に手を添えた。
「ううん…」
いいんだよ。
あなたの手が冷たいのは、塾に行ったせいなんだから。
あたしと過ごしているうちに、温かくなるその手。
「あ、あったかくなったね」って言って、いつだったか笑ったことを覚えている?
冷たさの向こうにあるあなたの体温を感じながら、そんなことを思い出していたよ。
戻れないことなんて、わかっていたけど。


「あ、また今日も言えなかった」
『おやすみ』を言われた後で、言いたくなる。
というよりはむしろ、言わなければいけないと焦る。
いつもと同じ、帰り道の葛藤。
でも今日はきっと、言ってみせる。
「何?」
「時間ないでしょ?」
「…何?」
「…」
「…」
「…あたしは…見返りを求めずにいられるほど、純粋じゃない」
「…」
「…ごめんね」
「…」
「…」
あと一言。
あと一言なのに。
どうして言えないの?
でも現実なの?これ?
あたしが言わなきゃいけないの?
複テいよ。
無理だよ。
さよならなんて、言えないよ。
まだ好き、なの、に。


ああ世界が、変わっていく。
あたしの見たことのない色に。




2003年10月15日(水) そんなことあるわけないとか思いつつ

歌った。
笑った。
笑い転げた。
久しぶりの、本当に久しぶりの、こんな時間。
寺島と付き合っていたときにまとわりついていた、罪悪感が。
すっかり無くなった今を、哀しいとも思わずに。
あたしは心底楽しんだ。

竜崎君が得意のポルノグラフィティを歌うなか、
うたぼんを指差して、宮島が口をパクパクさせている。
「何?わかんないよ!」
伴奏を待って、やっと聞こえるくらいの音量になった。
「『タッチ』!歌うよ」
「歌ったら?」
「一緒に歌おうよ」
あたしが、あたしの時間が止まるほどときめいたことに。
彼は、気づいただろうか?


♪すれちがいや まわり道を
あと何回 過ぎれば 2人はふれあうの?♪
2人って誰と誰のことだと思えばいい?
宮島とか、思ってていい?
中学の卒業間際、寺島ほどではなかったけど、
宮島に惹かれていた頃を思い出した。
…懐かしいな。


「じゃあまたねぇ♪自転車ありがと♪」
「おう。じゃあなぁ」
竜崎君と宮島と別れた後、市丸と帰りながら、
宮島の優しさを、2人で語った。
「絶対好きだよ」
って言う市丸を笑って、
そんなことあるわけないとか思いつつも、
つい口をつく『タッチ』のメロディーを、
あたしは止められずにいたのだった。




2003年10月14日(火) …おっ。

ピン、ポーン、と。
音が響く度に、私は。
敷居の向こうにたたずむ寺島を期待する。

でもその日は、開ける前から声がしていた。
どこかで見たようなシルエットが揺れていた。
「久しぶり!」
竜崎君の後ろで、宮島が手を振ってくれた。
目の前には、チャイムを鳴らした市丸が立っていた。


いつも突然やってくる、男友達3人(1人は常連だが)。
小学校から一緒の人達。
本当なら、寺島も含まれているグループだけど。
受験のおかげで、最近はもっぱら4人で遊んでいる。
それが実は、2度目のさよならの原因だったことは、初公開かもしれない。
今はちょっと、遠い記憶。


4人になると、いつでも。
私と宮島、市丸と竜崎君に分かれてしまう。
本当なら、私と竜崎君が逆のはずなのに、
不思議なもので、それで会話が進んでいく。
「カラオケ行こう!」
珍しく宮島が、3人を引っ張った。
寺島が果たしていた、その役目。


自転車を持たない私に、いつも速度を合わせてくれる3人。
けれど、その速度で進んだら遅くなるという理由で、
宮島が自転車を貸してくれた。
そして自分は走るって。
まだ体力は落ちてないって。


…おっ。
久しぶりだな、この感覚。
自転車に乗る感覚。
誰かにときめく、感覚。




2003年10月13日(月) 寺島の罪、私の罪。

「ねぇ、この間は、ごめん」
次の火曜日。
寺島の腕のなかで、私は謝った。

「ん?何が?」
「電話、しちゃったでしょ」
「ああ。いいよ、別。」
「でも…ごめんね、こんな時期に」
「いいよ。だって『親友』でしょ」
「…」
その言葉に途惑った私を、寺島は見抜いただろうか。
わからない。
多分、知らない。

「親友」という言葉に逃げているんじゃないかと。
私達の関係は、「元恋人」のそれでしかないと。
誰かが繰り返す私の頭に、寺島の言葉は重たく響いた。
私、本当に「親友」やれてる?
あなたの将来のために、今のあなたを支えてあげられている?



「俺ね。何でも一人でやろうとしちゃうんだ。
それも、他の人には出来ないこと。
人に頼るのも、逃げるのも嫌なんだ」
「でも陽ちゃん…人間一人っきりで、
一生過ごしていけるものじゃないわ」
「わかってるよ。そうとも思う。
その矛盾で、今俺は苦しい。
矛盾に気づいているからこそ、苦しい」

そんな風に考えることの出来る人が。
私との関係の矛盾に気づかない。
いいえ、気づかないふりをしている。

受験さえなければ、この人はここまでおかしくならなかったのかもしれないし、
ないのになったとしたら、私は今より傷ついて、
その分強くなることが出来たのかもしれない。

