諦める。 あなたの愛を、諦める。 あたしのなかのあなたと、 あなたのなかのあたしを守るために。 それだけは諦めたくないから、 その決心は、もうずっと前についてる。
だけど、どうしたら、あたしをあたしらしく、 あなたをあなたらしく、お互いのなかに残せるのか、 それだけがあたしにはわからない。 お互いのなかのお互いを変えたくないというのは、 あたしだけのわがままかしら。
寺島の来訪を、あたしはまだ拒めずにいる。 幸子に叱られたし、自分でもおかしいと思うのに。 寺島のことを今どう思っているのか、正直よくはわからない。 「好き」という言葉も、「愛してる」という言葉も、 いまいちぴんとこない。 寺島と、寺島の学校の話をしたり、あたしが聞いた噂を話したり、 テニスの話を聞いたり、読んだ本の話をしたり。 名前は知らないあの人の話をしたり。 そういう時間は、わりと「好き」だと思うけれども。
寺島と逢うたびに、あたしの気持ちが揺らぐ。 変わっていく。 途惑う。 わからなくなっていく。 あたしが何をしたいのか。
そうやって迷ううち、 あたしのなかで、寺島はどんどん最悪に近づいていって、 寺島のなかで、あたしはどんどん都合のいい存在に近づいていく。 これじゃあ、いつの日にか。 諦めたくなかったはずのものが、諦めてないのに消えてしまう。
おかしいなぁ。
日を追う毎に、自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。
寺島への未練と、寺島の態度の考察と、 自由になりたいという矛盾した望みと、誰かにときめきたいという憧れと。 とりあえずはその4色が。 私の心をマーブル模様に飾っている。
…やっぱり馬鹿らしい。 私がこんなに悩んでいる間。 あの人はどなたかの夢を見ている。 あぁ馬鹿らしい。やめてちょうだい。 まるで喜劇。 いいえ、どう見ても喜劇ね。
いつ幕は引かれるの? いつと言うよりかは。 誰が引くの?
先週寺島が来たとき。本を貸していった。 市丸にそう言ったら。 「また会う口実に決まってんだろ?お前のこと好きなんだよ!」 あたしはその本の内容を話したくて、貸していったことを話したんだけれど。 ちょっとびっくりして。 でも正直嬉しくて。 「え…。そう、思う?」 なんて馬鹿みたいに聞き返してしまった。
そういえば来たときに、何の話題だったか忘れたけれど、 「今度からそうしようかな」 って寺島が言って、あたしはびっくりして、 「また来るの?!」 って聞き返した。 あたしのなかでは、いつが最後でもおかしくないようなものだと思っていて。 そもそも次の保障なんて、寺島に出来るはずがない。 「だってほら、本返してもらわないとね」 してやったりの笑顔で返される。 「好きな人いるくせに、好きでもない女と会って、空しくないの?」 悔し紛れに、でもずっと頭にあったセリフを吐いた。 寺島は何も言わずに、ついと前を向いた。 でも笑っていた。
部屋にいるとき、うっかりして涙がこぼれて。 会話が途切れてしまって。 寺島が強くあたしを抱きしめて。 驚いたあたしが離れたら、 「女に泣かれて、放っておける?」 「…そんなに優しくしたら、期待するよ?」 あたしの意地悪なセリフに、苦笑するかと思ったのに。 あなたはあたしを見つめたっきり。なんにも言わなかった。
…どうすればよかったんだろう。 今あたしに求められていることは。 一体何なんだろう。
寺島が何を望んでいるのか。考えてみたりもする。 寂しいのか、快楽だけが欲しいのか、私をキープしていたいのか。 ぐるぐる回って、結局よくわからなくなる。 だけど、じゃあ「私は」どうしたいのかって考えてみても、 それもまたわからない。 寺島に同情した気で会うけれど、自分が寂しいだけかもしれない。 本当に寺島のことを思うんなら、突き放さなきゃいけないんじゃないかな。 好きな人がいるんだから。
