ホーム > 日々雑記 「たったひとつの冴えないやりかた」
たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
もくじ|過去へ|未来へ
2013年10月07日(月) AAはどれほど有効か AAに効果があるのか、それともAAには効果がないのだろうか・・・。
「AAに効果がないかも知れない」という話は、AAで回復した人にとっては噴飯物かも知れません。しかし、効果が「ある」か「ない」かは、議論の対象にすべきことです。
AAの有効性について良く言われることは、ビッグブックの「再版にあたって」にビル・Wが書いている言葉です。この「再版にあたって」は1955年に出版されたビッグブックの第2版に加えられた部分で、アメリカでAAが始まってからちょうど20年という節目の年でした。
「AAに加わって真剣に努力して取り組んだ人の半数は、すぐに飲酒がやめられて、飲まない生活を続けることができた。何度か再飲酒をしたがやめられた人は二十五パーセント、残りの人もAAにつながっているかぎり、良いほうに変わり、いろいろな改善が見られた。ほんのちょっとAAミーティングに顔を出して、プログラムが気にくわないと決めつけて来なくなってしまった人は何千人もいたが、そのうちの約三分の二は、後になって戻ってきた」(AA, p.xxv)
すぐに酒をやめられた人が50%、何回かスリップしたけれど最終的に酒をやめた人が25%。あわせて75%がAAで酒をやめていると述べています。これが「50%+25%=75%」という話です。
この文章が書かれてから五十数年が経過しました。どうでしょうか、あなたの周りのAAは75%という回復率を達成できているでしょうか?
「AAで酒をやめる人は数%」なんじゃないか、という話はよく聞きます。良い数字を挙げる人でもせいぜい2割ぐらい。ことによると100人に一人も助かっていない、なんて言う人もいます。AAはメンバーの名簿も作らないし、追跡調査もしないので、正確な数字は誰も知りません。でも、誰の言うことであれ、それなりに実感のこもった数字です。
いずれにせよ75%という数字に比較すると、あまりにも「しょぼい」数字です。するとさっそく原因探しが始まります。いったい何が悪いんだ? 1950年代のアメリカのAAと現代の日本のAAでは何が違うんだ?
あるいは、AA外部の人たちが、クライアントをAAに送り込んでもなかなか酒をやめてくれないので、「AAは役に立たない」なんて言う人もいます。
だが少し考えて欲しいのは、有効性とは何なのかです。
新しい薬を発売する前には、必ず「治験」が行われます。その薬が本当に効くのか(有効か)、また副作用がどれぐらい出るのかなどを確かめるために行う試験です。
治験を行う場合には、その新薬だけをテストするのではなく、比較対象となる薬を用意します。それは効果がない偽薬だったり、あるいは従来から存在する薬だったりします。いずれにせよ、新薬を飲む群と、対照となる薬を飲む群に分け、この二つの群の結果を比較することで、新薬の効果を判定します。
ところで、薬は誰もが真面目に飲んでくれるとは限りません。途中で飲むのをやめちゃう人もいますし、毎日飲みなさいと指示しても、一週間に二回しか飲まない人もいます。これを「服薬コンプライアンス不良」とか「服薬不遵守」などと言います。
服薬してない人が混じり込んでしまうと、データの精度が落ちて結果の比較ができなくなってしまいます。なので、そういう人のデータは集計時に取り除かれることになります。
このように「有効性を議論する場合には、条件を守った人の結果のみ採用して集計したデータを用いる」ということが前提になっています。
AAが効果を上げるには、対象者がAAミーティングに通い続けるという条件があります。AAは一生ミーティングに通い続けなさいとは言っていませんが、回復の初期におけるAAミーティングの必要性はAAの様々な書籍やパンフレットで強調されています。
AAミーティングに通ってこない人には、AAは効果を現しません。しかしミーティングに通うように言われても、途中で出席をやめてしまう人もいます。これは薬で言えば、途中で服薬を止めてしまったのと同じです。「ミーティング出席コンプライアンス不良」とでも言いましょうか^^;
