ケイケイの映画日記
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2008年03月28日(金) 「魔法にかけられて」(吹き替え版)




水曜日のレディースデーに観ました。皆さま、四月から診療・薬価などの点数が大幅に改正になるのを、ご存じでしょうか?只今大小問わず病院は大わらわのはず。私もこの日は院長先生に残業を申し出て、レセコンのアップデートをしておりました。通常より数倍時間がかかり、映画はあきらめていたところ、開始15分前に終了。お昼ごはんをすっ飛ばし、ママチャリ暴走族と化し、いざラインシネマへ。、何とか間に合いました。予告編からは、もっと毒の利いたセルフパロディが観られるかと思いましたが、そこはやはりディズニー、お子様の夢も充分考慮した作りで、スイートでした。

魔法の国アンダレーシアのプリンセスのジゼル(エイミー・アダムス)は、今日、まさにエドワード王子(ジェームズ・マースデン)との結婚の日。しかし王位を王子に譲りたくない邪悪な皇子の継母メリッサ女王(スーザン・サランドン)によって、現実のニューヨークへとタイムワープさせられます(ここまでアニメ)。(ここから実写)何が起こったかもわからず、途方にくれるジゼルを、弁護士のロバート(パトリック・デンプシー)と、その娘モーガン(レイチェル・カヴォ)が助けます。

いつも書いてますが、壮大なファンタジーはイマイチですが、お伽話や魔法は大好きな私。冒頭のアニメ部分は、CG全盛の今にしては、古式ゆかしい懐かしい手法のアニメーションで、たっぷり幼い時の気分に戻れて感激でした。そしてプリンセスと王子と言えばキス。好きな人とのキスってどんなものかしら?と、ジゼルがぽ〜となって嬉しハズカシで憧れる様子で、私のジゼルへの感情移入はほぼ完璧。あぁ〜、30年以上前を思い出すわ〜。

自虐的なセルフパロディなんですが、匙加減が絶妙です。お伽の国の住人が現代で出てくりゃ、奇人変人を通り越して見られて当然。仮面舞踏会のような衣装に言動、浮世離れしまくりなんですから、もっと罵倒されても当然なんですが、その辺は「ちょっと変な人よね」風で、さらっと流しています。これは最大の顧客層・小さなお子様たちへの配慮でしょう。道徳に対しての教育的指導が求められる(親からね)ディズニーとしては、差別心や口汚い罵りはご法度なのでしょう。この描き方は大人には物足りないけど、私は賛成です。

その代りの、急に歌い踊りだしたり、「動物はお友達」の、お馴染みの描写のパロディがとっても楽しめます。乱雑で汚ないロバートの家をお掃除しようとするジゼルは、NY在住(!)の動物たちに手伝ってもらおうと、「アァア〜、アァ〜〜〜♪」と歌い出せば、来るわ来るわ、ねずみや鳩やゴキブリ達!まぁ皆さん、お手伝いして下さるんですが、魔法の国とは違い、グロテスクで汚ないのが現実です。もうヒッチコックかと思いましたよ。そしてジゼルを心配して、NYまで追いかけてきてくれたリスのピップなんですが、魔法の国では人間の言葉がしゃべれても、NYではただのリス。身振り手振りで懸命にジェスチャーする様子が、私的に抱腹絶倒でした。

幼い娘を残されて妻にさられたロバートの生活は超現実的で、夢や希望よりも、消去方で残された安全パイの人生を歩む日々。もう傷つきたくないのですね。その生活へ、夢とロマンと愛の塊のジゼルが飛び込むのですから、波乱が起こらない訳がありません。しかし殺伐としたロバートとモーガンの生活は、迷惑をかけられながらもジゼルのお陰で、潤いのある暖かな生活へと徐々に変化していきます。

ジゼルの方も、「昨日会った人と、永遠に愛を誓えるの?」というロバートの言葉に、自分の考え方に疑問を持ちだします。いわば理想と現実の狭間で、二人とも悩み出すのです。お伽話の力を借りて、普遍的な人生の悩みを映していたと思います。

