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me note diary

2004年01月28日(水) 誰そ、彼は

それは黄昏時にはまだ時間のある時刻だった。
昼間の陽射しが傾きかけて、かといって、落ちるにはまだ早い。
西日があたたかく、冬の街頭を染める時刻だった。


声をかけてきたのは彼の方だったけれど、彼に気付いたのはわたしが先だった。
この後のことを考えれば、なぜ黄昏時でなかったのだろうと、そんなどうにもならないことばかりを後悔し、責め立てる。


しかし、仕方のないことであった。


現実に、わたしは彼に遇い、声を交わし、冬の風の冷たさを言い訳に、そのまま近くの店に入った。


何年振りだろう。
わたしたちがまだ、制服を身に付けていた頃のことだから、十年近く、前のことになる。
「懐かしさ」では言い尽くせない想いがあった。
あの頃、わたしは彼を想っていた。
そして彼も同じ想いを持っていた。
けれどわたしは、彼を求めることなどはせず、彼は他の女に求められて、その女と懇ろになった。
恨んでなんかいない。
ただ、喪失感のみがそこにはあって、それはある意味、自己陶酔にもなった。
さめざめと、泣いたこともなかったけれど、どこか虚ろで、悟り切ったような気分にもなっていた。
少なくともそれは、十年前の話だ。


今、向かい合っているのは、もうすっかり「大人」と呼べる年齢に達した男女で、ある程度の貞操観を持ち合わせている一方で、醜悪の甘さも、知っていた。


指先が触れ合い、いつの間にか、店を後にした。
「寒いな」
彼が言ったその言葉だけが、妙に耳から離れない。
あたたかさを、求めていた。
わたしも、彼も。
肉体的にも、精神的にも。


「越えてはならない一線って、あると思うのよ」
そう言いながらも、既に身体はその一線を、多分越えていた。
「ごめんなさい」
不意に口を突いて出た言葉は、果たして誰に向けられた言葉だったのか。


刻は夕暮。
黄昏時にさしかかったとき、わたしたちは既に、他人へと戻っていた。
行き違う人の姿も朧気で、
「誰そ、彼は」
と向き合う人に尋ねる時刻。黄昏時に、ふたりは別れた。
本当だったら、この時刻に、逢いたかった。
わたしたちが、行き違うだけの、刹那の空気の共有。
本当だったら、この時刻に、逢いたかった。
「誰そ、彼は」
と、尋ねなければ、その人を特定できぬその、刻。
そうすれば、わたしたちは、擦れ違う人で済んだと言うのに。




あなただけは、裏切るまいと、誓ったのに…。


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管理人:サキ
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