こんな風に考える私も、寺島と同じくらい罪深いのだろう。




2003年10月12日(日) 誕生日

「もしもし」

「もしもし、あ…。勉強、してた?」

「あ、うん…してたっちゃしてたかな」

「何それ」

「さっきまで寝てて、今始めたとこだったから(笑)」

「(笑)」

「どうした?何か用?」

「ううん…。今さっき、ちょっと怖かったことがあって」

「はぁ」

「それでその…声が聞きたかっただけ」

「…(苦笑)あぁ、そう」

「あぁそうとは何よ!あーあ、あたしの愛の告白が…」

「(笑)何だそりゃ」

「(笑)冗談だけどね」

「…」

「…ごめん、本当にそれだけ」

「いいけど…何があったかぐらい話せよ」

「…いいの?」

「いいよ」

「…。…さっきスーパーで…お母さん倒れちゃって」

「…」

「倒れたっていうか、なんかおかしくなって。痙攣とかしてて」

「…」

「救急車呼んで、病院行って…」

「…」

「今帰って来たんだけど…独りでいたら怖くて怖くて」

「…何て言えばいいのか、わかんないけど…」

「ううん!いいの。聞いてくれただけで、嬉しい」

「…」

「本当に…陽ちゃんの声が聞きたかっただけなの」

「…そう…」

「勉強、してたんでしょ?ごめんね」

「いや」

「じゃあ、頑張って。ありがとう」

「ああ。じゃあ…」

「うん。ばいばい」
ピッ。


切って初めて、ああ、あたし正気じゃないと思った。
こんな時期に寺島に電話するなんて。
そうして否応なく、まだ寺島に恋していることを思い知らされて。
恐怖と不安は確かに消えたけれど、
切ない気持ちが残ってしまったじゃないか。


あたし、馬鹿だ。


***

付け加え。

今日は寺島と、種元駿君の誕生日です。

駿君のご冥福をお祈りすると共に、
今この瞬間に生きていることの幸せと、罪深さを感じています。
これから一生、私の人生がいつ終わるかはわからないけれど、
この日が来る度に私は、思い出すでしょう。

そうした意味も、ひっくるめて、私は。
あなたに「おめでとう」を言います。
誕生日おめでとう。
生きていてくれてありがとう。
お母様。あの人を生んでくださってありがとうございます。
陽介さんがいらしたから。
今の私があるのです。




2003年10月11日(土) ぼんやりした頭でやっと

けれど今思えば。
「親友」という、とても都合のいい言葉で。
自分たちを正当化していた節がある。

それでも、それで当人同士納得できるのなら、
後悔しないのなら、かまわないじゃないかと思った。
後の条件の自信は、なかったけど、
そこはまた、会ったときに話し合うつもりでいて。


ある土曜日。
その日は、地元の祭りだった。
市丸と、もう一人男友達と、あたしの弟と行く予定だった。
昼間、あたしは母とスーパーへ買い物へ行った。
そこで起きた、予想外な展開。

母が倒れた。
倒れたというよりかは、発作を起こしたに近かった。
病院から家に帰ってきたとき、あたしはへとへとで。
初めて見た発作に対する恐怖と不安が、まだ鮮やかに体に残っていて。
ぼんやりした頭でやっと、今日の祭りはあたしは行かないってことと、
今、寺島の声が聞きたいってことを、認識した。




2003年10月09日(木) どちらが適任なのかという問題。

涙が、純粋な嬉しさからこぼれたものだと、
あたしが思えるのだからそれでいい。

元々あたし達には。
そのカタチが一番似合っていたのかもしれない。
過去を否定するわけではない。
それへの回り道だったと思えば哀しくもない。

思い当たることはいくらでも。
いつかの金曜日が、あんなに楽しかったのはそのせい。
「恋人」という名前のつく時間ではなかったから。
そう感じていたのは、やっぱりあたしだけじゃなかったのね。

「恋人」は辛すぎる。重たすぎる。
期待しすぎる。
あたし達はそれを克服できなかったと言えばそれまでだけれど、
それでも、お互いを失うことを選べなかったと言えば、
ちょっとは格好がつくだろう。

戻りたいと今は思わないし、これからも思わないと思う。
あの人のなかに、誰かが存在する限り。
その誰かが、あの人に幸せをくれるのだから、
嫉妬する理由なんてどこにあるだろう?

恋人と親友を兼ねた存在になることは無理だった。
どちらが適任なのかという問題。
適任であれば、寺島の傍にいられるのだからどちらでもかまいやしない。
そうしてどちらかと言えば。
何でも話し合える、親友になりたいとあたしは思った。
恋人だったときは、親友が羨ましかった。
寺島の本音を、何の不自然さもなく聞くことができるのだから。
どんなカタチであれ、あたしはいつも寺島の本音や愚痴を聞いてやりたいし、
寺島には、あたしの仕入れてくる噂話を聞いて欲しいと思う。

逆に言えば。
あたしはそれだけで十分で。
恋人のときと同じくらいの幸せを、感じていた。



2003年10月06日(月) 「親友」という言葉で

自分のなかで。
あたしは「恋人」というよりも、「親友」だと、
あの人は言った。
あたしは別に、反論もしなかった。

あたしは「親友」という言葉を素直に喜び、
これからの未来を幸せだと思った。

真実ならば、あたしは今でもそれを嬉しいと思うし、
ずっとそうでありたいと願う。
真実だと思えるならば。


あたしって本当幸せだ。
別れても、この人を失いはしないのだから。
今のあたしの、最もかけがえのない人に、
「親友」という言葉で、未来を保障してもらったのだから。
ぽろぽろと、涙が雫れた。
失わないと思えることが、嬉しかった。
あたしはいい加減。
「恋人」という関係の危うさに疲れていたのかもしれない。

この涙を。
恋人では「ない」悲しさだとは、到底思えなかった。



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