そして結論づけは、いつもよりちょっぴろほろ苦さを含めながらも、やっぱりディズニーらしいものでした。ひと安心している自分に、ちょっと苦笑い。ロバートとエドワードは、現代と古典的な男性像の対比になっていたし、ジゼルの思わぬ勇者ぶりと、ロバートの婚約者ナンシーの、キャリアウーマンとして口には出せぬ本音を見え隠れさせて、これも上手く対比させていたと思います。ちょっとラストの舞踏会以降がバタバタしたけど、まぁOKでしょ。

出演者はみ〜んな、とっても良かったです!アダムスは本当にお伽話のプリンセスみたいで、とっても可愛かった!実年齢は30半ばだそうですが、全然無理が無かったです。ただ舞踏会での姿は現代仕様だったので、実年齢が出てしまい残念。もう一度彼女の一世一代のコスプレが観たかったので残念です。私的にはカーテンを切って服を作ってしまうことに感心しました。だってスカーレット・オハラだって、やってたじゃん。自分の境遇が恵まれないからといって、着飾る楽しさを放棄することはないよね。浮世離れしながらのこの女子パワーは、嬉しかったです。

私がとっても楽しみにしていたマースデンも良かったわ〜。彼ってね、悲劇のサイクロップスや、「きみに読む物語」では、罪もないのにヒロインにふられ、「スーパーマン・リターンズ」では、ロイスの本当の心はスーパーマンのもの、と、いつも可哀想な役回りばかり。ハンサムで素敵なのに、なんて可哀想、とっても可哀想、本当に可哀想と思い続けている間に好きになってしまいました。(よくある話だよ)天然ぶりをフル回転させながら、生涯の女性と決めたジゼルを、一生懸命愛し守ろうとする姿に、私は大満足。「ヘアスプレー」に続いて、明るい彼が見られて嬉しかったです。

デンプシーの役柄も、気弱で誠実な人で私のタイプなので、これまた気に入りました。ティモシー・スポールは、出ているのを知らなかったのですが、アニメの時あまりに彼にそっくりなので、あぁ出ているんだとわかった次第。憎めぬ小悪党役で、子どもたちも気に入った事と思います。 

そしてとっても心に残った言葉は、「夫婦は良い時も悪い時もあるわ。悪い時に良い時のことを、全て捨てなくてもいいと思うの」という、これぞ現実と理想を絶妙に迎合させたセリフです。これは観にきた親世代向けかなぁ。結婚生活26年目の私には、本当に含蓄のあるお言葉です。

私も大昔は、白馬に乗った王子様(夫のことだよ)が私を幸せにしてくれるのよ!と、胸一杯に秘めての新婚生活でしたが、あっさり夢破れ、結局自分を幸せにするのは、夫でもなく親でもなく子でもない。自分自身なんだと、紆余曲折しながら悟った時から、人生が楽しくなってきたもんです。そう悟るとね、今までと違う形の愛が見えてくるのですね。

恋と愛は違うし、愛と結婚もまた別モノ。だけどスタートはやっぱり「恋」。幾つになっても恋心とはウキウキするものです。私は夫が早死にしてくれないと、もう恋の機会はないけど、公園のミュージカル場面で、ボーイ・ミーツ・ガールのジジババの、浮かれた様子は楽しげでした。長生きすると、いいことあるかな?


2008年03月22日(土) 「ノーカントリー」




本年度アカデミー賞 作品・監督(コーエン兄弟)・助演男優(ハビエル・バルデム)・脚色賞受賞作。
「今日あんたが帰ってきて、お母さんいてなかったら、映画やと思っといて」。何度春休み中でぶらぶらしている三男に言った事か。全て空振り。観たい作品はいっぱいながら、仕事して姑を見舞うと、もう気力が続かなくて。しかし私が気を滅いらし続けていたところで、お婆ちゃんが良くなるわけでもなく、今日こそは映画を観て、己に喝を入れるのだ!と、選んだ作品がコレ。作品の選択は大幅に間違っている気はするんですがね、何せオスカー作品ですもの、やっぱり観なくちゃ。ちょっと異議ありの部分はありますが、見応え充分、堪能しました。

80年代のアメリカはテキサスの片田舎。狩り中のベトナム帰還兵のモス(ジョシュ・ブローリン)は、麻薬の取引現場で銃撃戦があったと思しき、大量の死体を見つけます。残された200万ドルもの大金を持ち逃げした彼は、そのため冷血非道な殺人鬼シガー(ハビエル・バルデム)に執拗に追いかけられるはめに。そして指名手配中のシガーを、保安官のベル(トミー・リー・ジョーンズ)も追いつめていきます。

