ケイケイの映画日記
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2012年12月31日(月) 「2012年ベスト10」

今年は新旧合わせて87本観て、ほとんどが新作です。少し前なら物足らなく感じた数ですが、感想を書く事を思えばストレスもたまらず、私的にはちょうど良いくらいの本数でした。では、洋画のベスト10から。

1位「ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜」

2位「灼熱の魂」

3位「別離」

4位「最終目的地」

5位「最強のふたり」

6位「裏切りのサーカス」

7位「私が、生きる肌」

8位「アルゴ」

9位「SHAIM シェイム」

10位「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

次は例年通り邦画の三本です。

「桐島、部活やめるってよ」

「おおかみこどもの雨と雪」

「犬の首輪とコロッケと」

以上です。
今の気分でサクサク決めたので、明日には変わっているかも?(笑)。
ミニシアター系が多いですが、こちら大阪では劇場数の関係か、一つのシネコンで上映と言う作品も多く、たくさんの人の目に触れる機会も多く、これは良いことだと思いました。

私的には良き職場と同僚に恵まれ、仕事の方は楽しく働かせてもらっています。家庭もそれなりに安定した一年でした。ご多分に漏れず、我が家も世間様と同じように夫の給料はかなり下がっていますが、それでも不自由なく気楽に楽しく暮らしている事に、私自身が一番びっくりしています。

もちろん、子供みんなが職を得て、子育てのお金から開放された事が大きいですが、同時に私の心の在り方が、今の精神科に勤めるようになって、変化してきたからだと思います。他の科目よりやはり特殊で、映画を見るより数奇な患者さんの人生を聞くと、何が自分に取って家族にとって幸せなのか、必要なのか、必然的に見えて来るのですね。勤めてまる二年過ぎましたが、色んな執着から、解放されて行く気がした一年でした。

来年も本数は今年くらいはキープしたいですが、体調に合わせ、無理のないようにマイペースで観て書いていきたいと思っています。

今年も「映画通信」をお読みくださり、ありがとうございました。来年も頑張ります(笑)。
どうぞ良いお年をお迎え下さい。


2012年12月30日(日) 「レ・ミゼラブル」

超有名なミュージカルの映画化。原作は小学生の時「ああ無情」で読みましたが、大人用は未読。粗方ストーリーは知っているわけですが、最初の方の司教さんの「これは彼に贈ったものです」で、もう既に落涙。もちろん以降泣きっぱなし。自分でもえぇぇ!と意外でしたが、たまに思考より先に心が反応して、ずっと泣きっぱなしの映画に出会うことがあります。今までで一番だったのが、「ずっとあなたを愛してる」で、今年なら「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」です。自分でも自覚せずに心に渇望するもの、それに出会った時、涙とともに魂が浄化されるのだと思います。多分今年最期の作品、新年を迎えるにあたって、私には最高の締めくくりとなりました。監督はトム・フーパー。

有名な原作だし、年末によりあらすじは割愛(ごめんね)。冒頭、囚人たちの過酷な扱いが映されます。それは懲役ではなく奴隷のよう。そして憎しみのような眼差しをジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)に向けるジャベール警部(ラッセル・クロウ)。ジャンは19年間の牢獄生活を経て釈放されますが、一生仮釈放で、重要危険人物の証明証を持たされます。たった一個のパンを盗んだだけ、それも飢えた妹の子のためだったと怒るジャン。お前の罰が増えたのは、脱獄を繰り返したからだと冷酷に答えるジャベール。この時の二人は、最後ではまるで別の人物になるのです。

フォンテーヌ役のアン・ハサウェイが素晴らしい。色んな役柄に挑戦する彼女ですが、今回は子を思う薄幸の娼婦。汚れた境涯に落ち、身も心も荒みながら、しかし純粋な心は残るフォンテーヌを熱演。切々と歌い上げる「夢やぶれて」には、今回一番号泣しました。

