ホーム > 日々雑記 「たったひとつの冴えないやりかた」
たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
もくじ|過去へ|未来へ
2015年01月25日(日) 翻訳企画:AAの回復率(その2) さて、まず最初のセクションでは「AAに参加した人の1年後の回復率は5%である」という誤解が生じる原因となった、AAのメンバー調査(メンバーシップサーヴェイ)についての基礎情報からです。
−−−−−−−−
a) 3年おきのAAメンバー調査
1968年、アルコホーリクス・アノニマスはメンバー調査という棚卸しを行った。AA共同体についてより詳しく知る必要性が認められたため、地方選出常任理事によりいくつかのAAグループに対して小規模で試験的な調査が行われた。その目的は、メンバーが自由意志で無記名式調査票にどう返答するか見極めるためだった。
その結果が良好だったので、委員会を設置して、アメリカ・カナダ国内で登録されたグループの5%を対象とした調査を行うことになった。後のパンフレット『アルコホーリクス・アノニマス・サーヴェイ』(過去にP-38という番号が振られていた)は以下のように説明している。
−−−−
最初にAAとそのメンバーについてより正確な情報の必要性を指摘したのは、当時のAA常任理事会議長でノン・アルコホーリクのジョン・L・ノリス博士だった。
ノリス博士はアルコホリズムを研究・治療する医学的・科学的コミュニティに対して、AAの効果を示す多数の実例を紹介することができたが、しかし正確な情報を提示することはできなかった。
彼は常任理事会の方針委員会の席上でこの問題について述べ、AA共同体がより正確な情報を提供するための方法を検討するよう依頼した。
−−−−
ノリス博士は「調査を企画したのには、二つの大きな理由がある」と述べている。
1.AA共同体とその有効性について、より正確なデータを、現在増加しつつあるアルコホリズムの分野で働く医師、精神科医、ソーシャルワーカー、法律家などに提供できるようになる。
2.AA自身についてより多くの情報を提供することにより、AAメンバーが、この世界でまだ苦しんでいる何百万人ものアルコホーリクをより有効に手助けできるようになる。
1968年に行われた最初の調査では、アメリカ・カナダ国内の11,355人のAAメンバーが抽出された。この調査が好評かつ有用であったため、アルコホーリクス・アノニマスのゼネラル・サービス評議会はこれを定期的に行うこととした。AAによるこの「3年次調査」は1968年の最初の調査以来3年ごとに続けられている。1996年の調査はゼネラル・サービス評議会が調査の内容について議論したため1年遅くなった。P-48と番号がつけられたAAのパンフレットが調査のおおむね翌年に発行され、その結果を報告している。
これまでに出版されたAAメンバー調査のパンフレット(P-48)
1971年AAミーティングの統計データ
1974年AAミーティングの統計データ
1977年AAメンバー
1980年AAメンバー
1983年AAメンバー
1986年AAメンバー
アルコホーリクス・アノニマス1989年メンバー調査
アルコホーリクス・アノニマス1992年メンバー調査
アルコホーリクス・アノニマス1996年メンバー調査
アルコホーリクス・アノニマス1998年メンバー調査
アルコホーリクス・アノニマス2001年メンバー調査
アルコホーリクス・アノニマス2004年メンバー調査
アルコホーリクス・アノニマス2007年メンバー調査
2004年のメンバー調査は2004年8月1〜14日に行われた。あらかじめ700のAAグループがランダムに選ばれた。その前年に、選ばれたグループのゼネラル・サービス代議員(GSR)あるいは連絡員に調査票が配られた。
直近の調査は2007年の夏に行われた。その結果は2008年に出版され、本論の「更新版」に反映されている。調査は定期的に開かれているAAミーティングで行われた。選ばれたグループは、メンバー調査を行うために特別なミーティングを開催しないように求められた。
