ケイケイの映画日記
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25日に観て来ました。実はワタクシ、ここ数年バレンタインとホワイトデーに、映画のチケットを交換しているボーイフレンドがいます。お会いしたのは一度だけですが、大切なお友達の一人なんです。今年私が贈ったのが「シリアナ」。結果は二人とも・・・でした。この作品はラインシネマで3/18から公開だったので、通常ならすぐ観たのですが、入院が予定外に入ったので、ずるずる延びてしまいました。入院前ラインシネマに問い合わせると、4/28まで上映というので、仕事再開後の作品として取り置きの品でして。直前に観た完成度は高し、でも好きになれない「ブロークバック・マウンテン」とは対極の、雑い脚本甘い演出ながら、作り手の暖かな気持ちが伝わってくる、好きだと言える作品でした。
カメラマンの母(松雪泰子)が海外での仕事のため、北海道の恋人の獣医(大沢たかお)の元に預けれられた太一(深澤嵐)。東京から転校して間もないため友達もおらず、寂しい日々を送っていました。ある日下校時に一匹の子ぎつねを見つけた太一は、家へ持ち帰ってしまいます。獣医の娘美鈴(小林涼子)に洗ってもらった後、ドライヤーの音に気づかない子ぎつねを不信に思った獣医が調べると、子ぎつねは耳が聞こえず目も見えないようです。そんな子ぎつねを太一はヘレン・ケラーのヘレンと名づけ、自分を重ねて一生懸命慈しみます。
最初一人迷子になるヘレンを、太一は「お母さんの落し物」と表現します。それは「お母さんの幸せは太一の幸せよね?」と屈託なく言い放つ母親を持つ、彼自身が投影されているのでしょう。決して捨てられたのではない、間違って置いていかれたのだと。自分の環境を受け入いれながら、自我の芽生えを見せる太一を、暖かく見守りたくなります。
時期が過ぎてしまいましたが、春休みのファミリー作品ですので、描写や筋運びが非常にわかりやすいです。そのわかり易さが安直だったり雑に見えるのは確か。たとえば小さく手術に耐えないへレンを、太一が一生懸命になると肉も牛乳も食べる場面など、都合よすぎて白ける人がいるのもわかります。しかし子供を育てていて、思いがけない小さな奇跡や、思いが通じる体験を経てきている私には、不十分な演出でも充分理解出来るのです。この不十分さは、小さなお子供さんへは解り易さとなったと思いますので、これでもOKかと思いました。
ただ転校生として寂しさを感じていた彼が、いつの間にか友人が出来ていたり、導入部分で獣医宅に預けられているのに、不自然な演出の箇所など、捻らずとも、もう少し説明があっても良かろうとは思いました。
私が印象深かったのは、共に子供を連れた男女の再婚話が描かれていたことです。太一の母も悪意のない人ですが、母親としては未熟な人です。獣医の娘美咲が、高校に行きながら、もうからない父の仕事を手伝い、おさんどんに明け暮れる姿は、何気なく挿入したのではないと思います。遊びたい盛りの子が、友人とお茶する姿さえありません。そんな娘に父親は、感謝の言葉もねぎらいの言葉一つすらありません。太一の母も、自分の都合で子供の環境を振りますことに、何も感じてはいません。しかし美咲も太一も、渋々ながら受け入れます。それは何故でしょう?
親が好きだ、というとても素直で当たり前の気持ちだからでしょう。そして親たちも、欠点だらけながら子供からの愛情を受けるに足る人ではあると描いています。そんな親が、太一のヘレンへの生きとしいける者への深い愛情をみて、親として子供の愛にどう応えるべきか、どう接するべきか、気づく仕掛けになっています。
子ぎつねがヘレンなら、太一はサリバン先生であり母です。段々弱って苦しんでいくヘレンを、共に泣き共に苦しみ、共に喜び共に愛する太一。誰がなんと言おうと、ヘレンを手放しません。これは子育ての原点だなと、私も小学生の子に改めて教えられました。子育ては親育て、ヘレンを通じて一回りたくましく成長した太一が実証してくれています。
子供達には限りある生命の大切さを、親たちにはそれを発展させて子育てを考えさせてくれる作品で、ファミリー映画として充分合格点をあげても良いかと思います。動物がいっぱい出てくるので、それだけでも動物好きさんにはお薦めできる作品です。
2006年04月23日(日) |
「ブロークバック・マウンテン」 |
今春最大の話題作(多分)。手術前に観たかったのですが、体調優れず後回しに。21日まで家から近い難波の敷島シネポップで上映と知り、大急ぎで観てきました(やはりリーブルは術後まもない体では辛いと、「ヒストリー・オブ・バイオレンス」で思い知る)。オスカーでアン・リーが監督賞のみに留まったのは、ゲイの愛を扱う題材のためだと巷の評判でしたが、「クラッシュ」と両方観た私の個人的な感想は、題材のせいではなく、作品の出来も「クラッシュ」が上のように感じ、前評判の割には肩透かしでした。時々あるんです、こういうこと。今回は少数派の感想でネタバレ含みます。
1963年のアメリカ・ワイオミング。羊飼いの季節労働者として雇われた若者イニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)。厳しいブロークバック・マウンテンでの二人ぼっちの労働は、やがて友情から愛情に変わります。下山して二人は別れ、イニスは山に登る前からの婚約者アルマ(ミッシェル・ウィリアムズ)と結婚し、二人の娘にも恵まれますが、生活は厳しいものでした。そんな時4年ぶりにジャックから会いたいとの手紙が来ます。ジャックにも妻ラリーン(アン・ハサウェイ)と息子がいましたが、再会で二人の激情は募ります。以来人目を忍び、年に数日二人だけの時間を持つことだけが、彼らの生きがいとなるのですが・・・。
前半は山での労働場面の厳しさを丹念に描いています。山の風景は雄大なはずなのに、孤独と閉塞感を感じさせ、彼ら二人だけの世界であると自然と納得させられます。しかしそれでも尚、私には二人が結ばれるきっかけが唐突に感じました。しかしのちの描写で、誘いをかけたジャックは元々ゲイであったようだし、イニスの方は、幼い時父親からゲイは恥ずべきことだという強烈な刷り込みのため、自らの性癖を心の底に封印していたのかと思い、ここはまず問題解決。
しかし再会後がなぁ。イニス家の金銭的な厳しさ、そして子供は可愛さよりも煩わしさの方に焦点を合わせた演出でしたので、ジャックをひとめ見るなり激しいキスをするイニスに、ジャックと結ばれた時にはなかった嫌悪感が私を包みます。これってジャックへの長年秘めた愛ではなく、苦しく夢のない生活からの逃避ではないんでしょうか?年若く遊んだこともあまりなく結婚した彼には、大黒柱でいることには息苦しさもあったでしょう。しかし人の親となるにの年齢は関係ありません。生活の苦しさからパートに出る妻には、急に仕事になったからとみる予定だった子供達を、パート先まで押しかけて渡すのに、ジャックとの逢瀬のためには平気で仕事を休むなど、妻アルマは夫の秘密を知った時どんなに辛かったろうと、とても同情しました。
