堕天使のつぶやき
堕天使でも人生楽しめる

1990年09月18日(火) 棚卸し-祖父の死-

春が過ぎた頃、祖父は随分と調子が良くなっていた。

最も親密に付き合っていた近所の人の前だけだったけれど、他人に顔を見せるようになったのは、大きな進歩だと思っていた。
以前のように、おどけて笑わせてみたり、日常の会話をしたりするようになった。


私は、高校に居た。
授業中、担任の先生に呼ばれて廊下に出る。
「おじいさんが亡くなったそうだ。叔父さんが迎えに来るそうだから、すぐに帰る用意をしなさい。」
突然の事に、信じられなかった・・・
いや、突然ではなかった。
「嗚呼、遂にこの日が来てしまったか・・・」
それが本音だった。

でも、どうして・・・
調子良くなってきていたのに・・・

授業中、帰り支度をして校門に向かう私を、生活指導の先生が呼び止めた。
「何やってるんだ?」
「じいちゃんが死んだので帰ります。」
「祖父が亡くなったので帰ります。だろ! それは何だ・・・」
鞄に付けていた、後輩からもらった修学旅行のお土産のキーホルダーに目を付けられた。
チェーンをあしらったキーホルダーが気に入らなかったのか、没収されてしまった。
こんな時に・・・
この先生は知らない。
私にとって、祖父が父親同然の存在であることも、祖父の死因も・・・
私は、反抗する気力などなかった。

自宅から車で20分程の高校に、叔父が迎えに来た。
車に乗り、暫く無言の時間が過ぎた。
おもむろに叔父が口を開く。
「じいちゃん・・・なんで死んだか分かるか?」
叔父のその言葉で、確信した。
「自殺でしょ?」



その日、回復の兆しを見せる祖父に安心し、祖母が病院に出掛けた。
兄は家に居たが、兄の部屋は、家の一番奥にあり、居間の様子は伝わらない。
ほんの2時間程度の間だった・・・
祖母が家に帰ると、祖父がいない。
慌てて車庫に行ってみると・・・
祖父が首を吊って死んでいた。

祖母はすぐに兄を呼び、二人で祖父を降ろし、布団に寝かせたらしい。
警察にはどう説明したのかは聞かなかったが、表向きには、心筋梗塞ということにした。
発見が早かったせいか、祖父の姿は綺麗で、舌も隠せる程にしか出ていなかった。


家族は3人になった・・・
そして・・
これから、自殺で残された家族の苦しみを味わうことになる。


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