好きな人のことを考えて欲しいって、思う。 新しい恋を満喫して欲しいって、思う。 そして幸せになって欲しいって、思う。 それは私の嘘偽りない気持ちで。信じてもらえないかもしれないけど。 中三のときだってそうだったから。きっとまた出来るって思う。
キープされた存在なんて絶対嫌だし。 「私」を求めてくれる人と出逢いたい。 新しい恋をしたい。 好きな人と、幸せなキスを交わしたい。 寺島には、寺島の好きな人と幸せになって欲しい。
なのに、家へやってくる寺島の笑顔は、限りなく寂しそうで。 無防備な自分を私にさらして。 私の胸の中で目を閉じて。 私の指を求めて、離してくれない。 これが新しい恋をして、私から去っていった人なのかな。 もし私が拒否をしたら。 受験や、その他もろもろで、そのうちに壊れちゃうんじゃないかな。 そう思ってしまうのは、やっぱり、私の未練の表れでしかなく。 また、自分の一番嫌いな自分になっていく。
馬鹿ね。 もう帰って来はしないのだから。 傷つくのは自分なのに。 傷つく前に、自分から手を離してしまえばいいのに。 何をそんなに怖がるの?
2003年09月08日(月) |
もう通り過ぎてしまった二人で |
「付き合う」という言葉に縛られていたのかもしれない。 違うのなら、どうしてこんなに楽で、自分らしくやれるんだろう。 付き合っていた頃よりも、いい雰囲気を作れるんだろう。 なんだか皮肉だけど。
あたしは寺島に、恋人としての義務を押し付けすぎていた気もする。 期待しすぎていた気がする。 今は恋人じゃないから、そういうことは全然考えずにいて。 ただ求められるから、傍にいるだけで。 だからお互い楽でいられるのかな。
一人で考えていても、正直よくわからなくて。 寺島と一緒に考えたくなる。 だけどちょっと待て。 あたし達は別れたんじゃなかったのか? そういう、二人の間の問題。 全て投げ捨てる道を選んだんじゃなかったのか?
***
今井、という女友達(7/30「私は真剣ですので」)の話。 彼女が今恋をしていることは、前にも書いた。 今日偶然に会って。久しぶりに話し込んだ所。 今日(9/7)の体育祭に告白したんだと言う。
今井は、あたしの小学校からの友達で。 中学の時も、ずっと見てきたけれど。 およそ恋愛を理解っていない人で。 あたしと周りの友達は、ため息をつくしかなかった。 中三の頃、あたしが寺島に恋していたとき。 寺島の想い人というのは、何を隠そうこの今井で。 寺島の想いをまったく理解してくれなくて。 腹が立って、嫉妬もあって、大喧嘩した思い出がある。 だから今井が恋をしてるって聞いたときは。 正直、なんだか腹立たしかった。
相手の人は、運動部のエースで。 今は部活しか考えられない、って、言われたんだと言う。 あたしも、新聞で写真を見たことがあるほどの人だから。 まあ、当然の答えかな、とも思う。 だけど本当はもう引退していて、受験のためにやってるんだから、 受験が終わったらもう一度告白したら。 そう言ったら、そのつもりだと返された。 やっぱりあたしは、これが今井だとは、考え辛かった。
片想いでいろいろ悩んでいる今井を見ていると。 中学の頃の自分を思い出させて。 恋っていいよな、と、 今井の後にやって来た市丸と語った。 初恋はそういうもんだよなと、 もう通り過ぎてしまった二人で過去を笑った。
来ないと思っていた。 来てもきっとまともに相手できないと思っていた。 泣いてしまって、困らせるんじゃないかと思っていた。
だけど現実には。 いつもどおりな自分がいる。 いつもどおりの寺島と、笑い合う。 何だか不思議で。でも楽で。 心地良かった。 こんな時間って。久しぶりじゃないかな。 ていうかあたしは。 こんな時間が欲しくて付き合っていたんじゃなかったのかな。