ジャックの方も妻ラリーンが資産家の娘だから近づき、「生活のため」の結婚であるとイニスに告白します。これは俗にいうカモフラージュ?「そうするしか仕方なかったんだ」って、彼はロデオ好きと描かれていましたが、自分に才能がないと認めて、どんな仕事でもする気なら、自分の口くらい養えるだろうが?それで自分の性癖まで曲げるなんて、とっても女々しく私には思えました。ふと同じリーが母国台湾で監督したゲイテイストの作品、「ウエディング・バンケット」で、女性を妊娠させたパートナーに、「寝たことが悪いと言っているんではない。僕が怒っているのは、妊娠させたことだ!」と激怒した潔さが思い出されました。舅がいやな親父に描かれていまいしたが、結婚の動機が動機なので、親に嫌われても当然の気が。それがイニスへの想いに拍車をかけたのは理解出来ますが、やっぱり反省すべきは自分じゃないでしょうか?これも観客のジャックへの同情ポイントに描かれている感じですが、その手に落ちない私は、ここでも置いてけ堀です。
人知れずの忍ぶ恋の演出なのですが、年に数回、それも泊りがけで釣りだろうが狩りだろうが一緒に連れ立ってなんて、普通の男女の間柄で通用するとは思えません。ゲイは辛いのはずが、男女の秘めた関係より大っぴらな行動に感じ、私はもっとストイックなゲイの純愛を想像していたので、結婚するわ年に何回も逢瀬は出来るわ、なんだ好き勝手やっているではないかと、とても肩透かしでした。その他イニスは離婚後ジャックとの関係を続けながらまた女性と関係するし、ジャックもメキシコで男を買ってイニスと会えない渇きを癒したり、牧場主の妻と浮気するなど、節操のないバイセクシャルに感じます。
どんな理由であろうと、同性愛であろうと、家庭を持てばまずはその幸せ優先なのではないでしょうか?あんな不実な男達には、例えどんな悲恋であっても、とても同情出来ません。同性愛を普遍的な愛の物語に昇華しているという評判は、私には当時理解されず差別されたゲイを隠れ蓑にして、切ない悲恋に感じるよう作られたように思いました。ゲイなのに違和感がなかったのではなく、ゲイだから可哀相に感じた人が多かったんじゃないの?これが異性同士で描いたのであれば、こんなに賞賛された作品でしょうか?
私の感受性が無粋であろうがなんであろうが、こうなりゃイニスが離婚後、これで彼と暮らせると思ったジャックが、イニスにダメだと言われての涙も、全然胸に響いてきません。また女々しい感じ。だいたいイニスも妻の変化は自分の秘め事を知られたからと、全然頭にもない鈍感さに腹が立ちます。「こうなったのは、全部お前のせいだ!」とジャックに涙ながら訴えるのも、ここも切なさポイント高しなんでしょうが、私にはまた女々しい。なんで相手のせいにする言い方をするかなぁ。
軸には腹が立つことが多かったのですが、出演者は全て好演でした。特に良かったのは二人の妻。ミッシェル・ウィリアムスは童顔の幼な妻容姿から、貧しい家庭を切り盛りする所帯やつれや、夫の同性愛を目にした時のショックなど、私が一番感情移入したキャラでした(当たり前か)。アン・ハサウェイも、キュートで可愛い彼女のイメージから脱皮した、仕事にやり手の妻を好演していました。主役二人も好演だったと思いますが、如何せん私はちっともこの二人が好きになれなかったので、あまり書くことはありません。
ラスト、亡くなったジャックの両親を訪ねるイニスへの、彼の両親の接し方が印象的です。息子の性癖を知る両親は、イニスにも冷たい態度ですが、イニスが心から息子を愛していたと感じると、母親は態度を軟化、息子の遺品を快くイニスに渡し、「また来て頂戴ね」とねぎらいます。相手が同性であろうとも、息子の愛した人だったと受け入れています。対する父は、最初はジャックは我が家の墓に入れんと言いますが、それは同性愛の息子のことを、決して許さないという世間体を慮った言葉だと思いますが、イニスの気持ちを知るとやはり態度は軟化。しかしジャックの遺言で、遺灰はブロークバックに撒きたいというイニスの申し出は拒否。我が家の墓に入れると本音を言います。どんな不道徳な息子でも、自分の子供である可愛さには変わりはないが、ゲイとしは認められないと見えました。男親の感情としては、わかりやすかったように思います。この辺は時代が21世紀に近づく「ウェディング・バンケット」で、息子のパートナーを「息子の愛した人は、私の息子だよ。」という父親のセリフに感激した私には、この作品の時代の、厳しい偏見を垣間見た気になりました。
前半は問題もあまりなかったですが、後半でかなり玉砕しました。しかし丁寧な演出に、私が女々しいと感じた部分で心打たれた人も多かろうとは理解出来ます。私にはあんまり縁がなかった作品ですが、これだけ話題になった作品ですので、やはり自分の目で確かめられて良かったです。
監督のマキノ雅彦とは、俳優の津川雅彦のこと。母方の祖父であるマキノ省三の苗字を取り、初監督作品にクレジットしたという訳です。上方落語の噺家の世界を描き、艶笑話の小ネタの中に、師匠と弟子の親より深い絆を絡ませて、下ネタ満載なのにクスクス笑えてやがてしんみり、上々の出来に仕上がっていました。
上方落語会の重鎮・笑満亭橋鶴(長門裕之)の通夜の「寝ずの番」をする弟子達(笹野高史、岸辺一徳、中井貴一、木下ほうか、田中明)や女将さん(富士純子)、弟子の妻たち(土屋久美子、木村佳乃、真由子)の様子を、たっぷりのユーモアとさらっとした情感で描いた作品。
もういっぱい笑いました。上方落語はあまりわかりませんが、そこは土着の大阪生まれの私、子供の頃から米朝、松鶴、文枝の落語は、テレビで何度も目にしていますし、タレントとしてテレビ出演する噺家もたくさん見ています。名前からして橋鶴なる人物、亡くなった6代目笑福亭松鶴がモデルでしょうか?弟子の鶴瓶の番組に出る時は、この爺さん、こんなにモウロクして落語出来るんかいな?の、お年寄りの愛嬌振りまくりだったのが、高座に上がると一転、貫禄ある姿との落差に感激したものです。うんうん、雰囲気出てるー。
奥さんもこの作品同様、元芸者さんで後妻さん、弟子たちから「あーちゃん」と慕われてたところも一緒。あーちゃんとは、お母さんという意味の幼時言葉ですが、関西だけかな?でも松鶴の息子は噺家は廃業したはず。ほな息子で弟子の岸辺一徳のモデルは、この作品でも協力をしている米朝一門のぼんぼん・小米朝かな?などなど、思い巡らしながらの鑑賞も楽しいです。
性器の俗語がいっぱい出てくるし、子供が好きそうなトイレネタも満載で、艶笑話としてそれらが小ネタで故人の思い出としてつながれますが、下品な感じは全然しません。これは出演者のキャラクター、演技によるところが大きいかと思います。若手と言えるのは監督令嬢の真由子くらいで、他は年齢も中年から熟年といえる芸達者ばかりで、かつては濃く暑苦しい演技だった人も、適当に油が抜けてとっても良い感じ。現場は楽しかっただろうなぁと思わせるほど、皆さん嬉々として演じているのが、見ている方も楽しくて。人間幾つになっても、考えることは若いというか、成長しないというか。私も中年といえる年になっても全然成長がないのを自覚してしるので、ちょっとホッとしたりもします。
全く問題なし、と言いたいのですが、残念ながら全体に作品を包む「粋と艶」は、どうも上方の色もんの世界が舞台なのに、江戸前に感じるのです。出演者の関東出身組も上手に大阪弁を喋り、京都出身の長門裕之の方がおかしく聞こえたくらいなのですが、どうも私には違和感がある。何かと言えばたとえ難いのですが、私が子供の頃からラジオやテレビで慣れ親しんだ、芸人さんたちとは違うのです。それを一番感じたのは、芸達者の誉れ高い堺正章が、作品から浮いていたことです。
お芝居が悪いというよりも、あれは尼崎のタクの運ちゃんでは絶対ないです。元工場の社長も違うなぁ。尼崎は私の住む生野と雰囲気の似た猥雑なバイタリティーのある町ですが、あれではちょっと綺麗にまとまり過ぎ。桂ざこばなんてキャスティング、ダメかしら?ほんまもんの噺家に素人の役なんて、これも粋ですよね?
