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diary
2004年01月09日(金) 水鏡
「すげー富士山きれー」
本日ハ晴天ナリ。
車窓から見える薄曇りの地平線のある方角に、上半分真っ白になった、一月の富士山が見えた。
「はしゃぐことでもねーじゃんよ」
窘められてもやはり、それは絶景に映った。
しかし寒すぎる。
こうして携帯をいじくる指先が、何度もスリップする。
一月。
初めてここに立ってから、どれだけ過ぎたろう。
初めてここに立ったとき、何を思っていただろう。
悴む指先。
「気をつけろよ」
そう、足下は果てしなく広がっていそうな水面。
降りた駅から、しばらく歩いた。
覗きこむと、ふたりが映って、ゆらゆらと揺れる。
「凍らないのかな?」
「もっと寒くなれば、もしかしたらね」
「そんな寒くなったら死んじゃうよ」
「こんなふうに?」
手にした小石を投げ入れた。
ぐわんぐわんとめちゃくちゃな波紋を描いて、ふたりが消えかかる。
「だめ!!」
思わず大声を出した。
「消えちゃうよ!」
勢いついてむしゃぶりつくと、優しい目が笑った。
「水鏡さ。消えることはない」
「でも!」
そこにふたりが映っているのは違わないのだ。
「いいかい?」
噛んで含めるように、顔を覗きこんだ。深い眼の色だ。
「鏡の中の君がいなくなるのは恐ろしいこと。それは君がいなくなることだから。でも、水鏡は違う。ほら見てご覧。もうそこには」
果たしてそこにはすでに波紋は治まり、ただ覗きこむ、ふたりがいた。
ふたりは寄り添って、水面に小石を、投げ続けた。
本心では、このまま水面に映るふたりが消えて無くなることで、密かな心中が成り立てばと、ひとり静かに、願った。
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サキ
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