甘えるような寺島に恨負けして。 寺島が望むだけくっついていた。 体が離れているときは、手をつないでいた。 ちょっと近づけたら、寺島が指をからめるから。 ほどくことなんて、出来なくて。
頬へのキスは、ずっと避け続けた。 「恋人にしかされない主義なの」 でも全てをかわすなんて出来なかった。 だから仕返しのつもりでしてやったら、 「控え目だね」 「…。嫌がるかなと思って」 「何でだよ」 こっちが聞きたいよ。 あたし達、ちゃんと別れたのに。 今度はきれいに別れられたと思ったのに。 どうしてまた、あなたの隣にいるんだろう。
「好きな女が出来ても。また純子の傍にいるんだな」 「情けない人ね」 「否定はしないよ」 喜んでいいのか何なのか、ちょっとわからずにごまかした。 どちらを選ぶのよ、と聞けばいい場面のような気もするけど。 選ばれなかったら悲しいから、聞かなかったんだと思う。
寺島がふっと笑うのを感じた。 理由を聞いたら、 「純子の傍だからか、今俺無防備だなと思って」 前に…寺島は自己分析で、警戒心が強いことを言っていた。 気にしていたようだったから、その言葉は嬉しかった。 だけど…。 「陽ちゃんの一番近くにいるのはその人よ。 近くにいる人には勝てない」 「そうかな。そりゃ距離的には近いけど…嫌われてるみたいだし」 「陽ちゃんが体育祭サボるからでしょ」 「…」 何だか気まずい気がして、背を向けた。 そのまま学校の男子の話をしてるうちに、髪の毛を触る手に気づいて、振り向いた。 その勢いで腕の中にいれられ、また指がからんだ。
今度の日曜は、体育祭。 私の学校も、寺島の学校も。 だけど私も寺島も出ない。 私が出ないこと、多分寺島は知らないけど。
私は、クラスについていけなくて。 本当に合わなくて。 合わせよう合わせようとして、今まで頑張ってきたけど、もう限界。 だから出ない。 寺島が出ない理由は、よくわからないけれど、 どうも集団行動にとけ込めないらしい。 徹底して不参加を決めこむ寺島の話を、私は笑うしかなかった。
でも寺島の話を聞いてると、心配してしまった。 クラスの人に嫌われそうなこと、たくさんしてるから。 どうして自分はちっともかまわないのに、人が孤独になるのは見てられないんだろう? 寺島は、言葉と裏腹に寂しそうで。表情が暗くって。 だから拒否、出来なかった。
「彼女は、どうなのよ?」 「…別に、何にも」 今彼女が、前の席にいるそうだけど。 体育祭のことが気まずくて、嫌だって。 学校に好きな人がいるくせに、 「学校行きたくない」 なんて言ったりして。 …私の立場、ちゃんと理解してるのかな。 またドロドロしても、知らないよ。
***
まとまりない文章でごめんなさい。 たくさんの話を一気にしたので、そのまま文章におこすことはできなくて。 話題を一つずつ、私なりに書いてきました。 よりが戻ったわけでは、決してなく。 戻りたくなったわけでもなく。 結局は何も変わっていないと思います。 ただ一つ不思議なこと。 それは、寺島が私の家に来た理由の電話。 かけてきたハズの男友達が、実はかけていなかったって、市丸が教えに来てくれて。 何なんだろうって、三人で首をひねりました。 今日(9/5)寺島が来たのですけど、うっかり聞くのを忘れてしまって。 真相は、来週か再来週になりそうです。 ああ気になる。
前々日からの続きです。 それと今日は…性的な表現が含まれます。