本物の芸人・田中明がいい味出しているのはともかく、木下ほうかの突っ込みの間合いの絶妙さや、普段使わない芸人言葉の大阪弁を滑らかに操り、出色でした。大阪の人なんかしら?と検索すると、吉本新喜劇にも出ていたとか。やっぱりなぁ、肌で覚えるんですよね、こういう間合い。今では名優として名高い岸辺一徳も、そうやこの人は京都出身、元タイガースのサリーなんやわと思い出させる楽しさでした。でもなんと言っても、見ものは長門裕之の死体の演技だと思います。
師匠に続き、高弟、おかみさんの死去など、次々笑満亭一族を襲うのですが、みんなみんな明るく楽しく故人を冷やかしながら、いっぱいの感謝に溢れていたのが、胸にじーんときてホロッとします。師匠の時よりおかみさんの方がお弟子さんたちが泣くのも、なんかわかるなぁ。ただずっとおかみさんは、「ねえさん」か「あーちゃん」と呼ばれていました。「ねえさん」は自分の兄弟子の妻や女性の先輩芸人につく言葉で、上方の世界でも、師匠の妻は「おかみさん」ではないのかしら?この辺がずっと疑問に残りましたが、私の認識不足かもしれません。
原作は故中島らも。さすがは灘中灘高出て、某大阪の私大に進んだ人だと思える面白さです(褒めている)。らもさんの頃の某私大のレベルは、「東大に合格するより、その大学を落ちるほうが難しい」レベルだったと思います。今はトンデモないみたいですが。そそ、ちゃこなど、地方によって女性器の俗称は違いますが、大阪の誇る女優さんに「紅萬子」という方がおられます。そのまま読んでね。ちなみに東京やNHK出演時は、「くれないまこ」と呼称されるのだとか。そのままでええやんねぇ〜。その昔のプロレスラー、ボボ・ブラジルは、九州ではどう呼ばれたんでしょ?
2006年04月19日(水) |
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」 |
行って来ました、映画館。3/30日の「力道山」以来、20日ぶりです。「ブロークバック・マウンテン」とどちらにしようか迷ったのですが、私には監督としてはクローネンバーグ>リー、出演者もヴィゴ・モーテンセンやエド・ハリスなど、「男は40過ぎてから」派の私に向くキャスティングだったので、こちらにしました。術後16日なのに、梅田の駅から遥々離れたリーブルで鑑賞という暴挙に出ましたが、その甲斐のある作品でした。
アメリカの小さな片田舎。ダイナーを営むトム(ヴィゴ・モーテンセン)は、弁護士の妻エディ(マリア・ベロ)、息子ジャック、娘サラと共に、慎ましくも幸せに暮らしていました。ある日トムの店に凶悪犯二人が強盗に入り、トムが鮮やかな身のこなしで射殺します。店にいた客や従業員の証言から、彼は一躍町のヒーローに。マスコミに英雄視されるのをいやがるトム。そんなある日、彼の店に怪しげな男達(エド・ハリス他)が立ち寄ります。そしてトムに向い、「久しぶりだな、ジョーイ」と呼びかけます。ジョーイなる人物は元マフィアなのです。人違いだと否定するトム。しかしその後、夫を信じていた妻エディが、疑心暗鬼になる事件が起きます。
題材とキャストが面白そうだし、クローネンバーグが監督ということで、是非観たい作品でした。冒頭の凶悪犯の非情さや流血場面のリアルさに、チョロッとクローネンバーグっぽい感じがしますが、全体に変態趣味は薄く、しごく真っ当な仕上がりになっています。
以下ネタバレ**********
暴力は暴力で清算する様子に、暴力の否定が感じられます。その様子から、過去から人は逃げられないとの捉え方も出来るでしょうが、私はそう思いませんでした。
父親が英雄となり、普段いじめられているジャックが、相手を病院送りにするほど叩きのめしたのは、あれはトムの件が引き金でしょう。息子は父親から勇気を受けたと思っていますが、何度もGFに相手にするなと言われているし、以前の時は上手くかわしていました。必要以上に暴力だとトムは感じたので、口答えする息子を殴ったのだと思います。反対に思わずハリスを射殺したジャックを抱きしめたのは、命の危機に面していたから。だからこの時は、動揺しているはずの息子を抱きしめたのだと思いました。
トムはジョーイでしたが、サスペンスタッチのそのことより、以降の本当の夫・父の過去を知った家族の葛藤が軸に感じました。エディがハリスたちを一瞬にして倒す夫を見て、彼がジョーイだと確信するのは妻ならではの勘だと思います。そこには、見たことのない夫がいたのでしょう。前半で大きな子供がいるのに、仲睦まじい夫婦のセックシーンが出てきますが、夫の過去を知った後の、半ば暴力的な階段でのセックスのためだと思いました。
たとえ暴力的であっても、妻にとって長年肌を重ねた夫がそこにいたのではないでしょうか?過去は知らなくても、知り合ってからの夫に嘘はないことを、妻が感じる場面であったように思います。夫に応じる妻の様子にそれが表れていました。警官の疑問を即座に否定するかと思えば、また理性がそれをかき消してしまう。そんな妻の葛藤がよく描けていました。
ラストの家族での食卓場面は秀逸です。実の兄を含む組織の人間を殺しても、トムは家に帰ってきました。家庭に戻って来たこと、暴力を振るった息子を殴ったこと、兄を射殺した拳銃を池に投げ入れたことなど、私はトムはジョーイには戻らないと感じます。彼がジョーイに戻ったのは、相手から拳銃を向けられて、家庭を自分を守る時だけだったと思います。言わば正当防衛。暴力の連鎖を描きながら、過去の過ちを受け入れる隙間を与えた、良い脚本だったと思います。
モーテンセンは、いつものただもんじゃないオーラを封印、穏やかなトムと凄腕のジョーイの演じわけが上手かったです。それより感激したのがマリア・ベロ。普通の善良な妻を好演、彼女が演じたから、妻の葛藤にも説得力があったと思います。少々トウのたった人妻のお色気の付録つき。ウィリアム・ハートは数分の出演でオスカー候補だったそうですが、さもありなんの存在感と演技でした。でもそれならエド・ハリスも候補にして欲しかったかなと。悪役の彼は久しぶりに観ましたが、片目がつぶれてても、やっぱりこの人はいいわー。