ファンテーヌと同じくらい泣かされたのが、エポニーヌ(サマンサ・バークス)。愛するマリウス(エディ・レッドメイン)の心がコゼット(アマンダ・セイフライド)に向かうのを知り悲しみにくれるエポニーヌ。しかし愛するマリウスの幸せを一心に願う彼女の姿は崇高ですらあり、例え片思いであっても、愛する、その事の素晴らしを感じずにはいられません。

葛藤の末、自分と間違われた人を救うため、正体を明かすジャン。本当に別人になるための絶好のチャンスを、みすみす手放します。言うも地獄、言わぬも地獄。そうだったのでしょうか?見ず知らずの人を救ったジャンに、神が与えしものが、コゼットだったのだと思います。ジャンは改心はしたものの、警察の手から逃れるための人生です。誰かを愛することは憚られたでしょう。しかしこの子を守らねば、この子をフォンテーヌの代わりに育てねばの決心は、ジャンに愛も強さも与えた事でしょう。それはジャンの人生に苦しみだけではなく、喜びや潤いを与えたと思うのです。

ジャベールは自分も監獄で生まれたと言います。きっと母は罪人なのでしょう。己を律し正義を追求した結果が今の職業なのでしょう。彼の背負った過酷な境涯が、罪を憎み人を憎み、不寛容で無慈悲な人を作ったのだと思いました。彼もまた、誰かを愛すると言う意味を知らぬ人です。そんなジャベールが、自分を憎んでいるであろうジャン・バルジャンに命を助けられ、初めて自分の行き方や正義の在り方に疑問を持つシーンも、深く心を揺さぶられました。

ジャンとジャベールは合わせ鏡のよう。一人は陽のあたる場所を歩み、一人は日陰で人知れず生き。しかしどちらが生の豊かさを享受出来たかと言うと、日陰を生きたジャンの方だと感じるのです。もし彼がフォンテーヌに慈悲深い心をかけなかったら?血の繋がらぬコゼットを厄介者だと思ったら?ジャンの人生は豊かに彩られはしなかったと思います。

自分の目の前に突き出された現象をどう感じ捉えるか?光も影も自分で消化し、苦しい境涯と戯れる人生を送ったジャンが、「あなたは何も悪くない。自分の仕事をしただけだ」と語った時、憎し抜いた目でジャベールを見つめた最初の釈放の時から、数十年が経っていました。自分の罪を悔い改める、それが今のジャンの行動なのだと思いました。ジャベールの顛末は絶望なのでしょうか?ジャンが上記のように見えた私は、絶望ではなくジャベールの再生と思いたい。

ヒュー・ジャックマンが歌が上手いのは知っていましたが、キャストみんなが上手いのにはびっくり。なんだかんか言っても、ハリウッドは底が厚いなと感じます。台詞は全て歌で、踊りは無し。この形式は「シェルブールの雨傘」もそうでした。一般的なミュージカルの趣ではないですが、調べに乗ると、セリフに言霊が入るようで、どの曲もとても心に響きました。特に数人のキャストが自分の思いの丈を、同時に切々と歌い上げる場面が圧巻。その他も、映画ならではの空間の使い方もあり、私的に充分楽しめました。

重厚さや華やかさではなく、端正で上品な作りです。原作に力があるびで、映画は忠実にその感動を再現するのが最優先だと思うので、私はこの作りで良かったと思います。心を新たにするお正月に観るに、ふさわしい作品だと思います。


2012年12月20日(木) 「フランケンウィニー」(2D 吹き替え版)




う〜ん・・・。とても良かったのです、ラストまでは。この作品の元の短編映画「フランケンウィニー」は、確か「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」の時、上映していて、私は見ているはずなのですが、シェリー・デュバルが出ていた事以外、さっぱり覚えていないのです(なので、ある意味デュバル、すごい!)。聞くところによると、実写と今作のアニメとは、同じオチなのだとか。と言う事は、実写の時は私は落胆しなかったのかしら?ラストまでは満点つけてもいいくらいだったので、本当に残念!