「ファーゴ」+「ターミネーター」
と言った感じかな?有能だが黄昏た保安官が犯人を追う過程は、「ファーゴ」のやり手だけど妊婦(!)の女性署長を彷彿させるし、夫婦の会話の妙もイイ感じ。

そしてハビエル!ひぇ〜、これはオスカー取るわ。人間なんだけど、人間じゃないんです(観ればわかる)。シュワちゃんが「サラ・コナーか?」と尋ねて、いきなりズドン!と殺すのは、あれは未来から来たロボットだ、SFなんだからと、絵空事だと観ていましたが、こちらはれっきとした血の通う人間様(一応)。コインの裏表、顔を観られた、自分が殺すと予告した、などなど、利害関係など全くお構いなく、マイルールを忠実に実行する様子は、本当に血も涙もなく、不条理そのもの。大怪我を負うんですが、薬屋を襲い(襲い方が、これまたすごい)、自力で治してしまうのも「ターミネーター」を彷彿させました。

シガーの武器は、実は家畜の屠殺に使われるものです。人を人とも思わぬ非道ぶりが、一層強調されます。彼がどうして今のような異常者になったのか、その背景は全く語られないのが、一層不気味。ある種「時代の申し子」として、描かれていたのかもしれません。

しかし80年代にSFとして絵空事で観ていたことを、現代の2007年の作品では、当時の80年代を設定して、生味の人間で表現するというのは、相当皮肉です。ベルと老保安官同士の会話で、既に説明のつかない、人の心が引き起こす不条理で不毛な事件が連発する現在を、暗示していました。

最初大量の死体を見て、全然動じないモスに違和感があったのですが、ベトナム帰還兵だと知り、すごく納得。お国のために命をかけていた憂国の兵士のなれの果てが、トレーラー暮らしと言うのも、切ないです。生き残った命を持て余していたモスは、このお金で人生を変えたいと、思わず魔が差したのでしょう。妻への思いも感じます。並はずれた殺人マシーンのシガーに対して、互角の戦いを挑む様子も、やはりベトナムでサバイバルの仕方を身につけたのが忍ばれます。そしてモスの素性がばれた原因は、彼が決して悪党ではないとも印象付けます。モスの描き方にベトナム帰還兵の、長い長いその後の人生を考えさせられました。

演じるブローリンは、「プラネットテラー・イン・グラインドハウス」「アメリカン・ギャングスター」に続き、クセの強いキャラクターに、悪党だけではない、底辺の人間の悲哀と底力を見せつける演技で、とっても良かったです。ハビエルと互角の好演で、彼にもオスカーあげたかったなぁ。


そして静かにシガーを追い詰めるベル。いつもなら年齢からの円熟味が、渋さに見えるジョーンズですが、今回は老いが目立ちました。もちろんそれは計算づくでしょう。仕事から身を引く直前、ベルは職務中に狙撃され、障害者になった元同僚を訪ねるシーンがあります。ベルの質問に対しての元同僚の答えは、慈悲深いとも、受け入れるとも、悟りとも取れます。しかし元同僚の「闘うこと」を辞めた姿には、外見の惨めさと裏腹の、精神的な崇高さを感じることで、救われます。この辺りの描写には、普遍的な人生の教えが込められていたと思います。

一見強烈な印象ですが、筋運びも語り口も滑らかで、コーエン兄弟独特のシニカルさや、乾いたユーモアも健在です。80年代を描きながら、良くも悪くも、あの時代があったから今があるのだと、過去と未来との繋がりにも言及した作りで、穴もツッコミも見当たらず、ほとんどパーフェクトな作りです。

しかしこれがオスカー作品賞とは、ちょっとびっくり。決してわかりにくい作品でもなく、完成度も相当高いとは思います。でもこういう観方が一様ではなく、そこに感慨はあっても、感動はない作品が作品賞ってのは、どうなんでしょ?私はこの作品を楽しめましたが、しかしこの作品がオスカーに相応しいかと言うと、答えは「否」。

大人から子供までとは言いませんが、たまにしか映画を観ない人でも、「あぁ良かった、感動した」と思わせる作品が、オスカーの名には相応しい気がします。年柄年中映画館に入り浸っている人たち(もちろん私も)で、わー、すんげぇ!と盛り上がる映画は、別でひっそり花咲く場所があると思うんです。いかがですか?