悩みながら妻は夫を受け入れてくれるはずです。二度目の退院の時、誰の付き添いもなく一人でトムが傷を抱えて退院する時、私は胸が締め付けられました。画面に描かれなかった妻ですが、きっとあの時、エディも辛かったと思うから。
2006年04月18日(火) |
「ドット・ジ・アイ dod the I」&「闇に裂く一発」 |
ここへ来て体調回復が足踏み状態、まだ劇場復帰出来ていません。昨日と今日とケーブルで観た作品です。二つとも面白かったです。今月まだ放送があるので、ご紹介します。
「ドット・ジ・アイ」
「ムービープラス」で観ました。人気のガエル・ガルシア・ベルナル主演のミステリー。一昨年の夏、テアトルで公開でしたが、夏休み中で見逃した作品です。結婚直前の女性(ナタリア・ヴェルベケ)が、ふとしたことで知り合った男性(ベルナル)に心を揺さぶられ、婚約者と三角関係に突入するが・・・。もちろん裏があるのです。その裏というのは、伏線の張り方でだいたい予想がつき、一回目のびっくりは、あぁやっぱりね、という感じです。
ここまで来るのが長いし、ヴェルベケ演ずる女性が、あまりにエキセントリックで自分勝手なので、観ていて少々辛いです。後述に「『ベティ・ブルー』」のような女性」と出てきますが、ベティは、「私あなたを尊敬したいのよ」(←これ私の好きなセリフNO.1)のセリフに表れる、一途さけなげさが、その狂気のような愛を純粋に感じさせましたが、ヴェルベケは魅力的だけど、一緒にいるとしんどいやろなぁ、と思わせます。それとガエルと結構なベッドシーンがあるのですが、何故かブラつき。ヨーロッパは(アルゼンチンの人)脱ぎっぷりの良い人が多く、この人も艶やか系なので、そこが謎でした。あれはとった方がいいぞ。いや別に親父目線じゃないですが。
しかしそれを救うのが、ガエル君。小柄な男性特有の、艶っぽく若々しいセクシーで、作品を救います。ヴェルベケも綺麗でスクリーン栄えはするので、まあ堪忍したろうという気分に。最初のびっくりの後にまた二転三転するのですが、それはエンディングまでお楽しみに。結構にやにやする終わり方で、ビデオやケーブルなど、家庭で観るのに向く作品かもです。多少一発芸っぽいですが、まずまず楽しめます。
「闇を裂く一発」
大映作品。子供を人質に逃げ回る前科のある狙撃犯(佐藤允)を探す捜査一課は、射撃で時のオリンピック候補である警察官たち(峰岸龍之介(現・徹)、平泉征、青山義彦)を、捜査に加え、犯人を追い詰める作戦を立てます。
いつもお世話になっている北京波さんからの強力な推薦作。名前も知らなかった作品だったのですが、これがすっごく面白い!オープニング映像から、音楽一切なしで射撃練習する若い警察官たちを映し、流れるのは蝉の声だけというタイトさが、期待を盛り上げます。
若い警察官たちは、それぞれベテラン刑事たちと組むのですが、面々が露口茂や加藤武など、のちの役柄で刑事役が持ち役の人達なのが、ご愛嬌。峰岸と組む露口は、生涯一刑事を貫く平刑事ですが、同期が出世して警察署長になっても悠然としている様は、現場が好きで、プライドを持って仕事をしている人隣を、自然に描写しています。
峰岸は拳銃が扱いたくて警察官になったと語り、露口を苦笑させます。今も昔も、若いのは困ったちゃんが多かったのかと思う私ですが、骨の髄まで刑事の露口と行動を共にすることによって、峰岸の警察官としての挫折や正義感の芽生えを、これまた的確に描写します。
複雑な犯人の環境や心も、他者によって上手く浮かび上がらせていますし、出演場面は少ないですが、強い個性で佐藤允が犯人を好演、空しさ哀れさを感じさせ、ただの凶悪犯に終わらせません。
掘り下げや人物描写のキャラ立ちも優れ、時代が持つ光と影の描写も的確。オリンピック候補選手が題材というのも、きちんと生かせていますし、ハードボイルド作品でありながら、爽やかさを感じさせるのは、題材からだと思います。この作品はビデオやDVDになっていませんので、「日本映画専門チャンネル」で、今月あと2回放送されますので、ご興味のある方は、是非ご覧下さい。こちらは絶賛です。
2006年04月15日(土) |
「東京タワー」(地上波放送) |
入院中、「金曜ロードショー」で観ました。去年の公開時には、41歳の女性と21歳の大学生の不倫物ですので、もうそれだけでケッ!となり、パスした作品です。ところがいつもお世話になっているヤマさんが、公開当時、高い評価を与えておいででしたので、ふーん、何事も先入観はダメなのねと思い、機会があれば観てもいいかと思っていました。しかし!私の感想は、ヤマさんてロマンチストなんだわぁーと、時々見え隠れするお人柄を再認識しただけとなりました。以下多分罵詈雑言、好きな方には申し訳ないので、お気をつけ下さい。
東京の一等地でセレクトショップを営む41歳の美貌の人妻詩史(黒木瞳)と、三年前から関係を持つ21歳の大学生透(岡田准一)のカップルと、その友人耕二(松本潤)と35歳の専業主婦喜美子(寺島しのぶ)のカップルが織り成す物語。
これだけのお話。実際観てみると、どう考えても不倫願望なり、美少年好きのそこそこ年かさの女性をターゲットにしている作品で、二つともない私はそれだけで辛い。売りは女性二人より巷でイケメンと言われるジャニーズの二人なんでしょうが、如何せん私には全然。以前病院の待合に置いてある女性週刊誌の表紙を見たうちの若先生、「う〜ん・・・」と言いながら、ぺっと裏返しなさる。「へっ???先生、何してはるんですか?」「いやこの顔、波動が悪いなぁと思って。」「この子ジャニーズの子で、今人気の子なんですが。」「いや、僕は知らない子なんですが、何となくそう思ったんで」。