定期的に開かれているミーティングに参加したすべてのメンバーは、調査票を手渡され、全項目に記入するように求められた(すでに他のミーティングで調査に応じている場合を除く)。調査票は無記名式で秘密が保持されるようになっており、記入済みの調査票はゼネラル・サービス・オフィス(GSO)の広報担当者宛に返送された。
成功を計る基準としてソブラエティの長さを用いる
回復の「成功率」を比較するにあたっては、「成功」という言葉の意味が多くの研究者や評論家の間でまったく定まっていないことを理解しておかなければならない。
あるAAメンバーが5年間アルコールを口にしていなければ、ほとんどの評者はそれを成功と判定することに異論はないだろう。その場合、ソブラエティ(断酒)が最初にミーティングに参加した日に始まったのか、それともそれより相当後になってからであるかは問われない。5年間しらふでいることが重要なのである。
現在ではどこでもAAを見つけることができる。そのため多くの人たちが、アルコホリズムの下り螺旋の底に達するよりずっと早くAAにやってくる。彼らが最終的にAAを必要としAAを求めるようになる頃には、AAが何であるかすでに知ることとなっている。そのことは、1970年に出版されたパンフレット「AAサーヴェイ(The Alcoholics Anonymous Survey)」にも記されている。これは1968年に行われた最初の調査について報告している。(注:引用中にある表3および表4は本論に含まれていない)。
−−−−
ソブラエティ(断酒)期間の長さ
表3:最後の飲酒から経過した期間
ほとんどの人は、AAにやってきてから後のある時点から酒をやめている。それは最初のAAミーティングへの参加より後になる。酒をやめるのは、最初のミーティングの一週間後かもしれないし、一ヶ月後、一年後ということもありえる。しかしいったん断酒が達成されると、その大多数は飲酒に戻らないことが経験上示されている(強調は引用者による)。
AAは、しらふになった後に、飲酒することなく正常な生活に戻り、一杯の酒も飲まずに一生を終えたアルコホーリクの統計を取ってはいないが、私たちはこれがAAプログラムを受け入れた人の標準的なパターンであると推定してよい。
AAはこのように継続したソブラエティ(断酒)を成功と見なしている。ソブラエティとはアルコホーリクが飲酒することなく普通の生活を送ることである。しかしながら、医学・科学のコミュニティにおいては、成功の判断にあまり多くを求めない基準がしばしば用いられる。頻繁に用いられるのは、完全断酒1年という基準である。
この標準を用いれば、アメリカおよびカナダ国内のAAミーティング会場ではどこでも多くの断酒成功例に出会えるだろう。
AAミーティングで調査票を記入した11,355人のメンバーのうち60%が、1年以上アルコールを飲んでいないと回答している(強調は引用者による)。次に示すデータによれば、残りの40%の多数はニューカマーであって、すでに酒をやめているか、最初のミーティングからそう長くない後に酒をやめると想定される。
...
AAが効果を示すまでの期間
表4:最初にAAを訪れてから酒をやめるまでの期間の長さ
AAの機能を示すもうひとつの指標は、調査回答者の41%が最初のミーティングの直後に酒をやめ、また23%が1年以内に酒をやめている(合わせて64%)という事実によって示される(強調は引用者による)。
女性の調査回答者の68%が最初のミーティングから1年以内に酒をやめたとしているのに対し、男性は63%である。また30才未満の回答者の74%が最初のミーティングから1年以内に酒をやめたとしているのに対し、30才以上では63%となっている。
調査対象者の中にはまだ断酒に成功していない人もかなりいるが、彼らの回復を絶望的だと見なすAAメンバーはまずいないことも述べておかなければならない。ほぼ、あるいはまったく酒がやめられないまま何年間もAAに出席を続け、最終的には断酒を達成した、という人をAAメンバーの多くは少なくとも一人は知っている。(酒がやめられないアルコホーリクがいても)その人がまだ生きているうちは、まだAAが効果を現していないだけだと、AAメンバーの大多数は考えるだろう。
−−−−
−−−−−−−−
(続きます)
もくじ|過去へ|未来へ