***
「こっち来て」 と言われて、自転車の向こう側へ行った後。 寺島の手は、私の腰か胸にあった。 おでこをくっつけられて。何回か頬にキスをされた。 我慢できずに声を出してしまう度、どんどん向こうのペースになってゆく。 「恋人じゃなきゃ、ホントはこんな声聞けないんだよ? 贅沢」 そう言うと、寺島は音を立てて頬にキスをした。 不思議そうに見ると、 「恋人じゃなきゃ、こんなキスもらえないでしょ」 「あら…あえぎ声なんか好きじゃなくても出るわ。 キスは好きじゃなきゃ出来ないと思うけど」 なんとかペースを取り戻す。 そんなキスは苦痛でしかなかった。 私は、恋人にしかキスされたくない。 だってこの人。 私じゃない他の人を好きなのに。 そう思うと少しだけ、涙が浮かんだ。
接近したままの真面目な話。 話が進むにつれ、寺島の手はおとなしくなっていった。 「強くなったな」 「陽ちゃんを愛して強くなったの」 私は少しだけ、寺島を抱く手に力をこめた。
不意に、寺島が私の額にキスをした。 「えっ?」 「強い純子に、尊敬のキスだよ」 「…」 これだけ。 私が堂々ともらえるものは、このキスだけ。 私がときめくのも、ドキドキするのも、 心底嬉しいのも、このキスだけ。 ドキドキする度に。 私はまだ、寺島に恋しているのかなと思う。
私を抱き締めたまま、 「おやすみ」 と寺島が言い、時間が来たのを知って、私は体を離した。 寺島が、つないでいた私の手を離すのに間があったなんて、 下手には信じたくない。 「強くなったでしょう」 髪を上げながら私は言った。 「ああ…」 「ふふふ」 「…俺が弱くなったのかも知れない」 「えっ」 「…」 自転車をこいで行く寺島に、大急ぎでおやすみと叫んだ。 複雑な心境ではあったけれど。 哀しくは…なかった。
話題的には、まだ続きます。
2003年09月04日(木) |
私は信用出来ないし。 |
TVドラマのCMで、別れ話を切り出された女が、 そんなのは嫌だと言い張って席を立つ場面を何度も見た。 見る度に、あんな女にならなくてよかったと思った。 すがりついてでも別れたくない気持ちは、痛いほど理解るけど、 新しい人の存在が原因なら、やっぱり身を引くしかその場はないと思う。 市丸にそう言ったら、 「でもあっさり引かれるのも、嫌だよ」 と言った。 ちなみに市丸は、彼女が出来たら、 新しい人の出現など自分にはありえないと言った。 一生覚えといてやるつもりだ。
寺島にも聞いてみた。 昨日の場面に戻る。 「陽ちゃんだって、引き止められたくなかったでしょ?」 「…さあどっちだろ。わかんない」 「…」 男の人って身勝手だと、そのときは思った。 だけど、それはただ男のプライドが許さないだけかもしれないとも思った。 自分はあくまでも、女を多少なりと傷つける立場なわけで。 罪悪感もあるわけで。 泣かれる覚悟もしたし、別れ話が長引く予想もした。 そこで全く気にしない、未練もないような反応を示されると拍子抜け。 むしろ自分のほうがカッコ悪く見えて。 何だか釈然とせず、嫌なのかも知れない。 こんな偉そうに書くほど、男の心理を知っているわけではないけれど。 もしまた寺島が来たら。聞いてみようと思う。 引き止めたら、止まっていたかって。
「でも引き止めて、止まってくれてもさ。 私は信用出来ないし。 引き止めて束縛することで、余計にその人への想いを募らせちゃっても嫌だし。 元々私は、陽ちゃんを束縛なんてしたくないし」 体はくっつけたまま、私は真顔で淡々と話した。 「また私に逃げてくる代わりにより戻してなんて言わないよ。 今陽ちゃんには本当に、逃げ場がなくって辛そうだから。 私今彼氏いないし、好きな人もいないし。 別に空しさも感じない。 我慢できなかったら来ていいよ。来る?」 「…気が向いたらね」 来ないかも知れない。 本当にわからないけど。 寺島が甘えられる、今までの私じゃないって思ったかも知れない。 だけどそれならそれでいい。 拒否できなかった罪悪感、感じなくて済む。
2003年09月03日(水) |