ところで、先ほど、現在の日本のAAの回復率の話をした時に出てきた数字は、分母に「AAミーティングに通うのをやめてしまった人たち」まで含んでいるのじゃないでしょうか。服薬をやめてしまった人たちまで含めてデータを比較したら治験にならなくなります。AAミーティングの有効性の議論をするときも同じでしょう。回復率の計算をするには、ミーティングに来なくなってしまった人たちの数は分母から取り除かないとなりません。
AAをある程度長く続けている人なら、「頻繁に再飲酒を繰り返したけれど、めげずに根気よくAAミーティングに通い続け、最後には安定したソブラエティを達成した人」という少なくとも一人は知っているのじゃないでしょうか。
「AAミーティングに出席を続けている人の中で、酒をやめている人の割合」を計算すれば、どれぐらいの数字になりますかね? その数字が有効性とか、回復率ですよね。
先ほどのビルの上げた数字をもう一度見ると、「AAに加わって真剣に努力して取り組んだ人」という条件が加えられているのに気がつきます。「ほんのちょっとAAミーティングに顔を出して、プログラムが気にくわないと決めつけて来なくなってしまった人」は分母から除かれているのです。
でも、それは数字のマジックでもごまかしでもない、有効性の議論をするなら、それでいいのです。
僕はAAの有効性はちっとも損なわれていないと思います。きちんと評価すれば、今の日本のAAでも75%ぐらいの数字は出るのじゃないでしょうか。
もっとも、有効性の話と服薬コンプライアンスの話は別のものです。服薬コンプライアンスの悪い薬ってのはあるものです。妙に大きくて飲みにくい薬とか、一日に何度も飲まなければならない薬は、コンプライアンスが悪くなります。
その点ではAAも、ミーティング出席コンプライアンス?が改善されるような努力が必要です。「引きつける魅力」がないとなりませんし、会場がたくさんなければ遠くまで通うのが負担になりますし、良いスポンサーがたくさん供給できたほうが良いでしょう。AAの本質を曲げずに改善できるところはたくさんあります。
もちろん、AA側で改善すべきことなのですが、一人のメンバーとして言わせてもらえば、AAの外側でももうすこし努力して欲しいと思います。「AAが良いのは分かりますが、患者さんがAAに行きたがらないんですよ」などと言い訳をぶつくさ言っている医療関係者に出会うと、それをその気にさせるのがあなたの仕事じゃないの? と内心ツッコミを入れたくなる時もままあります。そういう言い訳がましい人は、患者がAAに通い始めると後はAAに丸投げ・・っていう良くないパターンだったりするわけです。
薬を処方するときには、どの薬がこの患者に合うのかって考えて出すわけでしょ。それを考えずにいつも同じ薬ばっかり出して、効果が出なかった時に、患者や薬のせいにしてたら良い医者とは言えません。AAにも合う人合わない人がいるわけですよ。「どんな人がAAに合うか」を考えもせずに、誰でも彼でもAAに送り込もうとするのは良い援助者とは言えません。
ああそれから、ビル・Wは、すぐに来なくなった人の「約三分の二は、後になって戻ってきた」と書いているでしょう。2/3という高い割合かどうか分かりませんが、年単位で観察していれば、かなりの割合の人がAAに戻ってきます。断酒が続いている間はまず戻ってきませんし、死んでしまっても戻ってこないわけですが。たいていは飲み続けた挙げ句に戻ってくるか、ある程度の期間飲まないでいても再飲酒してしまった時がAAに戻るチャンスです。酒がやめられない、あるいは再飲酒というのは、その人にとっては危機に違いありません。しかし、やり方を変えるチャンスでもあるのです。
話がすっかり逸れちゃったので、元に戻してまとめますと、AAの有効性は決して低くありません。高い回復率を達成していると言っても良いでしょう。しかし、その恩恵にあずかるには(薬を飲み続けるように)ミーティングに通い続けるという条件が守られねばなりません。そこに難しさがある。改善すべきところはそこでしょう。
もくじ|過去へ|未来へ