菅野は友人席に座っていた。
披露宴はどこにでもある流れでスピーチがありクイズ大会があり御色直しがあった。 菅野は佐恵子の幸せそうな横顔を見て複雑な気分になっていた。 幸せな他人をみればいやがおうに自分の幸せを問わなくてはならないからだ。
「でも佐恵子は本当に幸せになれるのだろうか本当に彼で問題ないのだろうか?」 菅野は自らを考えるのを避けるために佐恵子の結婚について客観的に考えてみようとした。 確かに彼女も彼にも欠点はあるが、それが致命的なものに繋がらないような気もした。 即ち、どこにでもある欠点なのだ。 そう考えていて、そんなことを考えてる自分に対し、更に嫌な気分になった。
式の最後に、佐恵子は両親に対して手紙を読んだ。 内容はありきたりだったが佐恵子も両親も泣いていた。そして菅野も泣いていた。
その後、普通なら新郎側の父親にマイクが渡される流れだが、 そのマイクは佐恵子の父親に渡された。
予想してない流れに佐恵子は驚いたが、新郎も佐恵子の父も驚いていなかった。 2人は知っていたのだ。
佐恵子の父が会場係の者に合図を出すとスクリーンに映像が流れ始めた。
これまで佐恵子を撮ってきたビデオカメラを編集したものだった。 出産したての佐恵子を両手に抱えていたところからはじまり、お風呂に入れたりお箸の持ち方を教えたり運動会で親子競技でがんばったり勉強を教えたりという映像だった。
映像が終わり佐恵子の父は新郎に言った。 「自分なりに佐恵子をここまでしてきたつもりです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」 そして頭を下げた。
菅野は私もこうやって育てられたんだろうなと思っていた。 そして田舎の父親の顔を思いだした。 そしてその顔が語り出した。 「辛くなったらいつでも帰ってきていいんだぞ」
その次の週の土曜日も山下は菅野の家にいた。 菅野は佐恵子の結婚式に出掛けていた。
山下は先週と同じく菅野手帳を開き、中を確認して元の場所に戻した。 特別に増えた情報はなかった。 山下は思っていた。 「なぜ僕はこんなことをしているんだろう」と。 もしそこに新しい何かが書かれたことで自分にに何ができるというのだろう。
この盗み見る行為は基本的に誰にも公表できない行為であるので、 ここで発見する新たな情報により自分の心が揺らされ行動につながった時に、 その行動の根拠について質問されても自分は何も言えないのだ。
「なんであなたはそんな事をしたの?」 と問われても 「なんとなく」 というしかないのだ。
となると、この盗み見の行為自体どんな意味があるというのだろう。 結局、裏で動かれようとそれは事実でしかなくどうすることもできないのだ。
山下は冷蔵庫から紙パックのオレンジジュースを出しコップに注いだ。 そして、そのコップを持ってリビングのソファーに座り、テレビをつけた。
お昼のニュースは、先週の日曜日に最高裁判所内で起きた殺人事件について報道していた。 山下は一口オレンジジュースを飲み、テーブルに置いた。
山下は手帳を手に取り表裏と観察してみた。 ほとんど擦れてなくほとんど新品同様に見えた。 でもこれは2年は使っている物なのに状態がいいなと山下は思った。
山下はボタンを外し中を開いてぺらぺらをめくってみた。 中身はリフィルのウィークリー型で、スケジュールを書く欄の下に、TO‐DOリストがあった。 本日の予定が書かれているところまで開いてみた。 今日の日曜日には佐恵子と書かれてあった。
今週の月曜から土曜までの予定を見てみた。 土曜のところは特に何も書かれていなかった。 直前に誘ったんだからそりゃそうかと思った。
月、水、木曜日は会議が多いと言っていたが、朝から夕方まで隙間なく予定が埋まっていた。 水曜日の夜には線が引かれていたがそれが何かは書かれていなかった。 水曜日にだれかと行くと言ってたような気もするし、行ったと言ってたような気もして、 思い出そうと思ったのだが、一向に思い出せなかったかった。
諦めて次の週をみた、相変わらず月、水、木曜日は会議が多かった。 その次の週もそうだった。
1か月ほど進むと何も予定が書かれていないウィークリーページに変わった。 更に進んでもどんな予定も書かれていなかった。 2010年3月28日週でウィークリーページが終わり、次からメモのページに変わっていた。
メモのページは罫線を気にせず自由な文字が書かれてあった。 数ページしか使われていなかったが、全てが仕事のメモのようだった。
「あいつは水曜日に何をしていたんだろう?」 山下はその疑問を残したまま手帳を閉じ、カバンの中の元居た場所に戻した。 そして立ち上がって数歩下がって手帳を客観的に眺めてみた。 手帳は何時間もそこに居たようにしっくり馴染んでいるように見え山下はよしと頷いた。
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