科学が大好きな少年ヴィクター。友達のいない息子をパパは心配しますが、ママは個性だと言います。ヴィクター自身は、実験室の屋根裏部屋と愛犬スパーキーさえいれば、それで毎日幸せでした。しかしある日、交通事故でスパーキーが亡くなります。スパーキーのいない日常に耐えられないヴィクターは、ジクルスキ先生の科学の授業をヒントに、スパーキーを生き返らす事に成功します。大喜びのヴィクター。しかしスパーキーの蘇りは、とんでもない事件を引き起こすのです。

CGではなく、白黒のストップモーションアニメです。一週間に数シーンしか進められないのだとか。まずは上の画像をご覧あれ、不気味な容姿の登場人物たちですが、動き出すととても可愛らしく、そして温かさとペーソスが溢れます。この愛らしさこそ、異形のものに愛を吹き込んできたバートンの心映えです。久々にバートンらしさを強く感じ、まずは出だし好調。

ヴィクターの両親は欠点を含めて、良き親です。パパはスポーツはイマイチのヴィクターに、野球をやれと勧めます。男親と言うものは、お勉強が出来る息子なんだから、スポーツも、と思うのですね。「文武両道」が今も正しいのでしょう。平和的でもこれは押し付け。親の願望であって、子供の事を思っているとは思えませんが、子育ての最中は、子供のためと誤解しがちでなものです。ママは大人しいヴィクターに対して、何も疑問はない模様。友達がいなくっても、虐められている訳じゃないし、私は正解だと思います。本が大好きで、ヴィクターの「企みに」に全然目が届かないけど、これは息子を信じているが故の所作でしょう。

そして夫婦仲の良さが、さりげなく描かれるのがいいです。だからヴィクターは、親のご機嫌を取る必要もなく、自分の好きな事に没頭できるわけです。ヴィクターがスパーキーを亡くした時の描写は、彼の絶望感がとてもよく伝わり、思わずホロホロ貰い泣きしたほど。なのでいけない事ですが、スパーキーを生き返らせたい心情に添えました。その時の様子も、結構なスペクタクルで、感心しました。

ヴィクターの秘密が大人にではなく、子供たちだけに漏れてしまう様子も、うんうんと観る。そうなのよね、知らぬは親ばかりなりでね、子供はたくさん「秘密」をもっているものです。それが当たり前。そのことで窮地に追い込まれた時、一緒に尻ぬぐいをするのも、親として当たり前だと思うのですね。それもきちんと描かれていました。私は超文系人間で、科学はまるでダメなのですが、ジグルスキ先生の「科学を愛する」と言う言葉は、とても素敵なセリフだと思いました。脳で理解し心で愛せ、かな?こうして科学を愛する人がいて、人はその恩恵に預かっているのだと思いました。

劇中、怪獣映画のようになり、これは「ガメラ」か?「グレムリン」か?の大惨劇が引き起こり、ウォ〜と感激します。白黒なので、シルエットの使い方が場面をより盛り上げ、効果的でした。あぁそれなのに!

どうしてヴィクターとスパーキーの強い絆を感じさせるだけで終わらなかったの?あれでは返って命が軽くなってしまいます。だって蘇ってからのスパーキーは、とても自由と言える状態ではなく、私には幸せには見えませんでした。いくらヴィクターに愛を注がれようと、自由のない生き方が不幸せなのは、人間だって犬だって一緒です。だから公明正大に自由を手に入れるために、あのラスト?超許せません!これはディズニーの仕業か?これこそ、人間の身勝手そのものです。

と、私的にラストだけが大いに疑問ですが、それだけで否定してしまっては、もったいない作品です。古くからのバートンファンには、この心優しさは嬉しいはず。ちょっと怖がるかも知れませんが、小さいお子さんにも、是非観て欲しいと思います。ラストの見解は、保護者の方にお任せしましょう。


2012年12月16日(日) 「007 スカイフォール」




面白かった!そしてとっても安心した!何故安心したかと言うと、監督が私の大好きなサム・メンデスなんですね。アクションなんて初めてなのに、「007」50周年記念作に抜擢なんて、無謀過ぎでしょ?それが蓋を開ければ、歴代ボンド映画一の興行収入が期待出来ると聞き、まずは欧米では受けたと一安心。そして我が目で確かめると、先達が作り上げてきたボンド映画に敬意を表しながら、新しい息吹も吹き込んでいて、とても感激しました。

