父が亡くなって、かれこれもう6年ほど経つだろうか。
ようやく「父が亡くなった」という言葉も口に出して言えるように なってきたように、段々と居ない事実が日常に溶けてきたように思う。
人が死ぬということ。
二度と目覚めないということ。
もう、一度と無く、その人が私になにか語りかけたり、 優しく触れてくる事がないという、それだけの事実。
最初の数年は、それでもまだ、突然ひょっこりと現れて、この日常に 戻ってきてもおかしくないと思った。そしていつもそれを期待して、 この現実が全て嘘である事を願った。空虚なままで。だけど、だんだん年をとり、 人も周りも自分も変化する中で、いつの間にか居ない事が日常になって 来ていた。不在が不在でなくなって行く。
それでも、私は時々こうして、自分の中のあの痛みを、決して忘れないように する。…自分の胸をえぐり切ってでも、あのとき思った胸の辛さややるせなさが 私の中から消えないようにする。
人が本当に消えてしまい、全ての世界から死んでしまうのは、その人と関わる 人すらも、全て息絶えた時だろうと思う。だから、私は自分の中の あの人を、決して消さないようにする。私の中に融けている、今は居ない あの人の全てが、いつまでも生き続けるように。
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