その「波動の悪い顔」の持ち主が松本潤です。もう一つ好きになれない子だったんで、そうか波動が悪いからなのね、と私はその時納得。岡田准一の方は嫌いではありませんが、でも私には「その辺のボク」以外ではありません。黒木瞳ってさ、実年齢は私より一つ年上なのよ。設定も似通った年ですし、「ボクたち」に萌えられなければ、共感もへったくれも無いわけで。
入院中東野圭吾の「白夜行」を読み、その中で初体験の中年女の手練手管に骨抜きになった高校生が出てくるのですが、そのことしか考えられなくなり、成績は急降下。しかしその浅ましくも滑稽な様子は、あー、17歳くらいの時はしゃあないなぁと、リアルに理解出来ましたが、岡田の乙女のような純愛の貫き方は、私には21歳にしても男として軟弱に感じました。いくら天下の黒木瞳が相手とはいえ、三年も続く熱中は、熟女フェチとしか私には思えません。これが年の差が10歳くらいか、出会いが20代半ばのある程度大人になった時なら、納得出来たのですが。お母さんが仕事で忙しく、甘えられなかった分年上好きという風にも、描かれていませんでしたし。この辺に「白夜行」と「東京タワー」の、原作者の男女の違いを感じました。だいたい名前も詩史って、四十女がキャバクラ嬢みたいでいや(中年の本物の詩史さん、許されてね。本物はいいのよ、本物は)。私の年代は古式ゆかしい昭和の名前がいっぱいで、こういう名前、綺麗でいいわーと、中年女が喜ぶだろうと言う、原作者の陰謀が感じられます。
松潤の方も、「人妻は可愛い。」以下よく覚えていませんが、ふざけたセリフをはく割には、年下男のため新しい下着を着て見せたり(これ基本形ですわな)、湯船にいっしょに入り、桃を口移しで食べさせる彼女に、「この人には悪魔が棲み付いている」みたいなセリフが入り、怖気づく様子なんか、ふふん、この程度でビビるなんて、まだまだおケツが青いのよ、人妻を相手にするなんて100年早いわと思ってしまいます。 この妻達にしても、黒木妻は実際は夫の庇護の下仕事をしているわけで、かっこつけている割には、みかけだけ。何が一番腹が立つかというと、自宅や別荘などに平気で間男引っぱり込むことです。教養ある知的でエレガンスな様子を気取っても、お里が知れるというもの。あのベッドは夫婦のベッドだろうが、したかったらラブホでせい!と怒りがメラメラ。寺島妻の方は、確かにリアルな専業主婦の憂鬱を感じさせ、まだマシでしたが、男との逢瀬のお金も、松潤が惚れ直すフラメンコも、お金の出所は結局夫。亭主の金で男作るか?金と暇がありゃ、私ならもっとしたいことあるぞ、あんた色だけかい?と、ここでもまた怒りが込み上がる私。
黒木妻の夫は岸谷五朗で、妻の不倫を知りながら見て見ぬふりする心のひろーい夫役ですが、私は男の浮気と女の浮気は違うと思っているシーラカンスなので、こういうしたり顔した亭主も大嫌い。それに岸谷の売れっ子CMプランナーって、ミスキャストじゃないですか?だって彼の容姿やイメージから都会的な感じする?演技自体は悪くなかったですが、長谷川初範なんかの方が、年齢的にも良かったかも。
ラストおフランスに渡り、黒木&岡田のカップルの恋の成就には、正直噴飯物でした。確かに年の差カップルは世にたくさんあり、私も否定するわけではありません。しかしこれくらい年の差があれば、特に女性が年上の場合は、内面的に相手に与えられる、人として一段高いモノが感じられれば納得出来ますが、この詩史なる女性、普通相手の将来を考えて身を引く考えが浮かんでもいいはずなのに、自分の保身以外では、別れは考えませんし、自分が先に老いることも、全然頭にないです。同世代の女性としては、あまりに幼稚過ぎます。
もう一人、岡田に刺激された松潤が、高校時代同級生の母親に手を出すのですが、この母親は浮気がばれて家庭崩壊したあとも、松潤が忘れられない設定です。この人を膨らませてですねー、あの当時夫とはセックスレスだった、女としてこれで終わりたくない、だから分別なく娘の同級生とエッチしちゃった、それが思いがけず夫より良かった、だからまだ忘れられない、みたいな後日談を描いた方が、ドロドロしてて、女の性の怖さや哀しさが描けそうで、見応えあったかも。幼稚な有閑マダム(死語)を描くより、私はその方が観たかったです。
2006年04月13日(木) |
術後の注意と今回の手術で思ったこと |
前回の続きです。まずは退院時の先生からの注意です。
日常生活について
1 入浴 出血が止まれば可
ほとんどないけど、大事をとって来週からにします。
2 家事・外出・自転車などの乗り物 すこしずつやってみて、問題なければどんどん進める。 痛みなどがあれば、しばらく様子を見てから再開する。
現在している家事はお弁当、朝夕食作り(朝は後片付けも)、洗濯。家族の分担は布団の上げ下ろし、ゴミだし、食器洗い、風呂場の掃除、洗濯物をたたむ等。スーパーなどは、家族の誰かに付き添ってもらい、荷物は全て持ってもらっています。昨日銀行に行ったり区役所帰りにスーパーに寄ったら、帰宅後めまいがして布団に直行。ぶらぶらしているとわかりませんが、体力はまだまだ術前に追いついていない模様。自転車は来週くらいからボチボチ乗るつもり(だってラインシネマに行くんだもん)。痛みは全くありません。今週末は食事作りはパスして、体力を温存して、来週から家事も増やす予定。
3 運動・スポーツ 2が問題なければ、3と同じ
私は特別にスポーツはやっていませんが、今日明日くらいから、軽いストレッチは始めようと思っています。
4 セックス 術後1ヶ月から可
まあ、ボチボチと。
5 食事・アルコール 自由にして良いが、食べ過ぎ飲み過ぎは控えましょう
私はアルコールは全く飲まないので、これは楽勝。食べ過ぎは、入院中胃が小さくなったせいか、すぐお腹が苦しくなるので、意識して控えています。私はお酒もタバコもたしなみませんが、その代わりおやつ食べまくり、コーヒー飲みまくりでしたが、入院中これも少しでOKだったので、出来れば良い習慣は残したいと思っています。ダイエット出来るかな?