イギリスMI6の諜報部員ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)。スパイリストが盗まれ、それを奪還する作戦に送り込まれましたが、失敗。その事でM(ジュディ・デンチ)は窮地に立たされ、MI6の存続も危うくなります。そんな時、MI6の本部が爆弾により破壊。首謀者はMに恨みを持つ元MI6の諜報部員シルヴァ(ハビエル・バルデム)であると判明。ボンドとシルヴァの戦いの火蓋が切って落とされます。

冒頭すぐでの、トルコでのカーチェイス&列車上のアクションがお見事。もうこの辺でメンデスが、私の大好きなメンデスが、ちゃんとアクション撮れてるやん!と、感激して涙が出そうになる私(実話)。その直後のビルでのアクションも面白かったなぁ。ちょっとケバいネオンや暗闇を上手く使っていました。その後、トム・フォードのデザインしたスーツに身を包み、華麗な香港の夜景をバックに颯爽と現れるボンドに、おぉ!と、手の前で小さく拍手する私(実話)。この異国情緒も、過去のボンド映画へのオマージュかと思います。

今回の敵のシルヴァは元身内。色んな方が仰っているように、私怨でイギリスをぶっ潰す事件を起こしていいのか?と言う問題ですが、まっ、Mがそれほど魅力的な女性だと言う事で、納得しますか。と言うか、ボンドが孤児だと、ダニエルが新ボンドになってから語られています。今回Mのセリフで、誰も身寄りが無い者の方が、スパイには都合が良いと語られるので、シルヴァもそうなのでしょう。ナヨナヨ得体が知れず、ハビエルがMに対しての愛憎の塊のシルヴァを強烈に演じながら、その内面の「母恋し」も存分に感じさせるので、ボンドと表裏、または兄弟のように感じるのです。ザ・鉄の女風のデンチのMは、作品中では非情さばかりが浮かびましたが、明日のわからぬスパイたちの母親として、人知れず心の拠り所であったのでしょうね。おぉ、この辺の味わい深い心理なんぞ、メンデスらしい描き方じゃございませんか。




今回Qが若いベン・ウィショーに代わりました。あれこれアイディア満載でワクワクさせてくれた、先代Qのアイテムと比べれば面白みに欠けますが、これも作品の中で生かせていました。そのウィショーQなんですが、天才的なコンピューター使いの腕を持つという設定で、オタク丸出しの風貌がすごーくチャーミング。間の抜けたユーモアが楽しく、今後活躍してくれぞうです。ダニエルになってから、ユーモアが少なく、変に社会派ヅラしたアクション映画になっていた007ですが、にやりとするユーモアもあちこち復活しています。

そしてボンドの生い立ちを明かしながらのオーラスのアクションなのですが、古式ゆかしいボンドカーが出て来たり、火薬ドカンドカンに銃もあれにこれもの銃撃戦の中、アナクロな仕留め方も良かったです。大物レイフ・ファインズの起用も、そうだったのか・・・と納得でしたし、何よりMの「身の施し」は、これ以上なく男前で、老齢のMに女性としてもMI6の長としても花を持たせて、最高の描き方だったと思います。

ダニエルのボンドは、馴染んできたのかもですが、三作の中で一番セクシーで知的なユーモアも感じ、素敵でした。早くも老いのレッテルを張られていたけど、後10年は充分大丈夫のはず。ボンドガールも地味だと言われていますが、アフリカン・ビューティー(ナオミ・ハリス)とアジアン・ビューティー(ベレニス・マーロウ)で、ステロ的なブロンドの青い瞳から脱却。私は良かったと思っています。

終わってみれば、キャストに新陳代謝が激しかった割には、古くて新しい007で、過去への敬意もたっぷり織り込まれていました。007らしい華やかさと、メンデスらしい礼節と敬意、人物たちの掘り下げもきちんと共存していました。いみじくも、シルヴァの台詞で語られた「何故そんなに動き回る。少し休もうじゃないか」は、冷戦終結後、スパイとしての役割や身の振り方に対して、迷いが生じていた007映画へ、メンデスの思いが込められた今回の内容だったのかと思います。これが007史上最高作とは思いませんが、50周年の記念作として、私は充分合格点をあげて良いと思います。やっぱりメンデス最高!


