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2015年01月26日(月) 翻訳企画:AAの回復率(その3)

次のセクションでは「AAに参加した人の1年後の回復率は5%である」という誤解の中身に切り込んでいきます。

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b) 最初の1年の保持率

1990年に発行された、1977〜89年のAAメンバー調査の概要報告書にある図C-1

1990年に発行された、1977〜89年のAAメンバー調査の概要報告書にある図C-1


一部の論者たちが示す現在のAAへの悲観的な見方は、上に掲げた図の誤った解釈に基づいている。この図は1990年に作成された、それまでのメンバー調査についてのGSOの内部報告文書から引用したものである。この報告書の誤った解釈がこれまで広く拡散されてきた。このグラフには「AAにやってきて最初の1年の人たちが各ヶ月後に何%残っているか」という不適切なタイトルがつけられている。この図は、1990年のGSO内部レポートの12ページにある図C-1である。

この手書きのグラフは、現在のAAが5%の成功率しか達成していないという誤った主張の中核となっている。一番下に書かれたパーセンテージの数列では、その右端のX軸の12ヶ月目のところに5%と書かれている。この5%という数字が、新参者がAAに1年間居続けることができるパーセンテージであると誤って解釈されているが、そうした解釈は5%という数字が実際に示す意味としてはまったく正しくない。ここでは、このグラフの元となったデータとグラフの成り立ちを考慮した上で、(最も重要な)このグラフがどのように解釈されるべきかを論じていく。

図C-1にプロットされたデータは、それまでに行われたすべてのメンバー調査中のある部分集合の人数を示している。その部分集合は、AAに初めてやってきてから1年以内の人たちである。X軸はAAに初めてやってきた時から12ヶ月目までの時間の経過を示している。プロットされている点は、5回のメンバー調査それぞれについて、(初めてAAに参加してから)経過期間ごとの人数がこの部分集合中に占める比率を示している。

下記はこのGSOの内部報告書におけるグラフの説明の引用である。

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付録C:最初の1年

回答された調査票から、月単位でその月数まで(AAに)「留まっていた」メンバーの数を集計することができる。これは調査票の中の、AAに初めてやってきたのは何年何月か、を尋ねる質問から得られる。
過去5回の調査それぞれについて、最初の1年の12ヶ月について集計したものを、図C-1にプロットした。この結果は、メンバーがAA共同体内にその月数とどまっている確率を示していると解釈して良いだろう。

より明確にすると:AA共同体に加わって1ヶ月未満のメンバーが、1ヶ月後も全員とどまり続けたとすれば、1ヶ月と2ヶ月のメンバーの数は等しくなるはずであるが、1ヶ月後には減少していることが分かる。もちろん月ごとの変動は季節効果の影響を受けて波が生じ得るし、その後の月についても同様である。

ではあるものの、グラフからははっきりとした傾斜が読み取れる(季節変動の影響があったとしても)。
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「この結果は、一定の月数が経過した後にメンバーがAA共同体に留まっている確率を示していると解釈できる」と述べられている。それがいかなる可能性なのかは、図C-1の表現の中には示されていない。

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付録C続き: 図C-1はこれまでに行われた5回の調査について、その結果に注目すべき類似があることを示している。5回の調査はそれぞれの規模の違いを考慮に入れて同じスケールで表示している。5回の調査の平均値を表にしてあるが、この表の数値はAAに来た者のおよそ半数が3ヶ月以内に去ることを強く示唆している。あいにくなことに、そのような脱落がなぜ起こるのかという理由をこの表から読み取る方法はない。
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1997年の調査について、初めてAAに参加して最初の1年間のそれぞれの月数の回答者数を、最初の1年の回答者数の合計で割った数を点破線(−・−・)で示している。1980年の調査について、同じデータを++線で示している。1983年の調査は点線(・・・・)で、1986年の調査は破線(− − )線で、そして最後に1989年の調査は実線で示してある。縦軸は5回の調査について各月に分配されたパーセンテージである。

図C-1 5回の調査の平均

グラフの下には「5回の調査の平均」の表が置かれている(上に再掲した)。これによると、最初の1年目の回答者のうち19%が1ヶ月目である。3ヶ月目、4ヶ月目の数字はそのおよそ半分になっており、これを元に報告書の著者は「AAにやってきた人のおよそ半分は3ヶ月以内に去る」と解釈している。

本論の後に掲げる図1には「1977〜89年の調査における最初の1年の保持力」という題をつけてある。その図ではこれと同じ情報を、保持率(もしくは脱落率)の曲線として描くことで、より分かりやすく示している。