次の検診は? 変わりなければ2週間後
仕事の再開は、術後三週間後の4/25を予定しているので、先生に聞いたところ、「検診の時に相談しましょう」とのこと。職種と時間から考えて、多分大丈夫だと思います。運動量の多い仕事は、やはり一ヵ月後〜一ヵ月半くらいが望ましいと思います。その他、子宮摘出の後は、抜糸のいらない体内で溶ける糸で縫ってあるので、そのため術後4週間〜6週間の間に、かさぶたがはがれるような出血があるが、大事無いとのことです。
検診は以降半年ごとに、卵巣の検診を勧められました。子宮がなくなったので生理はなくなりましたが、卵巣は残しているので排卵はあります。普通は閉経でわかるホルモンバランスを、知っていた方が良いからとの説明でした。私の誕生日は10月、手術は4月なので、ちょうど半年開くので、この時期に検診に行こうと思っています。
今回の手術の感想
今思えば、今の主治医が「あなたより大きくても要観察の人もいるし、小さくても取る人もいます。僕は取ってすっきりする方をお勧めします。」というのは、当たっていたなと思います。病院もこじんまりした産科婦人科だったので、毎日新生児室を覗くのが楽しみだったり、分娩室から産婦さんの絶叫も懐かしく、看護婦さんたちも皆さん優しく、質問や雑談にも、気軽に応じて下さるなど、楽しい入院生活でした。
今回の主治医二人は、検診や説明の際細心の注意を払いながら、「開腹に変更はあるけれどめったにはない」「尿管の位置を調べますが、僕は一度も失敗はないです」「あなたの筋腫は推定600グラムくらい(実際は660グラム)、僕は1キロ400まで膣式で出したことがあります。」など、私には慢心や過信ではなく、医師としての自信とプライドに聞こえました。加えて看護婦さん方の「うちの先生は腕が良い」と口々に仰る様子に、先生への敬意が感じられ、それは私の先生への信頼をも増しました。病院の規模ではなく、医師の人柄と腕を見込んで、この病院にして本当に良かったです。
しかし私の場合、子供を産み終えた女性の子宮全摘出手術だったので、ここで正解でしたが、もっと難しい筋腫、または重篤な病、繰り返しますが子供のいらっしゃらない方の場合、辛いかもわかりません。病院の規模で選ぶのも、決して間違った選択ではないと思います。そして子宮摘出に不安が残れば、既婚・未婚、年齢、出産の有無にかかわらず、自分の気持ちを正直に主治医に話すことをお勧めします。どんな病もそうでしょうが、自分で納得して決める、これが一番大切なのではないでしょうか?
私が子宮摘出に本当に納得出来たのは、三番目の医師の時です。この先生は要観察を勧めながらも「手術も間違った選択ではないよ。筋腫というのは、自然には絶対小さくならんからね。今なら膣式でしどきやし。子宮は全摘です。あんたの年(当時43歳)で子供が三人いてたら、普通はもう産まんわな。子宮を置いといて、再発したわ妊娠たわでは、大変やろ?」と言われました。私は結婚が21歳と早く、上の息子達が成人になった今も、時々遅れる生理の度、大丈夫と思いながら妊娠判定薬を買うときなど、我ながらみっともなく、もういいかげんにしたいなと思ったものです。喪失感ではなく、そうか妊娠から解放されるのかと、目から鱗でした。
当初の脅され気味でビクビクしながら、後ろ向きに納得しての子宮摘出から、段階を踏んで、健康を取り戻すための子宮摘出だと、気持ちが前向きになった、結果オーライの私の手術でした。この筋腫日記は、これからも折々、一年くらいは書きたいと思っています。現在筋腫に悩み、この日記を参考にされる方に、元気な私の姿を見ていただきたく、それは私の今後の励みにもなるからです。
それ以外の方々、特に男性にも読んでいただきたく思っています。子宮を取ると女でなくなるという考えは、未だに多くはびこっています。それ故興味本位の見方をされることに辛い思いをするため、厳しい症状の中、なかなか手術に踏み切れない方も多いはずです。そういう偏見を覆すためにも、あせらず急がず、以前より女を上げるよう頑張りたいと思っています。取りあえず血行が良くなったのか、肌がちょっと白くなりました。それでは皆さん、今後もドウゾヨロシク。
備考
入院費は、所得により高額医療払い戻し請求というのがあり、大阪市は世帯総所得670万円以下の場合(年収ではないのでお間違えなく)、雑費食費を除く入院費が、72900円以上かかった分が、申請すると3ヶ月以降に戻ってきます。私の場合は入院費136950円、その内医療費125970円から72900円引いた分が払い戻しされます。注意点は、一ヶ月単位の計算なので、二ヶ月にまたがると、返金されないこともあります。私はその辺も踏まえて、入院は月初めを希望しました。その他高額医療貸付制度もあり、先に72900円を払うと、それ以上は支払わなくても良い制度もあります。入院の際は、お近くの役所にお問い合わせ下さい。
2006年04月11日(火) |
入院・手術〜退院まで |
4/2(日)入院当日
この日の3時に入院予定。当日は緊張しているも、なんだかぼんやり。「もしかしたら、今日もお母さんが朝ご飯と昼ごはんつくるん?」と恨みがましく家族に言うと、朝は三男がフレンチトースト、昼は次男が炒飯を作ってくれた。その後も緊張とぼんやりが続行。2時半になり夫といざ出陣。
2時50分頃到着。日曜なので、そのまま3階の看護婦詰め所へ。にこやかに出迎えて下さる看護婦さんたちに心が和む。四人部屋に案内されるも、誰もいない!「ちょっと前まではすごく混んでいたんですよ。昨日今日でバタバタ帰られて。」とのこと。相部屋なら筋腫手術の先輩がいるはずなので、経験者に色々聞けると思っていたのが、ここで撃沈。まぁ広々独り占めもいいかと気を取り直す。
下からの超音波で内診、その後剃毛、アルコールと抗生物資のアレルギーチェック、血栓予防のストッキングをはく。アレルギーはアルコールで引っかかり、低アルコールの消毒となる。
アルコールチェックで赤くなったのは初めてで、ちょっとびっくり。診察&説明は主治医の院長先生ではなく、副院長先生。ここの病院の先生は2人。私の執刀医ではないが、もちろん手術には立ち会う。「大きさはやっぱり大きいですね。8×8くらいかな?他に1×3と、ごく小さいのがあります。」その後手術の説明を、夫と二人で先生から聞く。腰椎麻酔と聞いていたので、眠らせて欲しいと頼むと、吸入で手術中は眠らせてくれることに。「普通ケイケイさんの筋腫の大きさなら、よそでは開腹手術だと思いますが、こちらで膣式でいけると判断して開腹になったのは、ここでは3回しかありません。まずは大丈夫ですが、何事も絶対はありませんので。」「卵巣は二つとも健康なので、残す予定です。ですから生理はなくなりますが、急に更年期が来ることはありません。体力が回復すれば、術前と同じ生活が出来ます。」と、誠実且つ納得できる説明に心が落ち着く。その後も看護婦さん方の「うちの先生のオペは素晴らしいですよ。」「うちの先生は本当に腕がいい」との検温や見回りの際の言葉がけに、ますます心が落ち着く。夫はその後帰宅。6時に食事。
