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diary
2004年02月19日(木) 鴉飼
幼い頃、鴉使いになりたかった。
鴉は利口だ。飲み込みも早いし、応用だって利く。それに、よく見てみれば結構可愛いものだ。
そんなことを考えていたのは、電車待ちのホームの端っこに、一羽の大きな鴉がいたから。
太い嘴を器用に使って、ホームに落ちて踏み付けられてこびりついた、パンか何かをこそぎとって食べているみたいに見えた。
真っ黒な翼はてらてらと光っていて、油を使って丁寧に手入れした、毛皮のコートを思い出させた。
全身黒い中でも、特に瞳は目立ってきらきらと漆黒にくるくる光る。
足も太い。
爪も大きくて鋭い。
こんなので鷲掴みにされたりなんかしたら、ひとたまりもないだろう。
ホームは決して空いてはいなかったけれど、その鴉の周りだけ、ぽっかりと空間ができていた。
みんなやはり恐いのだ。
わたしはベンチに座って、その黒い躯が機敏に動くのを見守っていた。
「まもなく、4番線に列車がまいります。ご注意下さい」
アナウンスが流れても、鴉は動かない。
今まで機敏さを見せていたのが、むしろ、緩慢になったような気さえした。
ふと、鴉が振り返った(気がした)。
ふと、鴉と目が合った(気がした)。
「アタシサァ、ジサツスルワ」
鴉の目がくるくる回る。
「ナンカネ、ツカレチャッタシ、メンドイジャン。シヌシヌ。シヌカラ。アナタ、アタシノサイゴ、ミトドケテテヨ?」
電車がホームに入り込んでくる振動が、伝わってきた。
翼を広げると、三倍くらいの大きさになるんだ。
すぐに鴉は、飛び立ち、ホームの端っこの手摺を止まり木にした。
ふと、鴉と目が合った(気がした)。
くるくる回る目が、笑った(気がした)。
鴉が啼いた。
けれど、その声は醜いカァカァいう声ではなく、
クルルクルルという、まるで鳩のような声だった。
電車に乗り込んだとき、鴉は見えなくなっていた。
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サキ
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