2008年03月09日(日) 「バンテージ・ポイント」




10日ぶりの映画です(嬉泣き)。おばあちゃんの面会が1時半からのため、なかなか時間の都合がつかず、こんなに間が空いてしまいました。しかし姑の容体はまだ小康状態なので、ここはサクサク観て、パパッと帰れる作品ということで、評判の良い90分サスペンスのこの作品をチョイスしました。自転車で行けるラインシネマで上映だしね。削げる所は全て削いで、骨格とアクションに重点を置いた脚本は大正解で、時差を上手く使っての謎解きも上手く、とても楽しめました。

テロ撲滅の国際会議の行われるスペインのサラマンカ。アメリカのアシュトン大統領(ウィリアム・ハート)の演説の途中、大統領は狙撃されます。爆破事件も同時に起こり、大混乱の中、SPのバーンズ(デニス・クエイド)たちの狙撃犯探しが始まります。

冒頭シガニー・ウィーバーをディレクターに据えてのテレビ中継の様子は、観慣れた描き方ながらも緊張感が伝わり、さりげなくアメリカが当地で歓迎されていない様子も挿入していて、掴みはOK。これが後半の展開に、説得力を持たせます。

狙撃後の描き方は、バーンズ、アメリカ人観光客ハワード(フォレスト・ウィテカー)、覆面刑事エンリケ(エドゥワルド・ノリエガ)、テロ犯たち、大統領の、各々の視点の大統領狙撃23分前が描かれます。謎の残った部分、思わせぶりだった部分の解答が、別の視点から用意されており、この辺の筋運びが上手いです。下手な時空いじくり系のわかりにくさは皆無で、どんどんスピードアップされていく展開にも、充分ついていけます。

バーンズは半年前、護衛中に大統領をかばい負傷。そのトラウマが抜けきれぬ間の復帰が危惧されています。ハワードは妻子と別居中で傷心。エンリケの恋心は?などなど、秘めたるエピソードが散りばめられていますが、人間ドラマ部分はばっさりカットし、サスペンス部分だけを強調した作りです。しかしそれが功を奏したのは、キャスティングにクエイドやウィテカーなど、演技巧者を配したので、立ち姿や目の表情だけでも、心情が表現出来ていたので、物足らなくはありません。無駄な豪華キャストでないところも、ポイント高し。

クエイドはコンスタントにアクションから「エデンより彼方へ」のようなメロドラマでも活躍している人ですが、今回私的にはハリソン・フォードを彷彿させました。地味さが渋さへと、変換されていると思います。私は未見ですが、「デイ・アフター・トゥモロー」のような大作でも主演を張るなど、もっと日本でも注目されていい人だと思います。後5年は今の路線で頑張れると思うので、超のつく大作での主演が観られるかもです。

ウィテカーは、オスカー受賞後にこの作品のオファーを受けたのは偉い!演じる人が下手であれば、沈んでしまう役ですが、彼のお陰でとても含みのあるキャラになったと思います。彼の持ち味は、今回のような、ちょっと間の抜けた暖か味と誠実さが滲み出る役だと非常に際立ちます。偶然出会った少女への思いやりは、センチメンタルな旅であるという土壌と、彼の持ち味がプラスされ、味わい深く筋に絡んでいました。

ノリエガは私は好きなんですが、今回は平凡でした。ラテン系はバンちゃんの成功以後、ガエルやディエゴ・ルナ、そして今年のオスカーを取ったハビエル・バルデムなど、続々とハリウッドに進出していますが、もっと早くに本国スペインで人気があった彼は、出遅れちゃったかな?髭はない方が絶対ハンサムだし、次に期待します。

難点を少し上げれば、後半のカーチェイスは息もつかせず面白かったけど、もうちょっと切っても良かったかも。それくらいですね。大統領がバーンズが護衛についた時、「あの時はありがとう」とか、全然声をかけないのが不思議だなぁと思ったんですが、こういう秘密があったとは。報復を迫る側近に、「報復は憎しみしか生まない」と答える大統領は、民主党の設定かしら?と、ついつい時節柄思ってしまいました。ああ面白かった!と、気分よく劇場を後に出来る娯楽作です。


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