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付録C続き: このような整然とした結果を説明できるメカニズムがあるとすれば、「新しく来た人たちが最初の1年のあいだに徐々に脱落する」こと以外にないだろう。わずかに慰めを得られることがあるとすれば、去った人たちの多くはまた戻ってきて、この表の中の数字にすでに含まれていることである。
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最初に少々ミーティングに参加してから来なくなった人たちの多くは、後になってAAに戻ってきて断酒を成功させている。自動車のディーラー(あるいはその他の販売業者でも)は、売った車の数に注目する。ショーウィンドーを覗き込んだだけで何も買っていかない人たちの多さを嘆くことはしない。

AAの共同創始者ビル・Wは1939年の手紙の中でこう書いている。「ここニューヨークでも事情は同じだった。私は6ヶ月にわたってたくさんの人に話しかけたが、永続的な結果は何も得られなかった。この時点の私は、自分が世界中の酔っ払いを救う役割を神によって与えられた、という妄想に取り憑かれて励んでいたのである」4

4. “Pass It On” p.226(AAWS)

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付録C続き: 2年目以降も同様の脱落傾向が続いているが、より緩やかになっている。数年を経るうちに、断酒を続ける多くの人がAA内での活動を減少させていくので、このような標本では彼らの存在を適切に表すことができなくなる。
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本論のb) 節の題名は「最初の1年の保持率」だが、c) 節の題名は「長期断酒者の増加」となっており、長い期間の断酒とAAへの継続的な参加について、これまでの調査から何が分かるかを扱っている。

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付録C続き: この調査の目的は、こうした脱落傾向の原因を明らかにすることでもないし、本人の意に反して(AAに)送られてくる人たち、自分がアルコホリズムであることが納得できない人たち、AAプログラムのさまざまな特色を受け入れらない人たちについて、何らかの提案ができるわけでもない。しかしながらここに示された結果およびそれがAAに投げかける課題は、AA共同体に広く理解されているだろう。
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アルコホーリクス・アノニマスでは、一切アルコールを口にしないことが断酒を続ける容易な方法であると教えている。このことは、AAが飲酒をコントロールする方法を教えてくれるところだと期待してやってきた人たちが失望して去る大きな理由のひとつになっている。アルコホーリクがAAに来る理由が、AAに行かない理由を上回ったときに、その人に回復のチャンスが訪れる。

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付録C続き: この結果は、昔から言われている「半数がすぐに飲酒がやめられて、25%も最終的には酒がやめられる」という言葉を否定するものとして拒絶する人も多いだろう。しかしその言葉は初期の(AAを)観察したものだ。その時代から現在までに社会にもAAの中にも変化が起きて、状況が変わってしまったことを疑う理由はない。調査から得られた他の結果と同様に、このことも「変えられるものを変えていく」という課題をAAメンバーに投げかけるのである。
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本論のd) 節は題名を「AAの50%+25%の成功率の起源と引用の時系列」で、この50%+25%の成功率についての歴史と、それを解釈するための正しい背景条件を明らかにしている。

昔から言われている「50%+25%の成功率」は、ビッグブック第2版の「再版にあたって」に「AAに加わって真剣に努力して取り組んだ人の半数は、すぐに飲酒がやめられて、飲まない生活を続けることができた。何度か再飲酒をしたがやめられた人は二十五パーセント」とある 5。調査による最初の1年間の保持率のデータは、この「50%+25%の成功率」を否定するものではない。

5. ビッグブック p.xxv(25)

最初の数週間か数ヶ月の間に、新しい人たちは二つの質問に自ら答えを出すことになる。(1)自分はアルコホーリクか? (2)私は真剣に努力して取り組んでいるか? 多くの人たちは自分がアルコホーリクなのかどうか確かめるためにAAにやってくる。ある人たちにとってその答えは明確であり、難しいものではない。しかし一方で、しばらく思い悩む人たちもいる。

AAメンバーの中には、「あなたがアルコホーリクでなければここに来ているはずはない」というレトリックを使って新しい人に印象を与えようとする人もいる。とは言うものの、AAでは一人ひとりが自分で診断を下すことになる。新しい人たちが「アルコホーリクであること」の意味を理解し、情報にもとづいた決断が下せるように、彼らが十分長くAAに留まることが望ましい。

ミーティングへの参加はAAで回復するための絶対条件ではないが、ミーティングは確実に回復の助けになるものだ。隔絶された場所に住むメンバーたちは、ビッグブックその他の書籍だけを頼りにやっていくしかない。近くにAAミーティングのない人たちは、他のアルコホーリクと一対一で関わることになる。しかし、そうしたケースはまれであり、調査のデータを理解する上では、最初の数ヶ月のうちにミーティングにくるのをやめた人たちは「真剣に努力して取り組んで」はいないと推定される。