2012年12月11日(火) 「恋のロンドン狂騒曲」




アレン作では一番のヒットとなった「ミッドナイト・イン・パリ」の大好評を受けて、それより前に作られた今作の公開だったとか。いや面白かった。華やかでファンタジックだった「ミッドナイト〜」は、それなりに面白かったです。でも取り立てて愛せる作品じゃなかったですが、こちらは現実感に満ちた、背伸びすれば手に届く夢と、現実的な皮肉がいっぱいで、何だか身につまされるのです。私は断然こちらが好きです。監督・脚本ウディ・アレン。

40年連れ添ったアルフィ(アンソニー・ホプキンス)とヘレナ(ジェマ・ジョーンズ)夫妻。突如アンチエイジングに目覚めたアルフィは、自然に老いて行くつもりだった妻と離婚を宣言。悲嘆にくれるヘレナは怪しい占い師を崇拝しだします。二人の間の一人娘サリー(ナオミ・ワッツ)は、一発屋の小説家の夫ロイ(ジョシュ・ブローリン)との生活は困窮状態で、母ヘレナに経済的に援助してもらっている始末。生活のため画廊に働き始めたサリーは、ダンディでお金持ちの雇い主クレッグ(アントニオ・バンデラス)に惹かれ始め、ロイはお迎えの妙齢の美女ディア(フリーダ・ピント)を陥落させんと虎視眈々。そんな時、アルフィは結婚したいと、元コールガールの娘ほど若い女性シャーメイン(ルーシー・パンチ)を、サリーに引き合わせたいと言い出します。

まず偉いのは、これだけの人数が絡み合っているのに、どれも内容が整理されて、人物の心の内が手に取るように解って、混乱がないです。各々三角関係が生じるわけですが、下手に四角関係にしないのが良かった。脚本も然ることながら、演技巧者を集めたのが勝因かな?ナオミがバンちゃんを見つめる目など、吐息まで聞こえてきそうだし、色呆けホプキンスが、傷だらけの顔で台詞を語る様子で、正気に戻ったんだとわかるのです。

男女関係には、「ときめき・性欲・親睦」のうち、二つが必要なんだと、聞いた事があります。確かに上記「恋の始まり組」には、それぞれ二つが揃っておる。なるほどなぁ。しかし前半は登場人物たちに夢を見させておいて、後半はバッタバッタと現実で切って行きます。それなりの年齢の人なら、ほら見たことか・・・と言う顛末ばかりですが、これが滑稽でありながら、哀愁も感じます。後から考えてみると、今一歩で手に届くはずの夢は、結局は他力本願ばかりでした。身の丈を知り、足るを知るのは実に難しい。知りすぎて向上心が失くなっても困るしなぁ。ほんと、見につまされます・・・。

私はアンチエイジングと言う言葉が嫌いです。どうして歳を取るのがダメなの?いつも若々しいのはいいけれど、それも年齢相応があるのにと、いつも思います。しかし見え隠れするアルフィとヘレナの「亡くした男の子」の影が、もしや彼のアンチエイジングへの妄執だとすると、これまた切ない。こればっかりはヘレナでは無理ですから。

だからって、老妻を捨てるとはもっての他だ!怒っていたら、どっこい年季の入った女は強し。「クリスタル(占い師)が・・・」が口癖で、妙ちきりんな「オーラの世界」の話ばかりでしたが、、あれは上手に事を運ぼうとしたヘレナの知恵かも?だったら凄いなぁ。私が当代一の女優だと思っている才色のナオミですが、役柄に合わせてか、今回はちっとも綺麗じゃない。しかしラスト、ロイが遠目に眺める黒のランジェリー姿の彼女は、とってもセクシーに撮れていました。あれって後々、アルフィのように悲嘆にくれる日が来るという前触れでしょうか?

