砂漠の図書室
INDEX|before|next
先日、『アルメニア正教会の礼拝』(King Record KICC5713) というCDを購入。 「世界宗教音楽ライブラリー」というシリーズに入っているもの。 演奏はソフィア・アルメニア聖歌隊。
何年も前になるけれど、FM放送でアルメニア正教会の典礼音楽を初めて聴いた時、 それまで知っていた教会音楽とあまりに違っていて、思わずその場で録音してしまったことがある。 簡素で、とても力強い歌だった。 ずっと持続されている低音の上に、独特の節まわしの旋律が乗せられていく。 一緒に録音したアナウンサーの解説によると、5世紀の賛歌だという。 アルメニアは、世界で最初にキリスト教を公認した国なのだいうことも、その解説で知った。
東方教会への憧れは、この時から始まったのかもしれない。
このCDを聴いてみて思ったのは、西欧音楽の影響ということ。 残念ながら、FMで聴いたような曲は収録されていない。
数ヶ月前に、同じく「世界宗教音楽ライブラリー」の『バルカンの正教会聖歌』(King Record KICC5710) というCDを聴いた時にも同じことを思った。
こちらのCDは、いろいろな曲が年代順に収録されているので、そのことがもっとわかりやすい。 最初の3曲は、13〜14世紀に活躍したイヴァン・ククゼレスという作曲家のもの。 この3曲の雰囲気は、先に書いたアルメニアの5世紀の賛歌とほとんど同じ。 時代がかなり違うけれども、古いスタイルがずっと伝えられてきたのだと思う。
その後、時代がくだって、西欧に留学した作曲家の作品になるにしたがって、東方の雰囲気がなくなっていく。 あの独特の持続低音、節まわしがない。 西欧の合唱作品とほとんど変わりないように聞こえる。
(ロシア正教会のCDを初めて買ったときも、想像していたよりずっと西欧的な音楽だったので驚いたものだった)
実はそのことが残念で仕方ない。 川端康成ファンの西洋人が、成田空港に降り立って感じる残念さと同じかもしれない。 勝手といえば勝手なのだが。 でも私はあの東方的な節まわしというか、うねりというか、コブシとでもいうか、 あれが好きでたまらない人間なので。
いわゆるクラシック音楽でも、モーツァルトの世界より、ロシアとか東欧の作曲家の世界にくらくらしてしまうのは、あのコブシの存在が大だと思う。 ブルガリアン・ヴォイスもそう。 (そういえばこの『バルカンの正教会聖歌』の解説によれば、ブルガリアン・ヴォイスは正教会聖歌の唱法が数世紀のあいだに民俗化し、多層化したものだという)
そんなわけで今後、東方教会系のCDを買うときは、収録曲の時代をよくチェックすることが大事だと、あらためて思ったことであった。
☆ちなみに『アルメニア正教会の礼拝』に収録されている曲は、合唱部分はもろに西欧音楽だけれども、独唱部分は東方コブシの世界である。
2003 02/28 12:39 記
|