私が小学一年生の時、母は突然姿を消した。 その日、母は、いつもと同じように「仕事に行ってくる。」と言って家を出た。 いつも何も言わない私が、「どこ行くの?私も行く!」と泣きじゃくって母のバイクを追ったという。 20年程経って、母から聞いた話。 私には、その日の記憶は全く無い。 その後、母が帰ってこないことをどう思って、どう過ごしていたのかも記憶に無い。 うっすらと覚えているのは、その後、父と色々な所に行って、色々な人に会ったこと。 父は、母を捜している様だった。 私は、父がどこかに連れて行ってくれることが嬉しかった。 ただ、それだけしか思っていなかった。 私が小学二年生になって暫くした頃、母の居場所が分かった。 小学校高学年の兄は置いて、父と私と元さん(親戚のように付き合っていた近所のおじさん)の3人で迎えに行くことになった。 「お母さんが見つかったので迎えに行きます。」と担任の先生に欠席することを告げると、気の弱い先生は、オドオドして戸惑っていたようだった。 私は何も考えていなかったのだけれど。 恥ずかしいことだとも、悲しいことだとも。 むしろ、旅行気分でウキウキしていた。 フェリーに乗り、一晩かけて母のいる町へ向かう。 私は、母に会える嬉しさと、初めて乗る大きなフェリーにはしゃいでいた。 この旅のことも、実はあまり記憶にない。 覚えているのは、フェリーで元さんとお風呂に入ったことと、帰りに誰かの家らしき所に寄ったこと。 しかし、家の人の姿を見た覚えがない。 大人になってから教えて貰った。 あれは、ホテルだったと。 私は、小学二年生にして初ラブホ体験をしていたのだ。 なんてマセガキだろう(笑) とにかく、母は、約一年ぶりに家に帰ってきた。
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