甘く、拡がる。
あの人との現実を噛み締めると、私の知る限り、全ての糖が滲んで、哀しい。
『嘘でも良いから好きだと言って』などと。 …なんてくだらないお遊戯事。
『君がボクをとても好きなのは分るよ。 それはとてもよく伝わったけれど、君はボクを愛してはないよね?』
私は、肯定する事も、否定する事も出来ず、ただ、その場で硬直した。 私は、あの人には嘘がつけない。…今まで、誰にも言わずに居た秘密も、 あっさりと見破られたし、そしてあの人が出したその答えにも、 首を横に振る事が出来なかった。
嘘は、だらしなく、甘い味。…熱帯の熟しきった果物の香り。
私は、ただ、心に映る自らの『本当のこと』だけを、あの人に知って欲しいと 願ってしまった。ただ、辛いだけの、無味乾燥なその中身を。
願いは叶わない。甘い嘘は、躰に残らずに、どこか別の世界に流れて行って しまって、そしてもう二度と戻る事もないでしょう。嘘もつけない私は、 このまま、何処へ行けばいいのでしょう。
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