5分粥・ゼリー・温めた牛乳・桃の缶詰3/8きれ。9時からは絶飲絶食。就寝時は眠剤を処方されるも、あまり眠れず。妊婦さんも服用する分で弱いそう。
4/3(月)手術当日
手術当日。朝6時に浣腸。以降本日は絶食。9時ごろからブドウ糖点滴
手術は1時半予定。看護婦さんや先生が何度も笑顔で見回って下さる。その間にお掃除の方にも「ここの先生は腕がいいよ。みんな元気になって帰りはるよ。」と励ましていただく。12時半頃に、夫・兄嫁・長男・三男到着。雑談で気が紛れる中、いよいよ3階の手術室へ。
腰椎麻酔の前に局所麻酔。その後腰椎麻酔。麻酔は副院長先生
あれ?痛くない。中1の時盲腸の手術の際の腰椎麻酔は激痛だった。腰椎麻酔だけだったため、手術中の会話はまる聞こえ。「あんた、腸が長いな。これ草食動物みたいやで。前世は馬かも知れんな。アーハッハッハ!」のお気楽発言や「破裂寸前やな(腹膜炎を起こしかけていた)」との言葉に、怖いし吐き気がするしで(腸を動かすので)、思わず泣くと、「なんや!大きい子が泣いて!」という執刀医に、婦長さんが「先生まだ中1の子なんです!いい加減にして下さい!」と叱責。昔はこんなんだったのよ。
数回麻酔が効いているか先生が確かめる。「僕の手、強く握れるかな?」と何度も確かめるのが、麻酔の効きだけではなく、心も落ち着く。酸素マスクがかけられているので、何度も吸うが眠れず。あぁ、もうはよ寝たい!「いつ眠れるんですが?」と問うと、「まだやで。今は酸素を流してるだけや。麻酔の効きを確かめてからやで。」と笑われる。そーですか・・・。
その後執刀医の院長先生登場。「そしたら始めるねー」の声の後、眠ってしまう。
がちゃがちゃ音がする。うつらうつら覚醒。「膣式でいけたからね!大丈夫やったよ。」の、執刀医の言葉に「ありがとうございます。」と答える。でもまだうつらうつら。
手術着を着せてもらい、ストレッチャーで病室へ。家族の顔が見える。うつらうつら。熱が出るので電気毛布が敷いてある。導尿の管あり。点滴。血中酸素濃度のための装置が指にはめてある。むかつきと軽い頭痛あり。看護婦さんに訴える。口が渇くので、氷を二かけたべさせてもらう。
一旦家族を送って、夫だけ再度来院。その頃もまだうつらうつら。(看護婦さんによると、「ケイケイさんはむかつくと仰ったので、吐き気止めを点滴に入れたんです。そのせいで眠たかったと思います」とのこと)。
一晩中寝ては起き寝ては起き。でも深く眠れる。何度も看護婦さんが見回りに来られる。熱は37・5分前後。血圧は90−60前後。痛いことは痛いが、予想より遥かに楽。
4/4(火)術後1日目
血液検査。問題なし。装置は前夜のまま。朝食は重湯とおみそ汁とお茶。お昼過ぎに導尿の管と心電図が抜ける。歩行。ふらつきなし。体を拭いていただく。持ってきたパジャマに着替える。ストッキングも脱ぐ。栄養補給と感染予防の点滴(朝2本、夜1本)は続行。痛みの座薬を朝晩使用。痛みはあるが、でもびっくりするほど早く体力が回復。ガスを確認。適時先生の回診と看護婦さんの見回り。血圧は前日くらい。体温は37.前後。昼食は5分粥と荷野菜、おみそ汁。夕食は7部粥と煮魚、煮野菜、おみそ汁
この日、同室に膣式筋腫で明日手術の方(Iさんとする)が入院。「思うよりずっと楽ですから。大丈夫ですよ。」と、ここぞとばかり、手術の先輩に自分がして欲しかった励ます側に。良い方で、以降退院まで仲良くしていただく。
夜は夫来院。落ち着いた私を見て安堵している模様。
4/5(水)術後2日目
点滴朝夕。座薬朝夕。シャワー、洗髪。シャワー・洗髪は以降毎日。お通じ有り。回診・見回りは前日同様。体温も同じ。血圧が110前後ー70〜80前後と、通常に戻る。今日から普通食。動いていないので、眠れない。
回診の際、お腹を触り固さを確認。「柔らかいねー、いいねー!ガス出た?お通じも?そう、良かったね、バンバン出してね!」。バンバンて・・・。先生すごく忙しいらしく、風のように去る。以降の回診時も、私も日に日に回復を感じている上、先生お二人とも、「そうー、良かったね、好調やね。」の連発に、患者の私も単純に気分が盛り上がる。食事は、ここは産科もあるため食事にボリュームがあり、朝のパンはともかく、お昼のポークチャップ、夕のささみフライはちょっとキツく、おかずはほとんど残す。まぁこれくらいはね。
昼に職場の同僚、義妹がお見舞いに来てくれる。「元気そうで良かった」と、両方安堵してくれる。
導尿の管が抜けたあと、排尿の時軽い痛みと残尿感、頻尿に、膀胱炎を疑い聞いてみると、多分管のせいだとのこと。様子をみるように言われ、次の日には解消する。
4/6(木)〜4/8(土)術後3〜5日
点滴なし。投薬(消炎剤、痛み止め、胃腸)に変わる。血圧安定。体温も36度から36度5分までの通常に戻る。4日目は血液と尿検査。問題なし。痛みはほとんどなし。不眠気味は続行。生まれて初めてハルシオンを服用。しかし夜中のお産で目が覚め、6時間くらいしか眠れず。
金曜日には年配の方(Tさんとする)が入院。筋腫ではないけれど手術なので、Iさんと、二人で励ます。この方も良い方だった。金曜日に友人二人がお見舞い。病室横のデイルームでおしゃべり。楽しくて長く座って喋っていたので、その後少しお腹が張ったが、大丈夫。まだ術後5日ですから、当たり前っちゃ、当たり前。
4/9(日)術後6日
投薬なし。検温と血圧だけ。安定。痛みほぼなし
若先生、別の友人二人とその娘さん、夫と次男・三男がお見舞い。退屈だったので嬉しかった。明日手術の方が同室に(これで部屋満杯。新生児室も知らぬ間に増える)。筋腫で膣式と聞き、またもIさんといっしょに励ます。だって術前不安やもん!
夫は結局金曜日に来なかっただけで、毎日来てくれた。順調なので来なくて良いと言ったが、気になった模様。日に日に回復していく私を尻目に、段々病人のようにやつれていく夫。長男も家事手伝いで大変な模様。ちょっとは私のありがたみがわかったかな?早く元気になって、お返しするからね。
4/10(月)術後7日目
退院前の内診。問題なし。病理検査の結果も、筋腫は良性と判明。退院後の生活の注意と説明を聞く。先生方、看護婦さんたち、同室の方々にお礼を言い、会計を済ませ無事退院。
おかげさまでとても順調な入院生活でした。手術入院の感想と退院後の注意はのちほど。
昨日入院準備もあらかたまとまりました。何せ予定は8泊9日、先生の腕を信じての、家から遠くの個人病院の入院で、売店や洗濯機など入院中の利便性には欠けるので、荷物がいっぱい!