ごめんねって言う寺島に、私はそう言った。 |
午後9時頃、チャイムが鳴った。 迎えた弟が、嬉しそうな顔で私を呼びに来た。 嘘だと言い張る私に代わって見に行った母が、 「あらいらっしゃい」 と、寺島専用の愛想のいい声を出した。 ついに私は、応援練習で筋肉痛の腰を上げることになってしまった。
理由は他愛もなかった。 男友達が寺島に電話をかけてきていて、寺島は留守していたのだけど、 電話をかけさせたのが私じゃないかと思ったのだ。 私はかけ辛いから。 でも私には全く覚えがなかった。 そう答えて。 会話は終ってしまった。
一緒に帰るのが習慣だったからなのか。何のきっかけもなく自然に道を歩き出した。 どちらの高校も、今度の日曜に体育祭があるから、その話をずっとした。 いつも話していたところで止まって。また話をした。 例の気になる人の話もした。 私はちっとも。哀しくなかった。 図書館の話もした。 自由で嬉しかったと、素直に話した。 市丸にされた質問に、寺島は笑った。
「陽ちゃん、胸見すぎ。」 「…見てないし」 蚊の鳴くような声で寺島は言い、うつむいた。 送られる視線が、あまりにもわかりやすかった。
「逃げてたんでしょ?」 「…そんな意識なかったけど」 「違うんなら、私が面藤テなこと言い出しても大丈夫だったでしょ」 「…」 寺島の腕は、私の腰。 私の腕は、寺島の首。 自転車を挟んで話をしていたのだけど。 「こっち来て」 と言われたら、拒否出来なかった。 好きだからじゃない。 寺島はそういう男だって知っているから。 今寺島が孤独を感じてることを、話を聞きながら察していたから。 むしろ同情。 だから体だけ寄せて、話はキツイ話をした。
「陽ちゃん私に甘えてるでしょ」 「それはそうかもしれない」 「何しても、変わらずに好きって言うと思って」 「…」 「どうしたの?」 「純子に説教されるなんて」 2人で苦笑した。 いつもは逆だったから。
本当は拒否するべきだったのかもしれない。 いや、そうだった。 だけど、どこにも逃げずにやっていける人間なんていやしない。 ごめんねって言う寺島に、そう言った。 付き合ってるときは、やっぱ愛されたくて。 自分というものが必要とされてないことが悲しくて。耐えられなかったけど。
図書館へ出かけた。 新聞の占いによると、私の恋愛運が絶好調らしかったから。 少し期待しながら、靴を履いた。
寺島がいるかも知れないなんて。本当に私の想像だったけれど。 ちらほらとカッコいい人を見つけては、一人ではしゃいでいた。 そんな感情は、久しぶりだった。 私は結構、ミーハーな面があり。 寺島がいたときも、他の人に目がゆくことがあったけれど。 心は全部寺島のものだったし。 彼氏がいるからダメだっていう意識もあったから。 他の男の人は極力見ないように、意識しないようにしていた。 今日はそんな、悪い言葉だけど束縛がなくて、 ああそうか、あの人だけじゃなくて私も自由なんだと、実感した。 不思議と、嬉しかった。
「空しくないのかよ」 市丸にそう聞き返されて。 初めてその感情に気がついた。 私にその感情がないハズないのに、それでも思いつかなかった。 空しい?何故? 思うべき人がいないから? でも私。それを哀しいとは思わない。 だって自由って。本当に素晴らしかった。
市丸はそんな私を、ちょっとさびしげに見ていた。 だけどね市丸。 未練たらしくて話せなかったけれど。 「―男は、新しい女に弱いが、飽きるのも早い。 そして、馴じんだ女の元に戻る―」 (大和書房刊 柴門ふみ著 『恋愛は終わらない』) その一文を何度も読み返したくて、借りてしまった。 そんな私も、確かにいる。
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