母は、喫茶店で働いていた。 私が保育園に通っていた頃、時々、その母の勤める喫茶店に連れて行ってもらった。 私は、いつも決まってクリームソーダを飲む。 あの綺麗なグリーンのソーダ水が、妙に大人の飲み物のように見えていた。 その喫茶店に連れて行かれると、いつもソコには男の人がいた。 母は、私にその男の人を「菩提樹(ぼだいじゅ)のおっちゃんよ。」と教え、私も、母の勤める“菩提樹”という喫茶店の人だと信じていた。 そして、菩提樹のおっちゃんのことは誰にも言ってはいけないと・・・ なぜ秘密なのか。 少し疑問に思ったが、クリームソーダの魅力が、そんな疑問なんて吹き飛ばした。 菩提樹のおっちゃんは、時々私を遊びにも連れて行ってくれて、キャンディーキャンディーのヘアピンや鏡の入ったおしゃれポーチを買ってくれる。 とても優しいおじさんだ。 でも、これはすべて秘密。 信じていた。 秘密も守った。 そして、ある日、母は突然姿を消した。 私が小学校に入学して間もない頃の出来事だった。
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