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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2015年01月24日(土) 翻訳企画:AAの回復率(その1) AAでの回復率や断酒率は、いったいどれぐらいでしょうか・・・。つまり、AAに行く人の何割が酒をやめられるのでしょうか。
これについては、様々なことが言われています。高い数字を挙げる人もあれば、低い数字を言う人もいます。どの話もだいたい根拠が怪しいものです。単なるヨタ話で済ませておけばいいものを、それをネットに掲げられたり、出版物に掲載されたりすると、なんとなく信憑性を帯びて広がることもあります。
怪しげな数字として挙げられる第一のものは、「AAにおける回復率は数%だ」というものです。代表的な例は5%です。例えば、
Why People Drop Out of AA
https://rational.org/index.php?id=56
上のサイトでは、AAの新人の5割は30日未満でドロップアウトしてしまい、1年後に残っている率は5%に過ぎない・・と主張しています。仮にその5%が全員酒をやめていたとして、ようやく回復率5%ってことになりますね。
まあ、このサイトは「ラショナル・リカバリー(理性的回復)」という、非AAの断酒団体のものですから、AAに対する自分たちの優位性を示そうと、こういった数字を出しているのでしょう。(ただ、後述しますが、この5%という数字の解釈には恥ずかしいほど大きな誤りがあります)。
反対に、こうした数パーセントの回復率という数字を鵜呑みにした上で、数十年前のAAは7割とか8割の回復率を誇っていた、という主張をする人たちもいます。こちらの数字はウソではないのですが(ビッグブックにそう書いてあるしね)、回復率というのは分数で表されますから、分母と分子に何を置くかで数字はいくらでも変化します。そのあたりの事情を酌まないとなりません。
ともあれ、「(少なくとも今の)AAは断酒に有効ではない」という、何を根拠にそう主張しているのか怪しい話に対して、それなりの反証が必要ですね。
そのあたりをじっくり書こうと思っても、ちゃんとしたことを書こうとすれば調べ物に時間がかかりすぎます(それこそ「研究」になっちゃいます)。なにか雑記の良いネタはないか・・と探しているうちに見つけたのが、この論文です。
Alcoholics Anonymous (AA) Recovery Outcome Rates
Contemporary Myth and Misinterpretation
http://hindsfoot.org/recout01.pdf
2〜3年前にここで紹介しようと翻訳を進めていたのですが、忙しくて他のことをしているうちに、どんどん先に伸びてしまいました。特に引っ越し前後からは手がついていなかったのですが、それなりの形になったので、掲載することにしました。
著者はアメリカ在住の3人のAAメンバー。丹念な調査をもとに、5%の回復率の誤解を明らかにし、7割・8割の回復率の謎を解き、今の(アメリカ・カナダの)AAが持っているデータを元にAAの有効性についてどのような主張が可能なのかを検証しています。彼らの主張にまったく偏りがないとは言えませんが、AAの回復率についてこれ以上しっかりした調査は他には見あたりません。
長いので何回かに分けての連載になります。では、お読みいただきたい。
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アルコホーリクス・アノニマス(AA)の回復率
〜現代における神話と誤解〜
2008年1月1日
(2008年10月11日――2007年のメンバー調査の結果を反映)
はじめに
この論文はAAメンバーのために書かれたもので、AAの歴史的な記録を調査した結果を内外に伝達することを目的としている。AAにおける回復率について広がっている誤解や誤った評価についての情報を、AAメンバーや学術的研究を行う人々に提供する。
アルコホーリクス・アノニマスの共同体は、外部の議論への参加や公の議論を避けるという原則を長年にわたって確立し実践してきた。筆者たちはAAを代弁していないことを強調しておかなければならない。私たちはAAの歴史に関心を持ち、その歴史の解釈の誤りや(根拠のない)神話の蔓延を正す必要性を確信するものである。
アーサー・S、テキサス州アーリントン
トム・E、ニューヨーク州ラッピンガー