1990年のGSO内部レポートの図C-1にメモ書きされた「5回の調査の平均」を下の表1に示す。各列は「月」と「分配%」である。グラフ1に描くに当たって、保持率(もしくは消耗率)のカーブを分かりやすくするために正規化を行っている。

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グラフ1:1977〜89年調査に見る最初の1年の保持率

“Distribution”(分配)は最初の1年の新しいメンバーのうち該当経過月の人の%数
その他の曲線は、月ごとの保持率を示す。
例:3ヶ月目のメンバーの50%は1年経過時にも残っている。
グラフ1:1977〜89年調査に見る最初の1年の保持率
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表1:最初の1年の保持率

注記:
・「分配%」は、オリジナルの「図C-1」グラフのもの。
・四捨五入されない「分配%」の合計は(103%ではなく)100%になる。
・「分配%」の数を開始月に従って「正規化」してある。
・得られた曲線は「特定の月」以降の保持率を示す。

元のグラフC-1のデータは、しばしば誤解され間違って伝えられているが、保持率のパーセンテージではない。その理由は

・3年ごとの調査はその時点でのスナップショットを得る断面調査(cross-sectional study)である。毎月同じ人数の新しい人が最初のミーティングに参加してくることを前提にしている。それは調査の時点で最初の1ヶ月を過ごしている人が何人いるかである。

・調査の時点での2ヶ月目の人数と1ヶ月目の人数の比率を計算すると、それが1ヶ月目と2ヶ月目の間の保持率となる。同じ手法で、任意の二つの月の間の保持率を計算できる。もし12ヶ月にわたって誰もかけることなく完全無欠に維持されれば(100%)、最初の1年の人々は12ヶ月それぞれに8.3%ずつ分配されるはずだ。もちろん現実にそんなことはありえないが、これは保持率の計算がどのように行われるか示してくれる。

実際のデータが示すのは:
1ヶ月目の19%は、一部の人が主張するように「81%(すなわち100%-19%)が最初の1ヶ月で脱落する」ことを意味するのではない
3ヶ月目の10%は、「90%(すなわち100%-10%)が最初の3ヶ月で脱落する」ことを意味するのではない
12ヶ月目の5%は、「95%(すなわち100%-5%)が最初の1年のうちにミーティングへの積極的な参加をやめてしまう」ことを意味するのではない

そうではなく、このデータが示すのは、調査の時点で最初のAAミーティング出席から1年未満の人が100人いたとして:
19% の人が、1ヶ月目である。
13% の人が、2ヶ月目である。
9% の人が、4ヶ月目である。
7% の人が、6ヶ月目である。
6% の人が、8ヶ月目である・・・などなどである。

すべての数字に正規化係数(この場合は5.25)をかけることで100%から開始することができ、保持率について合理的な推測を得ることができる。表1の「1ヶ月目開始」の列はニューカマーの最初からの保持率を示すために正規化されている。「4ヶ月目開始」の列は推奨される90日間の導入期間を経過した以降の保持率を示すために正規化されている。

・表1が実際に示すところによれば、3ヶ月を越えてAAに留まった人の56%は1年間経ってもAAの中で依然として活動的である。その他の回の調査では1年後の保持率はこれよりやや良い数字が出ている。

・データを解釈する上でもうひとつ考慮すべきことは、AAミーティングに出席するのはアルコホーリクに限らないことだ。

ある人たちは、家族、職場、司法制度、治療施設、友人、もしくはAAメンバーから後押しされてミーティングに何回かやってくる。その中には、助けが必要だと信じるにはまだ「十分にアルコホーリク」になっていない人たちもいる。それに加えて、現在のAAには飲酒経験のない薬物依存症者が来ることも珍しくない。そうした人たちも、調査の時にミーティングに出席していれば数に数えられる。その中にアルコホーリクス・アノニマスに一度接触しただけで留まらない人がいるのは当然である。

初期のAAメンバー調査における無作為性の特徴として、サンプル抽出の手法の問題が挙げられる。当時は地域評議員が地域内で調査するグループを決定していた。そのグループ選択によっては、調査結果に偏りが生じた可能性がある。しかしながら、アメリカ・カナダには十分な数の地域があるため、最終結果に大きな影響を及ぼすことはなかったと考えられる。

後に、調査するグループはAAWS/GSOに登録されたグループのリストから無作為に抽出されるようになった。この手法でも、もし登録をしないグループに出席する人たちに一定の傾向があるとすれば、サンプルの意図しない偏りを生む可能性はある。アメリカ・カナダでは非常に多くのグループが登録をしていない。

以下のグラフと表は1968年から2007年のメンバー調査の結果を反映している。それらについての分析と解説では、調査データの推定についてより正確で適切な解釈を提供する。

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(続きます)


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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