*前開きネグリジェ2枚、前開きパジャマ2枚、ジャージ2本、Tシャツ2枚、タンクトップ式の下着など上下6枚づつ、靴下2組(多分行きと帰りしかはかない)、薄でのカーディガン。
洗濯が出来ないので、もっと持って行こうと思いましたが、去年の8月に2週間手術で入院した友人から、「毎日着替えんでええ。」と助言され、それもそうだとこの数に。一回くらい洗濯を家族に頼むつもり。可愛い寝間着が安く見つかり嬉しいです。
*バスタオル大判1枚、普通サイズ1枚、タオル3枚、ティッシュ1箱、ウェットティッシュ1箱、リンスインシャンプー、ボディソープ、洗顔クリーム、化粧水、美容液、使い捨てのパック、マッサージクリーム。
筋腫のサイトを参考にすると、回復してくると暇なので、入院中は肌のお手入れに絶好なのだとか。考えれば入院中はスッピンだしね。40回ってからは、スッピンで外に出るのは世間様に申し訳なく、こんなに長く肌を休めるのは久しぶりです。ツルツルになるかな?
*おはし、500ccのミネラルウォーター2本、曲がるストロー、500ccくらい入る大き目の蓋つきコップ、スーパーの袋(ゴミ用)3枚。S字フック、洗濯バサミ、スリッパ。
手術した直後は口が渇くので、ミネラルウォーターがあればうがいしたり、口を湿らせることが出来るので便利なのだとか。しばらくは味のない飲み物の方が良いだろうし。寝ながら飲めるので、曲がるストローは必須アイテムだそうな。
*置時計、CDプレーヤー(ポータブルがなかったので、長男が買ってくれた)、CD5枚(ホール&オーツ、イーグルス、クィーン、ビートルズ、70年代ヒット集)、単三乾電池6本、本6冊(全部借り物、みんなありがとう〜)、テレビガイド、イヤホン、筆記用具、保険証、診察券、入院誓約書と保証人の用紙、クリニカルパス(入院時の工程を書いた用紙)、現金少々、医療保険請求のための診断書の用紙。
保証人は義兄に頼みました。ドタキャンした公立病院は、同居でも成人なら可でしたが(夫でも子供でも)、ここの病院はなるべく別居の人が望ましいと言われたので。
明日は昼食を終えて入浴も済ませてから、午後3時に入院で良いと言われています。その時先生から手術の詳しい説明があるそう。日曜日に入院出来るのはありがたいです。主治医からは、経過が良ければ1日2日早く退院しても良いと言われ、そうしようかと思いましたが、みんなから「どうせ帰ってきたら、絶対家事してしまうから、居れるだけ病院に居ろ。」と言われ、それもそうだなと、自分の体を優先することにしました。保険も多くおりるしね。
筋腫は目立った症状のない人でも、拳の大きさから大きくなったら、手術を薦めるのが一般的です。私も9cm×9cmになった現在も、未だに生理周期は順調で量も普通、貧血もありません。ただ急に大きくなった2月頃から、始終お腹に鈍痛があり、胸のつかえや腰痛、めっきり体力が落ちたのを感じています。怖いのは、体力が落ちたのに慣れてしまうことです。私は内科に勤めていますので、常々先生が「自分の一番健康な状態を知っていて欲しい」と仰るので、この落差にも敏感になりましたが、普通は見逃してしまうのではないでしょうか?
筋腫の場合の「症状がない」というのには、倦怠感は入っていない気がします。私は筋腫があるのを知っているのでそのせいだと見当がつきますが、生理が安定している人は、加齢、寝不足、更年期かな?で済ませてしまうはずです。ぽっこりお腹も、たいがいの中年女性は太ったと思うだけでしょう。今思えばお腹が筋腫だらけになる前に発見出来た私は、ラッキーだったと思います。。医師によれば「症状がなければ」、巨大筋腫(例えば15cmくらい)でも、手術を薦めない先生もいますが、目安の拳の大きさには、やはり意味があると思います。
なので少しでも婦人科系で心配がある時は、受診をお薦めします。筋腫はできた人全てが手術対象ではなく、そのまま閉経まで持ち込める人もたくさんいます。見つかった時はご自分のために、症状があれば3ヶ月に一度程度、なくても半年ないし年イチくらいの定期健診をお薦めします。
私の場合は結局4人の婦人科医に診てもらい、三人が全摘手術、一人が要観察を薦めました。その要観察の先生も手術なら全摘でした。ホルモン療法も、症状がないためか全ての先生が私には否定的でした。根治にならないからと口を揃えて仰っていましたが、ホルモン療法は擬似的に閉経状態にするため、倦怠感、鬱、骨粗しょう症、ホットフラッシュ(ほてり)など、更年期の症状の副作用があります(人により感じない人もあり)。おかげで2月半ばまでは元気に走り回れました。
手術のドタキャンやら色々あり、現在は、はぁ〜〜、しんどい!の毎日なので、子宮がなくなることに未練はなくなっています。言い換えれば散々苦労したので納得出来るわけで、発覚時の予定通りとなりました。何かを失えば何かを得るといいますので、きっと子宮がなくなる代わりに、良いこともあるはず。生理がなくなって楽チン〜、以外のことも見つけなくっちゃ。
昨日まで仕事に行っていた加減もあり、あまりバタバタ家事はしませんでした。というより、しんどくって通常以上は出来なかったです(お弁当は最後まで作ったよ)。退院後はしばらく動けないので、早めに衣替えをしたくらいです。独身の方の体験記を読むと、心細くてお気の毒だと思いました。でも所帯持ちも自分が手術する病気を持っていても、直前まで三度の食事や洗濯、「○○買ってきて」など、家族全部の面倒まで看るのですから、これもかなりしんどいもんです。ちょっとくらい手伝ってくれましたが、本当にちょっとだけ。やっぱ男は役に立たんわ。
当日は夫、長男、三男、兄嫁が付き添ってくれます。次男は仕事が休めず、ごめんと言われました(いいよ、気にしなや。全快の暁には、次男の奢りでカラオケだとか)。兄嫁は9歳上で、結婚当初から可愛がってもらい、「男ばっかりやから、私も行くからな」と言ってもらい、素直に心強いので、ありがたくそうしてもらいます。三男は当初クラブが休みならと言っていましたが、父親から「何を言うてるねん!」と怒鳴られ、ついてくることに。でも先生から「お母さんの手術やったら、クラブ出ている場合やないぞ。」と言われ、そんなもんかと思ったのだとか(おいおい)。
4月はポツポツBSやDVDの感想文でお茶を濁すと思いますが、どうぞよろしくお願いします。では頑張ってきまーす。
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