グレン・C、インディアナ州サウスベンド
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この論文の出版は、アルコホーリクス・アノニマスおよびその世界的なサービス機構のいずれかが、この内容について提携したり、承認したり、支持していることを意味しない。この論文に示された見解は、すべて筆者らのみによるものである。
AA、Alcoholics Anonymous、The Big Book、Box 4-5-9、The Grapevine、GV、Box 1980およびLa Vinaはすべてアルコホーリクス・アノニマス・ワールド・サービス社(AAWS)およびAAグレープバイン社の登録商標である。
AAWSおよびAAグレープバイン社の出版物からのこの論文への引用は、合衆国著作権法の批判・批評・学識および研究のためのグッドフェイス・アンド・フェアユース条項によるものである。
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前書き
「ひどい思い出ではなく、良い日々の思い出が(トラブルの)原因であるものさ」
〜フランクリン・アダムス(1881-1960)
この論文は、現在のAAが経験している5%(あるいはそれ以下)の「成功率」と、それとは対照的に1940年代・1950年代にAAが享受したとされている50%、70%、75%、80%あるいは93%(どうぞお好きなのを選んで)の「成功率」についての誤った神話に焦点を当てる。ここで「神話」という言葉を用いるのは、(現在の)低いとされる成功率は想像やねつ造によるもので、事実に基づいた調査によるものではなく、無関心の産物にすぎないことを強調するためである。
一方、注目すべきは(過去の)神話的なパーセントの数字の由来である。それには系統だった調査や、他者による追試や、引用出典の確認という確立した手法の欠如が見られる。こうした神話を広めようとしている者の中には自らを「AA歴史愛好家」を名乗るAAメンバーが少なくない。彼らがフィクションを真実として、また風聞を歴史的事実だと主張しているのは、実に残念なことである。
AA共同体には口伝(述べ伝え)の伝統が強くある。多くの情報は口から語られた言葉として手渡されていく。これには良い面と悪い面がある。神話と真実をどう見分けたら良いのか? AAメンバーは心から何かを真実だと信じていると表明することはできるが、それが正確であるとは限らない。これが神話と真実の違いである。であるがゆえに、本論では確実性を期すため、内容が信頼できる独立した文書の情報源によって確認するという多大な努力が払われた。情報源については脚注および本文中に示してある。
インターネットにおいても、また出版物やAAメンバー個人の話、あるいはテレビにおいても、初期から中期のAAを描写する際に、その典型的な回復率を50~75%としている。こうした高い数字は、しばしば続いて現在のAAにおける回復率が10%、5%あるいはそれ以下であるという描写を伴っている。この(高率と低率の)二つの数字の組み合わせは、牧歌的な過去のAAと、現在の荒涼たるAAとを対比させるために使われる。
・現在のAAにおける回復率が10%、5%あるいはそれ以下であるという主張は誤りである。それは、AAのゼネラル・サービス・オフィス 1 が「AAメンバー調査」について1989〜1990年に作成した内部報告書を間違って解釈した結果であり、それが誤ったまま広められたものである。
1. アメリカ・カナダのゼネラル・サービス・オフィス(GSO)はニューヨーク市にある。本論ではしばしばAAWS/GSOと表記する。
・AAの(初期における)50~70%の回復率という主張はAAのさまざまな書籍やその他の出版物を出典としているが、たったひとつの例外を除いてその根拠を示していない。その根拠はビッグブック 2 初版に収められたAAメンバーたちの個人的な経験談に帰せられる。
2. 「ビッグブック」という言葉はAAの基本テキストである『アルコホーリクス・アノニマス』という本のタイトルの代わりに使われている(どちらもAAWSの登録商標である)。
50~70%の回復率という数字は、1941年に最初に出版物に登場してから現在に至るまで、変更されることも妥当性を検討されることもなく、引用され続けている。
1989~1990年のゼネラルサービスオフィス(GSO)の内部報告書は、過去5回のAAメンバー調査を分析したものだが、これに含まれた手書きのグラフが、AAの「回復率」が5%あるいはそれ以下(もしくはAAの失敗率が95%以上)であるという誤った解釈をしつこく作り出している。 3
