堕天使のつぶやき
堕天使でも人生楽しめる

1990年09月14日(金) 棚卸し−4人家族−

父は死んだ。
葬儀に帰って来ていた母は、男の待つ遠い地に戻っていった。
これで家族は、母方の祖父母と兄と私、4人になった。

夏休みが明け、始業式、全校生徒の前で、校長先生が私の父が他界したことを告げる。
周りの皆が私の方を見る。
私は、ただただ恥ずかしかった。
皆の視線が自分に集まっていることが、ただただ恥ずかしかった。
皆が私を見て何を思っているかなど考えもしなかった。

父が他界してから、教師の目が変わった。
私の暗い表情ばかりを追いかけてくるようになった。

教師よりもずっと私を憐れみの目で見ていたのは祖母だった。
「時々暗い表情をします。」と教師に言われて、更に祖母は追い込まれていく。
「可愛そうな子」祖母は、私のことをよくそう言った。
私は「可愛そうな子」にならなければいけないような気になっていった。


中学1年生だった兄は、非行の道を走り始めた。
祖父母と妹しかいない家は、絶好の溜まり場となった。
いつもガヤガヤと騒がしい兄の部屋。
祖父母が注意すると、反抗する。
閉まっているガラス戸の向こうから物が飛んでくることもあった。
友達のことを悪く言った祖父母に怒り、包丁を振り回したこともあった。
流石にその時は、私も尋常ではない恐怖を感じた。
「お兄さんが、じいちゃんとばあちゃんを殺してしまう・・・」
本当に殺してしまうのではないかと思った。
結局兄は、最後に包丁をテーブルに突き刺し、部屋に戻っていった。
小学生だった私は、兄にには何の相手にもならないからか、この頃からほとんど口を利くことがなくなった。

祖母は、私に兄のことを愚痴るようになった。
そして、「お前だけが頼りだ。」と。
「お前だけはしっかりしてくれよ。」
「お兄さんは頼りに出来ん。お前がばあちゃんの面倒を見てくれよ。」
毎日のように、そう言い聞かされた。

兄を恨めしく思った。
けれど、兄のことは嫌いではなかった。
兄が羨ましかった。


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