「現実より幻想に逃げている方が幸せな時もある」的なナレーションが入り、エンディング。それはある程度歳を重ねた人だけが受けられる恩恵かな?アレンも、もう枯れて良い年齢ですけど、フリーダ・ピントの愛らしさや、ルーシー・パンチのエロエロぶりを観ていると、まだまだ煩悩に悩まされる方が、アレンには似合っていると思います。


2012年12月02日(日) 「ドリームハウス」

12/1より今作主演のダニエル・クレイグの「007」が公開ですが、まずは先に観たこちらから感想をば。監督のジム・シェリダンの作品では、「イン・アメリカ」が一番好きです。今回監督初のサイコミステリーながら、可愛い姉妹が出演の家族ものと言う事で、「イン・アメリカ」を彷彿させます。ミステリーとしては、平凡な出来ですが、家族を愛し守ろうとする男性のお話としては、とても好ましく仕上がっていて、私は好きな作品です。

編集者のウィル(ダニエル・クレイグ)は、妻リビー(レイチェル・ワイズ)や二人の娘、トリッシュとディディと共に郊外に引越し、多忙な仕事に別れを告げて、小説家に転身しようとしています。理由の一つは最愛の妻子との時間を増やしたいがため。新たな生活に心弾む一家でしたが、引っ越した家には不吉な事が起こり始め、その家は以前、夫による一家惨殺現場であるとわかります。

決して内容は話さないで下さい系。最初からおかしいなぁとは思っていました。妻は夫が仕事を辞める日も知らず、地下室には近所の悪ガキたちが勝手に入ってこれるし、第一家を買うのに地下室も見ないの?隣人や警察の様子もおかし過ぎるし、う〜んと思っていたら、中盤重要な事実が明かされます。

普通はこれがラストの驚愕の真実になるのですが、この作品は、この後何があったのかを追いかけます。しかしその展開がお安くまとめ過ぎ、値打ちを下げてしまいました。とっても残念!

何故かと言うと、この家族の様子がとても素敵なのです。家族は夫以外は女性と言う事もあり、ウィルは頼りがいのある良き夫ぶりで、深く家族を愛しています。殺人鬼の陰に怯える娘たちに、「パパが帰ってきたから、もう大丈夫よ」と伝える妻リビーの何気ない言葉に、この家族の全てが現れています。子供たちも、絶叫したくなるほど可愛かった「イン・アメリカ」のボイジャー姉妹にはちと負けるけど、充分愛らしいし、夫を立てる美しい奥さんの良妻賢母ぶりも素敵。平凡でも、夫が家庭の中心である家は、やはり良きものだなと、微笑ましく痛感しました。

あぁそれなのに。せっかくナオミ・ワッツのような当代一の女優を隣人にキャスティングしながら、あれでは彼女には役不足です。彼女の役をもっと深くこの家族に絡ませるようにしなければ。変にサイコサスペンス仕立てにしなくても、家族愛を掘り下げるヒューマンドラマのみにすれば良かったと思います。

とは言え、私の苦手だったクレイグですが、段々と彼のインテリジェンスやエレガントさを感じられるようになってきました。そんな人が妻子を守ろうと誠実な男らしさを全力で発揮するのですから、私にはボンド以上に魅力的に感じました。何でもこの作品が縁で、ワイズと結婚したのだとか。なるほどなぁ。

私がこの作品を好きなのは、自分が過ごした時間を、過去に遡って観ている気がするからでしょう。もちろんこれ程超が付くほど素敵ではなかったけれど、私の結婚生活も善きものだったのだと、肯定できるのです。欧米ではクリスマスツリーのてっぺんの星は、必ずその家の夫がつけるのだとか。それは大事な事だよねと、感じる作品です。独身の人には、きっと結婚したくなる作品です。


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