3. “AA’s Triennial Surveys”(AAの3年ごとの調査について)というタイトルで、1977~1989年の5回の調査についてのものである。
AAについてのこれほど重大なしかも否定的な推定が、不用意に流通され、それが「確実」であると主張され、しかも、どこで、いつその「確実性」が確立されたのかが示されることがないのは驚くべきことである。過去の文献からの引用があっても、それは注意を欠いたおざなりなものにすぎず、多くの場合、誤りのある他の出版物を(無批判に)信用して参照・引用しているのみである。誤りを含んだ引用が、他の誤りを含んだ引用を補強するために使われている。
さらに不幸なことは、そうした執筆者(あるいははAAの歴史愛好家たち)の中に、引用元の統計的な信頼性や正確性について、引用元のオリジナルデータを、批判的にかつバイアスを持たずに調査した者は明らかにいない。メンバー調査に示された基礎的なデータから「失敗率」と見なされている数字を単に複製しているに過ぎないのである。その基礎的データとデータの示す意味は、この節の後半に示す。
近年、インターネットを使うことで、誰でも参加できる国際的な討論の場を設けることが容易になった。「回復」、「AAの歴史」、「AAアーカイブ」などと呼ばれるウェブサイトの数も激増した。それらは個人的な不平や長話で溢れかえっているが、AAの歴史やAAの回復のプログラムについても極めて幅広く(修正主義者のものも)扱われている。学術的・医学的な興味を満たすサイトも同様に大量に登場している。
(それらにより)現在のAAにおける回復率が10%、5%、あるいはそれ以下という誤った神話は、その正確性について疑問を投げかけられることも、また根拠を調査されることもないまま、広く伝搬することとなった。AAの回復率あるいは失敗率という話題は、逸話的な誤伝、誤った解釈、主観による大きな影響を受けているのである。
AAにおける回復率についての議論、調査、分析を、この論文では二つのカテゴリに分けた調査として報告する。
最初のカテゴリは、現在のAAが5%あるいはそれ以下の回復率しか成し遂げていないという(極めて誤りの多い)主張についてである。このがっかりする成功率の主張は間違いなのであるが、AAメンバーの中にはこれを躊躇なく信じるばかりでなく、個人的な意見を補強する材料として使おうとする一派がある。彼らはAAの歴史の修正主義者であり、初期のAAプログラムの優越性を誇大に主張して宣伝している。
二番目のカテゴリは、50%の人がAAですぐに成功し、「スリップ」した者の半分(25%)が戻ってきて成功することで、全体として75%の回復率を示したという、広く信じられかつ繰り返し表明される見解についてである。これは1930年代後半にAAが始まって以来、「最善の推定値」として流布している。
この論文では、これを「50%+25%の成功率(トータルで75%の成功率)」と表現する。
現在までの研究成果によれば、この「50%+25%の成功率」はAAの(初期から現在までを通して)さまざまに見積もられた成功率の中でも最善の値であろうと考えられる。
・この「50%+25%の成功率」という数字には、「真剣にAAに取り組んで努力した対象者について」というただひとつの条件が付けられているが、この条件は極めて重要であるにも関わらず無視されることが多い。(つまりはAAに十分時間や労力を割いた上でなおAAを出ていくかどうか、ということ)。これには、この治療方法に努力して取り組んだ対象でないと、「成功」したのか「失敗」したのかを判定することはできない、という単純かつ明白な前提がある。
重要なことは、過去であれ、現在であれ、この(真剣に取り組んだ人という)カテゴリに当てはまる対象者は、対象者全体の20%あるいは40%(5人に1人か2人)と見積もられることである。
本論のこれ以降では、AAの成功率あるいは失敗率の由来となった情報源を特定し、また除外、ねつ造、誤解を受けた関連情報にも光を当てる。最初に関心と分析の対象となるのは、大きな誤解を受けてきた、GSOによる1989~1990年のメンバー調査の報告書である。
(続く)
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というわけで、今回は序論だけ。続きは次回になります。
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